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望むのは「海に魚のいる未来」仲卸業者の挑戦!一鱗共同水産(株)20221024

この記事は2022年10月24日に公開した情報です。

望むのは「海に魚のいる未来」仲卸業者の挑戦!一鱗共同水産(株)

1959年、全国で17番目に開設された札幌市中央卸売市場は、札幌圏約230万人の食を支える北海道唯一の中央卸売市場。私たちがまだ深い眠りについているころ、目利きたちが集まり、鮮度の良い安心安全な生鮮品をスーパーや小売業者、飲食店を通じて消費者に届けるため、毎日競りを行っています。札幌市中央卸売市場には25を超える水産仲卸の業者が参画。そのひとつが、今回紹介する本間雅広さんが勤務する「一鱗共同水産株式会社」です。

仲卸の中でも一番の歴史がある「一鱗共同水産株式会社」

「一鱗共同水産株式会社」は、本間さんの祖父・睦郎さんが昭和34年に創業。札幌市中央卸売市場の開設と同時に仲卸業務を始めました。現在市場に入っている水産仲卸業者の中では一番の古株です。

「子どものときは、祖父や父の仕事内容がよく分かっていなくて、どうやら魚の仕事をしているようだという認識程度でした。市場に連れて行ってもらうような経験もなかったですし、特に跡を継ぐ、継がないという話もなかったので」

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環境的に子どものときから魚のことが詳しいのでは?という勝手なイメージがありましたが、「おいしい魚は食べさせてもらっていたと思うけれど、魚のことは詳しくなかった」と笑います。

ソフトテニスに明け暮れる日々。でも、好きかというと...

生まれも育ちも札幌の本間さん。小学生の頃からソフトテニスの選手として活躍してきました。全国大会へ進出するほどの実力の持ち主で、学生時代は選手として日本一を目指してきました。

「ソフトテニスが好きだったかと聞かれると、好きだったわけではない」と意外なひと言。小学校で全国2位、中学は全国ベスト8、高校は全国3位という成績を残した本間さんは、「なんか悔しいというか、どうせだったら1位を獲りたい。日本一に一度なって、借りを返したいみたいな思いが根っこにあって、ずっと続けていた感じです」と振り返ります。仙台にある東北福祉大へ進み、ソフトテニスを続けますが、「でも、ここでも2位だったんですよ」と笑います。
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大学卒業後、まさかの展開で高校の教師に

部活漬けの学生時代でしたが、中学の頃から学校の先生になりたいという夢を持っていました。大学で高校社会の教員免許を取得しますが、3年生の終わりに3.11を経験。「将来設計を立てても明日生きているか分からない。今すぐ教師になりたいかと自問自答したけれど、急ぐ必要ないかな...」と考え始めるようになります。履歴書は出したものの4年生の6月にあった採用試験は受けず、卒業後はアルバイトでお金を貯めてアメリカへ渡ろうと考えます。

ところが、大学を卒業してすぐ、札幌市の教育委員会から電話がかかってきます。期限付教諭の募集があったため、面接に来て欲しいというものでした。
採用試験は受けていませんが、本間さんが提出していた履歴書を見て連絡がきたのでした。

「想定外でびっくりですよね。とりあえず呼ばれたから行ったんですが(笑)、あれよあれよと採用が決まって、すぐに着任という状態で。心の準備もないままのスタートで、とにかく必死ですよ。出欠を取るのを忘れるくらい最初の授業は緊張して、手も震えていました」

今でこそ笑い話ですが、この経験で「かなり度胸がつきました」と本間さん。怒涛の勢いで始まった教師生活でしたが、徐々に教師の仕事に面白さを感じるようになります。
itiuroko9.jpg市場は終了している時間でしたが、通称「ターレ」に乗って頂いての一枚!

ゴルフがきっかけで、興味が湧いた祖父と父の仕事

ある時、同じ高校で体育を教えている先生に誘われ、ゴルフをやることに。実家の父・隆さんにゴルフ道具を借りに行くと、「ゴルフをやるなら一緒に回ろう」と隆さんから声がかかり、ともにゴルフへ出かけるようになります。これが本間さんの転機となります。

「僕、なんだかんだ負けず嫌いな質で、一緒にゴルフをするうちに、父親に負けたくないという感情が芽生えてきて(笑)。そうしたら、ゴルフだけじゃなくて父親の仕事も気になり始めて...。父親に対して対抗心が沸き上がってきました」

この対抗心がきっかけで、それまで興味を持ったことがなかった家業についても関心を持ち始めます。また、「祖父が立ち上げ、父がその跡を継いでいる会社。自分が跡を継ぐと手を挙げれば、そのチャンスはある。そしてそんな権利は誰でも簡単に与えられるものではないと気付きました」と振り返ります。

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「教師の仕事も好きでしたが、創業者である祖父がまだ健在なうちに学べることは学ぼうと思い立ち、父親に会社に入れてほしいと頼みました。ことあるごとに、周りの親戚から祖父はすごい人だと聞かされていたのですが、何がどうすごいのかよく分からずにいたので、それほどすごいなら、元気なうちに学びたいと思いました」

特別扱いはなく、一般社員と同じく現場からスタート

高校教師を辞め、何の知識も経験もない水産の世界へ飛び込みます。今からちょうど8年前のことです。創業者の孫、社長の息子といえども特別扱いは一切なし、一般社員と同じ扱いからのスタート。まずは、営業部の大口課という部署へ配属されます。大口課では、さんま、にしん、かれいなどを扱っており、最初の2年は配達などを行っていました。ところが、朝も早く、当時は周りに若い人も少なく、全体的に活気が感じられず、本間さんは自分が考えていたものとのギャップに、もやもやしたものを感じ、「ここから抜け出したい」とまで思うようなってしまいます。でも、「自分の子どもに自分の仕事をやらせたくないとは言いたくない。誇りに思える仕事として取り組みたい」と思い直します。

