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まちおこしレポート
天塩町

歴史・静けさ・生態系。天塩町の協力隊が感じた、贅沢な暮らし20251221

歴史・静けさ・生態系。天塩町の協力隊が感じた、贅沢な暮らし

旭川市から北へ約100㎞。道北天塩町は人口約2,600人の、酪農と漁業を基幹産業とする沿岸の町。なんと人口の約3倍の牛がいるのだとか...!公式マスコットキャラクター「てしお仮面」は、天塩名物の黒い宝石・しじみをモチーフにしたキュートなヒーローです。豊かな天塩川の流れや利尻礼文サロベツ国立公園など、ここに息づく多彩な生態系は国内屈指。1日の終わりを締めくくる夕日と利尻富士は、訪れた人の記憶に残る絶景です。今回はここ天塩町の歴代地域おこし協力隊3名に、天塩町の魅力と暮らしについてお話を伺いました。

中学生からの夢を叶え念願の学芸員に!

最初にお話を伺ったのは、24歳で東京から天塩町に移住した、着任してまだ8カ月の現役地域おこし協力隊員の前川康生さん。前職は飲食関係だったそうですが、天塩町を選んだきっかけは何だったのでしょうか?

「実は中学生の頃からの夢があって、それが学芸員になることだったんです。大学で学芸員になるための単位を履修し資格もとりました」

学芸員!中学生の頃から!何て具体的な将来像...。

2025_FUJI2447.jpgこちらが、学芸員として活動する現役協力隊の前川康生さん。

「日本の近現代史に興味があって、将来は学芸員として働きたいと思っていたんですが、現実はそううまくいかず卒業後は飲食系の企業に就職したんです。でも夢をあきらめたわけではなくて、働きながら学芸員の募集枠をずっと探していました」

インターネットで情報収集を続けていたある日、運命的な出会いが。当時天塩町が募集していた「天塩川歴史資料館」の運営を行う地域おこし協力隊です。前職に未練があったわけではないとうこともあり、すぐに応募した前川さん。オンラインでの相談や打ち合わせを経て、聞けば着任まで天塩には一度も訪れずに移住を決めたそうです。

「東京で働いてはいましたが地元が岩手県の釜石で、どちらかというといわゆる田舎暮らしの方が慣れているんです。なのでその辺りの生活の変化に対する不安はありませんでした」

こうして長年の夢を叶え、学芸員としての一歩を踏み出した前川さん。学芸員の協力隊として業務範囲は非常に多岐にわたり、資料館の魅力化による利用の増進に関することや、高校での地学協働の支援に関わっているのだとか。

天塩川歴史資料館.JPG前川さんが勤務する、天塩川歴史資料館。

「私が来るまでは36年間学芸員がいなかったんです。資料館は4月20日~10月31日までの営業で、現在は冬季閉館中なのですが、ここまでの8カ月間は天塩川をはじめ地域の歴史や周辺のまちとの関係、今につながっていることなど学びの量がとても多かったです」

冬季閉館だからと言って学芸員の仕事がなくなるわけではなく、来季の開館に向けた企画の準備や資料整理など業務は盛りだくさん。

「閉館中を大事なインプット期間と考えて、知識をより高めようと思っています。例えば日本の近現代史において樺太からの引揚者は、一般的に稚内市・留萌市・函館市に入ったと言われているのですが、ここ天塩町にも入っていた記録があったり、調べれば調べるほど新たな疑問や発見があって楽しいです」

一人で深める学びだけでなく、全道の学芸員が集まる研究会にも参加し知見を伸ばしているそうで、直近では苫小牧市の博物館で開催されたのだとか。こうした日々の努力のかいもあり、地元の人に資料館の展示を解説した際、「地元の人間より天塩町のことを知っているね」と言ってもらえたと、嬉しそうに話してくれました。

ところで「学芸員」や「資料館」という前情報によって、なんとなく大人しい印象を受けがちな前川さんですが、プロレスを見るために札幌へ遠征する熱い一面も。ちなみに推しはレインメーカーでおなじみのオカダ・カズチカ選手。また、見るだけでなく体を動かすのもお好きだそうで、元野球少年だった経験を活かし天塩町の野球チーム「天塩豪球会」にも所属。試合にも参加したのだとか。

