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北海道で暮らす人・暮らし方
遠別町

心地よい隙間とクラフト感ある暮らしが叶う、北海道のひだりうえ20250417

心地よい隙間とクラフト感ある暮らしが叶う、北海道のひだりうえ

「北海道のひだりうえにあります」。初めて会う人に遠別町の紹介をする際、そう話すNPO法人えんおこの代表理事の原田啓介さん。「遠別と言っても、どこですか?と大体聞かれるので、先に自分から伝えている」と笑います。原田さん、実はくらしごとのカメラマンとしても活躍しているほか、得意のイラストでくらしごとスタッフの似顔絵も描いてくれるなど、くらしごとスタッフとも旧知の仲。2018年にくらしごとの記事にも登場してもらいましたが、2025年の春から遠別町で新たに地域おこし協力隊を募集するということで、町で暮らすことの魅力をはじめ、元協力隊として新たな協力隊に期待することなどをざっくばらんに伺いました。

20250327_enoko_harachannote.jpg撮影した日はあいにくの天気でしたが、運がよければ海岸からこんな美しい利尻富士が見られます(原田さん撮影)

バリバリの営業マンから一転。フラリと生まれ故郷へUターン

2018年の記事も併せて読んでいただければ、より深く原田さんのことが分かってもらえると思いますが、ひとまず原田さんのこれまでを再度教えてもらいました。

遠別町で生まれ育った原田さん。隣町の高校を卒業後、江別の北翔大学へ進学します。遠別に戻ろうという気はなく、大学を出たあとは札幌で就職。専門学校の営業職として生徒募集に奔走し、朝早くから夜遅くまで仕事に打ち込みます。

「営業の成績は結構良かったんですよ。でも、28歳のときにキャリアが1つ上がって、部下を何人か抱えるようになると、自分の数字だけでなく、部下の数字も見なければならなくなって...。いろいろ腑に落ちない部分もあったり、朝7時から夜中の12時を超えるまで仕事をしたりして、これをずっと続けるのは無理があるなと思って転職を考えるようになりました」

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都市部から離れた場所でのんびり暮らしたいという気持ちもあり、移住も含めて転職先を探そうと動き始めた原田さんは、故郷の遠別でちょうど「地域おこし協力隊」を募集していることを知り、応募。今でこそ、地域おこし協力隊の隊員が全道各地で活躍していますが、当時は道内で地域おこし協力隊を導入している自治体は少なく、実績もほぼない状況でした。

「遠別は、道内で2番目くらいに協力隊の導入をした自治体なんです。ある意味、先駆けですね。僕が募集を見つけたときはすでに先輩の協力隊員の方たちがいて、補充要員を探す感じでの募集でした。よくあるミッションありきの募集ではなかったんです」

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地域おこし協力隊の隊員としてUターンしてきた原田さん。やることが決まっていたわけではなかったので、最初のうちは除雪や高齢者の見守りなど、いわゆる「お手伝い」をしていたそう。

「そういえば、おばあちゃんの卓球の相手をしたこともありましたね(笑)。当時、町の人には、呼べば来てくれるお手伝いの人と思われていたと思います。位置付けがまだフワッとしていたので、もしかしたらただ遊んでいる人って思われていたかもしれないですけど」と笑います。

とはいえ、故郷である遠別町のために何かできることをしたいと考え始めていた原田さん。札幌で働いていたときと違い、プライベートな時間が増えた分、自分にできることを探しはじめます。

20250327_enoko_enbetsu_27.jpgくらしごとメンバーの似顔絵やステッカーのイラストも原田さん作!見た人をクスッとさせるかわいらしいイラストです

「営業マンをやっていたときと違って、スキルを身につけられる時間があったので、いろいろ試していましたね。イラストもその一つです」

町の広報誌に載せる高齢者の方の似顔絵を描いたのをきっかけに、町の人たちの似顔絵を描くようになり、イラストやデザインの勉強も始めます。さらに町の美しい四季折々の風景をカメラに収めようと一眼レフを購入し、カメラのスキルも磨きます。

スキルも知識も生かせる。小さな町だからこそひとりが与える影響力は大きい

地域おこし協力隊の任期は大半が3年と言われていますが、原田さんは1年目を終えた段階で、先輩隊員らと共に「NPO法人えんべつ地域おこし協力隊」を立ち上げ、地域おこし協力隊を卒業します。