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気持ちを切り替え、先輩たちから現場で魚の知識を教えてもらい、魚の旬や選び方など、必要なことをどんどん吸収していきました。魚の売買にも携われるようになると、「商品の良し悪しを見極め、相場を見て、値段交渉をしていく。そんな駆け引きなども面白くて、仕事が楽しくなってきました」とニッコリ。祖父が考えた経営方針「毎日勝負」という文字通り、市場での毎日の競り=勝負が本間さんには合っているよう。さすが血は争えません。もちろん、初めのころは読みが甘く、買い付けに失敗をしたこともあるそうですが、そこも現場で上司や先輩たちからのアドバイスをもらい、着実に自分の力に変えてきました。

itiuroko12.jpg動く金額の大きさに、眠れない夜も経験したと言います

このままではいけない。未来のためにプロジェクトを立ち上げる

「ここ数年、現場に出て感じているのは、全体的に魚の水揚げが減っていること。いろいろな要因はあると思いますが、このままだと日本の水産業界がまずいのではないかと感じています」

ニュースで取り上げられているように、北海道で獲れたサンマやイカは市場で姿を見せることがめっきり減り、サイズも小ぶり。イワシも小さすぎて価値が落ちているそう。その一方でブリやマグロが北海道でも揚がるようになり、「この状況はちょっとおかしいと感じています。温暖化などで海の環境が変わっている中、海の資源管理を漁師に任せっきりにするのではなく、国をあげてもっと資源管理をきちんとするべきじゃないかと思います」と本間さん。市場で日々魚と向き合っているからこそ、肌感覚で危機的状況を感じ取っています。世界的に水揚げが減っているのかと思いますが、「減っているのは日本だけで、ノルウェーなどは水揚げが伸びています。それは国が海の資源管理を徹底しているからだと言われています」と話します。

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そんな日本の漁業への危機感が本間さんを動かします。「魚がいる未来を選びたい」と、「2048project」を立ち上げたのです。プロジェクトは、同じ思いを持つ漁師、卸、仲卸、飲食店と水産に関わる人たちがその垣根を越えて集まり、まっすぐに水産に関する問題と向き合い、実践と学びを行っていくというもの。一人でも多くの人にこの現状を知ってもらうため、水産関係者と消費者のコミュニティを作り、改善と解決に向けてアクションを起こそうと考えています。まずは11月に札幌でイベントを開催するため、クラファンを実施しています(現在は終了)。
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「海から魚がなくなると書かれた2048問題という論文があり、その2048から名前を取って、2048projectと名付けました。ただ、2048年に食用魚がなくなるというのは誤認であったとのちに発表され、僕たちも水産研究に携わっている方たちからご指摘を受け、クラファンのページに記載している文章は訂正させてもらいました。とはいえ、日本の漁業が危機であることに変わりはありません。このことを忘れないためにも2048という数字はそのまま残しました」

仲卸の仕事に誇りを持ち、循環型の水産業界を築いていく

仲卸業者として、この仕事をもっと正しく理解してもらいたいという思いも持っている本間さん。名刺には「選魚職人。」と記されており、目利きとしての誇りや想いがそこに込められているのが分かります。また、仕事のこと、魚のことを知ってもらうためのYouTubeを配信するなど、広報活動にも力を入れています。

itiuroko8.jpg2048projectでリターンとして配布されるTシャツ。そこに書かれているのは『NoFish NoFuture』
「仲卸なんていらないんじゃない?という人もいますが、仲卸があるからこそ適正価格でいいものを消費者の方たちにお届けできている。そのことをきちんと消費者の方にも知ってもらいたいと思います。誰かだけが儲かればいいのではなく、お互い応援し合って、支え合いながらビジネスができればと思っています。漁師さんで六次化を進めている方も僕は積極的に応援したいし、むしろ仲卸をうまく使ってよ!とも思います」

海の資源を守っていく大切さはもちろんのこと、水産業界では昨今の消費者の魚離れも問題とされています。
「確かに自宅で食べる人は減っているかもしれませんが、回転寿司の店がこれだけ増えている様子を見ていると、昔とは違う形で消費者の方たちが魚を食べる機会は増えていると思います。これはあくまで僕の仮説ですが、また魚ブームがくると思っています!」
itiuroko17.jpg大人気、「一鱗酒場」。魚ブームはまた来る! いやもう来ている!?
厳選した魚を気軽に食べてもらいたいと、リゾットや夜パフェの専門店の運営で知られる株式会社GAKUとコラボした居酒屋「一鱗酒場」も令和2年にオープンしました。現在、経営企画室室長として、営業だけだはなく広報や採用としてもフル稼働している本間さん。海の資源を守り、次の時代へ残していくという使命を胸に、仲卸業者としてできることをやろうと日々奔走中です。

持続可能な水産業界を目指す本間さんのアクション、これからも注目です。

一鱗共同水産株式会社
一鱗共同水産株式会社
住所

札幌市中央区北8条西20丁目1-20

電話

011-621-4151

URL

https://www.ichiuroko.co.jp/

2048projectの詳細はこちらから!

本間さんのYouTubeチャンネル いちうろこチャンネル


望むのは「海に魚のいる未来」仲卸業者の挑戦!一鱗共同水産(株)

この記事は2022年9月6日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。