
旭川市は道北エリアの中核都市。ビジネスや観光、各種イベントに訪れる人も多く、ショッピングモールや屋台村などもにぎわいを見せています。その一方で、北海道最高峰の大雪山系の山々を中心に、自然豊かな環境に囲まれていることも魅力です。
ある不動産企業の集計によると、このまちは北海道の市区町村別の公園数が道内トップ。経済活動が活発でありながら、「緑」も大切にしたまちづくりが行われていることが分かります。
とはいえ、公園も手入れをしなければすぐに草木が生い茂り、場合によっては強風で倒木が起こるなど事故が起こりかねません。そんな公園の「キレイ」や「安全」を陰ながら支えている企業の一つが株式会社大芝。まずは代表の髙村栄一さんに会社のことを伺いました。
斜面の土砂崩れを防ぐのも芝生の役割の一つ。
株式会社大芝が設立されたのは1979(昭和54)年。髙村さんのお父さんが、造園や植生の工事を手がける企業としてスタートさせたそうです。ところで、造園は何となくイメージがつきますが、植生というのはどんなことをするのでしょう?
「例えば、クルマを走らせている時、道路脇の斜面に格子状のコンクリート枠がいくつも連なり、その四角い枠の中に芝生が生えている光景を見かけませんか?あれが植生工事の代表例です。斜面の表面を植物で保護することで、降雨による水の侵食を防ぎ、土砂崩れといったリスクを軽減できます。もちろん、災害防止以外にも美観を保ったり、環境保護に役立ったり、さまざまな効果が期待できるんです」
こちらが、代表取締役の髙村栄一さん。
植生工事には多彩な手法があり、同社は芝生の種子や肥料、資材などを混ぜ合わせた材料を機械で吹き付ける工法を得意としています。土壌の質や環境によって作業を変えなければならず、主に3種の工法を使い分けながら緑化を進めているのだとか。
「植生工事は生き物を扱っているようなものですし、当然ながら芝生も植物なので天候に左右されやすいのも難しさの一つ。雨の降り方によっても生え方が変わってくるため、一定のクオリティで緑化するのは至難の業です。当社のような植生工事会社は、散水までカバーするケースが少ない分、顧客には『発芽した後も水やりしないとキレイに生えませんよ』『気温が高いと少量の水ではすぐにお湯のようになるので多めに水をあげてください』といったアドバイスをするように心がけています」
芝生は一度キレイに生えると何年も緑を保つことができるため、美しいグリーンが形になって残ることもやりがいだと微笑みます。
公園の維持管理=サービス業として地域の要望に応えたい。
髙村さんが株式会社大芝に入社したのは1999(平成11)年のこと。高校卒業後はものづくりが好きなことから大工の仕事に就き、運送会社を経て家業を継ぐために戻ってきたといいます。
「僕の入社当初は植生工事の数が多く、1日に2件、3件の現場を回ることも日常茶飯事。遠方出張もたくさんありました。ただ、植生工事は新しい道路を作る時に付随するケースが大半のため、道路網が発達した現在では数が減ってきたのが事実です。とはいえ、当社では、6年ほど前から旭川市内の公園の維持管理にも大きく力を入れ、今や業務の約半分を占めるようになりました」
旭川市では株式会社旭川公園管理センターが市内の公園の指定管理者となり、14社の造園業者が構成員となって公園の維持管理を担っています。大芝も構成員の1社であり、23箇所の公園を受け持っているそうです。
「旭川市の公園の維持管理は5年で1期として契約するかたちです。当社ではこの業務をサービス業としてとらえ、地域の要望にもできる限り応えながら、例えば公園全体がキレイに見える木の手入れなど細やかな仕事を心がけたことで、2期目の現在は前期よりも多くの数を担当することができました」
同社が管理する公園の大きさは大小さまざまですが、旭川市民なら誰もが名前を知っている「春光園」もその一つ。野外彫刻作品が立ち並び、地域はもちろん、観光客にも憩いの場として親しまれている場をキレイにするのは実にやりがいがあると表情を緩めます。
「自分ができるから相手もできるだろう」を押し付けない考え方。
髙村さんは、2023年にお父さんから代表の座を受け継いだばかりです。同社は季節雇用のスタッフも含め、長く働くメンバーが多いからこそ、ベテラン化が進行中。そのため、近年では人材の採用と育成が大きな課題となっているそうです。
「公園の維持管理や植生工事は、建設業界の中でもニッチな分野ですが、例えばキャンプ場の管理で芝刈りを経験したことがあったり、造園会社で剪定作業に携わったりした方には馴染みやすいと思います。もちろん、当社は未経験者でも一緒に現場を回ってもらいながら、公園の清掃や施設の点検といった難しくない仕事から少しずつ成長できる環境。業務に必要な資格も徐々に取得していけば良いですし、4〜5年かけてでも一人前に育てたいと考えています」
髙村社長の笑顔から、優しい人柄が伝わってきます。
髙村さんご自身は若手のころに多くの現場を経験し、「急成長せざるを得ない」環境だったはず。それでも、新人さんの成長にスピード感を求めません。その理由をこう語ります。
「人には得手不得手もありますし、一人ひとりの個性も違うものです。『コレができないから不合格』ではなく、『コレができなくてもコッチが上手ければ花丸』と考えるほうが仕事に楽しく取り組んでもらえますよね。自分ができるから相手もできるだろうという考えを押し付けるのは、特に若い世代には敬遠されると思います。若者から選ばれる会社になるためにも、最近は12〜4月の閑散期には土日祝日を休みにしたり、各種手当を導入したり、少しずつ働く環境も変えています...とはいえ、周りから比べるとマダマダですが(苦笑)」
決して背伸びして会社を語るのではなく、実情をありのままに伝えてくれる人柄に実直さを感じます。
「ボール遊び禁止」の看板を取り付ける作業だけが...心苦しい!?
