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まちおこしレポート
羅臼町

町が好きだから。町のために働くことができる公務員という選択20250731

町が好きだから。町のために働くことができる公務員という選択

北海道・知床半島東側にあり、雄大な知床連山とオホーツク海に囲まれる人口約4,400人の羅臼(らうす)町。

羅臼が好きだから、町のために、町の人のためにできることをしたい。そう思ったときに選んだ仕事が役場の職員だったという2人に今回はお話を伺いました。ひとりは道外の出身、もうひとりは生まれも育ちも地元と、それぞれバックグラウンドや公務員になった経緯は異なりますが、羅臼を思う気持ちは同じ。2人に羅臼という町の魅力も含めて、仕事や暮らしのことについて語ってもらいました。

シャチ好きが高じて、羅臼町へ。町に恩返ししたいと役場職員に応募

まずは、移住して3年目を迎えた石本有紀さんに登場していただきます。石本さんは兵庫県の神戸出身。子どもの頃、和歌山の水族館で見たシャチに魅せられて以来、シャチが大好きに。そのシャチ好きが高じて、海に興味関心を持つようになりました。

rausuchoyakuba03.jpg神戸から移住して羅臼町役場に勤務する石本有紀さん

「シャチが本当に大好きで、その流れで北海道大学の水産学部へ進学しました。実際、大学で研究していたのはシャチではなく、アメフラシだったんですが(笑)」

大学時代、羅臼町で野生のシャチを見ることができると知り、町を訪れるようになりました。

「シャチの魅力は、その大きさ、完成されたフォルム、そして狩りがうまいところでしょうか。ただ、実際、狩りをしているところを生ではまだ見たことがないので、いつか見たいと思っています」

シャチの話をしているときの石本さんは目がキラキラし、体も前のめり気味。本当にシャチが好きだというのがよく伝わってきます。

大学を卒業後、地元へ戻り、学習塾の受付の仕事に就きます。就職してからもシャチへの思いは変わらず、毎年ゴールデンウィークには羅臼町を訪れていました。

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「冬のボーナスはすべて羅臼を訪れるために使うようにしていました。結構仕事がきつかったこともあり、羅臼に来ることが私の中で働くモチベーションになっていたんです。羅臼でシャチを見て、エネルギーをいっぱいもらって、また1年頑張ろうという感じでした」

7年働き、30歳を迎えるタイミングで会社を退職した石本さん。北海道でまた暮らしてみたいと思っていたこともあり、ひとまず大学時代を過ごした札幌へ。

「少しのんびりしようかなと思って札幌へ移り、時間もあるし、せっかくなのでシャチを見ようと羅臼町を訪れました。羅臼のことをいろいろ調べていたら、たまたま役場で職員を募集していると知って、思い切って応募しました」

ここで、隣で話を聞いていた役場の企画財政課の遠嶋係長が、「シャチ好きな人は、だいたいシャチが見られる観光船の仕事に就きたいって言うんです。実際観光船に乗っているスタッフは、シャチ好きな町外の人が多いし。だから、石本さんは珍しくて、僕たちも彼女から応募があったとき『なんで、役場?』ってなったんです」と笑います。

rausuchoyakuba05.jpg羅臼町役場企画財政課の遠嶋伸宏さん。移住・定住の窓口も担当しています

すると石本さんは、「向こうで働いていたとき、羅臼町に訪れることが私の中で日々の支えになっていました。だから、役場に勤めれば、お世話になった羅臼町に恩返しできるんじゃないかと思って...」と照れ臭そうに話します。

やりがいを感じられる職場環境。人にも恵まれ、充実した暮らしを送る日々

無事、役場勤務が決まった石本さん。現在は、教育委員会の学務課に在籍し、町内の学校教育に関連する業務に携わっています。おもに、学校支援員やALTに関する給与関連を担当。そのほか、学校行事などの際に使うバスの手配なども行っています。

「仕事の内容的には前職より難しいこともいろいろあります。調整ごとも多いですし、給与関連の計算などは大事なことなので緊張もします。でも、今のほうがやりがいもあるし、地域へ貢献している実感もあります。毎日充実していますね」

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勤務しているのが全体で100人ほどという羅臼町の役場。部署に関係なく、いろいろな人から仕事のこと、町のことを教えてもらっていると言います。

「優しい人、温かい人が多く、職場ではいい人間関係が築けていると感じています。神社のお祭りのお手伝いやイベントに誘ってもらうことも多く、先日は同じ振興局内の自治体で行うパークゴルフ大会に参加してきました。上位に食い込んだので、終わったあとはみんなでお祝いのご飯を食べに行って豪遊しました」