「高齢者の方の見守りなど、隊員が卒業してしまってその活動が途切れてしまうのは困るという町の方たちの意見もあり、隊員が卒業したあとも活動を続けていくためにNPO法人を設立しようとなりました。それで、僕もじゃあそのNPOの職員になりますみたいな感じで。みんなでNPO法人を設立し、地に足をつけて活動していってほしいという町の意向もあり、当時の隊員と地域移住コーディネーターの4人で立ち上げました」

20250327_enoko_harachannote_2.jpg2024年の時のえんおこメンバー(原田さん撮影)

移住交流事業、町の情報発信・PR活動など今も続いている活動のほか、当初は小・中学校へのタブレット導入のサポートなども行っていたそう。現在は、「NPO法人えんおこ」という名称に代わり、原田さんを含め7人で活動しています。活動内容はマイナーチェンジしているそうですが、町の活性化につながることという主軸は変わらず、町から委託を受けてさまざまな仕事をしています。

そのひとつに、日本最北の農業高校・遠別農業高等学校の魅力を発信するサイト「遠農物語」があります。原田さんがコツコツ身につけてきた撮影や取材のスキルを活かし、サイトを運営しています。さらに高校の学校案内やポスターの写真、デザインも手掛けたそう。また、原田さんはこれらのNPOの仕事のほか、「inakaworks」という名義で撮影やデザインの仕事も個人で請けています。

20250327_enbetsu_ennoHP.jpg「遠農物語」のサイトに掲載されている写真も、もちろん原田さんが撮影したもの

そうして町の人との交流もどんどん広がっていった原田さん。「町民の方たちと関わる場面が多く、その分、必要とされる機会も随分と増えました。腕試しをする機会もたくさんもらいましたし、本当にありがたいなと思います。ほんのたまに、面倒だなぁと感じることもありますけど(笑)、でもそれがこの小さな田舎町の良いところでもあるのかな」と話します。町の人たちと距離が近い分、一次産業が盛んな町ならではで、おいしいものをたくさんいただくこともあるそう。

以前、原田さんがnoteに綴ったものの中に「田舎に住んでいていちばん感じることは、ちいさな力でも変えることができる世界があること」という一文がありました。そこには、都会ならば埋もれてしまうようなスキルや知識も、人口2500人足らずの町では大きな影響力を持つということ、自分のスキルが地域に変化を与える経験をダイレクトに感じられると続けて書かれていました。

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「言ってしまえば、井の中の蛙なんですけどね。でも、必要とされるところに自分のスキルを直接的に提供できる経験というのは、都会ではなかなか得難いものだと思います。人口が少ない分、いろいろな意味で『隙間』があるというか、競合がいないからチャンスが転がっているんですよね」

自分のペースでやりたいことを形にできる「隙間」というチャンスがある

先輩たちとNPO法人を立ち上げて12年目に入る原田さん。遠別にUターンしてから13年目になります。戻ってきてからの町での暮らしについて尋ねると、「変化のない暮らしを送ろうと思えば、それもできたかもしれないけれど、さっき言った『隙間』が結構あるから、そこでいろいろと自分のペースで遊べるんですよね」と話します。

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「僕で言うと写真とかイラストとかもそうなんですけど、ガチの本職の方がそこらへんでバチバチと競っているところだと、趣味ではじめるにしても最初のハードルが高かったり、踏み込むときにちょっと緊張すると思うんですけど、遠別にいると人が少ない分、そういうことがないし、人の目も気にする必要がない。仕事としてもそうですし、個人的な遊びでも、1年、2年と時間をかけながら少しずつ覚えていけるものがあったり、身につけられるものがあったりして、しかもそれを自分で選んでいけるんです。なんか、カッコよく言えば『クラフト感のある暮らし』ができているっていう感覚があるんですよね」

原田さんと話していると、自分のペースで好きなことをやりながら楽しく暮らしている様子が伝わってきます。都会で働き、暮らす人たちが抱えがちな、行き場のないストレスのようなものは微塵も感じられません。

そんな原田さんですが、最近ちょっと手詰まり感を感じているとのこと。

「NPO法人の代表としてみんなを引っ張っていく立場で活動していますが、ずっとやっているとマンネリ化してしまう部分も出てきてしまって。活動にもっと幅を持たせたいし、やりたいこともあるんですが、実際のところマンパワーが足りないのが現状です」と続けます。

と、ここで登場したのが、遠別町役場まちづくり推進課企画振興係の佐々木礼央さん。「この春から、そんな原田さんと一緒にえんおこで活躍してくれる地域おこし協力隊を募集することになりました!」と話します。

