北海道は海の幸が豊富。新鮮で美味しい魚を食べられます。ただ、もしかすると未来の北海道の海には食べられる魚がいなくなり、道産ネタの海鮮丼やお寿司は過去の想い出になってしまうかもしれません。
そんな危機感を持った志のある人たちが、2023年10月4日、札幌市の狸小路商店街にある「moyuk SAPPORO(モユクサッポロ)」内の都市型水族館「AOAO SAPPORO(アオアオサッポロ)」に集結。未来の北海道の海を考えるイベントを開催しました。
イベントは2本立てで、水産業を軸に北海道の海の課題解決を目指す団体「DO FOR FISH」の発足発表と、AOAO SAPPOROのスタッフを交えたトークセッションです。イベント当日の様子とともにメンバーの熱い想いを紹介します。
DO FOR FISHって何?
DO FOR FISHのキーワードは「魚がいる未来を、選べ」。
漁業や水産業をはじめ海洋環境の保全など、さまざまな海の課題を解決することを目指すために設立された法人団体です。
呼びかけ人は代表理事を務める本間雅広さん。札幌市中央卸売市場で水産仲卸を営む一鱗共同水産(株)の経営企画室長で、持続可能な水産業界を目指して異業種とコラボするなど、さまざまな活動をしています。
本間さんのもとに集まったメンバーは、道内各地の漁師をはじめ、飲食事業者、フードコーディネーター、デザイナー、選書家、コミュニティ作りのプロ、環境保全の専門家、水産などを学ぶ大学生などとても多彩。それぞれの知識や経験、スキルやノウハウをクロスオーバーし、美しくて正しい海を次世代に残していくための学びと実践をしていくそうです。
なぜDO FOR FISHを設立したの?
さて、美しくて正しい海って何だと思いますか?
答えは、海に魚がいる環境。
「当り前でしょ」と思うみなさん、実は北海道の海、そして日本の海はちょっと危険な状況なのです。
世界中を見渡してみると、魚の水揚量や消費量は年々増えていますが、日本では水揚量が1980年代から年々減り続けているのです。日本が減っている理由は資源管理の問題のほか、漁価の上昇、魚の消費低迷、漁業人口の減少などさまざま。日本の漁業や水産業が抱える大きな課題です。
―ここままだと海から魚がいなくなる。道内産や国内産の魚を見ることも食べることもできなくなる―
そんな危機感を持った人たちが、力を合わせて課題を解決していこうと誓ってDO FOR FISHを設立しました。
DO FOR FISHの前身となる「2048プロジェクト」
実は2022年に「2048プロジェクト」という活動がありました。こちらを取り仕切っていたのも本間さんです。
この時はクラウドファンディング等で資金を集め、2022年11月5日に札幌で参加者を募ったイベントを実施。さまざまな意見交換をしたところ、札幌を中心とした北海道の人たちは海への関心が強く、学びたいという気持ちもあり、海の課題をみんなで解決していきたいという思いを感じたそうです。
その後、札幌から北海道全域に「海を次世代に美しく・正しく残していくための学びと実践」を広げていくための法人を作ろうと話がまとまりました。そうして結成されたのが、一般社団法人 DO FOR FISHです。多彩な顔を持つ設立メンバーをズラリと紹介
AOAO SAPPOROで行われた記者会見では、本間さんからDO FOR FISHを設立した経緯の説明があったのち、メンバー紹介と活動内容の報告、目指していく方向性やロードマップなどが発表されました。
後列左から柴田さん、大坪さん、林さん、太田さん、小西さん、長谷川さん、松岡さん、北浦さん。前列左から、小笠原さん、浦上さん、本間さん、菊島さん、大星さん
まずは、設立メンバーのうち、当日来場していた方々を紹介します。
(個々の詳しいプロフィールは、前出の2048プロジェクトの記事や、リンク記事をご覧ください)
●代表理事 本間雅広さん
DO FOR FISHの発起人。
●事務局長 長谷川琢也さん
