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せたな町

週休3日も叶う!酪農家の新しい働き方を提案する、ひらかわ牧場20250819

週休3日も叶う!酪農家の新しい働き方を提案する、ひらかわ牧場

北海道の自然と風景に憧れて道南・せたな町に移住し、ひらかわ牧場を開業した平川賢一さん。放牧でのびのびと牛を育てながら、6次化にも力を入れ、アイスクリームの加工を行うなど、精力的に活動しています。

酪農は、生き物を相手にする仕事ゆえに、24時間・365日目が離せず、力仕事も多い大変な仕事です。しかし、ひらかわ牧場は、完全週休2〜3日で有休制度もあり、連休取得も可能。半年ごとの昇給制度など、頑張った人が頑張った分だけ報酬を受け取れる職場環境が整っています。

経営のベースにあるのは「自然のなかで働き、遊ぶ楽しさを伝えたい」という平川さんの信念。そこに至るまでの平川さんの想いや、ひらかわ牧場の理念に共感してここで働くようになったスタッフのお話を伺いました。

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のびのびとした、雄大な北海道の自然に魅せられて

平川さんが初めて北海道を訪れたのは、もう30年も前のこと。大学時代、バイクとともに広島から京都・舞鶴のフェリーに乗り、北海道一周の旅に出て、すっかり雄大な自然に魅せられてしまったそうです。

「もともとアウトドアが大好きだったので、こんな場所で生活したい、とそのときに思ったんです」と平川さん。特に憧れたのは、ザ・北海道ともいえる牛の放牧風景でした。

hirakawaF_22.JPGこちらが平川賢一さんです。

そこで平川さんは大学を卒業後、広大な牧場を多く抱える十勝にて、3年ほど実習生として住み込みで働きます。その後、農業大学校の先生をしていた親戚の教え子が運営する静岡の牧場へと転職し、7年修行。そしてようやく、憧れの地で自分の牧場を開くべく、30歳を過ぎたころに北海道へと戻ってきました。

「最初はいろいろとありましたが、たまたませたな町で空いた牧場が見つかったんです。道南で放牧ができる場所はなかなかなく、見に行ったら牛舎の骨組みもしっかりしていたので、うまく直せば使えるなと思いました」

開業する際に相談した農協の担当者が経営計画を立ててくれたり、元のオーナーとの交渉を円滑に進めてくれたりと、新規就農に対してとても熱心だったことも追い風となりました。こうして、夢だった牧場を北海道で開業することができたのです。

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体力と精神力の勝負だけでは、仕事は続かない

現在、乳を絞っている乳牛は29頭。育成している子牛なども含めると、45頭ほどの牛を育てています。最近は、牛のお産などもある程度はデジタルツールで管理できるようになりました。

「母牛にセンサーをつけておき、体温が下がったら9割以上の確率で24時間以内に産むんです。通知が飛んだら駆けつけるので、寝ずに待機していた時代から比べるとかなり楽になりました」

酪農は、これまでは慢性的な寝不足と長時間労働にいかに耐えられるか、という体力勝負の仕事でした。デジタルツールが普及し、ある程度は便利になった昨今でも、そういったイメージは完全には払拭できていません。

hirakawaF_38.JPG(写真提供/Photo:Farmstead inc.、Syogo Oizumi)

「実際に酪農の世界に入ると理想と現実の違いを実感するわけですが、私は理想を捨てきれずに、自分の道を歩んでいる感じですね」

平川さんの理想とは、かつて自分が見て感動した北海道の自然や風景を、いろんな人に楽しんでもらえるような農業形態をとること。放牧はもちろん、のびのび育った牛の乳でアイスクリームを作って食べてもらうなど、酪農にとどまらず、やりたいことがたくさんあります。

「アウトドアも好きですしね。キャンプにも行きたいし、釣りにも行きたい。牧場スタッフにも自然のなかで働き、遊ぶことの良さを伝えていきたいという思いがあるので、プライベートな時間をなるべく多く取ってもらいたいんです」

hirakawaF_7.JPGひらかわ牧場ではこうしたデジタルツールを用いて牛の管理をしています。

平川さんが牧場で修行をしていたときは、肉体的にも精神的にも辛い思いをすることがたくさんありました。もちろん、自分の時間はほとんどありません。しかし、過酷な労働環境で酪農を長く続けたいと思う人は少ないでしょうし、人間の余裕のなさは牛の健康状態を左右する可能性があります。

そのような経験から、平川さんが求人を始めるとき、条件として提示したのは「完全週休2日制」。休みの日にやりたいことがある人は、週休3日を選択することもできます。これは、ハードなイメージのある酪農業界ではなかなか見られない条件です。

「夏は年々暑くなります。この炎天下のなか、牛舎で作業できる?と聞かれたら、わざわざ選ばない職業かもしれません。そこを、なんとか変えていきたい。酪農家っていいよね、と、みんなが憧れるような、魅力的な職業にしていきたいという気持ちは、やっぱりありますね」

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農場HACCPを取り入れて、スタッフも働きやすい職場に

そんな平川さんのところに、このたび、新しいスタッフがやってきました。名前は、坂本寿々子さん。前職は役場職員で、日高管内で畜産等を担当していましたが、この4月から正式にひらかわ牧場で働いています。

坂本さんは酪農学園大学卒業後、畜産・農業の専門職として農業改良普及センターに就職。大学時代はご実家が牧場を営む同級生のお家に遊びに行ったり、就職後も生産者や畜産関係者と接したりと、牧場へ出入りする機会は多かったそうです。センター退職後も、標茶町の牧場で3年ほど搾乳の経験もあり、作業についても流れをきちんと把握しています。

hirakawaF_33.JPGこちらが坂本寿々子さんです。

「デスクワークをしていると外に行きたくなっちゃうので、体を動かせる仕事がしたいと常々思っていました」と語る坂本さんに、ひらかわ牧場を紹介したのは大学時代のご友人でした。

