
市街地の宅地エリアでありながら、すぐそばには田んぼが広がるのどかな環境。散歩に出かけるのが楽しいと話すのは、昨年末、近隣の滝川市から移住してきた南さんファミリー。同じ空知エリアでありながら、暮らしが豊かになったと感じているそう。そんな南さん夫妻に、美唄を満喫している日々の暮らしについて話を伺いました。
息子の学校のことを考え、移住を決意。1年以上探して見つけた素敵なマイホーム
築25年の中古住宅をリフォームしたという南さんのご自宅。中に入ると、大きな半円窓がある広いリビングで、南 洋さん、由紀恵さん夫妻が迎えてくれました。そのリビング、白壁に木目のフロア、すっきり広々として、まるでモデルルームのようです。すると、バランスボールに乗って跳ねながら、小学2年生の陽希(はるき)くんも元気いっぱいに登場。
「リフォームする際、この子が思いっきり走ったり、跳んだりして遊べるように、壁などをできるだけ取り除いたんです」と洋さん。
もともと滝川に暮らしていた南さんファミリーが美唄へ移住するきっかけは、陽希くんの学校が理由でした。知的障がいのある陽希くん、小学1年生のときは滝川から美唄の養護学校に通っていました。
元気いっぱいの陽希くん。美唄市への移住は、彼の学校がきっかけでした。安心して安全に暮らせる家が見つかり、家族みんなが美唄での生活を楽しんでいます。
「美唄の養護学校は高等部まであります。送迎のことを考えると滝川から12年間通い続けるより、美唄に住まいを移したほうがいいのではないかと考えて、入学前から美唄で家を探していました。ただ、なかなか条件に合う家が見つからなくて、結局1年生の間は滝川から通っていましたが、冬は雪が多くて時間がかかるので大変でした。改めて美唄のこの家に出合えて良かったと思います」と洋さんは振り返ります。
「移住・定住推進協議会のメンバーでもある地元の不動産屋さんに、いい物件が出たら教えてくださいとお願いをしていて、前の家主さんがここを手放すということで、すぐに連絡をいただいて見学に来ました。希望していた条件にぴったり合って、すぐにここだねと決めました」と続けます。
条件はいろいろあったそうですが、「近くの道路の広さや交通量、用水路の有無といった周辺のこと、家の中の造りや広さなど、一番は陽希が安全に生活できるかどうかでした」と洋さん。
美唄市に移住した南洋さん。広々とした庭で家庭菜園に挑戦し、アスパラガスを収穫するなど、自然豊かな暮らしを満喫しています。
さらに、美唄市では移住・定住の際に住宅を購入すると助成があるのですが、中古住宅の場合は昭和56年6月1日以降に建築されたものか、耐震性能が建築基準法、その他関係法令の規定に適合しているものという条件があったため、「できるだけ新しく、耐震基準をクリアしている家がいいと不動産屋さんに伝えていました」と話します。
リビングから見える広い庭を使って、この春、洋さんは野菜をいくつか植えました。
「滝川の家には庭がなかったので、家庭菜園はやっていませんでした。いまの家には広い庭があるので挑戦してみることに。前の持ち主の方が植えたアスパラがちょこちょこ顔を出していて、たまにそれをいただいています」
忙しくて、雑草抜きが追いつかないのが目下の悩みと苦笑します。
便利なAIデマンドバスの運行や、必要なものが徒歩圏内にまとまっているのが魅力
もともと洋さんも由紀恵さんも空知管内の出身ではありません。登別出身の洋さんは福島の大学院で微生物を使った研究をし、横浜で働いていましたが、父親が体調を崩したのを機に、先々のことを考えて北海道へ戻ることに。その際、砂川にある化学会社に転職するため、空知へ。由紀恵さんとの結婚を機に滝川で暮らし始めました。
「滝川時代も今も車で通勤しているのですが、どちらも通勤時間は約30分。時間は変わらないのですが、道路の混み具合が違っていて、美唄から砂川へ向かうほうが車も少なくて、ゆったりした気持ちで運転できるのがいいなと感じています」と洋さん。
