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中札内村

「美味しくて、安い」十勝野ポークの養豚はクリエイティブー!?20251002

「美味しくて、安い」十勝野ポークの養豚はクリエイティブー!?

北海道の東部に広がり「食の宝庫」として知られる十勝地方。カレーやスイーツも人気ですが「十勝といえば豚丼!」という人は少なくありません。

酪農業(牛乳生産)のイメージが強いものの、十勝は古くから養豚業も盛ん。明治期にこの地を開拓した依田勉三が詠んだ歌にも「開墾のはじめは豚と一つ鍋」とあり、豚の存在は人々の暮らしに深く関わっていました。そんな十勝地方の中南部にある中札内村で「毎日食べたい。家族に食べさせたい豚肉を」と、日々、命に向き合うのが株式会社十勝野ポークです。

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初めにすこし中札内村について。

十勝地方の中心都市、帯広市の南側にあり、車では30分ほどの距離。帯広空港からはわずか10分。道内外からのアクセス性に優れつつ、北海道らしい田園風景に抱かれています。人口は3800人ほどですが、2019年から5年連続で転入者数が転出者数を上回る状況。豊かな自然や「食」の魅力も相まって、近年、全国各地から移住者が増えています。

250804_tokachinopork_18.jpg夏は涼しく、さわやか!冬は寒いですが雪が少なく、「十勝晴れ」と呼ばれるほど晴れの日が多いエリアです。

子どもの成長にも欠かせないタンパク源を「毎日食べられる価格」で

そんな中札内村を代表する養豚会社、十勝野ポークが育てているのは、「三元豚(さんげんとん)」と言われる三つの品種を掛け合わせた豚です。きめ細やかな肉質と、軟らかな赤肉、しっとりとした甘みとコクのある脂身が特徴。「十勝野ポーク」の名称で地元の銘柄豚(ブランド豚)にもなっています。年間出荷頭数は35000頭を超え、同規模の農場では道内トップクラス。出荷する豚を育てるCM農場と親豚を育てるGP農場からなり、約30人のスタッフが働いています。

「ブランド豚というと、いかにも高級品のように聞こえるかもしれませんが、当社の豚肉は違います。誰もが手軽に求められる価格で、味も良い。子どもたちの成長にも不可欠なタンパク源を安定供給することが当社のミッションです。『毎日食べたい』とはそういう意味なんです」

250804_tokachinopork_7.jpg株式会社十勝野ポーク代表・渡邉広大さん。

話してくれたのは十勝野ポークの代表、渡邉広大さん。同社のSNSには「ポーク社長」の愛称で登場し、養豚業の魅力を伝える動画が人気となっています。

社員の生活を守りたい。一念発起で事業を受け継ぎ、社内改革をスタート

渡邉さんは高校を卒業後、6年間、自衛隊に勤務。食肉ディーラーを経て、2007年に家業に入りました。

「自衛官の仕事が好きだったので、家業を継ぐつもりはありませんでした。しかし、経営状況が思わしくないという話を両親から聞き、実家に戻ることを決意。家業を支えることはもちろん、これまで働いてくれた従業員を守りたいという気持ちが大きかったですね」

250804_tokachinopork_19.jpg社長自らSNSを駆使して地道に養豚業や中札内村の魅力を広めています。

2012年に代表を引き継いだ時は18億円もの負債があったそう。取引のある飼料メーカーが「もう、飼料は出せない」というほど危機的な状況でした。銀行の支援を受けながら再建計画をまとめ、飼料メーカーや出荷先との交渉により関係を再構築。「数字が得意」という自らの強みを活かし、精緻なシミュレーションをもとにした生産性の向上に挑みました。

「いわゆる『どんぶり勘定』だったわけです。豚の種付け、受胎率、分娩から生存率。感覚的に『これぐらいかな...』とわかっているけど、具体的な数字がない。どの時期に、どの程度の餌が消費されているかもわからない。これでは改善しようにも、手の打ちようがありません。なのでまずはエクセルで表を作り、数字を把握するところからスタートしました。その数字が会社の利益やキャッシュフローにどう影響するかをぱっと見てわかるようにし、『この数字を上げるにはこっちの数字を抑えなきゃいけない』と、やるべきことを明らかにしていったんです」

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具体的な改善策は従業員にも共有し、「なんとなくうまくいった」「運良く成績が良かった」ではなく、再現性のある仕事のやり方を目指していきました。

