
人材不足が顕著といわれる建設業界。特に地方都市の建設に関係ある中小企業においては、経営者の多くが頭を悩ませているところです。美唄にある永井電機もそんな会社の一つでした。昭和27(1952)年に創業し、70年以上の歴史を誇る同社が、士別市にある宮武電機グループに入ったのは令和4(2022)年。将来的なことを考えての合併でした。先々を見据え、グループ全体で働き方の見直しや人材育成などを積極的に行い、仕事の幅も広げている同社。今回は、永井電機の常務・木村和貴さんと、同社で新しく設けた建設ディレクターの武田渚さんにお話を伺いました。
違うエリアの同じ電気工事の会社同士が一緒になることのメリット
まずは会社のことから伺っていこうということで、木村常務に登場してもらいました。もともと宮武電機の社員だったという木村常務は、合併(M&A)を機に永井電機へ。
「電気工事の仕事には、外線工事と内線工事の2つあります。外線工事というのは、発電所や変電所から電柱を経由して電気を建物などに供給するための工事。電柱の設置なども行い、高圧電気を扱います。一方、内線工事というのは、住宅をはじめ、ビルや施設といった建物内で電気を利用できるようにするための配線工事です。コンセントやスイッチなどの設置も行いますね。当社も宮武電機も内線工事を請け負っています」
こちらが常務・木村和貴さんです。
どちらの会社も、官公庁と民間の仕事がだいたい半分ずつ。民間は、それぞれ地元の工務店や建築会社のほか、農業系のプラント工事の電気配線を依頼されたり、土木工事の現場事務所を設置する際の電気工事なども頼まれたりすると言います。同業者同士が合併したのは将来を見据えてのこと。宮武電機は、本社は士別市ですが留萌や千歳など道内各地の仕事を手掛けており、永井電機も美唄市内を中心に、空知エリアの仕事を幅広く請け負っていました。今後ますます人口減に伴い人手不足に陥るであろうと考え、合併することで互いの課題を解消し、土台を固めようという考えだったそう。遠方の仕事などは、互いの立地をうまく生かして現場に社員を派遣することも考えています。
「まだ一緒になって2年、もうすぐ3年になりますが、グループ内で仕事を割り振りしているほか、今は宮武電機と永井電機の社員の人材交流などを行っています。みんな技術者なので、情報交換を行うなど、プラスに作用していると感じています。違う視点で仕事を見ることができるきっかけにもなるかなと思います。また、経験の浅い若手も交流させることで、互いに刺激を与えたり、悩みを聞いたり、共に成長していけるのではないかと考えています」
現在、宮武電機には27人、永井電機には19人の社員が在籍。宮武は若い技術者が多く、一方で永井にはベテランが多いそう。人事交流を行うことで、永井電機のベテランから宮武電機の若手が学ぶことも多く、技術力向上など人材育成にも役立っているそう。
電気工事って難しそう・・・と思う方もいるかもしれませんが、未経験スタートの方が多いんだそう。
「宮武電機では若手を中心に社内で技能大会を開催していて、永井電機の社員にも参加してもらっています。若手社員が会議で問題などを決め、ベテラン社員が審査をするというものですが、こういう技能大会を実施することで、両社の社員の意識向上、技術力アップに繋がっていると思います」
合併したことを機に、給与、休み、福利厚生なども変わったそう。「2社で違いが結構あったため、それぞれの良いところを生かしながら内容を変えています。それによって、働きやすさや待遇も良い方へだいぶ変わったと思います」と木村常務は話します。
「最近は、グループ全体で年間休日数をあげようと努めています。今年で107日と設定していますが、来年以降は120日を目指したいと考えています」
写真左が永井電機の代表取締役社長 永井仁さんです。
面倒見のいい人が多い美唄。これからの可能性に期待できるまち
もともと士別市に住んでいた木村常務。現在は単身赴任で美唄に暮らしています。
「僕自身は名寄出身で、妻は士別出身。僕は農業や酪農関係の商社で総合職として勤務していました。転勤族だったのですが、ちょうど娘が小学校へ上がるタイミングがコロナ禍で、道外には行きたくないというのもあり、妻の実家のある士別の宮武電機へ転職しました」
美唄に暮らしはじめてからのまちの印象を伺うと、「美唄はこれからの可能性がいろいろ感じられる」と話します。ハード面でいえば、スキー場の大型改修をはじめ、老朽化した公共施設の多くがこれから建て直しをするであろうと考えられ、それに伴って、「時代にマッチしたまちづくりを行っていくのだろうと見ています」と話します。近年は、富良野とつながる道が開通したことで人の流れも変わりはじめているほか、冬には海外からのたくさんの観光客が雪遊びを楽しみに訪れています。その数は年々増加しているそう。
「JR美唄駅周辺もイルミネーションだけでなく、スポットライトを設置。これはうちも関わらせてもらっていますが、これから新しいまちづくりをしていこうという空気感がありますね」
美唄の商工会議所の青年部やJC(青年会議所)にも参加している木村常務は、「会議や会合に参加すると、皆さん、移住者である僕のことも気持ちよく受け入れてくれるんです。美唄の人はフランクで話しやすく、しかも面倒見のいい人が多いという印象があります」と話します。
「長年美唄で頑張ってきた永井電機の一員として、これからも地元にしっかり根差して事業をやっていきたいと考えています。また、携わる仕事のエリアも広域にしつつ、そこで得たものを美唄に還元できればと思っています」
「声をかけてくれたりと、迎え入れてくれた美唄の方々にはとても感謝しています」と木村常務。
