
毎年のように沖縄と北海道を訪れていたほか、全国各地のゴルフ場を回るなど、とにかく旅行が好きな増田夫妻。南富良野のログホテルに泊まった際、ログハウスに魅せられ、「リタイアしたらログハウスを建てて暮らしたいね」という話から、北海道への移住を検討し始めます。
旅をしながらいろいろ考えた末、5、6年前に「引退してからではなく、働けるうちに移住したほうがいいのでは?」となり、今年1月に富良野市へ移住しました。移住を決めるまでのこと、移住してからのこと、そして将来的にやってみたいことも伺いました。
リタイア前に移住するなら、毎年のように訪れていた富良野へ
関西出身で、長い間、大阪で暮らしていた増田真一さんと桂子さん夫妻。真一さんは空港のリムジンバスや観光バスのドライバーを務め、桂子さんは小学校の先生として忙しくしていました。2人とも独身時代から旅行が好きで、結婚してからも2人で国内や海外を旅していました。
「沖縄と北海道はよく訪れました。ゴルフが好きだったこともあり、最初は47都道府県のゴルフ場を回ろう!と旅をしていたこともあります。海外にも結構行きましたね」と桂子さん。
小学校の教師として働く桂子さん。少人数だからこそ、子どもたち一人ひとりと深く関われる、理想的な教育現場でやりがいを感じています。
特に桂子さんは旅先で美しい景色を見るのが好きで、北海道でも富良野や美瑛エリアの豊かな自然が織りなす風景を気に入っていたそう。
毎年のようにこのエリアを訪れていた増田夫妻は、かなやま湖を見下ろす場所にあるログホテルに泊まった際、自然の中に立つログハウスに心を奪われ、北海道でログハウスを建てて暮らしてみたいと考えるようになります。
「ちょうど5、6年前だったかな。最初はリタイアしてから、富良野か美瑛あたりに建てようと話していましたが、旅行しながらいろいろ考えているうちに、引退してからより、働ける状態の今から移住をしたほうがいいのでは?となったんです。そのほうが、知り合いやお友達もできやすいだろうし」と真一さんが続けます。
そして昨年の夏、富良野を訪れた際、移住の話を聞いてみたいと、桂子さんいわく「フラッと軽い気持ち」で市役所へ立ち寄ります。
「その日のことをちゃんと覚えていて、8月7日でした。移住について聞きたいって話すと、総務部シティプロモーション推進課に案内され、松野健吾さんを紹介していただき、夫がバスドライバーで、私が小学校の教員だと自分たちの仕事の話をしたら、その場ですぐにふらのバスに連絡をしてくれて、さらに教育委員会の人も呼ぼうとして...。松野さんの行動の早さに驚きました」と振り返ります。
その際に、後日大阪で行われる北海道移住フェアに富良野市も参加すると教えてもらい、夫妻は実際に参加。ほかの市町村のブースでも話を聞きますが、すでに気持ちは富良野市に。秋には再び富良野市を訪れます。
富良野市への移住を決めた増田さん夫妻。観光客として訪れていた時とは違う、富良野での暮らしを楽しんでいます。
運良く一軒家を見つけ、慌ただしく引っ越しするも、アクシデントが...
さて、ここで少々意地悪な質問。観光客の多くは、「富良野」と呼ばれるエリアはすべて「富良野市」と勘違いしがちですが、増田夫妻はどうだったのでしょうか?