「宮城県石巻市で、いろんな人が力を合わせて海をよくしていこうという活動をしています。今回、北海道で団体を立ち上げたいという相談を受けて、立ち上げ時の事務局長をやらせていただくことになりました。北海道は日本の海を守る最後の砦だと思っています。北海道の海から日本の海、世界の海を元気にしていけたらいいなと思っています」
●漁師 小笠原宏一さん
●漁師 林強徳さん
●卸 小西一人さん
「元々はデザイナーで、その能力を生かして魚の持つ価値を最大限に引き出して販売すれば、魚の価値も漁師さんの収入もみんなの喜びも増えるような取り組みができるんではないかと思って参加しました」
●飲食・小売 大坪友樹さん
「魚を製造加工して卸すのとともに、小売と外食もしています。川下の小売や外食の立場から川上に距離を近づけて、漁業の課題を小売や外食の業界から情報発信できる立場にいるのかなと思っています」
●顧問 柴田涼平さん
●事務局・プロデューサー 菊島聡美さん
「私はフードプロデュースをやっているのに食の中でも水産って無知だなって感じていました。学びたいっていう視点と、消費者に近い目線と食のプロデュースで支えていきたいです」
●事務局 大星千尋さん
札幌市中央卸売市場に拠点を置くカネ〆高橋水産の営業担当。大学時代にフィッシャーマン・ジャパンのインターンシップに参加してSNS運用に携わった経験を持つ。
「インターンシップをしていた時、水産業の厳しい現状について、魚に恵まれて暮らしてきた北海道民なのに知らなかったって気づきました。今、卸会社に勤めているからこそ知らなきゃいけないなと思い参加しました」
●事務局・選書家 浦上宥海(うらかみうみ)さん
AOAO SAPPOROの書籍ディレクター。大学で映画理論や評論を専攻後、バーテンダーから東京・四ツ谷にある魚専門書店の店長となり、2023年10月から現職に就く。
「以前、北海道別海町でサクラマスが滝を遡上するのを見て、たくましさと美しさに衝撃を受けたんです。バーテンダーをやってる場合じゃないって。それから魚の専門書店で店長をして、今は水族館から魚の素晴らしさを伝えたいって思いでいます」
●事務局・学生スタッフ 松岡直哉さん
北海道大学工学部学生。材料科学の基礎を学び、エネルギーと食を通じて地球環境を包括的に考える構想を目指している。
「元々生物に興味があって、生物の特徴を技術に活かすことをしたくて工学部に入りました。生物と人間の関わりを担保した上で技術につなげたいため参加しました」
●事務局・学生スタッフ 太田智啓さん
北海道大学水産学部学生で、河川水質を専攻。登山と釣りが趣味で山・川・海を遊び回っている。
遊んでいた川に昔は鮭が戻ってきていたのに最近帰ってこないって気付きました。河川環境を直して生き物がちゃんと育める環境を残していくことで、水産業が生き残れる未来になるのではと思っています」
●事務局・学生スタッフ 北浦優翔さん北海道大学水産学部学生。
「大学生は勉強ができても一人の世界に閉じこもっている人が多いです。そういう人を水産現場に連れて行ったら目の色が変わって水産業の未来を考えだす人がたくさんいました。そういう学生を増やしていけば、北海道の水産は明るくなると思います」
DO FOR FISHの特徴であり最大の強みは、多様なメンバーがいること。それぞれの立場から海に対する思いを語っていたのがとても印象的でした。
DO FOR FISHって何をするの?何を目指すの?
続いて、具体的にどんな事業をしていくのか、どんな未来を目指しているのかについて、本間さんから説明がありました。
取り組んでいく事業は大きく以下の6つ。
これらの活動を通じて、目指す未来についてのロードマップも発表しました。
「ノルウェーでは子供のなりたい職業ランキングの上位に漁師が入っています。そのポテンシャルを北海道は持っていると思うので、なりたい職業のトップ10に水産が入るような未来を作りたいです」
本間さんが熱い想いを語り、質疑応答を経て記者発表は終了しました。
なぜAOAO SAPPOROで?なぜ札幌で?
