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まちおこしレポート
羅臼町

唯一無二の自然。地域おこし協力隊のOBと現役隊員が語る羅臼20250804

唯一無二の自然。地域おこし協力隊のOBと現役隊員が語る羅臼

知床半島の東端ある羅臼(らうす)町。世界自然遺産にも選ばれている、ほかにはないダイナミックな自然が町の大きな魅力。口を揃えてそう話すのは、羅臼町の地域おこし協力隊OB・佐脇星(ひかり)さんと、現役の地域おこし協力隊の笹崎浩丸(ひろまる)さん。今回は、この2人にそれぞれのこれまでの歩みをはじめ、なぜ羅臼町の地域おこし協力隊になったのか、協力隊としてどのような活動をしているか(していたか)を羅臼町の魅力も含めて伺いました。

都会より価値あるものがたくさんある羅臼。新卒で地域おこし協力隊として着任

はじめに話を伺うのは、協力隊OBの佐脇星さん。兵庫県神戸市出身で、近畿大学を卒業してすぐの2021年4月に羅臼町へ協力隊として着任しました。現在、羅臼で暮らし始めて5年目を迎えます。それにしても、新卒で協力隊というのは珍しい気もしますが...。

rausukyoryokutai02.jpg元羅臼町地域おこし協力隊の佐脇星さん。卒業後も羅臼を拠点として活動中

「理由は2つあって、まず、大学を出てすぐに会社でバリバリ働きたいという気持ちになれなかったんです。もうひとつは、ちょうど大学のとき、世界中がコロナ禍で、留学やワーキングホリデーに興味があったのに、どこへも行けなかったということがあり、日本の中でも関西から遠くて、日本っぽくない海外のようなところへ行きたいと思ったからなんです」

大学から就職活動を行うように促され、夏ごろに2社ほど受けたそうですが、「ひとつの会社の最終面接で、そこの社長さんから『あなた、この仕事をやりたくないと思うよ』と見抜かれてしまい、逆に『そうなんですよぉ』と言ったくらいにして...」と笑います。結局、卒業2カ月前に、卒業したあとどうしようかと動き始めました。

「遠くへ行きたいと思ったので、地方の移住情報を調べていたら、ちょうど地域おこし協力隊という制度があると知りました。そして、子どものころから自然や動物が好きだったこともあり、協力隊と世界自然遺産というキーワードが合致して、羅臼町にたどり着きました」

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北海道には来たことがあったものの、羅臼町へ来たことはなかったという佐脇さん。オンラインで役場の人と面接をし、採用が決まって、初めて羅臼を訪れます。不安などなかったのだろうかという疑問がよぎりますが、大学時代の話を聞くと、佐脇さんにそんな質問は不要だったと分かります。

「コロナ禍になる前は、一人であちこち旅をしていました。海外もよく行きましたね。お金がなかったので東南アジアが多かったのですが、アメリカも車で横断しました。コロナがはじまってからも行ける範囲で国内を回っていて、気付いたら40ほどの都道府県を回っていたので、せっかくなら47全部行ってしまおうと全部の都道府県を制覇しました」

羅臼へ来ることも、最初は旅のような感覚だったようです。行ったことがないところへ行く、やったことがないことをやる、新しいことに触れるのが好きだという佐脇さん。中でも子どものころから自然や動物に関心があったそう。

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「小学校に入る前か入ってすぐくらいから、野生動物の生態が書かれた物語のシートン動物記にはまりました。中でもオオカミ王ロボが好きで、オオカミに憧れを持つようになりました。中学、高校はそんなことも忘れて、一般的な普通の学生時代を過ごしていたのですが、大学に入ってから、一人旅などをはじめるようになって、子どものときに動物や自然が好きだったことを思い出し、都会にいるよりも自然のそばにいるほうが自分としては幸せだなとあらためて気付きました」

都会にある高いビルや大きな建築物は人が作ったもので、人さえいればどこにでも作ることができます。しかし、自然や生態系というのは人が作れるものではなく、そこへ行かなければ見られないものや、そこにしか生存していないものが多いと話し、「羅臼には、都会より価値のあるものが多いと思ったんです」と続けます。