「何度か同じチームに負けていて悔しいのですが、次こそは...。でも豪球会のメンバーと出合えたおかげで、天塩での生活が格段に楽しくなりました。本当にいつも助けていただいています。入った当初、5年ぶりの野球で肉離れになりましたが(笑)」

さて、移住して8カ月、暮らしてみて不便に思ったことについては特にないそうですが、趣味のプロレス観戦で札幌に行くのに少し時間がかかるのが今の悩み。

「あと強いて挙げれば、ワラジムシの多さにはびっくりしました(笑)。地元の方から多いよとは聞いていたのですが、本当に多かったです。でもカメムシに比べれば全然無害ですから」

天塩町街中風景.jpg天塩町の町並み。

任期はまだまだ先が長いですが、すでに任期後も天塩に住み続けたいと思っているそうです。先々を見据える前川さんには、任期中に成し遂げたいことがあります。それは、現在年間の利用者数1500名を2000名まで増やすこと。

「そのためには展示の魅力アップや私自身のスキルアップはもちろんですが、より多くの人に、天塩川歴史資料館を知っていただくための広報活動にも力を入れたいと思っています」

次のグリーンシーズンは、天塩町は「第二の故郷」だという前川さんの展示解説を聞きに、天塩川歴史資料館に行ってみましょう。

DSC_6269.JPG資料館を案内する前川さん。来場者が増えるように、いろんな施策をうっています。

グローバルな視点とローカルな鍼灸

続いてご登場いただくのは、2025年3月に地域おこし協力隊を卒業し、天塩町に定住を決めた、鍼灸師の国家資格を持つ三國秀美さん。札幌市出身の三國さんは、東京で鍼灸院を開業。その後日本人鍼灸師として初めて就労ビザが下り、中国天津市のホテルでも勤務したというなんともグローバルな経歴の持ち主なのです。

「中国のホテルに勤務しているころはかなり待遇も良かったのですが、新型コロナの流行のため日本に戻らなくてはいけなくなりました。鍼灸の仕事は、患者一人ひとりと向き合う仕事。せっかくなら今度は都会ではなく地方に住む方々とお話ししながら鍼灸師として成長していけたらと思っていました。そんな時に見つけたのが、天塩町の協力隊募集だったんです」

2025_FUJI2411.jpgこちらが、2025年3月に地域おこし協力隊を卒業し、天塩町に定住を決めた、鍼灸師の国家資格を持つ三國秀美さん。

当時天塩町が募集していたのは「グローカル」な人材。グローカルとはグローバルとローカルを掛け合わせた造語であり、グローカルな人材とは国際的な視点で地域のことを考えられる人のこと。おお、なんということでしょう、まさに三國さんにぴったりではありませんか。今も気晴らしと勉強を兼ねて友人と中国に遊びに行くことがあるという三國さん。

「以前住んでた部屋にまだ金の鍼が置いてあるはずなんですが...、もう撤去されちゃったかも。いつか取り戻したいですね」

こうしてグローカルな鍼灸師として天塩町に着任した三國さん。当時、天塩町の病院には外科医の先生が一人のみだったそうです。

「専門医療以外の、目には見えない部分のケアが必要だと感じました。私の知識や施術を通じて力になれる部分はありそうだなと」

宗谷岬パリの女子高生と.JPGパリの女子高生たちと旅行を楽しむ三國さん。とってもグローバル...。

任期中は町民の健康促進のため、町内の「てしお温泉夕映」で体験会を開くなど、徐々に地域住民との関係性を構築。ちなみに天塩町の温泉は全国的にも珍しい、アンモニア臭のする希少な天然温泉です。

「任期中の活動を通じてたくさんの方と知り合えたこともあり、定住への流れはごく自然でした。ただ開業に当たっては、東京だと数時間でできる各機関への申請作業が、天塩だと留萌振興局の管轄なので時間がかかるなど、地方ならではの不便さはありました。現在は2つの鍼灸院をかけもちしながら訪問診療も行っています」

忙しい日々の合間に、今でも2カ月に1回は東京で鍼の研修に参加しているという三國さん。パワフルさは留まることを知らず、むしろさらに広がっているそうで、役場の農林水産課と一緒にトドマツを使った新たな特産品の開発にも取り組んでいます。トドマツは北海道の人工林の約半数を占める、北海道を代表する針葉樹。その活用方法としてエッセンシャルオイルを試作したのだとか。

