
北海道の内陸部に位置する芦別市。炭鉱のまちとして栄え、今は「星の降る里 あしべつ」というキャッチコピーにある通り、星が美しく見えるまちとして知られ、環境省による「星空の街・あおぞらの街」の全国協議会にも加入しています。星がキレイに見えるというのは、周辺が山に囲まれ、人口密度が低く、自然が豊かで空気が澄んでいるから。
今回は、そんな芦別市で活動している地域おこし協力隊の2人にお話を伺いました。ジャンルは異なりますがそれぞれに夢を持ち、それを叶えるために日々チャレンジを続けている2人。協力隊としてこんなスタイルの活動の仕方もあるのだなと参考になるのではないでしょうか。
漫画家になりたい!フリーミッション型で、移住の希望も自分の夢も叶える
まず、最初に登場していただくのは、昨年6月からフリーミッション型の地域おこし協力隊として芦別に移り住んだ竹下みな実さんです。漫画家志望で、イラストレーターとしても活動しています。
「出身は福岡県の北九州市です。8歳から11歳まで父の転勤で帯広に住んだことがあり、そのときの北海道の印象がとても良くて、10年くらい前から母と北海道に移住したいねと話していました」
漫画家志望でイラストレーターとしても活動している竹下みな実さん。北海道への移住を願ってから約10年、福岡県で開催された移住フェアで芦別市のフリーミッション型協力隊というスタイルに魅力を感じ、移住を決意しました。
北九州で派遣社員として働きながら、副業でイラストを描き続けていた竹下さん。北海道へ移住したいという気持ちを抱えながらも、なかなか踏み出すきっかけがないまま10年近くが経ったころ、福岡県で開催された北海道移住フェアに参加しました。
「ちょうど芦別のブースにいらしていた先輩協力隊の岩崎佳奈美さんという方が、フリーミッション型でイラストレーターをされていると話を聞き、このスタイルなら私も漫画家として芦別のフリーミッション型でいけるかもしれないと思いました」
さらに、このとき岩崎さんから聞いた芦別のまちの話も竹下さんには魅力的に感じたそうです。
地域おこし協力隊を卒隊して、「Moi Hub&Cafe」をオープンさせた佐野さん(写真左)と談笑する竹下さん。
「岩崎さんが、芦別はいい人が多いとおっしゃっていたんです。そして、まち全体がのんびりとしていて、そんな雰囲気もとてもいいと。さらに、星がキレイだという話も自分としてはとても魅力的に感じ、直感的に芦別にしようと思いました」
雪の多さだけが多少不安だったそうですが、「なんとかなるだろう」という気持ちで芦別の地域おこし協力隊に応募。無事、希望していたフリーミッション型での採用となります。
竹下さんが協力隊として行っているのは、自身が描いた漫画を通じて芦別の良さや魅力、移住に関する情報をSNSなどで発信するという活動。また、芦別の美しい星空から着想を得たファンタジー漫画を現在描いている最中なのだそう。完成次第、道の駅に置く予定とのこと。

星が美しいまちにちなんだファンタジー漫画を制作中。人生史上最高に幸せ!
今年の春から竹下さんのお母さんも芦別へ移住することが決まり、そのタイミングでアパートから一軒家に引っ越しをすることに。ところが引っ越し当日、大雪が降ったため、車が雪山に突っ込んでしまうというアクシデントや、除雪道具がなくて家に入れないかも...という事態に見舞われます。
「除雪用のママさんダンプがなくて、どうしようと立ち尽くしていたら、ご近所さんが『使っていいよ』と貸してくださり、協力隊の伊藤さん(次に登場します)らも除雪を手伝ってくれて、なんとか無事引っ越しを終えることができました」
そのあと、北九州からお母さんと愛犬2匹が一緒に芦別へ。ママさんダンプを貸してくれた近所の方をはじめ、周りの方たちがとてもよくしてくれるそうで、野菜やメロンのおすそ分けなどをいただくことも多いとか。
芦別市での暮らしを始めて1年、人間関係もでき、好きな漫画やイラストに没頭できる今の生活が「人生史上最高に幸せ」と語る竹下さん。
「もっと閉鎖的かと思っていたのですが、そんなことはなくて、話しかけたら皆さんオープンに接してくださって、ちょうどいい距離感でお付き合いできていると感じています。母も芦別での暮らしを楽しんでいて、ご近所さんたちがみんな優しくて、きちんと挨拶してくれると喜んでいます。私自身は、もともと人見知りなのですが、芦別で暮らしはじめて1年経ち、人間関係もできて、好きな漫画やイラストに没頭でき、人生史上最高に幸せです!」
竹下さんがそう話す理由のひとつに、地域おこし協力隊を卒業して定住した先輩たちの存在があります。芦別へ来るきっかけとなったイラストレーターの岩崎さんのほか、市内でカフェを開いている佐野貴美恵さんとも親しくしているそう。
特に佐野さんは、「芦別のお母さんみたいな存在です」と竹下さん。家の中にこもって漫画やイラストを描くことが多い竹下さんを外に連れ出し、芦別のまちを案内し、お祭りやイベントにも誘ってくれるそう。「佐野さんのご飯もおいしいんですよ」と話します。
竹下さんが病院の食堂を取材して描いた漫画のひとコマ。
芦別での暮らしを漫画に描いてSNSで発信している竹下さんですが、依頼があれば取材に赴き、それを漫画にして発表もしています。取材陣が見せてもらったのは、病院の食堂に取材に行ったときのひとコマ。竹下さんの優しい人柄とかわいらしさが漫画から伝わってきます。
また、現在制作中の芦別を舞台にしたファンタジー漫画の制作のため、星の降る里百年記念館で学芸員の方からまちの歴史を聞いたり、昔の郷土史を読んだりもしているそう。
「タイトルは『願い星が降った里』と決めていて、3巻出せるようにと制作を頑張っているところです」