協力隊卒業後は、フルリモートで大阪の旅行会社に勤務

佐脇さんの地域おこし協力隊としての活動は、町の情報発信が中心でした。広報関係の写真や動画の撮影を行い、編集もして発信まで行っていたほか、移住相談に対応することもありました。

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「協力隊の肩書きがあって良かったと思うのは、町内のいろいろな事業者のところへ気軽に訪問しやすいこと。広報を担当していたからというのもあると思いますが、例えば、漁師さんに定置網漁が見たいから船に乗せてほしいとか、サケ・マスの孵化場で放流するところを見せてほしいとか、そういうのが言いやすかったんですよね。ほかにも、町内の幼稚園、小学校、中学校のイベントにも顔を出させてもらい、子どもたちと触れ合うこともできましたしね」

町の広報誌で2カ月に1回、地域協力隊がどんなことをしているのかを紹介するコーナーがあり、「町民の方の多くに、名前と顔は知ってもらえていたかもしれない」と話します。広報誌を見たよ!と声をかけられることもあったそう。

協力隊を卒業した現在は、関西電力の社内ベンチャーとしてはじまった旅行会社「TRAPOL(トラポル)」の社員として、羅臼にいながら完全リモートワークで働いています。

「この会社と出合ったのも、TRAPOLが知床ツアーを組んでこちらへ来た際、私が協力隊として地域側のコーディネーターとして関わったのがきっかけでした。TRAPOLが行っているのは地域活性化事業。日本各地のまだ観光地化されていない場所にいる面白い人やモノを掘り出すことをやっています。そして、そこに観光コンテンツを作って運営まで行うことも。また、自治体と連携し、どんなターゲットに来てもらいたいか、そのためにはどんなことをすればいいかなどをアドバイスするコンサル的なことも行っています」

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佐脇さんが現在担当している仕事のひとつは、2泊3日で行う沖縄の無人島からの脱出ツアーの企画。漂流物を拾い集めて、いかだを作って脱出しようというものだそう。ほかにも関西電力と関係が深い自治体の地域活性などに携わっています。

「現地でやる仕事もあるため、月に1、2回は出張で道外へ行きます。去年は7回も沖縄に行きました。まだ、羅臼につながる案件はできていないので、早くやりたい、やらなきゃと思ってはいるのですが...」

羅臼に残る理由は、暮らしやすさと、ハンターとして一人前になりたいから

本州や沖縄へ行く機会も多いのであれば、なぜ羅臼に残っているのかという疑問を持ってしまいますが、「友達にもよくなぜ羅臼に帰るのかと聞かれます」と笑います。

「その理由は、羅臼が自然豊かで暮らしやすいから。そして、あと、もう一つ理由があって、ちょうど狩猟免許を取ったんです。鉄砲も取得し、羅臼の猟友会にも所属。秋くらいから撃てるようになるかなと考えているところです。今、私が一番やりたいことがこのハンター。1年や2年経験したくらいでは一人前のまともなハンターになれないと思うので、羅臼の猟友会に腰をすえて、5年、10年かけてハンターとして成長したいと思っています」

rausukyoryokutai20.jpeg猟友会での有害駆除中の様子

羅臼に来て、漁師、猟師、酪農など、一次産業を生業にしている人たちとたくさん出会い、「もともと人間はこうやって命と向き合い、命をいただき、生きてきたんだよなと気付き、猟に興味を持ったんです」と続けます。また、野生動物たちを間近で見たいという思いもあったそう。

「猟を羅臼の観光と結び付けられたらとも考えていますが、今はまだペーペーなので(笑)。まずは自分が経験を積んで、何か観光や体験とつながるようなことができたらいいなと思います」

羅臼で暮らす魅力について尋ねると、「やっぱり自然環境ですね」と即答。ほかの市町村にもたくさんの豊かな自然はありますが、「ほかよりも分かりやすく飛びぬけた自然を有しているのが羅臼。そしてそこに暮らす動物も魅力だと思います」と話します。

