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まちおこしレポート
遠別町

飾らない人柄と誠実さで遠別の未来を切り拓く、新・町長の想い20250227

飾らない人柄と誠実さで遠別の未来を切り拓く、新・町長の想い

北海道のひだりうえ、日本海側に面する遠別町。日本最北の稲作地であり、農業や酪農、漁業といった一次産業が盛んな町です。2024年10月、人口約2300人のこの町に新しい町長が誕生しました。新町長は、遠別で生まれ育った國部雅人さん。今回は、町のドラッグストア「クニベドラッグ」の3代目だった國部さんがどうして町長に立候補したのか、どのような想いや姿勢で町政に取り組んでいこうと考えているのかなどを伺うことに。当初、「町長」ということで堅いインタビューを想像していたのですが、取材チームの予想をいい意味で裏切ってくださる和やかな時間となりました。でしゃばることなく、実直にコツコツと。そんな印象の國部町長、お話を伺ううちに、大小関係なく町の課題を一つずつ丁寧に解決していこうという決意がじわじわと伝わってきました。

戻るつもりはなかった生まれ故郷

遠別町で生まれ育った國部町長。実家は祖父の代からはじめた薬局で、父親が跡を継いでいたそう。

enbetsu_harachan_x_4.jpg遠別町は豪雪地帯。冬は吹雪でまちが覆われてしまうこともしばしば。

「祖父がはじめたときは薬や化粧品だけを扱っていましたが、父の代のころには健康食品、事務用品、スポーツ用品も扱うようになって、田舎の町にある何でも屋さんのような感じになっていましたね」

健康食品、事務用品は何となく想像がつきますが、スポーツ用品は意外な感じがします。ジャージや靴、スキーにバドミントンなど、町の子どもたちが使うありとあらゆるスポーツ用品がそろっていたそう。「町の人に必要とされるものを頼まれて仕入れたのがきっかけだったんじゃないかな」と國部町長は振り返ります。

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中学まで遠別町で過ごした國部町長は、高校から札幌へ。町の子どもたちの大半は、地元の遠別農業高校か隣町の天塩高校へ進学しますが、「2つ上の兄が札幌の高校に通っていたので、自分も自然と高校は札幌へ行くという感じだったんですよね」と話します。高校を出たあとは小樽商科大学へ進学。大学卒業後は住生活関連の商材を扱うメーカーへ就職します。

「大学を出たあと、遠別に戻るなんて考えてもいませんでした。結局そのあと、全道展開しているドラッグストアに転職したのですが、そこで働いているときに父が突然亡くなって、遠別に戻ることにしました。2002年のことですね」

父親の葬儀から初七日まで実家にいた國部町長は、葬儀に訪れる町の人たちから「お父さんには世話になった」と声をかけられ、父親の偉大さを実感したそう。そして、クニベドラッグを失くしてはならないと思ったと言います。

20250130_enbetsu_kunibechocho_7.jpg今も遠別町のなんでも屋さん「クニベドラッグ」。

「漠然とだったんですけど、父が残したものをこの町から失くしてはならないと思いました。それで、自分が遠別に帰らなきゃっと思って、妻に相談して戻ってきました」

当時、小学2年生、2歳だった2人のお子さんと奥さんの4人で町に戻った國部町長。戻ってから、父親の存在が町にとって大きかったとあらためて感じたと言います。「町の役職などを務めていたこともあってか、父に世話になったという人がたくさん店を訪れてくれたんです。小さな町なので、助け合うというのはお互いさまな部分もあったと思いますけど、父は面倒見のいい人間だったようです」と続けます。                                                                                                                                                                    

監査委員、公営塾の講師そして町議へ

中学を卒業して以来、遠別町から離れていた國部町長。時折、実家に家族を連れて帰ってくることはありましたが、「跡を継ぐとは考えてもいなかったし、正直、人口減とか、町の課題について考えることはなかった」と話します。実際に町へ戻り、クニベドラッグを継いでみて、「人は減っていても町に暮らす人にとってドラッグストアは必要。人口減はダイレクトに商売に響きますけど、失くさないために戻ってきたわけですから、何かしら手を打たなければとは思いましたね」と話します。