「陸別町の地域おこし協力隊OBの方と知り合う機会があって、その方が『種を育てる研究所(タネラボ)※種を育てる研究所(タネラボ)の記事はこちら』を起業し、ハーブ栽培からエッセンシャルオイルづくりまで行っていらっしゃったので、相談に乗っていただいたんです」

エッセンシャルオイルの蒸留は北見工業大学で行ったそうで、試作を重ねたオイルは「最北のトドマツ製油」として、現在天塩町のふるさと納税返礼品にも登録されています。また、お隣の中川町にある、「中川町地域開発振興公社」が東京に構えるアンテナショップ「ナカガワのナカガワ」にも、商品を置いてもらっているのだとか。

三國さんに地域おこし協力隊という仕組みについて、OGとして感じることを聞いてみました。

「任期中は色々なところで出張に行かせていただき、病院の方や行政のトップの方々、税関の職員さんなどたくさんのつながりができました。トドマツのエッセンシャルオイルの試作も、同じ協力隊の仲間が助けてくれました。地域おこし協力隊という肩書や共通点があることで、通常では超えられないハードルやカベを超えられるようになるんです。これってすごいことですよ」

グローバルな行動力があるからこそ、つながりが増え、そのつながりに助けられながらローカルの課題に取り組む。地域おこし協力隊という仕組みを活用した天塩町の「グローカル人材募集」は、三國さんとの相性が抜群だったようです。

都内スウェーデンのイベント.JPG都内スウェーデンイベントに参加したときの一枚。

こんな話もしてくれました。

近年、天塩町では2つあった小学校が1つに統合されました。三國さんはフランスのパリに住む知り合いの娘さんを天塩町に呼び、小学校で日本語のスピーチをしてもらい、天塩の子どもたちにはフランス語でお返しをしてもらったのだとか。

「フランスの知人家族に協力してもらい、国際交流コンテンツ作りの実験のつもりでやってみたんです。そういえば天塩の風景ってどこかヨーロッパ的だと感じていて、牛や牧草地、川がある様子はフランスの北部のイメージに近いです」

最後に、これから地域おこし協力隊を目指す人へのアドバイスと、現役協力隊員へのエールをいただきました。

2025_FUJI2243.jpg

「それはもう、笑顔で存分に働く!これに尽きます。笑顔でしっかり仕事をしていれば、周りの人が助けてくれます。私も地域の方から山菜をおすそ分けしていただいたり、患者さんを紹介していただいたりと助けられてきました。リタイア後の自分を思い描いて活動するとよいのでは。あと役場には、例えば任期後の起業や確定申告関係のサポートをしてもらえる仕組みができると、定住ハードルが下がるのではないかと思います」

さらに、地元の人では気づきにくい、地域に眠っている「プラチナオーシャン」を見つけることが大事だ、とも。三國さんにとってそれは天塩町の「静けさ」でした。

「都会はとにかく四六時中音に囲まれています。そこから離れてリラックスできることって贅沢なんです」

あなたも天塩町でプラチナオーシャンを探してみては?

初代協力隊員が移住を徹底サポート!

3人目は、天塩町役場企画商工課の菅原英人さん。

聞けば、菅原さんご自身が平成24年度に採用された天塩町の地域おこし協力隊一期生であり、任期後は天塩町役場職員として定住し、以降全ての協力隊に関わってきた生き字引です。

菅原さんが天塩町を選んだ理由は2つ、温泉と釣りだったのだそう。

「天塩ではないのですが、もう少し北に行ったところに豊富温泉という名湯があり、このお湯がアトピーによく効くと評判なんです。今はかなり有名になりましたが、その前から時折通っていました。もう一つの釣りのほうはルアーフィッシングなのですが、趣味の域を超えて今も研究を続けています」

2025_FUJI2359.jpgこちらが、天塩町役場企画商工課の菅原英人さん。

天塩川は約256㎞あり国内第4位、北海道第2位の長さを誇る最北の一級河川。菅原さんによると天塩川のすごさは長さだけではなく、その生態系の豊かさにあります。

「天塩川にはオジロワシが定着しているのですが、それを支えているものの一つは魚が移動できる区間の長さなんです。つまりエサが豊富な場所だということです。さらにこの川には日本三大怪魚の1つであるイトウが棲んでいて、腕利きの釣り師たちの間では有名なんですよ」