また、美唄に越してきて便利だと思ったことのひとつに、AIデマンドバス「のるーと美唄」があると話します。
この「のるーと美唄」とは、人工知能(AI)が予約の状況に応じて、運行ルートを決めながら走る乗り合いのバスのこと。一般的なバスのように決まった時刻表やルートはなく、乗りたい時刻に予約して利用できるので、待ち時間などが少ないという利点があります。
美唄市で運行中のAIデマンドバス「のるーと美唄」。自分の好きな時間に予約して利用でき、JR美唄駅へのアクセスも便利。コンパクトにまとまった市街地は、生活に必要な施設が徒歩圏内に揃っており、とても暮らしやすい街です。
「出張があるときや会社の飲み会があるときなど、自分の車で家を出発できない日には、タクシーのような感覚でJR美唄駅まで利用しています。専用アプリで予約できるし、位置情報も分かるから、もうすぐ来るなと思ったら、指定している乗降場所に行けばよいし、うちのすぐそばに乗降場所があるので、本当に便利」
道内での導入は美唄市が2番目で、現在は実証運行中ということですが、市民からの評判も上々で、おそらく継続されるのではないかと言われています。
洋さんが「のるーと美唄」に乗って行くそのJR美唄駅。特急も停まるこの駅、電車好きの陽希くんのお気に入りスポットでもあります。自宅から徒歩だと20分ほどなので、休みの日に陽希くんと一緒に散歩がてら歩いて行くことも。美唄駅は、駅舎の上やホームなど、いろいろな角度から電車を見ることができるのが良いのだそう。
「駅はもちろん、美唄は、図書館、市役所、郵便局、銀行やスーパーなども歩いて行ける距離にだいたいそろっていて、市街地がコンパクトにまとまっているので便利」と洋さん。とても暮らしやすい街だと思うと頷きます。
美唄市のJR美唄駅。特急も停車し、駅舎やホームなど様々な角度から電車を見ることができるため、電車好きにはたまらないスポットです。
ネガティブなイメージはすぐに払拭。クライミングがきっかけで暮らしを満喫
洋さんが、「私以上に美唄での暮らしを満喫しているのが妻なので、妻にもぜひ話を聞いてください」と笑います。それでは由紀恵さんに美唄での暮らしについて伺っていきましょう。
美唄に越してきてから、由紀恵さんがはじめたのがクライミング。美唄市の体育センターには大きなクライミングウォールがあり、毎週水曜の午前中に開催されているクライミングの教室に参加しています。
「美唄に移住してきてすぐは知り合いがいなかったので、人とのつながりが欲しいなと思っていました。体育館のジムに通ったことがあるという向かいのお宅に住むご主人に話を聞いたら、市の広報を見ればいろいろな教室が載っているよと教えてくださって。早速チェックしたら、本格的なクライミングウォールがあると分かって、すぐにクライミング教室に申し込みました」と由紀恵さん。一度クライミングを体験したことがあり、またやってみたいと思っていたそう。
美唄市に移住後、クライミングを始めた由紀恵さん。美唄市の体育センターには本格的なクライミングウォールがあり、新しい趣味を通じて地域の人々との交流を楽しんでいます。
クライミングの先生は、地域おこし協力隊のメンバーの女性。また、参加者は市内在住の子育て世代が多いとのこと。メンバーは気さくな方ばかりで美唄の街のことや子育てのことなど、毎回色々な話題で盛り上がっているそうです。
「クライミングをきっかけに、美唄での生活が一気に楽しくなりました。クライミングは最初はまったくできなかったのですが、回を重ねるうちに登れなかったところも登れるようになり、ますます楽しくなっています。筋力もだいぶついたので今年の雪かきはバリバリできそうです!」と力こぶを作って笑います。
陽希くんのことがあって移住を決めたものの、由紀恵さんは美唄という街に対して、はじめは不安が強かったそう。