一方、こぢんまりとした役場だからこそとも言えますが、決まった業務のほか、それぞれが得意なことを生かして活躍できるシーンもあるそう。石本さんも高校時代に放送部にいたという経験を生かし、町の動画のナレーションを担当。「お恥ずかしいのですが...」と謙遜しますが、ここでも町の役に立っていると実感できているようです。

町での暮らしに関しても、不便は感じていないと話します。都会のように、珍しい食材がすぐ手に入るわけではありませんが、日常生活に必要なものはほぼ揃うので不自由はないそう。

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「関西にいたときは人が多くて歩くのにも気を使っていましたが、こちらにいたらそんなことは一切考えなくていいし、夏は暑くなくて快適です。冬場は年に1、2回、ドカ雪が降って驚きますけど、苦になるほどではないし、雪かきも近所の方が手伝ってくれるので...」

市街地に暮らしている石本さんはご近所さんとの関係も良好。「皆さん常に気にかけてくれて、会うたびに声をかけてくれます。休みに家にこもっていると、『どこも行かなかったの?』と次の日に聞かれることもあって、ちょっと恥ずかしいですけど...」と苦笑しますが、こうしたやり取りも都会では経験できないことです。

遠嶋係長が、「羅臼はもともと移住者が多い町。魚がとれると聞いて、あちこちからたくさんの人がやってきたという歴史があるので、町の人の気質も移住してきた人に対してオープンなんですよね」と話します。移住者が自然と町の人たちと仲良くできてしまう風土があるようです。

石本さんのシャチ愛は移住してきた今も変わらず、沖でシャチを見ることができる春から夏は、休みのたびに海へ出かけます。カメラを携え、船に乗るうちに、観光船の人とも顔見知りになり、一度、「今日、シャチ出ているよ!」と連絡が来たこともあったそう。「行きます!と、着の身着のままで飛び出しました」と笑います。

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「もう、関西へは戻れないですね」と話す石本さん。最後に羅臼町の魅力を尋ねると、「食べ物がおいしい。こっちのホッケのおいしさを知ってしまったら、向こうの居酒屋で注文できないです(笑)。あとは、天気がよければシャチも見放題だし、やはり何より自然でしょうか。世界自然遺産に選ばれているだけあって、訪れる価値はあると思います。そして、町の人も魅力のひとつ。元気があって、歓迎ムードなのも羅臼らしいのかなと思います」と話してくれました。

高校の授業「知床学」で知った自然の素晴らしさ。あらためて町が好きに

さて、次にお話を伺うのは生まれも育ちも羅臼町という敦賀聖也さんです。現在21歳の敦賀さんは地元の羅臼高校を卒業後、役場に就職。産業振興課でふるさと納税の担当をしており、事業者と一緒に返礼品作りを進めたり、特産品のPRに努めたり、食に関する取り組みなども行っています。

rausuchoyakuba10.jpg羅臼町役場産業創生課の敦賀聖也さん

役場に就職したのは、「この町が好きだから」と話す敦賀さん。「好きだからこそ、この町のために何かできることはないかなと思っていました。それで、役場なら町のために働けると思ったので就職を決めました」と続けます。

実家は町内でコンビニエンスストアを経営。ご両親は公務員になることについて、特に何も言わなかったそうです。

同年代の8割近くが進学や就職で町外へ出ていってしまいます。「どうしても羅臼だと叶えられない夢もあるし、町外へ出ることは仕方がないと思っています」と敦賀さん。「でも、やっぱり羅臼がいいと言って戻ってくる人も結構いるんです。それは、町が嫌いで出て行く人が少ないからじゃないかなと思います」と話します。

敦賀さんが「この町が好き」と言い切れるようになったのは、高校生になってからでした。2歳のときに世界自然遺産に選ばれますが、あまりにも身近過ぎて、むしろ中学まではその自然に触れるような機会もほとんどありませんでした。

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「高校で知床学という授業があり、そのときにあらためて知床の自然はスゴイと思いました。知床学では、知床の歴史や地学、文化などあらゆることを学ぶのですが、羅臼湖にトレッキングに行くなど、実際に自然の中に身を置くことも経験。市街地から近いところにある熊越の滝に行ったとき、そこの空気がおいしくて、五感で気持ち良さを感じ、自然の良さというものを初めて知りました。自分はゲームが好きなので、もちろん都会にあるエンタメ施設なども楽しいんですけど、羅臼には羅臼の良さがあり、羅臼にしかないものもあると気付いたのが高校生のときでした」