昔も今も変わらない、温かくて家族的な雰囲気が十勝野ポークらしさ

「私が入ったころは、昔ながらの家族経営という雰囲気でしたね」

そう話してくれたのは同社に勤務し20年以上というベテランスタッフの古内美保さん。CM農場の分娩舎に勤務し、分娩と母子の管理を担当しています。

250804_tokachinopork_3.jpg「生き物が好き」と語る古内美保さん。

「当時は先代の社長と奥さん、おじいちゃん、おばあちゃんもいて、家族以外の社員は数人。私自身、仕事というより、親戚の家に手伝いに来ているような感覚でした(笑)。お昼にはみんなでご飯を食べて、3時におやつを食べて。時間がゆっくりと流れている感じ。時代とともに仕事のやり方などは変わりましたが、そういう家族的な温かさは今も変わらない十勝野ポークらしさなのかなと思っています。みんなでバーベキューをしたり、誰かが急に楽器を弾いて歌いだしたりね(笑)」

古内さんは札幌出身で、高校卒業後に帯広畜産大学に進学しました。在学中は酪農業の搾乳ロボットなど農業機械の分野を専攻。大学で学んだことを活かせる職場を希望しましたが、「氷河期」と言われた就職難の影響もあり、一時は就職を断念したそう。その後、大学時代の先輩の紹介で、十勝野ポークの一員になりました。

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「『就職しないなら札幌に帰ってこい』と親に言われて、慌てて就職したんです(笑)」

CM農場では週に50回ほどの分娩があり、産前から産後までの期間の母子を管理するのが古内さんの役割です。豚は一度に10頭以上の子豚を生み、時間がかかりすぎると子豚が産道で窒息し、母豚自体も危険な状況に。異常を感じたらすぐに人の手で介助するなど、注意深いケアが欠かせません。

産まれてから離乳までは20日間ほど。この間も子豚が母豚に押しつぶされないよう気を使ったり、母豚のおっぱいがしっかり出るよう体調を管理するのも大切な仕事です。

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産まれてすぐ失われる命に胸を痛めたり、すくすく育つ子豚の姿に癒やされたり。生き物とむきあう仕事だからこそ得られる感動とやりがいは、昔も今も変わらないと話す古内さん。

「加えて最近は、分娩数、子豚の生存率、離乳後の体重など、各工程の数字をタブレットで管理していて、どんな工夫がどのように影響するかを確認しながら生産性の向上に努めています。皆で努力した結果を、確かな手応えとして感じられるようになり、仕事へのモチベーションも高まりました」

250804_tokachinopork_14.jpg週1回、各部門のスタッフが集まり、データをもとに成績や困っていることの共有を行うそう。

現在、中札内村に在住し、高校生の子どもを持つ母親でもある古内さん。村での暮らしや子育て環境について聞いてみました。

「教育環境は魅力的だと思います。村の小学校は子どもが少ない分、一人ひとりの児童を丁寧に見守ってくれますし、ご近所も顔なじみが多いので地域全体で子どもを見守る雰囲気があります。子育てで孤独を感じたことはありません。直売所では地元産の新鮮な野菜を安く買えますし、暮らしやすい土地だと思っています」

データ活用と試行錯誤。創造性を発揮して「美味しさ」と「安さ」を両立

おいしさの追求にも数字の理解が欠かせないと渡邉さんは説明します。

「味の感じ方は人それぞれですが、甘味、塩味、苦味、酸味、旨味は数値化が可能。肉の柔らかさや脂の入り方がどう味覚に影響するかも分析できます。中でも私たちが重視するのは「匂い」。独特の臭みを感じさせないよう飼料の配分を調整し、どうすれば美味しさを高められるか、飼育方法の工夫でどこまで肉質が変わるのかといったテーマに社員一丸で挑み続けています」

250804_tokachinopork_11.jpg生き物を扱う仕事に、変化はつきもの。だからこそ、それらにいつでも対応できるようコミュニケーションを大切にしています。

データ視点と並行して力を注ぐのは、安全性の確立です。渡邉さんは社長就任当初から農場の防疫と健康管理を徹底し、2013年から2014年にかけて、全国的に「PED(増殖性腸炎)」という豚の病気が蔓延した際も、病気の侵入をゼロに抑えました。