地域おこし協力隊をきっかけに「隙間」でチャレンジ

道内各地の市町村で地域おこし協力隊を募集し、多くの隊員が活躍。そのまま定着する隊員が増えているエリアもありますが、遠別町は協力隊の制度をこれまでうまく活用しきれていなかったと佐々木さん。

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「遠別町は道内でも早い段階から地域おこし協力隊の制度を活用していたにも関わらず、ここ数年間は制度自体のアップデートに合わせることができずにいました。でも、2024年10月に新しく國部町長が就任し、(くらしごとで取材した國部町長の記事はこちら)、地域おこし協力隊の募集に関してもてこ入れをすることになったんです」と話します。

今回遠別町で募集する地域おこし協力隊の職種は全部で4つ。

一つ目は、原田さんと一緒にえんおこのメンバーとして、 交流人口の創出や地域情報の発信、 高校魅力化に携わりながらまちおこし全般に関わる「地域プロデューサー」。二つ目は、道の駅えんべつ富士見を拠点に、まちの観光資源の掘り起こしやイベント企画に携わりながら遠別町ににぎわいを創り出す「観光コーディネータ ー」。三つ目は、まちの小中学生を対象とした町営塾の運営や学校の探求学習、校務支援を行いながら子供たちの成長を支援する「教育サポー ター」。そして四つ目は、海外から遠別町へ訪れる技能実習生の生活相談や日本語教室の運営、 国際交流事業のサポー トを行い、技能実習生とまちとの繋がりを充実させる「国際交流コーディネーター」です。

「とは言っても、 絶対にこのミッションをという強い縛りはなく、 これを軸に町で活躍してくれる方であればと考えています」と佐々木さん。

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町としては協力隊を受け入れるにあたって、住む場所や車のことなど、移住者の多くがネックと考える部分のサポートに関して準備は整えているとのこと。また、2〜3週間の地域おこし協力隊のお試しも設けているそう。興味はあるけれど少し不安という人はぜひこのインターン制度を活用したいところです。

地域の人たちとの交流に関しても、佐々木さんが担当なら大丈夫と原田さん。「佐々木さんは町でも有名人。スポーツ系、文化系、あらゆるジャンルで顔が利くので、人も繋いでくれるし、新たにこういうことがやりたいと相談すれば協力してくれます」と話すと、「おまかせください!」と佐々木さん。聞くところによると、町のバレーボール少年団の指導をしたり、歌と踊りのエンタメ集団「じゃね~るず」のメンバーだったり(公式インスタあります)、どうやら佐々木さん自身もなかなか面白い人物のようです。

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その佐々木さんは、「長くこの町で暮らしてきた自分としては、地域おこし協力隊の方たちに来ていただいて、町の流れ、雰囲気を変えたいという気持ちもあります。原田さんが言っていたように、隙間があるからいろいろなことにチャレンジができると思うので、少しでも興味がある方はお試しでもいいので、まず遠別町に来てみてほしいですね」と、春から募集する地域おこし協力隊に期待を寄せています。

地域おこし協力隊の大先輩となる原田さんも、「町の人たちは少しシャイだけど、大らかな人が多いです。一度打ち解けたら、すごく良くしてくれますし、他人とコミュニケーションが取れる人で、何か挑戦してみたいとか、いろいろなことをやってみたいという人なら楽しくやれると思います」と話します。

やりたいことや好きなことを自分のペースで形にしてみたい人、都会で感じる窮屈な閉塞感から抜け出して新しいことに挑戦してみたい人にとって、今回お話を聞いた原田さんの暮らし方は羨ましい限りではないでしょうか。さて、「隙間」のある遠別町にこれからどんな人がやってくるのか。そして、町がどんなふうに変化を遂げるのか、くらしごととしても楽しみです。

NPO法人えんおこ
遠別町役場
住所

◇NPO法人えんおこ/北海道天塩郡遠別町字本町2丁目94-1 遠別町移住交流支援センター内
◇遠別町役場/北海道天塩郡遠別町字本町3丁目37番地

電話

◇NPO法人えんおこ/01632-9-7151
◇遠別町役場/01632-9-7772

URL

https://www.town.embetsu.hokkaido.jp/

◇遠農物語。/http://www.en-nou.com

◇じゃね~るず instagramアカウント名/janefami_official

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心地よい隙間とクラフト感ある暮らしが叶う、北海道のひだりうえ

この記事は2025年1月30日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。