別海(べつかい)町は、北海道の東部に位置し、根室半島と知床半島の中間地点にある人口約13,000人の町です。この町で、50年以上電気と消防設備工事を行う「株式会社 橋本電気商会」の取締役、薦田(こもだ)章二さんと、事務の金子佳乃さんにインタビュー。酪農が盛んな別海ならではの仰天電気工事のエピソードや、最近滋賀県から別海へUターンした金子さんから見た社内の雰囲気、さらにおふたりから見た橋本電気商会の未来などを伺います。
年齢も経歴も違うふたりが、橋本電気商会で働くまで
橋本電気商会で取締役を務める薦田さんは、別海町に隣接する中標津(なかしべつ)町の出身です。「中標津から別海までは車で30分くらいなんですよ。だから、別海で仕事を探す人も結構いるんです」と話す薦田さん。高校卒業後、札幌の大学に進学した薦田さんは、札幌で接客業に就職。26歳の頃、地元に戻り、仕事を探し始めます。
こちらが、株式会社橋本電気商会取締役の薦田章二さん
「中標津でいろいろ探したんですけど、なかなか見つからなくて。別海で仕事がないかと探していたときに、知人のつてで今の会社に就職しました。それからもう25年以上になります」
もともと事務系の知識を身に付けていた薦田さんは、橋本電気商会に事務職として入社。営業補佐としてお客さま先を訪問することもあるそうです。役所とのやり取りやお客さまへの説明、見積もり作成など、事務と営業の両方を担当してきました。
一方、2025年4月に入社したばかりの金子さんは、生まれも育ちも別海町。小学校から高校まで地元で過ごし、卒業後は札幌近郊の短大へ進学しました。
こちらが、事務を担当する金子佳乃さん
「高校時代から女子バスケットボール部のマネージャーを務め、大学でもマネージャーを続け、卒業後は神戸の実業団チームや滋賀県のプロバスケットボールチームでキャリアを積みました。結婚を機に地元に戻り、義父が橋本電気商会の社長ということもあり、事務職として入社し、お仕事を手伝うことになりました」
現在、金子さんは、請書や見積書の作成を担当しながら、薦田さんのサポート役として日々仕事を覚えているところです。

「もともと体を動かす仕事の方が得意で、座ってじっと作業するのは少し苦手でしたが、薦田さんをはじめ、皆さんが気さくに声をかけてくれるので、毎日楽しく仕事ができています」と笑顔を見せます。
「今はまだ覚えることばかりですが、少しずつできることが増えてきました。周りの方が本当に親切で、分からないこともすぐに教えてくださるので心強いです」
住宅から牛舎まで。地域の暮らしを支える橋本電気商会
橋本電気商会の主な事業は、住宅や工場、公共施設など、地域の建物に電気を通すための工事です。「建物の電気配線を使えるようにするための設備を作っています。消防法に基づく消防設備工事も行っていますよ」と薦田さん。
消防設備工事とは、消防法や建築基準法に基づき、施設にスプリンクラーや消火栓といった設備を設置する工事のことです。また、町の快適な暮らしを支えるための清掃や保守も大事な仕事。
さらに、酪農が盛んな別海町ならではの仕事もあります。それは、牛舎の電気工事やメンテナンスです。
「酪農って電気をたくさん使うので工事も結構多いんです。しかも、牛舎によっては牛をつながずに飼っているところもあるので、設備に突っ込んで壊れたり汚れたりするんですよ」
電気が止まれば施設全体に影響が出るため、迅速で的確な対応が求められます。病院や学校など、現場によっては夜間や土日にしか作業できないケースもあるとのこと。また、冬になると雪や吹雪で作業が止まってしまうこともあるため、屋外の工事は冬が来る前に終わらせてしまうことが多いといいます。
現在、橋本電気商会で働く社員は、電気工事士4人と事務職2人の合計6人です。スタッフの年齢層は幅広く、最年長は69歳、最年少は30代後半。経験豊富なベテランと、現場で力を発揮する中堅メンバーがバランス良くそろっています。
「新しく入社したスタッフには、先輩と一緒に現場を回ってやり方を覚えてもらいます。電気工事士として経験を積むと、現場代理人として、現場監督のようなポジションに就くようになります」と薦田さん。
現場スタッフの1日は、朝8時の出社から始まります。忙しい時期には、そのまま現場へ向かい、退勤までほとんど現場で過ごすことも多いそうです。「工事がない日は、皆さん、事務所で図面を確認しながら次の現場の準備をしています。顔を合わせられる日もあれば、忙しいと1日会えない日もあります」と金子さんも現場スタッフの忙しさを実感しています。
困ったときに相談できる。だから安心して働ける
お二人の話を聞いていると、社内のアットホームな雰囲気も伝わってきます。「昔からメンバーがあまり変わらないというのもあるかもしれないですね。みんなでご飯を食べたり飲みに行ったりというのはあまりないんですが...その分、自分の時間を取りやすい職場だと思います」と薦田さん。
そんな落ち着いた社内で、紅一点としてフレッシュな存在が金子さんです。

