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もうひとつのトピックス
上川町

上川町で実現。WORK SHIFT LOCAL イベントレポ20260112

上川町で実現。WORK SHIFT LOCAL イベントレポ

リモートワークが当たり前になり、副業の解禁が進んできましたが、私たちの働き方は本当に変わってきたのでしょうか? いま、北海道の真ん中にある人口約3,000人の小さな町が、働き方に一石を投じています。大企業に依存しない、場所に縛られない、個が輝くような働き方で、まちづくりにもコミットしてもらおう。そんな挑戦を重ねているのが、移住やエリアリノベーションで注目されている上川町です。大雪山系など雄大な自然に抱かれた環境で、大都市ではできない次世代の働き方を創っていくにはどうすればいいのか。そのヒントを探る上川町主催のイベント「WORK SHIFT LOCAL 2050@SAPPORO」の様子をレポートします。

「ベンチャー自治体」上川町って? 

第一部では、未来の働き方がなぜ上川町でならできるのかを考えました。まずは町職員で「ひとり東京事務所」を標ぼうする三谷航平さんが、上川町の紹介をしてくれました。

kamikawarepo00007.jpg上川町が本格的にブランディングに取り組み出した2018年当初から関わる、三谷航平さん

上川町は道外に拠点を置くさまざまな企業とパートナーシップを結んでいます。三谷さんはおもしろい人を上川町に連れてくるのがミッションだそうで、町単位で東京事務所を構えるのは国内では2自治体のみだといいます(ご本人調べ)。

上川町はまちづくりのコアビジョンに「感動人口1億人」を掲げていますが、三谷さんはこれについて「『関係人口』に熱量を加えた考え方です。自分ごととして上川町に関わった上で、心から動いてくれる『感動人口』を増やしていこうという狙いです」と説明してくれました。

経済や人口規模で比べると、都市部にはかないません。それでも、町民が暮らしの中で感じる「豊かさ」や「楽しさ」では勝負できるだろうという算段です。しかも、三谷さんいわく上川町は前例にとらわれず、スピーディーに判断・行動する「ベンチャー自治体」です。3,000人ほどの人口規模でも町民が選択肢を持てるように、誰もが打席に立てるように。都市部の企業とも連携しながら、同じ立場で共創する新しいまちづくりに挑んでいます。

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感動人口で「東京を喰らう」...その心は?

イベントの第一部はキートーク「まちの再定義から読み解く、未来の働き方」。
まず、上川町役場の地域魅力創造課課長補佐として多くプロジェクトの立案やマネジメントに携わる小知井和彦さんが、上川町のビジョンを掘り下げてくれました。

小知井さんによると、前提として、定住人口を「増やそう」「維持しよう」とは違ったアプローチを取ります。
「地方だけで経済をどうにかしようとしても無理です。例えば東京の民間企業の方の、副業とも転職とも違うサードキャリアを実現する舞台をつくるようなまちづくりを展開して、東京を喰らう種をまいていきたい」と意気込みます。

kamikawarepo00029.jpg小知井和彦さん(右)と、モデレーターをつとめた、NPO法人ミラツク理事の黒井理恵さん(左)

東京のような大都市と競うのではなく、また依存するのとも違う。人材も消費者も集中する東京のリソースを取り込んでいくというイメージのようです。そこで要となるのが、『感動人口』なんだとか。

「『感動人口』を地域の経営のモデルとして落とし込み、資源が少ない地方でも横展開できるモデルをつくりたいですね。1つの大きな会社をつくるのではなく、小さい会社を増やして、いつもと違う仕事ができる『副業ラボ』ができたらいいなと思っています」と小知井さんは展望を語ります。

人口規模が少ない地域だからこその働き方は、魅力にあふれています。

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小知井さんは「田舎で働く大きなメリットの1つに、距離感がめちゃくちゃ近いことがあります。金銭的なインパクトは大きくなくても、例えばじもとのおばあちゃんが喜んでくれるとか、おじちゃんのやる気をかき立てるとか。心が動く場面が多くあります。『感動人口』は、友だちづくりとも言い換えられます。その友だちを、仕事をきっかけにつくることができます。普段と違う仕事をできれば楽しいし、いろんな人を巻き込めるじゃないですか!」と投げかけます。

この小知井さんの言葉を受けて、スピーカーの1人から「バーテンダーやりたいです!」という声が上がりました。「世界中の境界線を溶かす」を実現するためにSDGs×教育を軸にした事業を展開する、HI合同会社代表の平原依文(いぶん)さん。

kamikawarepo00037.jpg12歳から世界に飛び出して活動している平原依文さん

「『感動人口』にめちゃくちゃ共感しました。スポーツやエンタメの世界では立証されていますが、『好き』という気持ちがあれば、不便や物足りなさはどうでもよくなると思います」と力を込めました。