魚に鬼と書いてイトウ。絶滅が危ぶまれている幻の魚と聞きます。菅原さんを夢中にさせ、移住へと導いたのはこの天塩川のイトウ。釣るだけではなく生息場所や生息数などを見つめ、イトウの研究を続けています。過去には関係者を招き、イトウについてのシンポジウムを行ったこともあるそう。(ちなみに残りの日本三大怪魚は、ビワコオオナマズとアカメとのこと。どれも陸上から釣れる1m以上の魚なのだとか)

「かつては北海道のほとんどの川にイトウがいたんですよ。天塩町の特産品にしじみがあるんですが。このしじみも天塩川と海水が混ざった汽水が育んでいます。天塩川下流域は生態系の連続性や絶妙なバランスが残存している、とても貴重な場所です」

天塩川に生息する「イトウ」.jpg天塩川に生息する幻の淡水魚「イトウ」

こうして天塩の自然に魅了された菅原さんですが、現在担当しているお仕事は多岐にわたります。

地域おこし協力隊の募集を含む移住支援や、町公認インフルエンサーを含むまちの広報関係や国際交流、地域公共交通。天塩町で毎年行われる自衛隊の訓練時は、その滞在の手配も菅原さんが担っています。ある時は地学協働の地域コーディネーターとして、高校の総合的な探究の時間で地域の自然・歴史・産業を学ぶ取り組みも行い、またある時は首都圏の大学生を招き、高大連携まちづくりワークショップを開催し、大学生に先生役になってもらうオンライン授業等も実施。逆に地域側から大学生に対し研究のサポートも行なっているのだとか。

「建設業、農業、介護福祉分野などの人手不足は天塩町も同じで、実は約80名の技能実習生などの外国の方がこのまちに暮らしているんです。今は特にインドネシアの方が多いですね。こうした方々との交流を通じて、多文化共生の施策にも取り組んでいます」

現在天塩町で活動している地域おこし協力隊員は、先ほどご登場いただいた前川さんを含めて2名。今後も募集は続けていく予定で、現在は農業関連の協力隊員を募集が始まっています。

「まちの基幹産業に酪農があるのですが、近年は離農される農家さんが増えてきており、今後の継続に課題を感じています。そのため今年度から興味を持って酪農に携わってくれる協力隊員を募集しているところです」

新規就農には相当の覚悟が必要ですし、酪農は牛たちの命を預かるお仕事ですので、着任後のミスマッチを防ぐためにも事前のすり合わせにも注力。酪農研修やお試し協力隊の実施など、まち側の受け入れ態勢にも力を込めています。

「お仕事の内容はもちろんですが、私自身の経験からも協力隊として活動していくにあたっては、地域を知り、まちの人たちと親しくなることが重要です。天塩町には先に定住しスポーツインストラクターや塾の経営を行なっているOB・OGが19名おりますので、地域との接点作りはしっかりサポートします」

2025_FUJI2480.jpgまずは天塩町のことを知って欲しいと語る、菅原さん。移住体験ツアーも受け付けていますので、ぜひご応募を!

また、着任後も本人の特性とまちの課題を照らし合わせて、業務内容の見直しや方向転換にも対応しているそう。なんと柔軟。最後に、まちとの親和性が高そうな人の特徴について聞いてみました。

「天塩の夕焼けがなぜこんなに美しいのかを科学的に研究し論文にして発表した、かつて来訪した大学院生や、このまちの風景や野鳥の存在に惹かれて移住した写真家さんがいるのですが、いわゆる物質的な豊かさではないところに価値を見出せる方や、芸術的感性のある方は、楽しい発見があるまちだと思います。ぜひ一度天塩にお越しください」

天塩町では「まず一度まちを見てほしい」という思いから「お試し協力隊」による現地体験を受付中。プログラム内容については菅原さんや町の関係者と事前打ち合わせの上で完全オーダーメイド。協力隊になる前に天塩での暮らしを体感できます。

往復の交通費は自己負担ですが、宿泊など現地での滞在費はまちが負担してくれるので、少しでも興味を持たれた方は、ぜひ天塩町役場の菅原さんまでお問合せを。

006_itou84.JPGのサムネイル画像幻のイトウを釣りに来ませんか?

天塩町企画商工課
住所

北海道天塩郡天塩町新栄通8丁目

電話

01632-2-1001

URL

https://www.teshiotown.hokkaido.jp/

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歴史・静けさ・生態系。天塩町の協力隊が感じた、贅沢な暮らし

この記事は2025年12月5日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。