このあとはAOAO SAPPOROのスタッフらとのトークセッション。司会進行役の長谷川さんがこう語りかけました。
●長谷川さん
「お題を投げさせていただきます。『札幌から北海道の海の未来を考える』ということで、みなさんとお話できればなと思います」
なぜ、海のない札幌でこの活動をするのか。そもそも、なぜ札幌の街のど真ん中に水族館があるのか。なぜAOAO SAPPOROと協働しているのか。
みなさんの立場から語った言葉にその答えが散りばめられていました。特に印象的だったお話を一部紹介します。
AOAO SAPPORO側メンバー。左から三宅さん、山内さん、高橋さん、浅井さん、加藤さん
●AOAO SAPPORO支配人 浅井洋平さん
「街作りとか人作りの視点でどういう役割を果たせるのか模索しながら活動していきたいです。今日のこういう機会は貴重だし先が楽しみです」
●AOAO SAPPOROシニアマネージャー 加藤郁理(いくり)さん
「水族館は海の近くにある観光施設ってイメージが一般的だと思うのですが、私たちは日常の暮らしに密着した水族館を作りたいって思いがあります。水族館が資料の保存収集をしてエンタメ的に見せるとかだけではなく、社会に出て密接になって何かを変えていかないとって考えています。
ここは街のど真ん中なので日常使いしやすい場所だと思います。札幌自体、自然豊かな北海道の中心都市ですし、北海道の大きなエリアの自然を象徴できる場所でもあるかなって思います。地域の中で社会課題の解決をしようとしている人たちがこの場所を使って何か一緒にやっていくっていうのは、僕たちが水族館に織り込みたかったことなのですごく嬉しいです」
●小西さん
「コミュニティという観点から言うと、人口がいて優秀な方々が集まっている場所っていうのは道内だとやっぱり札幌になると思うので、札幌に軸を置いて全道にハブを広げていくっていうのはものすごくいいなと思います」
●AOAO SAPPOROシニアマネージャー 高橋徹さん
「水族館って自然への入口だと思っています。観光都市で人口も多い札幌で水族館を開くことって、魚とか海の生き物に興味を持ってもらう方を増やすきっかけの場所として最適だと思うんです」
●AOAO SAPPORO 館長 山内將生(まさお)さん
「水族館は海の理想的な姿とか魚の正しい姿とかを見て知ってもらう場所なんですけど、母なる海とか命はどこから来てどこに行くんだろうとか、生命を大事にしようって話から『いただきます』の話につながると思います。今の現代社会はリアリティがなくなっていると思うのですよね。鮭フレークはよく見るけど生きている鮭を見たことがないとか。漁師さんに近ければ近いほどリアリティはあるのですが、僕らが魚を獲りには行けないので、コンテンツとしてみなさんの取り組みを使わせていただいてコラボして一緒にやっていきたいです」
●AOAO SAPPOROマネージャー 三宅教平さん
●小笠原さん
「そうそう、美味しい時期だけ獲ればいいんですよね。ただ、北海道の漁業って質より量って現状なので、北海道全体で今すぐには難しいと思います。個人的には、例えば網の目を大きくしたり網の数を減らしたりとか意識はしています。どうやったらこの一匹を喜んで食べてもらえるかって思って。AOAOさんで発信してくれることで、美味しいって言ってもらえるようになれば漁師も嬉しいし、じゃあもう少し丁寧に獲ってみるかって思う漁師も出てくるでしょうし、漁師になりたいって若手も出てくるかなと思います」
●太田さん
「石狩市の浜益(はまます)で鮭漁と加工の体験を1週間くらいさせてもらったことがあるんです。網に100匹とか一気に引き上げるんです。その時はどの鮭も全部一緒に見えるんですけど、鮭を一匹ずつ手にして洗ったり切ったりした時、鮭ごとに形も違えば重さも違うって気づいたんです。違うのは当り前なんですけど、体験して触って五感で感じて気づけたんです。その感動が自然に興味を持つきっかけになるのかなって。そういうことを伝えたいです」
このほかにも紹介しきれないくらい、みなさんの熱い想いが語り尽くされていきました。水族館の方と漁師さんや卸、小売の方々など、みなさんが同じ目標に向かって協働していく可能性を感じるトークセッションでした。
最後に、コラボの実例として試食タイムも。AOAO SAPPORO内にあるシロクマベーカリーで販売される、メンバーの漁師が獲った海産物を使った期間限定のコラボメニューがお披露目されました。標津町産の秋鮭フライサンドと、北見市常呂産のホタテフライです。食材そのものの美味しさが感じられるうえ、とってもボリューミー。これはぜひまた食べたいです!
今が旬、標津産の秋鮭がぎっしり!
最後に、本間さんはこんなこともおっしゃっていました。
「AOAO SAPPOROさんとこういう場を作れたことが本当に嬉しいです。僕らはそれぞれの立場や慣習、業界内での関係性などもあって、独自に行う活動や取り組みだけでは水産業が抱える課題にはなかなか太刀打ちできません。でも、ここにはこれだけ多様で優秀なメンバーが揃っています。北海道の水産がもっとよくなる活動ができたらと思っています。AOAO SAPPOROさんとDO FOR FISHでいろいろ行っていければいいなと思っています」
今回のイベントでは、海や水産業に興味を持つ人たちが、「まずはここに来れば何とかなる!」という場所にしていきたいという想いが伝わってきました。
取り組みは始まったばかりですが、きっとここの想いや熱意が北海道中に伝わっていくでしょう。未来の北海道の海には魚がたくさんいて、私たちはより美味しい魚を食べられるようになっているはずです。みなさん、魚のいる未来を選びましょう!
- くらしごと編集部