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まちおこしレポート
島牧村

大学院で学びながら観光まちづくりに取り組む日本初の協力隊20251225

大学院で学びながら観光まちづくりに取り組む日本初の協力隊

2009年から総務省が実施している地域おこし協力隊の制度。道内の市町村でも多くの隊員が、試行錯誤しながら地域を盛り上げるために活動しています。くらしごとでもこれまでたくさんの地域おこし協力隊の方たちを紹介してきました。

受け入れる自治体としては、最終的に隊員が定住してくれることを期待していますが、地域によってはなかなか定住につながらないというケースも...。1~3年の任務期間中に、地域になじめるか、定住につながる仕事が見つかるか、あるいは起業ができるかといった課題があると言われています。

今回取材に訪れた島牧村も同様の課題を抱えていましたが、それを解決するために日本で初めての取り組みに挑戦。事業構想大学院大学と連携協定を結び、大学院で学びながら観光まちづくりに挑戦する地域おこし協力隊を募集しました。

今回は、この取り組みを進めた島牧村企画産業課長の奥康幸さんと、2025年の春から協力隊として着任した藤原将智さん、秋から着任した宮脇史弥さんに話を伺いました。

大学院と協定を締結し、観光と地域おこし協力隊に関する課題を解決

北海道の南西部、日本海側に面した人口約1250人の小さな村・島牧村。ウニやタコといった海産物をはじめ、ブナの原生林や温泉など、自然資源に恵まれた村です。

「素晴らしい資源はたくさんあるのに、観光分野が弱いこともあり、それらを生かすことができずにいました。そこを打破したいと常に考えていたところ、後に村の観光まちづくりアドバイザーとなる先生から、事業構想大学院大学で協力隊事業を活用したプロジェクトのオンライン説明会に参加してみてはというお誘いが最初のきっかけでした」

そう話すのは、役場の奥康幸課長です。

251212_083.jpgこちらが、島牧村企画産業課長の奥康幸さん。

事業構想大学院大学とは、新規事業開発や地域活性に興味を持つ社会人向けの大学院。東京、名古屋、大阪、福岡、仙台の5つの拠点で、各分野の第一線で活躍している教員のもと、意欲ある社会人たちが学んでいます。奥課長が参加した説明会は、同大学院で学びながら地域おこし協力隊として観光まちづくりに挑戦するプロジェクトについてでした。

島牧村は2016年から地域おこし協力隊の受け入れをはじめ、これまで合計6人の隊員がやってきましたが、そのうち村に残っているのは就農した1人だけ。定住につながらないのも課題のひとつでした。

「定住につながらない理由を考えたとき、任期の間に望んでいたスキルが身につかなかったとか、地元の人とのコミュニケーションがうまくいかなかったなど、反省点がいろいろありました。プロジェクトの説明会に参加し、大学院で学びながら観光まちづくりに挑戦できる地域おこし協力隊であれば、協力隊の課題と観光分野の課題、どちらも解決できると思ったんです」

説明会の終了後すぐに、奥課長は「前向きに検討させてほしい」と大学院側に伝えました。

大学院写真①.jpg事業構想大学院大学は、従来のMBA(経営管理修士)等とは異なり、事業の根本のアイデアから発想し、理想となる事業構想を考え、実現可能になるようアイデアを膨らませ、構想計画を構築するクリエイティビティを重視した事業構想修士(MPD)の学位を授与している専門職大学院です。

「このプロジェクトに課題の解決策が詰まっていると思いました。また、日本で初めての取り組みになるということで、日本初となればインパクトもあるのでこのチャンスを逃してはいけないと思いました」と振り返ります。

奥課長は、すぐに村の関係者に説明し、「ぜひともやるべきだ」と強く訴え、賛同を得られるよう動きました。「小さい村ですから...」と言いますが、6月の説明会の参加から約5カ月で決定に漕ぎつけたというスピード感に奥課長の意気込みが感じられます。

そして、島牧村は2024年12月に事業構想大学院大学と「人材育成及び地域活性化に係る連携協定」を締結。村の道の駅に大学のサテライト拠点を設け、地域おこし協力隊兼大学院生の募集をスタート。事前に説明会を実施し、2025年春に1期生となる隊員が村に着任しました。