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「町でモノが売れないなら、外に向けて売ればいいと思って、早い段階からインターネットを使って商品を外の人たちに売ることを始めました。ちょうど前職でドラッグストアのシステム開発を担当していて、独学でしたけど社内SEみたいなこともやっていたので。それこそ、中学1年のときにパソコンをねだって買ってもらったのをきっかけに、もともとシステムなどに興味はあったんですよね」

そうして町に戻り、干支がひと回りした頃、町の会計を監査する監査委員をやってほしいと依頼されます。

「そのとき僕は42歳。本当は監査委員なんて現役を引退した60代とかの人がやるのが一般的なので、早いでしょって断ろうと思ったら、お宅のお父さんは38歳からやっていたよと言われて(笑)」

結局、監査委員を約8年半務め、そのあと町議会議員になります。「それもね、やります!やります!と手を挙げたわけではないんですよ」と笑う國部町長。

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「ちょうど僕の世代の町議がいなくて、町全体のことを考えたら、誰か出さなきゃねとみんなで話していたんです。誰かがやらなきゃとは僕も思ってはいたんです。でも、自分じゃなくてもいいと思っていて。そうしたら、監査委員で議会に出席していたこともあって、結局周りからもじゃあお前だろって」

積極的ではないように聞こえるかもしれませんが、実は議員になる前には町の公営塾の立ち上げに尽力するなど、町や町の子どものために活動も行っていたという國部町長。公営塾の話を伺って、やっと自分のやってきたことをひけらかさない控えめな方なのだと理解できました。

「別にね、公営塾も町のために!という熱量で始めたわけではなく、単純に自分も子どもの親だし、教育分野の整備は必要だなと思っていて。ほら、塾って学校では教えてくれない問題の解き方とかを教えてくれるでしょ?札幌みたいな大きな町には塾がいっぱいあって、それを教えてもらえるのに、遠別にいたらそれが教えてもらえないのって、なんか同じ子どもなのに不公平だなって思ったんですよ。遠別に住んでいることが損だなって思われちゃうなって。それで、その差を埋めたいと思って公営塾を立ち上げたんです。結果として、それが町のためになっていると言われればそうなのかもしれませんね」

20250130_enbetsu_kunibechocho_1.jpg小学5・6年生の自主学習などの支援と、中学生の英語・数学が受けられる公営塾「えんべつ学びの場」。

札幌で塾講師をしたことがあったという國部町長は、町長になる前は自ら講師もしていたそう。「自分の子どもにも教えていたからね」と照れ臭そうに笑います。

「ドラッグストアもそうだけど、遠別の町にはいろいろな業種が大抵1つずつしかないから、町に暮らして、商売をしている時点で、結果としてみんな十分町のために頑張っているってことじゃないかなって思っています。だから、公営塾にしても自分だけが町のために尽力しているとか、あんまり考えてはいないんですよね。町に住んでいる人それぞれが町のために尽くしていると思うから」

やるしかない。と町長立候補を決意

町議になり、副議長を拝命され、議会運営にも携わっていた國部町長。当初、町長になろうとは考えていなかったと話します。

「前の町長が次は出馬しないと告示の半年前から宣言していましたが、誰も手を挙げず...。誰がなるんだろうねとみんなで話していました」

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すると、町の有力者と呼ばれる人たちをはじめとする町内のいろいろな人たちから「立候補して」と声をかけられ、「やる人がいないなら、やるしかないなと腹を決めた」と立候補します。ほかに対立候補が出なかったため、無投票で当選。國部町長が誕生しました。