「2020年からは農場全体のハイヘルス化を本格的にスタートさせました。背景にあるのは高い繁殖能力を持った親豚「ケンボロー種」の導入です。ケンボロー種は繁殖能力に優れる一方、病気には注意が必要。豚は一度病気になると治りにくく、生産性を高めるためにも、ハイヘルス化は不可欠でした。そもそも病気になりにくい農場であればワクチンや抗生物質の使用を削減でき、コストダウンにもつながります。そうすれば、より手頃な価格で、安心して食べられる豚肉を消費者の皆さんに届けることができます」

250804_tokachinopork_1.jpg農場内を完全空舎にし、慢性疾病を排除して疾病の無い豚を導入する「ハイヘルス化」で、悪性の菌数・ウィルス数が少ない状態を維持しています。(豚自体が菌を持っているのでゼロにはなりません)

外部からの病原菌の持ち込みを防ぐため、農場へ入る車両はゲートでの消毒が不可欠。人も豚舎に立ち入る前はシャワーで全身を洗浄し、衣服も清潔なものに取り替えます。

「離乳舎、肥育舎はオールイン・オールアウト。豚を移動させる際は一度豚舎を空にして、高圧洗浄機での清掃と消毒を徹底。常に清潔な豚舎に新たな豚を迎え入れるようにしています」

仕事に対する考え方も尊重。「うちの豚肉は美味しい」と誇りを持って

美味しくて、安全で、さらに手頃な豚肉を作ることが十勝野ポークのモットー。その一方で、社員には充実した人生を送ってもらいたいと渡邉さんは説明します。

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「良いものを安く作るのは簡単ではありません。でも、だからといって、社員に過度な負担を強いることはしたくないと考えています。生き物を相手にする以上、昼夜を問わず対応しなければいけない場合もありますが、基本的には、プライベートをしっかり確保してほしいと考えています」

250804_tokachinopork_13.jpg人生において家族の次に一緒に過ごす時間の長い仲間だからこそ、お互いを尊重し、足りない部分をカバーし合えるように。

「一人ひとりの仕事に対する考え方もできる限り尊重しています。キャリアアップに関しても、管理職になってマネジメントに携わりたい人もいれば、現場の作業を続けていきたい人もいる。どちらの考えも否定はしません。管理職を目指す人には責任に見合った待遇を用意します」

また同社では、家計の助けになればと、定期的に社員に豚肉を支給しています。農場内でも頻繁にバーベキューを開催し、自社の豚肉で社員をもてなしています。

「自分たちが作った豚肉は美味しいんだと、誇りを持って仕事に取り組んでほしんです」

中札内に根ざした企業として、地元のお祭などには積極的に豚肉を提供するという渡邉さん。近隣の農家とも交流があり、豚肉と野菜の「物々交換」を行っていると言います。

「野菜はもちろん社員に支給。豚肉と野菜がタダでもらえたら、食費はかなり助かりますよね。社員には僕も含めて音楽好きが多く、社内バーベキューの最中にいきなりセッションが始まったりすることも(笑)。地域のお祭でバンド演奏をしたこともあります」

250804_tokachinopork_20.jpgまちのお祭「上札内de花火大会」でバンド出演!音楽好きが多いのも十勝野ポークの特長です。

生産体制を強化し、食料自給率向上に貢献することが当社のミッション

「将来的には年間出荷頭数を4万5000頭まで拡大していく計画です。そのためには成績改善、レイアウト変更の必要があり、もちろん人手も必要。SNSで養豚業の紹介をしているのも、人材確保につながればという思いからです。若い人たちが働きたいと思う職場環境の整備も不可欠ですね」

近年、日本の豚肉消費は右肩上がりに伸びているものの、国産の豚肉は約5割。加工品に使われる豚肉のほとんどは輸入品です。

「外交や安全保障を考えても、必要な食料を自国でまかなうのは大切なこと。私たちはこれからも効率的な生産体制の強化に取り組み、食料自給率の向上に貢献していきたいと考えています」

関連動画

十勝野ポークの社内BBQのようすをお届け!
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株式会社十勝野ポーク
株式会社十勝野ポーク
住所

<本社>〒089-1372 北海道河西郡中札内村元札内東1線414番地2
<CM農場>〒089-1372 北海道河西郡中札内村元札内東1線51-6
<GP農場>〒089-1373 北海道河西郡中札内村元更別東3線18

電話

0155-69-4129

URL

https://tokachinopork.com/

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「美味しくて、安い」十勝野ポークの養豚はクリエイティブー!?

この記事は2025年8月4日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。