地域おこし協力隊を卒業まであと1年半近くありますが、卒隊後も芦別での定住を考えている竹下さんは、「先輩協力隊の方たちから3年はあっという間だから、早めに卒隊後のことも見据えて動いたほうがいいとアドバイスをもらっているので、先月もクリエイターEXPOに参加するなど、イラストや漫画でやっていけるように準備をしています」と話します。
「目標は漫画で生計が立てていけるよう、商業デビューを狙ってやっていきたいと思います!」と最後に力強く語ってくれました。
憧れの北海道で第二の人生を。芦別へ移住し起業に挑戦。
さて、もう1人の地域おこし協力隊は昨年末に着任した伊藤貴之さんです。伊藤さんも竹下さんと同じくフリーミッション型。現在は、移住定住に関するお手伝いをしながら、SNSで地元のスーパーや病院情報などをアップし、芦別のリアルな生活を紹介しています。
伊藤さんは現在50代。大学時代から宮城県仙台市に暮らし、仙台では大手不動産会社に勤務していました。いずれ不動産関連の事業で起業できればいいなと考えていた伊藤さんは、子育てがひと段落する時期にセミリタイヤ。
「夏の暑さが年々厳しさを増していることを受け、より快適な気候のもとで働きたいという想いが強くなりました。そこで、豊かな自然に恵まれた北海道を、起業の舞台として選ぶことにしました」
起業を目指して芦別市に移住した地域おこし協力隊の伊藤貴之さん。
移住していきなり起業するより、まずは地域おこし協力隊で地域になじんでから起業できればいいなと、芦別市以外の市町村の移住情報もサイトや動画などでチェックしていたという伊藤さん。
芦別の地域おこし協力隊の活動報告をYouTubeで見た際、最後にアンケートに答えなければならず、そのセキュリティの厳しさに「協力隊を大事にしているまち」という印象を持ったと話します。
「ほかにも市議の方たちや市の方たちが協力隊をどう考えているのかを知りたくて、あらゆるものをチェックしました。そのうえで、のんびりと自分のペースでやれそうだなと考えて、芦別の協力隊に応募しました」
芦別市役所の建物。伊藤さんはここで移住定住に関する業務を行っています。
宅地建物取引士の経験を生かし、移住促進関連でも活躍。資格取得のための勉強も
採用が決まり、あえて雪のシーズンに来道。「当初、不動産関連での起業を視野にいれていたので、冬の状態を知っておきたくて」とその理由を話します。
今は、アパートに単身で暮らし、「25年ぶりの独り暮らし。妻のありがたみをしみじみ感じています」と笑います。
宅地建物取引士として活躍していた伊藤さん、着任後は移住フェアに芦別市のスタッフとして参加してお手伝いもしています。ブースを訪れた人たちには、移住定住に関する制度などの紹介のほか、不動産業界出身者ならではの視点で、家賃や光熱費の話など、よりリアルな芦別の暮らしについて説明をするそう。
芦別市の地域おこし協力隊として辞令を受け取る伊藤さん。
「移住フェアには、ほかにもたくさんの自治体が出展しています。その中から芦別を選んでもらうにはどうすればいいかを考えると、やはりどれだけの移住情報を提供できるかだと思うんです。そのための情報収集を日々徹底して行うようにしています。何を尋ねられてもすぐに答えられるように細かなことも準備をしておくというのは、宅地建物取引士の経験が生きていると思いますね」
また、現在は移住を検討している人たちがお試し暮らしできる「お試し住宅」の準備も手伝っているそう。
「芦別に来てから初めてSNSをやり始めました。役場の若い方が丁寧に教えてくださって、慣れないなりに今は一生懸命情報発信をさせてもらっています。また、青年会議所のイベントに出席したり、地元の建築業者さんや商工会にあいさつ回りをしたり、芦別のまちの情報を収集しながら、どのような形で起業するのがいいのか探っているところです」
「星の降る里」として知られる芦別市の美しい夜空。
芦別に限ったことではありませんが、市民の高齢化とともに、空き家も増えているのが現状。すでに宅建の資格を持っている伊藤さん、芦別で仕事をしていく上で役立つであろう空き家再生診断士、相続診断士、古物商といった資格取得に向けた勉強も行っています。
「お試し住宅の準備に関わらせてもらって、空き家を活用した民泊運営などもありかなと思っています。着任してまだ半年ちょっとなので、もっと芦別のことを知った上で、宅地建物取引士の経験を活かし、移住につながることでコンサル的なことをやっていけたらと考えています」
竹下さんが描いた似顔絵付きの伊藤さんの名刺には、「うつりすまう星の降る里」という文字があります。まだまだ手探りなところはあるということですが、卒隊後に芦別に根を張って起業するという目標に向け、「この名前で法人化したいと考えています」と最後に笑顔で教えてくれました。
芦別市の地域おこし協力隊員たち。左から竹下みな実さん、伊藤貴之さん、芦別市役所企画政策課移住定住推進係の松本千春さんと清水大夢さん。
- 芦別市 総務部 企画政策課 移住定住推進係
- 住所
北海道芦別市北1条東1丁目3番地
- 電話
0124-27-7358
- URL
★現役、地域おこし協力隊員の活動情報★
◎竹下 みな実 隊員<フリーミッション部門>
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◎中泉 裕貴 隊員<陶芸センター指導員>
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◎伊藤 貴之 隊員<フリーミッション部門>
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★地域おこし協力隊を卒隊した方の活動情報★
◎岩崎 佳奈美さん<イラストレーター>
デジタルデザイン・イラスト ぽっけ
◎佐野 貴美恵さん<Moi Hub&Cafe>
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