「皆さん、一見すると寡黙な職人さんという印象かもしれません。でも実際に接してみると、ユーモアがあって面白く、とても温かい方ばかりです」
金子さんが特に尊敬しているのは、社長です。
「社長は寡黙な職人さんという印象ですが、実際はとても優しくて温かい方です。人一倍動いて、誰よりも一生懸命に働かれています。その姿を見ていると、口数は少なくても背中で語るような頼もしさを感じますし、スタッフが困っているときにはさりげなくフォローしてくださります。技術力や仕事の速さはもちろんですが、人としても尊敬できる方だと日々感じています」
工事現場にも赴いて作業をする金子社長。現場のこと、事務所のこと、どちらにも気を配る優しい社長さんです
社内のスタッフに、助けられることも多いそう。
「入社してすぐの頃、パソコンの設定がうまくいかなくて困っていると、エンジニアみたいにすぐ直してくれる方がいてすごくありがたかったです。そのときに、みんなで助け合うのが当たり前な職場で素敵だなと思いました。ちょっと困ったことがあっても相談しやすいですし、各地のおすすめスポットを教えてくれることもあり、新しく入った人でもなじみやすいと思います」
福利厚生について聞いてみると、「急な休みが必要なときも、融通を利かせてくれています」と金子さん。「祖父母の通院の付き添いで休まなければならないときがあるのですが、柔軟に対応してもらっています。薦田さんも社長も優しいですし、相談しやすいです」
休暇制度もしっかり整っており、今年は例年のお盆休みに臨時休業を加えて、1週間の夏休みになりました。金子さんも「年間のスケジュールが最初にきちんと出るので、休みの予定を立てやすいんですよね」と話します。
また、現場で働くスタッフには、毎年作業服が支給されています。今年は特に暑さが厳しかったため、外で働くスタッフが快適に作業できるよう、涼しさを保つ空調服も導入されました。作業服の方は、今年からデザインを変更して、これまでは昔ながらの作業着のスタイルで重くて乾きにくいものが多か ったのですが細身でスタイリッシュ、洗濯してもすぐ乾き、着心地も抜群です。

未経験でもOK。ゼロから始めて、一生モノの技術を身につける
電気工事士と聞くと、「資格がないと働けないのでは」と思う人も多いかもしれません。しかし薦田さんは、「資格がなくても、資格を持っている人と一緒なら、その指導のもとで作業はできます」と話します。橋本電気商会では、資格を持っていない人でも、現場で経験を積みながら、少しずつ知識や技術を身につけていける環境が整っています。入社後に資格を取りたいという人には、会社のサポートも用意されているそうで、薦田さんからは...
「先輩と一緒に現場を回りながら資格取得をめざせます。現場での作業が一番の勉強になりますからね。試験の費用は会社が負担します」
金子さんも、「入社してからの方が資格を取りやすいのではないかなと思います」と話します。「現場で見たり手伝ったりしながら学べるので、理解もしやすいです。資格を取れば仕事の幅も広がりますし、長く役立つと思います」
薦田さんに、仕事のやりがいを聞いてみると、こう答えてくれました。