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最後に、羅臼への移住や地域おこし協力隊を検討している人へメッセージをお願いすると、「神戸の友達に、よくそんな何もないとこにいるね、寂しくないの?と言われます。そのときにいつも、私は一人でいることや何もないところにいることに対して、寂しいとか怖いとは思わないし、むしろ贅沢なことだと思うと伝えています。都会にいると、比べるものが多すぎて逆に疲弊してしまいそうな気もしますし...。そういう考え方ができる人は羅臼での暮らしがハマると思いますね」と静かに話してくれました。

委託型で着任。協力隊の肩書きがあると地域で活動する土台づくりがしやすい

次に、現役の地域おこし協力隊の隊員である笹崎浩丸さんに話を伺います。昨年10月、羅臼町に夫婦で移ってきた笹崎さん。2人とも岩手出身ですが、これまで全国各地で暮らしてきたそう。

rausukyoryokutai09.jpg現役の地域おこし協力隊の笹崎浩丸さんさんと奥さんの順子さん

「岩手の釣具店で働いたあと、京都や奈良で観光ガイドの仕事をしていました。そのあと、温かいところで暮らしてみたいねと愛媛へ。6年ほどいたのですが、北国出身の僕たちには暑さが厳しく、やっぱり北に戻ろうということになりました」

愛媛は果物が豊富で安くて、瀬戸内海の魚もおいしかったそうですが、夏場は朝起きたときから気温が30度という日も...。北国育ちの笹崎さん夫妻にはこれがキツかったそうで、寝ても体が休まった感じがしなかったと振り返ります。

移住先に北海道を選んだのは、奥さまの順子さんたっての願いから。「僕は最初反対したんですけど、妻は北海道に憧れがあって、一生に一度でいいから住んでみたいと言われ...。そこまで言うならと北海道で移住先を探すことにしました」と笑います。

いろいろ調べる中、道東の阿寒で地域おこし協力隊を探していると知ります。

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「語学が得意な人で外国人をガイドできる人という条件で募集していて、僕は英語もできるし、もともと京都や奈良、愛媛でも海外の人たちの観光ガイドをしていたので、ちょうどいいと思い、阿寒に行くことにしました」

これまでは、海外からの観光客に寺院やお城といった観光スポットのガイドやショッピングの案内などを行っていた笹崎さん。阿寒ではこれまでの観光ガイドと違い、阿寒湖周辺の自然ガイドを行うことに。

「自然のガイドの経験はなかったので、自分でいろいろ地域の自然や生き物の勉強をしていくうちにどんどんのめり込んでいきました。もともと、釣りが好きだったこともあり、自然の中のガイドが面白かったんですよね」

阿寒での地域おこし協力隊の期間が終わったあとも、NPO法人の阿寒観光協会に在籍してガイドの仕事を続けていました。

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「阿寒に暮らしながら、あちこち妻と見て回っているうちに北海道にはまだまだ素晴らしいところがいっぱいあるなと感じていました。特に釣りをするのに釧路や羅臼にちょくちょく訪れていたのですが、そんな中、もし次に暮らすなら羅臼がいいかなと考えるようになりました」

阿寒の観光協会で3年ガイドを務めたあと、羅臼の地域おこし協力隊に応募。先に話を伺った佐脇さんが「雇用型」だったのに対して、羅臼町と委託契約を結んで活動を行う「委託型」という枠での採用でした。委託型は勤務形態が柔軟で、副業も可能。

「阿寒でやっていたガイドの仕事をそのままやっていいということだったので、今は個人でガイドを行っているほか、役場から依頼があればイベント時のガイドや、地域を盛り上げるための行政主体のツアーのアテンドもやっています。日常的なものでは看板に書いた英語の表現が合っているかの確認を頼まれることもありますね」

個人では、「Hiro&Noki Adventure Tours」という屋号で、主に海外からの観光客向けに釣りや野鳥を含めた動物のガイドを行っています。このサイトは英語で書かれており、世界自然遺産を有する知床エリアの自然に触れたいという海外からのゲストから予約がたくさん入ってくるそう。

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「日本人の方のガイドもしますが、95%が海外からのお客さまですね。釣りに関しては、海釣りも渓流釣りも長年やってきているので問題ないのですが、知床エリアの野生動物の知識に関してはまだまだなので、毎日のように勉強しています。