「協力隊の任期は3年。道の駅に所属する形で地域の中にしっかり入ってもらいながら、最初の2年は夜に大学院の講義に参加し、観光まちづくりやそれに関連する新規事業立ち上げについて学びます。そして、学びの中からアイデアを出し、村でどう実践できるか取り組んでもらい、任期終了後に村で新しい事業を創出してもらえればと考えています」

学んだことを村で実践。全国の仲間たちとの繋がりも生かしたい

それでは次に、協力隊として春に着任した藤原将智さん、秋から着任した宮脇史弥さんの2人に話を伺っていこうと思います。

まずは藤原さんから。大分県出身の藤原さんは広島県の大学院を卒業後、高校で理科(地学)の教師をしていました。衰退していく地元を目の当たりにしたのをきっかけに観光まちづくりに興味を持ち、昨年、事業構想大学院大学の福岡校に入学。昨年は高校で教鞭を取りながら、夜は大学院で学んでいたそう。

「ちょうど、北海道の島牧村でこういうプロジェクトがあるよと聞き、それは面白そうだなと、思い切ってチャレンジすることにしました。観光のことを学びながら、それを村で実践できるというのはとても魅力に感じました」と話します。現在修士2年ということで、修士論文の準備をしながら、大学院のゼミにオンラインで参加し、仲間たちとディスカッションしながら、観光まちづくりのヒントをもらったり、アイデアについて意見をもらったりしているそう。

一方、宮脇さんは北海道札幌市出身。短大で観光ビジネスを学び、旅行会社に勤務していましたが、「旅行で各観光地を回ってきたので、次はその観光地をPRする仕事をしたい、できれば地域に根差してそこをPRできるようなことをしたいと考えていたときに、島牧村でこのプロジェクトがあると知り、応募しました」と話します。着任と同時に大学院へ入学し、今は仙台校に所属する形で講義を受けているそう。

藤原さんは、「大学院の先生たちは自分で会社を経営している人など、現役で活躍している人ばかり。だから実践的なことが学べるし、先生たちのやる気もスゴイから、刺激をたくさんもらえます。また、学生もいろいろな人がいて、企業から派遣されて学んでいる人も多く、あらゆる業界の人と交流できるのもポイントです」と話し、「ここで培った人間関係やつながりを島牧での活動にも生かしたい」と続けます。

村の人たちと交流を深めながら、村の魅力を掘り起こし中

現在、日中は体験観光プログラムの企画・開発のために、地元の人たちと交流を深め、村のことや村の暮らしを知ろうと活動している藤原さんと宮脇さん。

道の駅の仕事もしていますが、道の駅にずっといるだけでは何も進まないので、なるべく外に出ていろいろな人に会うようにしているそうです。また、分厚い村史を読み、村の文化や暮らしについても勉強しています。

着任から半年近く経った藤原さんは、「着任してすぐのころ、港に行って漁師さんの手伝いをし、いろいろ話を聞かせてもらったんですが、今考えている観光プログラムは、漁師めしを漁師さんと一緒に作って食べる体験や、採れたてのウニを実際に自分たちで割って食べる体験など。プログラムの説明は地元の人にしてもらったほうが楽しいと思っていて、地元の人にお願いできるよう信頼関係を築くことやネットワーク作りにも取り組んでいます」と話します。

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着任してすぐのころは、奥課長が村の人たちとの橋渡しを積極的に行ってくれたそうで、「そのおかげで村の人たちともすぐに親しくなれたし、今はだいぶ村に馴染んできたと感じています」と藤原さん。

宮脇さんは「私はその藤原さんから村の人たちを紹介してもらっています」と話し、地域おこし協力隊の先輩後輩のいい関係性も伝わってきます。

漁師さんはもちろん、水産会社や農家、民宿をやっている人など、さまざまな村の人と交流を深める中で、村の魅力を掘り起こしている2人。宮脇さんは、「島牧に住んでみて、可能性を秘めた魅力的なものがたくさんあると分かりました。でも、それがほかの地域の人には知られていないんですよね。商品開発できそうなものもいっぱいあるし、協力隊として商品開発などができればとも構想しています」と話します。

さらに、「豊かな自然も島牧の魅力」と藤原さん。

「道立自然公園に認定されている狩場山という山があるんですけど、この山の一帯に日本で最大級の広さを誇るブナの原生林があるんです。ここもまだまだ知られていない魅力のひとつ」と語ります。このブナ林の肥沃な土壌から出た地下水はミネラルが豊富。その水でおいしい農作物が育てられ、その水が豊かな漁場を作っているそう。

