全国各地にあるJA(農業協同組合)。同じJAという名前が付いても、その地域によって雰囲気や取り組んでいることに違いはあります。
今回は、北海道の東、酪農が盛んな別海町にある「JA道東あさひ」におじゃましました。2009年に4つのJAが集まって誕生したJA道東あさひは、全国のJAの中でも断トツの生乳生産量を誇ります。2位と大きく差をつけ、今もトップを守り続けています。
そんなJA道東あさひについて、人事を担当する田中孝明課長、下地研係長に話を伺ったほか、移住を機に今年JA道東あさひに就職した神田実潤(まひろ)さんにも話を伺いました。
牛柄の壁のミルクハウス、いきいきとした女性酪農家の顔を描いた看板
別海町の市街地にあるJA道東あさひ。すぐそばには、同JAが運営する別海の牛乳を使ったソフトクリームが食べられる「ミルクハウス」があります。
「最近、近くの別海高校の生徒さんが、壁を牛柄模様にリニューアルしてくれたんです。そして、横に設置した女性酪農家の顔が描いてある看板見ました?OVER ALLsの方が来て、描いてくれたんですよ!」と話すのは田中課長。
こちらが、JA道東あさひ 管理部人事課課長の田中孝明さん。
OVER ALLsは、壁画アートで知られるアートカンパニー。北海道ではエスコンフィールドの大谷翔平選手やダルビッシュ有選手の壁画でも知られています。
地元の酪農に興味を持ってもらいたい、魅力を知ってもらいたいという想いで、OVER ALLsに依頼しました。今年(2025年)の7月、OVER ALLsが別海を訪れ、ハツラツとした表情の女性酪農家の顔を数日掛けて描いてくれたそう。
田中課長は、「すごくインパクトがあるでしょ? 町内外の人たちから注目されるスポットになればいいなと思っています」と話します。
JA道東あさひの事務所の近くには、同JAが運営するソフトクリーム店「ミルクハウス」があります。壁には別海高校の生徒が描いた牛柄模様、その横には壁画アートで有名な「OVER ALLs」が描いた女性酪農家の看板が設置されています。
JAと聞くと、どこかしら硬くて保守的なイメージがありますが、ミルクハウスの看板や牛柄の壁の話をはじめ、SNSやホームページを拝見すると、積極的に新しいことにも取り組んでいる様子が伺えるほか、全体的に勢いがある感じも伝わってきます。
早速、JA道東あさひがどのような組織なのか、どのような取り組みを行っているかなど、田中課長と下地係長に伺っていきたいと思います。
4つのJAが合併して誕生。生乳の生産量日本一を誇るJA道東あさひ
「初めてお会いする方にJA道東あさひについて説明するとき、いつも『生乳生産量日本一のJAです』と伝えています」と下地係長。全国の生乳生産量のうち50%強を北海道で生産しており、さらにそのうち約10%がJA道東あさひで生産しているそう。
「今でこそ、日本一と言えますが、かつてはそうではなかった」と田中課長。もともと別海町は人口よりも乳牛の数のほうが多く、生乳の生産日本一の町として有名ですが、町の面積が広く(全国の市町村で9番目の広さ)、JA自体は町内に4つあったため、JAそれぞれの生産量だと日本一とは言えなかったそうです。
2009年に、別海町の3つのJA(JA上春別、JA西春別、JAべつかい)、そして隣接する根室市のJA根室の4つが合併し、JA道東あさひが誕生しました。
田中課長は、「合併をしたことで、町としてだけでなく、JAとしても日本一の生乳生産量を堂々とアピールできるようになりました」と話し、下地係長も「日本一と言えるのは大きな強みです」と続けます。勢いを感じるのは、この日本一という強みによるところが大きいのかもしれません。
合併の5年程前に入組した田中課長は、「4つの異なるJAが一緒になるわけですから、当然仕事の進め方の違いや意見の違いなどもありましたが、合併前から部門ごとに協議会を作って調整をし、少しずつ互いにその違いを認めながら、ひとつにまとまっていった感じがありますね」と振り返ります。
こちらが、JA道東あさひ 管理部人事課係長の下地研さん。
さらに、「生乳生産量が日本一になったという強みができたからこそ、組織としてひとつにまとまって同じ方を向いて頑張っていこうという感じになった気がします。今も、日本一であることをどんどん発信しようという雰囲気は強くありますね。また、新しいことにチャレンジしやすい風潮が生まれたのも、合併したときにそれぞれの違いを認め合えていたことがベースにあるからだと思います」と話します。
新しいことへのチャレンジは、大小さまざまあるそうですが、「4つが一緒になったからこそできていることの中には、大学との共同研究などもあります」と下地係長。
また、こんな珍しい話もあるんですよと教えてくれたのが、ゲーム制作会社への公式感謝状の贈呈。