工事部で活躍する女性がいてもいい時代。新たに設けた建設ディレクターの職種
合併を機に会社として新しい取り組みや働き方なども推進している永井電機。同社で、木村常務が新しい職種として採用を行ったのが「建設ディレクター」です。
「電気も含め、建設業というのはいろいろ専門的な書類作成が必要です。現場代理人が現場も見ながらそれらを手がけるケースがほとんどなのですが、書類作りや関係各所とのちょっとした連絡などをサポートする人間が必要になります。永井電機は総務の人がそのサポートをしてくれていたのですが、専属でそれを行う建設ディレクターを設けることで、それぞれがそれぞれの仕事に集中できるのではないかと考えました」
さらに、近年は電気や土木など建設業全体で女性たちが活躍。事務方だけでなく、現場に入って活躍している女性が増えています。そうした世の中の流れも踏まえつつ、「うちも工事部に女性がいてもいいのではないか」と考えたそう。
そして、その建設ディレクター第1号として採用になったのが、武田渚さんです。
「入社から1年半ですが、彼女がいてくれるおかげで、現場が回っていると言っても過言ではありません。戸建ての現場の場合、施主さんの奥さまと女性同士で話すことで打ち合わせがスムーズにいくケースなどもあり、重要な戦力です。今は、現場にどんどん足を運んでもらって、さらに経験値を上げてもらえたらと考えています」
こちらが武田渚さんです。
周りに支えられながら資格取得や独り立ちを目指す、建設ディレクター第1号
では次に、建設ディレクターの武田さんに話を伺おうと思います。
武田さんは埼玉県出身。東京で保険の営業職に就いていましたが、北海道出身のご主人と結婚し、ご主人の希望でUターン。ご主人の仕事の関係で、最初は中標津町に、次は札幌で暮らしました。武田さんはそれぞれの町で車会社の受付、テレアポの仕事をしていたそうですが、一昨年にご主人が美唄市役所に転職することが決まり、美唄へ移住しました。
「美唄のまちのことを何も知らなかったので、まずはまちのことも知りたいし、人と話す仕事をしたいと思っていたので、最初は農業系の会社に就職しました。ただ、契約社員だったので、正社員として長く働けるところを探していたとき、永井電機で事務職を募集していたので面接に来たら、常務から『建設ディレクターをやってみませんか』と声をかけていただき、これまでやってきた仕事の経験が生かせるかなと思って、挑戦することにしました」
もちろん建設業界、電気業界は初めて。右も左も分からないところからのスタートでしたが、「基本的に現場代理人のサポートで、書類作りや現場の打ち合わせと聞いていたので、それならできるかなという感じでした」と話します。また、工事部は男性社員ばかりという環境でしたが、「保険やテレアポは女性が圧倒的に多く、逆に男性ばかりの職場は経験がないので、それもいいかなと思って入りました」と笑います。
たまに現場に行くと、武田さん持ち前の笑顔もあって、和やかな空気になることも多いそうですよ!
最初の半年間は、毎日のようにいろいろな現場に連れて行ってもらい、その日現場で見たこと、聞いたこと、教えてもらったことを日報のような感じでノートにびっしりと書き込み、それを先輩たちにチェックしてもらっていました。
「毎日みなさんがコメントをいただけるので励みになりました。電気のことを何も知らなかったので、本当にイチからスタートでしたね。書類作りに関しては、これまで総務で担当されていた先輩から教えてもらいながら引き継ぎしました。自分でも過去の書類を遡って調べたりもしています」
こちらが見せてくださったノート。武田さんの努力の結晶と、先輩たちの温かいコメントが印象的です。
ほかにも建物の定期的な消防点検に関する仕事もあり、それの日程調整を先方と行うことも。「このへんの調整ごとは、テレアポや営業の経験が役立っています」と話します。
今は、ひとりで現場に行くことも増え、打ち合わせをしたり、作業の進み具合を確認したりしています。「事務所にいるときの仕事は、営業内勤という感じですかね」と話し、資料作りのほか、資材関係の発注やお客さまとのやり取りやソフトを使って積算をすることもあるそうです。
「正直、難しいこともいっぱいで、たまに投げ出したくなるときもあるのですが(笑)、とにかくもうやるしかない!と思って頑張っています。考えながらスケジュールを組み立てたりするのがキライではないので、もっと仕事を覚えて、どんどん一人でこなせるようになりたいです」
専門知識も必要で、ある程度の経験値も必要な仕事。「分からないことはとにかくすぐに周りの人に聞くようにしています」と話し、「皆さん優しく教えてくれるのでありがたいです。逆にパソコンの使い方が分からないというベテランの方には私が教えることもあり、お互いに助け合いながら仕事を進めています」とニッコリ。工事部はベテラン社員が多いこともあり、武田さんを娘のような存在としてかわいがってくれるそう。
東京、中標津、札幌など道内外数多くの場所を巡ってきた武田さん、今は美唄での暮らしがピッタリとはまったようです。
そして最近、美唄市内に家を建てたという武田さん。はじめは冬の雪の多さに驚いたと話しますが、美唄の暮らし自体はとても気に入っていると話します。休みにはご主人とドライブに出かけ、各地のおいしいものを食べるのが楽しみなのだとか。
最後にこれからのことを尋ねると、「仕事に関しては、住宅の現場の段取りなどを一人でできるようになりたいし、施工管理技士や第2種電気工事士の資格も頑張って取得したいと考えています。あと、家も建てたので、ゆくゆくは子どももほしいと考えていますし、家庭と仕事の両立をうまくやっていけたらと思います」と語ってくれました。