「黒松内町のブナセンターの方に聞いた話では、東北の白神山地のブナ林へ行くには途中まで車で行って、そこから歩いて2時間かかるらしいんです。でも、島牧村のブナ林は市街地から車で20分ほど。林の中には遊歩道もあって、気軽に散策できるんです。これも素晴らしい観光資源」と続けます。

また、釣り人の間では有名なイベント「あめますダービー」や、雪上車に乗って冬の狩場山でバックカントリースキーを楽しむ「島牧CATスキーツアー」など、島牧村で以前から行われている人気の体験やイベントを活用したり、組み合わせたりしたものなども考えたいそう。

藤原さんは「今は資源発見に重きをおいていますが、その先は企画したものや作ったものをPRする必要があります。その際にはブランディングが大事になってくるので、そこも大学院で学んだことを生かして取り組んでいきたい」と意気込みます。

251212_065.jpg「大学院で学んだことを島牧で実践していきたい」と力強く語ってくれた協力隊の2人。

観光はみんなで作り上げる産業。温かい村の人たちと共に作り上げていきたい

藤原さんと宮脇さんに島牧村での暮らしについて尋ねると、「村の人たちは温かく、地元愛にあふれている」と宮脇さん。

「都市部の札幌からも離れていて、空港や駅からも離れていて正直不便な場所ではあるのですが、村の人たちはみんな島牧が大好きって言うんです。それを聞いて、不便さを超える魅力が村にはあるのだなと感じました」と続けます。

5歳のお子さんがいる藤原さんも「特に子どもに対しての村の皆さんの愛情がスゴイ。子どもは地域の宝だから、みんなで育てよう、みんなで大事にしようというのが伝わってきます。子どもの顔と名前も覚えてくれて、かわいがってくれます」とニッコリ。

251212_036.jpg「島牧の人たちは、本当に温かいんですよね。子どもが楽しそうに生活している姿を見ると、移住して良かったなと改めて思います」と藤原さん。

コミュニティーの結びつきの強さを感じるとも言い、「よその土地から来た自分たち家族に対してもすんなり受け入れてくれる懐の深さ、温かさがありますね」と話します。

2人の話を聞いていると、村の人たちの温かさに触れることで、尚更、この村の魅力を外に発信し、村の活性化に繋げていきたいと強く感じているのが伝わってきます。

藤原さんが最後に、「観光というのは自分ひとりで完結できるものではないし、みんなでやらないと成り立たない産業だと思うんです。村の人たちとの信頼関係が土台にあってはじめてできるものだと、4月から村で活動しながら実感しています。観光でまちを作っていくのが僕らのミッションであり、ただ人を村に呼べばいいわけではありません。村の人たちと一緒に訪れた人に村でどう過ごしてもらうかを考えていくことが重要。そのためにも村の人たちとの信頼関係をもっと深め、対話も増やしていきたいと考えています。まだ一年目なので、これからどんどん活動の幅を広げていけたらと思います」と話してくれました。

251212_064.jpg「あめますダービー」35周年を記念して、Tシャツを製作しました。

島牧村としては、10年かけてこの連携プロジェクトを推進したいと考えており、今後も毎年大学院で学びながら地域おこし協力隊の活動に従事してくれる人材を募集する予定。藤原さん、宮脇さんの後に続く意欲的な人が来てくれることを期待しています。

奥課長は、「ほかの市町村の地域おこし協力隊にはない、大学院との連携が大きな魅力。学んだことを村の観光まちづくりに生かしてもらいたいと思います。学んだことをすぐに実践できるのも島牧ならではです。ただ、あくまで大学院の学びは方法と手段であり、目的ではないということだけきちんと理解した上で応募していただければ...」と話します。

「プロジェクトはまだ始まったばかり。日本初ということもあり、プレッシャーもありますが、これがきっかけとなり、島牧が元気になったらいいなと思います」と締めくくってくれました。

島牧村役場企画産業課/奥・栗田
島牧村役場企画産業課/奥・栗田
住所

北海道島牧郡島牧村字泊83

電話

0136-75-6212

URL

https://www.vill.shimamaki.lg.jp/

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大学院で学びながら観光まちづくりに取り組む日本初の協力隊

この記事は2025年12月12日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。