「牧場物語」シリーズのマネージャー、中野さん。今年新規就農された組合員様から、「就農のきっかけはニンテンドーゲーム機でプレイした『牧場物語』で遊んだことでした」との話を伺い、JA道東あさひから任天堂株式会社様と、『牧場物語』制作の株式会社マーベラス様へ感謝状を送付したところ、お礼状を頂きました。
「牧場物語というゲームを小さいころからやっていたという若者が、リアルに酪農がやりたいと別海町へ移住し、念願叶って新規就農しました。現在は酪農家として日々、牛と向き合っています。そのゲームがあったからこそ別海に来てくれたということで、JAから感謝状を贈ったところ、制作会社が当時の公式ツイッターに感謝状を載せてくれたんです」と田中課長。
感謝状を贈ってしまうというユーモアのあることをできてしまうあたりも、前例のないことをする際に抵抗が少ないことのあらわれなのかもしれません。
インターンや職場体験を経て職員に。職場は風通しの良さが魅力
JA道東あさひは、いくつかの大きな部署に分かれます。営農部、金融共済部、購買部、生産部、そして田中課長や下地係長も所属する管理部となります。
仕事内容は違っていても、いずれの部署も、日本最大の酪農地帯であるこのエリアの酪農家、農家を支えるために事業を行っていることに変わりはありません。
「機械化が進み、規模が大きくなっている酪農家さんもいますが、まだまだ家族経営でやっている方もたくさんいらっしゃいます。酪農家さんあってのJAの仕事ですから、職員はそれぞれいかに酪農家さんたちが潤うためにはどうしたらいいのか、どうすれば役に立てるかを考えながら仕事にあたっています。そして、どの部署の仕事も根っこの部分では繋がっているんです」と田中課長。
JA道東あさひの職員は、酪農家を支えるために日々働いています。仕事内容は多岐にわたりますが、すべての部署の仕事は根っこの部分で繋がっており、お互いに協力し合いながら業務を進めています。
田中課長は、人事課に着任する前は金融共済部門に所属していました。これまでの経験から「どの部署の仕事も何かしら繋がっている」ということを実感してきたそう。一方、下地係長は以前、営農部門に在籍していました。
「酪農家さんたちの融資に関してやり取りする際の経営相談は営農部門と繋がりますし、エサの仕入れなどに関する購買部門とも繋がってきます。どの部署に行っても、すべては酪農家さんを支えるための仕事なんですよね」と話します。
現在、準職員やパートも含め、JA道東あさひの職員数は約350人。そのうち正職員は約200人います。平均年齢は30代後半で、近年は若手も増えているそう。
JA道東あさひでは、ミスマッチを防ぐために学生のインターンや中途採用の職場体験を積極的に受け入れています。近年は道外出身の職員も増えているため、遠方からでも安心して職場体験に参加できます。
その多くは地元出身者とのこと。下地係長も地元出身、進学で道外へ出ましたが、地元で働きたいとJA道東あさひに就職。一方、田中課長は道東エリア出身で、札幌の大学へ進学しましたが、都会で暮らしたくないと別海町へ来たそうです。
「ここ数年、新卒者は道外出身者も増加傾向にあります。北海道の大学に来て、北海道で働きたいからと、まずはインターンでうちに来て、気に入って正式に試験を受けてくれるというケースが増えています。今年の大卒の新卒者は6人全員が道外出身者なんですよ」と田中課長。
正職員には、総合職と家畜人工授精師という専門の職種があり、この人工授精師に関しては特に道外出身者が多いそう。ちなみに、総合職で入った正職員は、適性を見て配属先が決まるそうですが、「学んできたことや経験してきたことを活かして活躍できると思います」と下地係長。
部署間の壁がなくオープンなつくりになっています。部署間の風通しが良いだけでなく、若手職員からのアイデアも積極的に取り入れる風土があるため、職員全員が働きやすい環境です。
また、学生のインターンに関しては、ミスマッチを防ぐためにも必ず体験してもらうようにしているそうです。中途採用の場合も、面接前に職場体験が可能。
「田舎ということもあるので、とにかく一度来てもらって、町の様子や職場の雰囲気を見てもらった上で面接、試験を受けてもらうようにと考えています」と田中課長。
インターンの受け入れに関して、田中課長は「これもうちの強みであり、いいところだと思うのが、受け入れに関して各部署がとても協力的であるということ」と続けます。

「組織全体として、人を育てていかなければならないという意識が高いんですよね。風通しもいいですしね」
平成26年に建て替えた本所事務所に関しては、部署ごとの壁がなく全体がオープンになっていて、物理的にも壁がない分、より風通しがいいそうです。