「はい、勘違いしていました(笑)。最初、上富良野も中富良野も南富良野も、全部富良野市の中の地名だと思っていました。違う市町村だと分かったのは、家を借りるための物件探しをしているときでした」と桂子さんは笑います。
再度、秋に富良野へ訪れたとき、増田夫妻の心は「富良野に移住する!」と既に決まっていました。まずは、家が見つからないと引っ越しができないということで、このときは家探しのために訪れたのでした。
「いきなりログハウスは建てられないし、うちは犬を飼っているので、一軒家の借家を探していました。大阪の家は持ち家で、荷物がかなり多いというのもあって...。でも、なかなか見つからず、今回は諦めて帰ろうかと思っていました」と桂子さん。
ところが奇跡が起きます。大阪へ帰る前の日、真一さんがたまたまネットで賃貸情報を見ていたら、条件に合う一軒家が出てきたのです。すぐに連絡をすると、オーナーは札幌在住の方。増田夫妻が大阪へ帰るという事情を汲んで、なんと札幌から車を飛ばし、翌朝8時に富良野へやってきて、物件を見せてくださったそう。
「結果、私たちに貸してくださるということになり、そこからが引っ越しの準備や仕事の引き継ぎやらで、バタバタし始めました。大阪の家の売却もあり、本当に慌ただしかったですね」と桂子さん。
一気に移住の話が進み、年末の12月20日に家財道具がすべて大阪から富良野へ到着。荷物を運び入れた増田夫妻は愛犬の黒柴「小鉄」と共に、お正月を桂子さんの実家がある兵庫で過ごし、その後、神奈川に暮らす兄夫婦のところに寄ってから北海道へ上陸します。
何度も北海道を訪れている増田夫妻でしたが、冬の暮らしについてはまだまだ知らないことも多かったため、引っ越し早々、雪国ならではの洗礼を受けます。
「富良野は除雪が行き届いているから、雪かきをしなくていいと言われていましたが、それでも私としては雪がめっちゃ多くてビックリしました。そして、水抜きとか、冬の間は小さい火でストーブをつけっぱなしにするとか、関西にはない習慣の意味も最初はよく分からなくて...。とりあえず水を止めてもらっていたのですが、どうやら給湯器に少し残っていた水が凍ってしまい、しばらくお風呂に入れないという状況に...」と桂子さんは苦笑。
さらに、犬を飼っているのがきっかけですぐに親しくなったご近所さんから「車庫の上の雪が落ちてきたら危ないよ」と指摘されます。どうすればいいのか分からず慌てていると、「給湯器の修理に来てくれた人がすごくいい人で、車庫の屋根の雪のことを話したら、雪下ろしをしてくれる人を連れてきてくれたんです。しかも無料で」とニッコリ。
アクシデントからのスタートとなりましたが、そのおかげで地元の人のやさしさや温かさに触れることもできました。給湯器の修理の人は、困っていることがないかと今でもときどき立ち寄ってくれるそう。
それぞれ新しい環境で仕事をスタート。感動と驚きが盛りだくさん
さて、引っ越してきて5日も経たないうちから、ふらのバスでの仕事がスタートしたという真一さんにも話を伺いましょう。大阪にいたときと同様にバスドライバーとして働き始めますが、雪道は平気だったのかが気になります。
「全然問題ありませんよ」とにこやかに話す真一さん、大阪にいたときは関西空港のエアポートリムジンを運転していたほか、貸し切りバスの運転もしていました。
大阪でバスドライバーだった真一さんは、富良野でもバスの運転手として活躍しています。雪道は経験済みのため問題なく、夏の景色を楽しみながら運転しているそうです。
「貸し切りバスで、大阪から長野のスキー場へ運転することもあり、雪道は経験済みなので怖くはなかったですよ」と続けます。
「ただ、ホワイトアウトだけは経験がなかったので、国道を1本外れただけで、こんなに吹雪くのかと最初はビックリしました。でも、夏場は景色がとにかくキレイで、運転していても気持ちがいいですね」と新天地でのドライバー業を満喫している様子。「いつクマに遭遇するかなと思っているんですけどね」と笑います。
「そうだ、クマと言えば...」と桂子さん。こちらへ来てから車を購入した際、「みんなが口をそろえて、シカをひかないように気を付けてと言うんです。これも驚きましたね」と話します。
鳥沼小学校の先生方と談笑している一コマ。
ほかにも北海道で暮らし始めて驚いたことがあれば教えてくださいと言うと、「ゴミの袋の種類の多さ!」と桂子さん。引っ越してきてすぐに2人でホームセンターへ行くと、「夫がレジの横で呼ぶので、何事かと思って行ってみたら、市で定めているゴミ袋が8種類ほどあって、『こんなに細かく仕分けするの?』と2人で困惑しました」と苦笑します。
「大阪にいたときは2種類に分けるだけだったので、こんなに細かく分けるとなると、ゴミ箱がたくさん必要になる!って慌てましたね」。富良野市のゴミ分別アプリ「ごみナビ」をスマホに入れ、「今ではすっかり分別博士ですよ(笑)」と桂子さん。