「人が少ない会社なので、社長の補佐をしながら会社全体を動かしているという実感があります。自分の動きで会社が回っていくところはやりがいがありますね」
一方、金子さんは、できることが少しずつ増えていくことに楽しさを感じていると話します。
「電気工事士の仕事は、私にとっては全く知らない世界でした。しかし知らないことを学んでいくのは面白いです。電気は日常生活になくてはならないものなので、その工事に関わる会社で働けることにやりがいを感じます」
しかし、仕事には苦労もつきものです。「入社してから何度か社長が変わったときは大変でした。会社の代表が変わると、こんなにあるのかというくらい、やらなければならない手続きがたくさんあるんです」と薦田さん。「マネジメント面でも、思い通りにいかないことはもちろんあります。そんなときは、休みの日に出かけてリフレッシュするようにしています」
新しい仲間と共に、これからも信頼される会社をめざしたい
これからの会社の方向性について尋ねると、薦田さんは静かに言葉を選びながら、こう話してくれました。「橋本電気商会は、地元の皆さんに必要とされている会社だと思っているので、その信頼をこれからも守り続けたいですね。今は人手が足りないので、もっと人を増やしたいという気持ちはあります」
金子さんも同じ思いを持っています。
「会社としても新しいステージに立っているところです。新しく入ってきてくれる人と一緒に、地元に根付いたこの会社を、これからも長く続けていけたらと思います」
これからも別海に住み続けたいと話す薦田さんに、町の魅力について聞いてみました。

「この辺りには温泉が多いんですよ。私も、休みの日にはよく温泉巡りをします。食べ物は本当にどこで食べてもおいしいです。ホタテやエビなどは有名ですが、やっぱり乳製品がおすすめですね」
金子さんも、別海の話になると笑顔が増し、こう話してくれました。
「私は海鮮が大好きなので、地元でおいしい魚介を食べられるのは本当に幸せです。カフェやパンケーキのお店もあり、別海のソフトクリームは本当においしいです。」
結婚後、夫の趣味の釣りを一緒に始め海でアキアジを釣り、いくら漬けを作ったり鮭フレークを作ったりしているという金子さん。お店の味にはかないませんが、自分で釣った魚を食べるのはまた別なおいしさを感じると話します。
「夏はキャンプや果物狩りなどを楽しみ、北海道らしく休日は車庫でBBQをすることもあります。冬は阿寒まで足を伸ばしてスノーボードを楽しむなど、休日はとても充実しています。」
別海町には食品スーパーやドラックストアがあるので、日常生活に困ることもありません。隣町の中標津町には外食チェーンやホームセンターもあります。高速道路や空港も整備されているため、札幌市など都市部へのアクセスもスムーズです。

最後に、長く会社を見続けてきた薦田さんは、新たに加わってほしい仲間について、こんな思いを語ります。
「働くことに生きがいを感じて、一生懸命頑張ってくれる人に来てほしいですね。今は工具も進化していますし、体力的にきつい仕事ではなくなってきています。近隣では女性の職人さんも活躍していますから、女性も大歓迎です」
会社のこれからを担う若いスタッフとして、金子さんもこう続けます。
「私も未経験の職種・業界でしたが、新しいことを学びながら楽しく仕事をしています。日常生活には欠かせないやりがいを感じられる仕事なので、ぜひ多くの方に知ってもらいたいです」
未経験の分野に足を踏み入れるのは勇気のいることです。新しいことにチャレンジしたいと思いながら、チャンスに恵まれないという人もいるかもしれません。そんな人は、橋本電気商会のアットホームな雰囲気の中で、新たなキャリアを築いてみてはいかがでしょうか。
