横の風通しの良さはもちろん、縦の風通しも良いと分かるエピソードとして、「入社4年目の子のアイデアで、インターンで来た子用に『インターンをやっています』という柄の入ったつなぎを作ろうと動いています」と田中課長。
2014年に完成した別海町の本所事務所。吹き抜けになった開放的な空間で仕事をするこができます。JAバンクやJA共済が同じフロアにあり、地域住民にも親しまれています。
牧場で実習をしている際に、インターンだと分かるつなぎを着ていたら、周りの酪農家さんらも声をかけやすいだろうし、コミュニケーションがより取りやすいのではないかという視点からの発案だったそう。
「冒頭で話した壁画にしても、組織全体として若手の意見をきちんと聞き、いいアイデアは取り入れていこうという考えになってきていますね」と話します。
最後に、田中課長から見た別海町の良いところを尋ねると「都会にはない近所付き合いですかね...。それを嫌がる人もいますが、逆にそこに魅力を感じる人もいると思う」という回答が返ってきました。田中課長のお子さんが小さいとき、クリスマスの日に、隣の家の人がサンタクロースの恰好をして来てくれたことがあるそう。

「こんなことができるのは田舎ならではですよね」と笑います。
田中課長の趣味は家庭菜園ですが、「職員の中には釣りやバイク、温泉が好きという人も多く、そういう趣味を存分に楽しめる環境が身近にそろっているのも別海町の魅力かな」と話します。
「田舎にはいいところもあれば、悪いところもあると思います。それでも地域のことや酪農、乳製品に興味があって、周囲とコミュニケーションを取れる方であれば、最初は酪農のことを知らなくても仕事はできると思います。まずは一度体験やインターンに来てほしいですね」と締めくくってくれました。
野球部も転職の決め手に。今後は酪農家さんと信頼関係を築き、サポートしたい
次に、実際に職場体験を経て、JA道東あさひへの就職を決めた移住者の神田実潤(まひろ)さんにお話を伺いましょう。
神田さんは岩手県出身。今年、結婚を機に奥さんの実家がある別海町へ移住してきました。別海町に住むことになり、仕事を探していた際、「別海町といえば酪農で、人より牛が多いと聞いていたので、パッと思いついたのがJAでした。地域に暮らす人たちに貢献したいと思っていたので、酪農家さんたちのサポートができるJAの仕事はちょうどいいなと思いました」と神田さん。
こちらが、JA道東あさひ 営農部営農振興課の神田実潤さん。
「ちょうどホームページを見たら、職員の募集をしていたので応募しようと連絡したら、田中課長にまず職場体験をしてみては?と提案されたので、2日間体験させてもらった上で、あらためて面接を受けました」
職場体験に関しては、「面接する前に職場の雰囲気が分かって良かったです。話しやすい人が多くて、働きやすそうな環境だと思いました」と話します。
入組後、営農部に配属が決まり、現在は仕事を覚えている真っ最中だそう。
前職が保険会社だった神田さんは、酪農や農業の知識はゼロからのスタートでした。しかし、地域の酪農家の方々はオープンで話しやすい人が多く、楽しく仕事ができているようです。
「先輩に同行させてもらいながら、勉強の日々です。前職が保険会社だったので、まったく異業種からの転職。酪農や農業の知識もなくてゼロからのスタートですが、酪農家さんたちと話すのは楽しいです」
仕事で知り合う別海町の酪農家さんたちは、「皆さん、いい意味でオープン。堅苦しくなくて話しやすいし、フレンドリーなんですよね」とニッコリ。
神田さんがJA道東あさひへの転職を決めた理由のひとつに、実は「野球部」の存在もありました。小学生のころから野球を続け、高校は岩手の強豪校に所属し、札幌の大学へ進学してからも硬式野球を続けていた神田さん。JA道東あさひで働き始めてから、野球部にも入りました。
JA道東あさひへの転職を決めた理由のひとつに「野球部」の存在があったという神田さん。強いチームだと噂を聞き、入組後すぐに野球部へ入部したそうです。仕事後の練習で汗を流し、他部署の職員との交流を楽しんでいます。
「道内でも強いチームだと噂は聞いていました。転職が決まったら野球部に入ろうと思っていました。今は週に1~2回、仕事終わりの練習に参加しています。強いチームというだけあって、練習もそれなりにハードです(笑)。でも、野球部繋がりでほかの部署の人や違う支所の人たちとも交流できるのがまたいいですね」
これからのことを尋ねると、「仕事をはじめてまだ日が浅いので、まずはしっかり仕事内容を覚えながら、酪農家さんと信頼関係をしっかり築いていき、経営のサポートをしていきたいと思います」と語ってくれました。
- JA道東あさひ
 - 住所
北海道野付郡別海町別海緑町116番地9
 - 電話
0153-75-2201
 - URL
 
			