美唄市の体育センターにある本格的なクライミングウォール。由紀恵さんはここでクライミングを始め、友人との輪を広げ、美唄での生活を一層楽しんでいます。
「国道沿いにある古い空き家などがつい目についてしまって、暗い街なのかなとずっと思っていたんです。でも、実際に住んでみたら、まったく違っていて、明るくて、住んでいる人たちもいい人ばかり。街全体で外から移住してくる人を歓迎しようとする気持ちが伝わってきましたし、そのために色んな事に一生懸命取り組まれている街なのだなと、美唄に対するイメージがガラッと変わりました。新しい土地に移る時に必ずある不安、住んでみないと分からない事があるかと思いますが、その不安が払拭される感じがしました」と話します。
また、美唄の人気カフェ・ストウブが自宅から徒歩圏内にあったことは、由紀恵さんにとってプラス要素になったそう。ストウブは、元地域おこし協力隊メンバーが営む石窯で焼いたパンも販売しているお店。くらしごとでも以前取材させてもらったことがあります。
「滝川に暮らしていたころ、ストウブのパンが好きでそのためだけに美唄まで買いに行っていました。だから、近くにストウブがあるというのは、美唄に住む事の楽しみのひとつになりました。偏食の陽希も、ストウブの食パンは大好きでモリモリ食べるんですよ」
福祉も移住者交流も近所付き合いも、そして景色も。すべて思った以上に良かった
不安な気持ちが強い状態からの移住でしたが、実際に暮らし始めてから、クライミングを通じて友人も増え、どんどん美唄が好きになってきていることを実感しているという由紀恵さん。先月から契約社員のお仕事も始めたそう。
「あと、美唄に引っ越して感じたのは福祉の充実度。息子の放課後デイサービスも市で全額負担してくれるなど、手厚さを感じています。障がい者の就労施設も多い気がしますね」と美唄の良さについて話します。
リビングでくつろぐ南さんファミリー。美唄市は福祉が充実しており、障がいを持つ子どもへの支援も手厚いため、安心して子育てができます。
もう一つ、由紀恵さんがとてもいいと感じているのが、市が主催の移住者交流会。「年に数回あるそうで、実はこの春に初めて参加したのですが、とても楽しかったんです」とニッコリ。春は、美唄の特産品でもあるアスパラの収穫体験を行いました。移住者をはじめ、移住・定住の支援をしている市民の方たちも参加し、とても盛り上がったそう。
「市のほうで、こういった移住者の横の繋がりを作ってもらえる機会があるのは嬉しい。移住者が孤立しないようにフォローしてくれる温かさを感じます。また交流会には参加したいと思います」。
街がコンパクトであることや暮らしやすいシステムや制度など、ハード面の良さはもちろんですが、由紀恵さんも洋さんも、「美唄の人たちは優しいと思う」と口をそろえます。昨年の年末に引っ越してきた際、年明けすぐの町内会の新年会に誘われ、洋さんが参加。
田園風景が広がる美唄市で、笑顔を見せる洋さんと美唄市総務部広報情報課DX・まちづくり推進係の猪俣さん。「美唄の人々は皆親切で、地域に溶け込みやすい温かさがあります」と笑顔で話します。
「少し緊張しながら参加したのですが、皆さん、すごく気さくでいい人ばかり。陽希の障がいのことも、皆さんの前で伝えることができたのが良かった」と洋さん。今では、年の差があるものの近所のお父さん同士で井戸端会議をしていることもあるとか。町内になじんでいるのが分かります。
取材を終え、一緒に外へ出ると、田植えが終わったばかりの田んぼが視界に入ってきました。
「ここの眺めもいいでしょ?夕焼けがとってもきれいなんですよ」と由紀恵さん。言葉の端々に、満たされた暮らしを送っているのが伝わってきました。
田植えが終わったばかりの田んぼを背景に、抱き合う由紀恵さんと陽希くん。美唄市は、人々の温かさに触れながら、充実した生活を送れる場所だそうです。
- 美唄市 南さんご家族