国内の各地域や海外を飛び回っている平原さん。
「私は現場を見ないと、解像度が上がりません。上川町ではどんな感動が手に入るのか、どういう景色や瞬間があるのか見たいので、近々お邪魔します!」という宣言も飛び出しました。

もう1人のスピーカーは、防衛特化の行動予測AIをはじめ多くのAIツールを運営する株式会社デジタルレシピCEOの伊藤慎之介さん。

kamikawarepo00036.jpg専門分野に限らず、文化・芸術論までも守備範囲。伊藤慎之介さん

「都会の人間としては地域のコミュニティーに憧れがあります。AIにせよ人のつながりにせよ、人が助けを求めることのできる選択肢が増える先に、『感動人口』があるのかなと思います」と話しました。またAIの進化に触れながら「歴史的にも革新的な技術が誕生すると、新しい文化や芸術が生まれます」と語り、文化としての新しい働き方に期待していました。

実践者に聞く...副業はどう生まれる?

第二部では、新しい働き方を実践している2人が登壇しました。

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1人は、生活者向けサービスの実業家である高橋恭文さん。上川町の地域プロジェクトマネージャーで町と企業をつないだり、スポーツイベントを企画したり。町のコンセプト「感動人口1億人」に共鳴して、「株式会社感動経済社」も設立。普段は全国各地を周り、現場から経営まで何でもござれ。「ハイパー複業家」という異名を持っています。ご自身の原点は求人広告だといい、働き方については一家言を持っています。
「こんな仕事もやってみたい、あれもやりたいという『いい葛藤』の中でみんな生きているのかなと思っています。うれしい悩み、楽しいことで頭を埋めていたいです」と強調しました。

kamikawarepo00057.jpgハイパー複業家の異名を持つ高橋恭文さん。趣味はハンドボールを通じたコミュニティ活動

もう1人は、「地方で暮らし、都市で働く」を実践する和田花織さん。リクルートに籍を置きながら、副業を2つ掛け持ちしています。人口8,000人ほどの宮崎県高原町(たかはるちょう)では、町役場の事業共創専門官として活躍しています。上川町でも開催された、大企業とスタートアップを結びつける共創カンファレンス「START CAMP」の企画運営もリード。それがきっかけで、上川町のプロボノワーケーションに参加しました。何度となく上川町に通っていて、この町のポテンシャルやスピード感に舌を巻いているようです。
「上川町では、私が高原町で『こんなことやりたいな』と思っていることを大抵やられています」

会場からは、「副業(福業または複業)は何からどうスタートすれば良いのでしょうか?」という質問が寄せられました。

高橋さんは「始まっちゃうって感覚が一番近いですね。自分が興味のあるテーマや課題を掲げている人に話し、自然に手伝う。自分のやってみたい気持ちや、課題との距離感を確かめて、相手との関係性から仕事が生まれます」と言います。

kamikawarepo00065.jpgとにかく点を打ち続けることが大事、と話してくれた和田花織さん

和田さんは「リクルートで新築マンションを売っていた時、副業の1つ目としてフードロスのスタートアップに応募しました。距離が近いものだったら自分の会社でやればいいじゃん、って思ってたんで。そこで宮崎にフードロスの拠点を作りたいという話になり、人生で初めて宮崎に行って、宮崎いいなとなって、3カ月後に移住したんですよ。高橋さんと同じで、あるテーマで話してたらどんどん副業とか仕事が膨らんでいきました。多い時には10個ぐらいやってましたね」と振り返ります。

明確な動機はなくても、まず動いてみる、気持ちに素直になることが大切なようです。

高橋さんは「いつも上川町には、よく分からないまま呼ばれます。用意された目的とかアジェンダがあるわけではなく、とりあえず行ってみた先に感動する瞬間がたくさんあります。そこで人間の感情を取り戻せる瞬間が多いですね。ランチを選ぶ時、例えばカレーとチャーハンで迷ったら両方食べるのがおススメです。何かをしたい、という気持ちにどう正直になるかが大事です」と教えてくれました。

kamikawarepo00005.jpg会を通してモデレーターをつとめた久保匠さん(株式会社すくらむ 代表取締役)。ファンドレイザーとしての活動に注力

和田さんは「『この人とは友達になれないな』と線を引くのはすごくもったいない。働き方も一緒で、いろいろやってみて、点をとにかく打ち続けるだけでいい。そうすると、勝手に何年後かにつながっているし、後からストーリーを作れます」と言います。

「副業はすぐにマネタイズできましたか?」という質問も寄せらせました。高橋さんは「お金のために副業することは、絶対にやらない方がいい。例えば『この課題が変化したら面白いな』という目的にコミットできなくなっちゃうからです」という回答でした。

和田さんは副業を始める時、「一旦無償でいいですよ」と伝えるそうです。

「生業としてないことでも、なんかできそうじゃないですか?という流れになって、一旦やってみて、よかったら次また仕事くださいという感じでやってます。お互い一回見極められて、気楽にできます。その後にお金がついてくるし、いっぱい仕事が来るようになりますよ」