公園維持管理の仕事は夏場の草刈りや秋の剪定、さらには遊具や施設の点検がメイン。同社では1ヶ月のうちに2週間程度は公園を回って各種作業を行い、もう半分は植生工事というペースが基本だといいます。
「一つひとつの作業自体はさほど難しくありませんが、例えば時期によっては剪定してしまうといけない樹種があったり、公園の第一印象を美しくする木の手入れの仕方があったり、この仕事は意外と奥が深いものです。時には地域の方からお祭りの前までに草刈りをしてほしいといったリクエストをいただくこともあり、できる範囲でお応えして喜ばれるのもやりがい。何より、公園をキレイに維持することは、まちの景観を作ることでもあるので、僕らの仕事はまさに縁の下の力持ちだと思います」
実は、公園に設置されている注意看板を取り付けるのも株式会社大芝の守備範囲。「禁煙」や「カラスの巣に注意」といった注意は利用者にとって助かりますが、髙村さんが「看板を取り付けるのが心苦しくて」というものもあるようです。
「都会のほうでは当たり前になってきているかもしれませんが、ここ最近はボール遊びを禁止する流れが旭川にも及んできています。ただ、子どもたちの遊びに制限をかけてしまうのが少しかわいそうで...依頼があった時はしぶしぶ看板を取り付けています(苦笑)」
髙村さんが今後考えているビジョンは会社や事業の急拡大ではなく、地に足のついた、そしてスタッフ思いの未来です。
「人材が増えることで年間を通して土日祝日を休みにすることは十分に可能。さらに、公園の維持管理と植生工事の部門を分けることができれば、その分をスタッフの待遇に還元できます。身の丈にあった規模の中で、全員が楽しく仕事ができるのが目標ですね」
「社員全員が楽しく働くことができる職場作りが私の使命ですね」と語る、髙村さん。
フラットで自由度の高い雰囲気が、一人ひとりの満足度に直結。
続いてインタビューのマイクを向けたのはスタッフの阪口健さん。もともとは東京の造園会社で働いており、Uターンを機に株式会社大芝に転職したと振り返ります。
「私が入社したのは平成10年。一般にイメージする庭造りや木を植えるといった造園業とは異なりますが、芝生の種子の吹付けや公園の維持管理も面白いものです。とりわけ、園内で枝葉がボサボサだった木を剪定することで、すっきりと見栄えが良くなり、多くの人に憩いを届けられるようになるのが醍醐味です」
語り口は穏やかながら、やさしさのにじみ出る笑顔が印象的。阪口さんは待遇や働き方よりも、「緑」にふれられる時間が何よりも楽しいタイプなのだそうです。
「当社は服装や髪型もそうですが、少人数だからこそ比較的フラットで自由な雰囲気。植生工事で山のほうに出かける時には休憩中に釣りをする人がいたり、自分は山菜を採って家で食べるのを楽しみにしています」
最後にお話を伺ったのは川村憩義さん。実は髙村さんとはもともと友人関係で、冗談交じりに「大芝に入れてくれ」といったところ、本当に入社することになったといたずらっぽく笑います。
「僕の場合はゼロからのスタート。当時はまだ植生工事がメインだったため、芝生の種子を吹き付ける機械の操作から土質によってどの工法にすべきかなど、一つひとつ経験を積みながら作業に慣れていきました。ある程度理解するまでに1年、一通り自分でできるようになるには3年ほどかかったと思います」
川村さんは正社員ではなく季節雇用スタッフ。冬場はweb関連のスポットの仕事をして、雪解けのころから「体を動かすためにも」大芝に戻るのが最近の1年の過ごし方だとか。
「例えば、冬場はスキー場で働いたり、山登りのインストラクターをしたり、アウトドアを楽しみながらオフシーズンを緑とともに過ごすのも素敵だと思います。当社は良い意味で社風や押し付けがないからこそ、自分の理想とする働き方を試しやすいのも魅力ではないでしょうか」
髙村さんが語ったように、ご自身もスタッフの皆さんも人柄やタイプはバラバラ。けれど、それぞれが楽しく仕事に向き合っているのはフラットで自由度の高い雰囲気が「植物のように根付いているから」かもしれませんね。