それから、自然を含め羅臼町の良さに目を向けるようになり、町のために役場で働きたいと思うようになったそう。

移住者にオープンで、子育てもしやすい町。役場の雰囲気もアットホーム

今年の2月に秋田出身の奥さまと結婚した敦賀さん。「妻を初めて羅臼に連れてきたとき、鳥好きなので鳥もいっぱいいるからイイね、自然の眺めもキレイだねと凄く気に入ってくれて...」と話します。

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「羅臼はもともと移住者も結構いるし、妻のようにほかの土地から来ても溶け込みやすい町だと思います。若者が少ないから、外から来た若い人たちが頑張ってくれているのをありがたいと考えている町民が多いのです。だから、移住者に対して前向きだし、ウェルカムな感じで受け入れてくれるんだと思います。また、移住してきた方たちはタフな印象の人が多く、彼らも町に溶け込もうと積極的にイベントなどに参加してくれるので、これもプラスに働いていると思います」

さらに、人の距離が近い分、子育てもしやすい環境だと敦賀さん。

「町に子どもがいることがどれだけ大切なことか、子宝の重要性を分かっているから、町の人たちは子育てをする人に対して優しい。みんなで支え合って子育てしていこうという空気感が当たり前にあります」

自身も子どもの頃、ご近所さんや周りの人たちにたくさん遊んでもらったと振り返り、「都会と違って、お互いに顔も素性も分かっているから、子どもたちも安心して大人たちと関われると思います。もちろん、叱られることもありますけどね」と続けます。ちなみに30人ほどいる高校の同級生のほとんどが、幼稚園、あるいはその前の赤ちゃんのときからずっと一緒。「親も子供同士もみんな知り合いで、親戚みたいなものだから、安心といえば安心ですよね。都会にはない良さのひとつだと思います」と話します。

仕事のやりがいについて尋ねると、「普通、公務員の仕事でモノを売ることや商品を開発して値付けをするようなことはしないのですが、ふるさと納税関連の仕事は寄付額に関して業者の方たちと調整し、一緒に商品開発を行うことも多く、面白いですね。地域の経済に大きく関われる仕事なので、最終的に町の活性化に繋げていきたいと考えています。地域の経済の循環に携わっているという実感があり、やりがいを感じています!」と力強く語ります。

鮭をはじめ、ジビエや熊笹など、町の特産品を使った商品開発などにも取り組んでいるそう。PR用の配布物やパッケージデザインなどを考える機会もあり、広告の運用なども担当。「皆さんが考える一般的な公務員のイメージとは少し違う仕事内容かもしれないですね」と続けます。

「役場には、福祉や保健、教育、インフラ、観光など、さまざまな部署があり、仕事の幅も多様です。でも、どの部署でも面白さややりがいというのは見つけやすいと自分は思っています。基本的にすべては町のため、町の人のためなので。そして、羅臼町役場は、和気あいあいとした雰囲気で、人間関係もめちゃくちゃいいんです」

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就職するまでは、役場=お堅いところで、真面目でツンっとした人が多いと思い込んでいたと笑いますが、「実際はそんなことなくて、服装も自由だし、本当にざっくばらんにいろいろなことが話せる雰囲気。堅苦しさは一切なしで仕事ができる環境です」と話します。

まちづくりや施設の活用法などの大きなプロジェクトがあれば、部署を横断し、連携して行うそうですが、この規模の役場だからやりやすいと思うと敦賀さん。

「人と人との繋がりが、いい仕事を生み出していくと考えているので、そういう意味ではすごくいい職場だと思います。自然とみんなが協力し合おうという空気感ができているのもここのいいところ」

これから挑戦したいことを尋ねると、「神社祭の手伝いなど、もっと町のイベントに参加したいです。参加してみたらとても楽しかったので。町の行事に参加することで、そこでまた人と人との絆も生まれると思うし、それをベースに地域に根差した取り組みを役場の人間としてやっていけたらと考えています」とニッコリ。週末になると、奥さまと一緒に近隣町村にドライブがてらプチ旅行を楽しんでいるそうで、オンもオフも充実しているのがよく伝わってきました。

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羅臼町役場
羅臼町役場
住所

北海道目梨郡羅臼町栄町100番地83

電話

0153-87-2111

URL

https://www.rausu-town.jp/

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町が好きだから。町のために働くことができる公務員という選択

この記事は2025年7月3日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。