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その上で和田さんは、新しい働き方を始めるコツを伝授。
「意志や気持ちだけに頼るのはすごく難しいので、一番いい方法は環境を変えることです。一旦上川町に飛び込んでみるとか。ダイエットしたいと思っていても、周りに砂糖まみれのものを置いていたら痩せれないのと一緒です。一緒に上川町に関わりましょう!」と呼びかけました。

「水曜どうでしょう」と上川町の共通点

第三部では、人気番組「水曜どうでしょう」のディレクターとして知られる藤村忠寿さん(北海道テレビ放送株式会社 コンテンツビジネス局クリエイティブフェロー)が登壇。藤村さんを囲む形で、上川町の地域活性化起業人をへて町内で立ち上げた「株式会社ローカルのみらい」取締役の米田真依さん(株式会社グッドパッチ UXデザイナー)、上川町役場の清光隆典さん(地域魅力創造課魅力創造グループ係長)の2人がトークセッションを展開しました。

kamikawarepo00068.jpg「水曜どうでしょう」ファンにはお馴染み、藤村忠寿さん。上川町生まれの大人気日本酒、「上川大雪」を飲みながら、トークスタート!

藤村さんは、人口減少に悩む多くの自治体が「町おこし」をしているとして、「金のために人を呼ぼうとしても、人が来るわけないじゃない!」と指摘しました。上川町のスタンスは違うとして、「いろんな働き方をしている人がコミュニティーにいて、それを魅力に感じる人が、一年に一回でも上川町に来てくれる。観光客を多く呼ぶよりも活性化につながると、上川町は思ってるわけですよね。それは正しい選択だと思う」と話しました。

「水曜どうでしょう」と上川町のまちづくりの共通点も熱く語りました。

kamikawarepo00072.jpg上川町出身の清光隆典さん(右)は、この春、上川町を舞台にした短編SF小説「万華鏡」を発表。

「僕は、よくあるローカル番組は作りたくなかった。北海道の中だけでロケをする番組なら、市場は400万人規模だけど、『水曜どうでしょう』は一億人に増えた。(小知井さんから)『東京を喰らう』という話があったけど、『水曜どうでしょう』は全く同じことをやったんです。みんな東京を見本にしているけど、僕は一番大きい市場としてしか見ていない。そしてセンスのいい人だけに見てほしかった。そうすると、お客さん同士のつながりが大きくなり、ファンコミュニティーが強固になっていく。『水曜どうでしょう』が場を作ったのと同じことを、上川町はやりたいんだなと」

kamikawarepo00094.jpg上川町地域活性化起業人の任期終了後も上川町で暮らすことを選択した米田真依さん

米田さんも清光さんも、この言葉に大きくうなずきました。藤村さんが続けます。「『水曜どうでしょう』のロケ車には、視聴者の皆さんもすでに乗っている。だから、スタッフは楽しくやってればいいだけ。それは町も一緒だと思う。中途半端な特産品を助成金で開発して地域活性化だ、と言うのではなく、そこで楽しく暮らしてりゃいい。そうしたら自然と人は集まってきますよ」

「年間何万人を誘客する」といった目標設定は避けるべきだと藤村さんは説きます。「上川町なら5人くらいのお客さんでいい。今日(この会場に)来てくれている人たちだけを大切にしていけばいいんです。話を聞いて、ちょっくら上川町に行ってみっか、ぐらいからだいたい始まる。それで3年~4年経った時に、なんとなくあのときの5人が仲良くなって、最近住み着いてるんですよ。そんな状況になればもう大成功で、町は大きく変わると思うよ」と未来を描いてくれました。

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最後に藤村さんから上川町に向けて、宿題が出されました。

「概念的なことじゃなくて、着実に前に進んでいるということが分かる実例を見てみたいですね。あるプロジェクトをきっかけにおばあちゃんがこんな風に元気になった、というケースはすでにありますよね。もっともっと実例を掘り起こして、見せてほしい」

驚くほど多彩なプレイヤーの皆さんが、上川町の可能性を語り合ったイベントととなりました。「楽しければ人は集まる」「とりあえず関わってみる」「環境を変えてみる」...。余白がたくさんある上川町には、これらのキーワードを好きなだけ実践できます。人口や経済規模に依存した従来のまちづくりとは一線を画し、地域内外の人や企業と共創していく上川町。皆さんも、新しいまちづくりと働き方を体感しに行きませんか?

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上川町役場 地域魅力創造課
住所

北海道上川郡上川町南町180番地

電話

01658-2-1211(代表)

URL

https://www.town.hokkaido-kamikawa.lg.jp/category/iju/index.html


上川町で実現。WORK SHIFT LOCAL イベントレポ

この記事は2025年12月9日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。