前のほうで桂子さんが小学校の先生であると紹介しましたが、この春から桂子さんは市内の小学校で教師として勤務。担当しているのは小学4年生で、「実は、4年生の社会科で地域のゴミのことを学びます。富良野市は、燃やさない・埋めないという基本的な考え方があり、これって素晴らしい取り組みだと思うんです。だから、富良野市のゴミのことをもっと深く学びたいと考えています」と話します。
さらに、ゴミだけでなく、富良野市の素晴らしさを実感しているのが「水」なのだそう。
「水道水がこんなに冷たくておいしいなんて、すごいことですよ」と興奮気味の桂子さん。大阪にいるときは、水道水をそのまま飲むことなんてできなかったと話し、「夫が水道水を飲めなくて、うちにウォーターサーバーが置いてあったのですが、こっちに来たらウォーターサーバーは不要に」と続けます。
「大阪の小学校では水道水を子どもたちに飲ませていなかったのですが、富良野の子たちは当たり前のように蛇口から水を飲んでいて...。これはすごいと思いました。4年生の社会科で、水のことも勉強するのですが、富良野市は基本的に水質の高い地下水を使用。社会科で私自身も学ばせてもらいました」と話します。
「もっと富良野の水のことが知りたくて、水博士になってやる!と思っています」と、ゴミだけでなく、水についても知りたいと意気込みます。
また、大阪で勤務していた小学校との規模や運営の仕方の違いに戸惑うこともあるそうですが、「1年目のときのような新鮮な気持ちで仕事に取り組んでいます。保護者との距離も近く、子どもたちとも濃く関われる、理想的な教育に携われています」と桂子さん。
「私が勤務する小学校は複式学級で少人数。朝から学級のこどもたちとたっぷり話せるし、全校生徒全員と話せる日もあります」と言います。冬はスキー学習がありますが、「スノボはするけど、スキーはあまり...。子どもたちに教えてもらいながら頑張ります」と笑います。
地元の人たちが気軽にコーヒーを飲みにやってこれる場所を作りたい
ほかにも富良野に来て驚いたことや感動したことなどを順に挙げていってもらうと、「富良野は太陽が大きく感じる」と桂子さん。真一さんは「それはおそらく空気がキレイだから、大きく見えるのではないかと考えています」と続けます。
また、「食べ物」に関しては、「語らせたら3日はかかりますよ」と桂子さん。牛肉をあまり食べない、魚のアジやイワシが店頭にない、出汁が違うなど、食文化の違いにはカルチャーショックを受けたと言いますが、「富良野の野菜のおいしさは桁違い。アスパラやとれたてのとうきびのおいしさなどにビックリ」と満面の笑顔。
知り合いに教えてもらった摘果(てっか)メロンのから揚げのおいしさに桂子さんは驚いたと言います。料理好きでキッチンに立つことも多い真一さんは、「富良野の野菜は生育状況がいいのか、なんでも大きい気がする」と話します。

旅行好きの増田夫妻ですが、仕事が忙しく、休みが合わないため、これまでのようになかなか旅行へ行けないそうですが、「夜にね、2人でナイトサファリに行こうと言って、キツネやリスを見に行ったり、星を見に行ったりしています」と桂子さん。
真一さんは、「麓郷で見る星空は驚くほどキレイ。携帯電話のカメラでもばっちり星が撮れるほどなんですよ」と嬉しそう。旅行には行けなくても、富良野での暮らしを満喫している様子が伝わってきます。
「富良野で暮らしはじめて、ご近所さんや同じ移住者の方たちとも交流をさせてもらっていますが、皆さんホントにいい人ばかり。私たちは人に恵まれているなと感じています。将来的には、観光客ではなく、そんな地元の人たちが気軽にコーヒーを飲めるような場所を作りたいですね。本当は、ログハウスを建てて、そこでコーヒーやわたしたちが作る料理を提供できたらいいんですけど」と、最後に桂子さんが語ってくれました。
愛犬の黒柴「小鉄」と一緒に一軒家で暮らす増田さん夫妻。「将来はログハウスを建て、美味しい富良野の水で煎れたコーヒーを地元の人達が気軽に飲める場所を作りたい」と語ります。
- 富良野市 増田真一さん・桂子さん夫妻
富良野市役所
富良野市移住ワンストップ窓口
富良野市総務部シティプロモーション推進課
住所:北海道富良野市弥生町1-1
電話:0167-39-2277
URL:https://www.city.furano.hokkaido.jp/
●ワーケーション公式サイト「ワーケーションフラノ」
https://furano-workation.com/●移住公式サイト「リビングフラノ」
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