「その友人は5年前にせたな町で新規就農したので、私も何度かせたな町に遊びには来ていました。せたなに来ちゃえばいいじゃん!と、ずっと言われていて(笑)牧場の求人にアンテナを張ってくれていたところ、2024年の冬、ひらかわ牧場での求人情報が見つかり、ここならおすすめできるということで、紹介してくれたんです」

坂本さんが初めてひらかわ牧場を訪れた際、放牧をおこなっていることや、小規模な牧場なのにアイスクリームの製造・販売といった6次産業にも力を入れているところなどに惹かれたといいます。

hirakawaF_35.JPG搾乳後24時間以内の新鮮な生乳を使った新鮮で風味豊かなアイスクリーム。(写真提供/Photo:Farmstead inc.、Syogo Oizumi)

「またひらかわ牧場では、農場HACCPを取り入れています。安全で高品質というところへのこだわりからですが、すべてシステム化され、手順がマニュアル化されているので、初めて仕事をするスタッフにもとても親切で、わかりやすいんです」

農場HACCPとは、農場における安全性や衛生管理を向上させるための手法です。平川さんがこれを取り入れようと思ったきっかけは「農場HACCPは経営のマネジメントそのものである」と気づいたことでした。

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「これまで、牛の管理に関してはそれなりに厳しい修行を受けてきたので、ある程度自信はありました。しかし、雇用をおこなうようになり、スタッフの管理が思うようにいかず困っていたんです。農場HACCPは、安全性や、衛生的な管理についての話だけでなく、人材のマネジメント方法や、スタッフが作業しやすくするために用意しなければならないものなどが細かく書かれています。人の手を介するわけですから、人の管理もちゃんとやらなければ、当然品質の良いものはできないということなんですよね」(平川さん)

それが、結果的にスタッフの働きやすさにつながり、ひいては平川さんの作業効率アップにもつながりました。消費者からの信頼も、さらに厚くなっています。

hirakawaF_25.JPG実際に見せていただいた人事評価シート。

酪農以外にも、せたなの自然を活かして、やりたいことがいっぱい

そしてもちろん坂本さんは、これまでの牧場の常識から離れた「週休3日が可能」というところにも、驚きを隠せませんでした。

「牧場の仕事で週休3日って、ほとんどありません。少なくとも私は聞いたことないので、びっくりしましたね」

現在は朝晩の搾乳と、夏は牧草の収穫を主におこなっている坂本さんですが、週に3日間のお休みは、何をしているのでしょうか?

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「実は私、ハンターの資格を持っているんです。日高で取得して、今年で4年目になります。休みの日は、先輩ハンターさんについてほとんど狩猟に行っていますね。仕事がある日でも、朝の作業は一旦9時頃までには終わるので、先輩ハンターさんから『熊がとれたから手伝ってくれ』という連絡が入れば、昼の仕事が始まる13時半ごろまでに解体の手伝いをすることもあります」と、かなりアクティブ。

「平川さんにも、疲れないの!?と驚かれます」と笑う坂本さんですが、酪農の仕事に力を入れながら、好きなことや趣味に時間を割く坂本さんのような人を、ひらかわ牧場は待っていたのです。

hirakawaF_34.JPGハンターの姿に変身いただいた坂本さん。

平川さんは坂本さんの姿を見て「なんだかとても楽しそうですよ。僕もできれば猟に行きたいくらい(笑)」と話します。自然のなかで働いたり遊んだりすることの良さを伝えるために、平川さんは酪農にとどまらず、やりたいことがどんどん湧いてくるようで...

「ハンターさんについてまわる、ハンターツアーができないかな?と考えているんです。ほかにも、せたな町では後志利別川でニジマスも釣れるし、カヌーもできる。道南の最高峰・狩場山で登山もできる。海も近いから遊漁船ツアーをしたり、生産者のところで収穫体験をして朝ごはんを作ったり...。そう考えると、ワクワクしてきますね」(平川さん)

hirakawaF_1.JPG平川さんの後ろにびっしりと並んだ本は、ほぼ全てビジネス書!

「社長はキャンプ場も開きたいと言っていたので、私はネイチャーガイドをやってみたいです」と、坂本さんも乗り気です。

平川さんに「最近うれしかったことは?」と聞くと「坂本さんが来てくれたことですね」と即答。

「本当に素直で、一生懸命仕事をしてくれて、週末は趣味に打ち込んで楽しそう。うん、それが一番うれしかったな」

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明るく挨拶をして、楽しく仕事をする。それは、スタッフを採用するうえで平川さんが重視しているところです。公私ともに充実して明るいスタッフに世話をされているからか、牛もツヤツヤときれいで、何より幸せそうに見えます。

「おいしい草をお腹いっぱい食べると、牛も満足して落ち着くし、搾乳の時もおだやかです。人も同じですよね。自然を体感しながら、牛にも人にも楽しんでもらうということを、これからも大切にし続けたいです」

かつてバイクで旅をして魅せられた北海道の地で、憧れの牧場を叶えた平川さん。大好きな自然のなかで、一緒にのびのびと仕事や趣味に力を注げる仲間を、これからも待っています。

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ひらかわ牧場
住所

北海道久遠郡せたな町北檜山区松岡164-10

電話

0137-83-8958

URL

https://hirakawa-farm.net/

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週休3日も叶う!酪農家の新しい働き方を提案する、ひらかわ牧場

この記事は2025年6月26日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。