本を読むのはもちろん、ガイドの仕事が入っていない日もフィールドへ出かけて学びを深めています。

「僕が委託型の地域おこし協力隊になることを選んだのは、やはり初めて住む場所でガイドをスタートさせるには正直不安もあったので、とにかく最初の3年は協力隊として町にとけこみ、地域や自治体とも繋がりを持ち、土台作りができたらという思いからでした。実際、協力隊でよかったと思うこともあります」

佐脇さんも言っていたように、地域おこし協力隊という肩書きがあることで、役場の方が地元の事業者とつないでくれて、事業者の方も快く対応してくれるので、仕事面でもプラスになっているそう。

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「委託型のおかげで、自分たちのやりたいことをきちんと形にできていると思います」

ほかには見られない素晴らしい景色。ガイドする言葉にも説得力が生まれる

羅臼へ移り住む前、ほかにも移住の候補先があったという笹崎さん。羅臼を選んだのは、ほかのエリアに比べてずば抜けている自然のダイナミックさが理由でした。

「僕は旅も好きで、世界中を旅して、素晴らしい自然の景色を各地で見てきました。その中でも羅臼は、自然の美しさに野生動物が絡む景色を身近なところから日常的に見ることができるのが魅力だと思います。町の丘の上から見えたり、船に乗って5分、10分いけば見ることができたり、世界でもこんな場所は珍しいと思います」

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たとえば、マッコウクジラ。羅臼以外でも見られるスポットはありますが、羅臼の場合は町の丘の上からでも見られるそう。また、シャチの繁殖期である初夏になると、同じく丘からでも100匹近くのシャチの群れを見ることができるとか。

「町のそばでこんな壮大なスケールのものが見られるなんて、おったまげですよ(笑)。羅臼に来てからは、毎日のように自然や動物に関して驚かされることばかりです」

毎日のようにフィールドに出て勉強しているという笹崎さんは、「長年いろいろな観光ガイドの仕事をしてきて、お客さんに感動を与えるためにはどう言葉を選べばいいかを考えてやってきました。でも、羅臼は目の前に広がる自然そのものに力があるから、ガイドをするときも言葉に説得力が生まれるんですよね。だから、シンプルな言葉だけでも感動してもらえます」と話します。

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北海道に暮らしたいと最初に提案した奥さまの順子さんも、笹崎さんの隣で「羅臼の自然は本当にすごい」と大きく頷きます。順子さんは笹崎さんの仕事のサポートでガイドに同行するほか、経理なども担当。おいしいものが大好きで、「羅臼は魚がおいしくてびっくり。季節の魚をご近所さんからいただくことも多くてありがたいです」とニッコリ。羅臼は食にも恵まれた地域だと実感している様子です。

佐脇さんと同様、笹崎さんに羅臼への移住や地域おこし協力隊を検討している人へメッセージをお願いすると、「正直、甘いことは言いません」とキッパリ。

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「僕は阿寒で協力隊をやっていた経験もあるので、それも踏まえて言うと、人口も少ない小さな町村に入って活動する以上、そこのコミュニティーに積極的に飛び込もうとする気持ちがないと難しいと思います。羅臼は市街地がコンパクトにまとまっている狭いまちなので、いい意味で地域の皆さんはとても仲がいいし、付き合いも長い。その中に飛び込んでいける人でなければ難しいでしょうね。自然が好きだから、動物が好きだからと安易な気持ちや憧れだけで来てしまうと、閉塞感や孤独を感じてしまうと思います。でも、羅臼の人たちは、こちらから懐に飛び込んでいくと、温かく受け入れてくれる人ばかり。そこに飛び込める勇気や覚悟がある方はぜひと思います」

また、町には都心部のようないわゆる娯楽施設がないため、自分で暮らしを楽しめる人が向いているとのこと。その上で、「僕たちにとって、羅臼は最高の場所です」と満面の笑みで締めくくってくれました。

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羅臼町地域おこし協力隊笹崎浩丸さん、協力隊OB佐脇星さん
羅臼町地域おこし協力隊笹崎浩丸さん、協力隊OB佐脇星さん
住所

羅臼町役場/北海道目梨郡羅臼町栄町100番地83

URL

https://www.rausu-town.jp/

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この記事は2025年7月2日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。