「議員時代から、町がこのままではマズイなという危機感はありました。町長としては、議員のときに考えていたことを実行していけたらと考えています。たとえば、新しく起業する人に補助金を出すけど、事業継承する人にも補助金を出したらどうかとか。大きいことも小さいことも、町の課題を一つずつ解決していこうと考えています」

道の駅、診療所は新しい建物に生まれ変わり、中学校も建て替えがスタートすることから「建物的なもの、ハード面はひとまずこれでいいかなと考えています。これからは、ソフトの部分、人材に力を入れていきたいと思います。特に地域おこし協力隊に関しては力を入れたいと考えていて、10人、20人と来てもらい、大きなうねりを生み出してもらいたいと期待しています。それによって、町がポジティブな意味で変わっていったらいいなと思っています」と國部町長。

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これまではホームページで地域おこし協力隊の募集をかける程度でしたが、今後はもっと多くの人に届くような仕組み、周知させていくやり方を考え、実行したいと話します。経営者として店を切り盛りしてきた経験から、広報にかける予算も必要だと考えているそう。

「地域おこし協力隊のことはもちろん、町を知ってもらうことにも力を入れるべきだと思っています。たとえば、子育てや保健福祉などの住民サービス。実は補助がとても手厚くて、移住促進に力を入れているほかの町がウリにしている内容と遠別町の補助は遜色ないんです。でも、そういうことをアピールしてこなかったから、全然知られていないんです」

また、後継者不足が問題になっている町の状況を鑑みて、「今の遠別は、自分で何か始めたいという人や起業したい人にとって勝負しやすい町だと思います。同業他社がほとんどいないから、有利に働くと思うんです。場合によっては事業継承するという選択もあるでしょうし。だから、移住先を探していて、そこで何か始めたい人にはチャンスがあると思います」と話します。

enbetsu_harachan_x_3.jpg町内で長年親しまれてきた居酒屋や商店でも高齢化が進んでいます。

自分の任期のあとでも、町がより良くなればそれでいい

國部町長から見て、町のいいところやアピールポイントはどういうところかを尋ねると、「これって難しいんだよね」としばらく考えてから、次のように話してくれました。

「この間ね、遠別を気に入ってくれている英語教師のアメリカ人と一緒に歩いていたとき、『こんなに鳥の声が聞こえる町っていいよね。だから遠別が好きなんだよね』と言われて、そのとき初めて、自分にとっては当たり前になっている鳥の声が、外から来た人には新鮮で、そこがいいところになるんだって知ったんです。だから、ずっと暮らしていると気づかないけど、町のいいところってたくさんあるんだろうなと思います」

とはいえ、町民性については「新しく入ってきた人を受け入れる大らかなところがあると思います。田舎によくあると言われる排他的な感じはないですね。たとえば、春になって山菜が出回ると、新しく来た人にも『食べるかい?』と分け隔てなく持ってきてくれる隣近所の人が必ずいたりね」と話します。町民の人の良さや新参者でも快く受け入れてくれる土壌があるというのは、町の「いいところ」です。

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「実は、地名とすぐに結びつくような特産品を作りたいなと考えています。遠別は農業も漁業も盛んで、なんでもあるからいいですねって言われるけれど、何かとがったものが一つあってもいいのかなと。夕張といえばメロンみたいなね」

町長になってまだ約3カ月。議員時代から考えていた課題解決に向けた構想もいろいろあるそうですが、まだ國部体制は始まったばかり。今は町民懇談会を日々行っています。町内にある20以上の町内会の集まりに出席し、町民の声を聞いている最中だそう。また、町に100人近くいるというベトナム人の技能実習生や町の子どもたちとも話す機会を設けたいと考えているとのこと。さらに、100人弱いるという役場の職員と1対1で話す機会を作っているというのも驚きです。

「職員も大事な町民ですからね、話を聞くのは当然。町民の皆さんはそれぞれに思うことや考えていること、困っていることってあると思うから、大きい小さいに関わらず耳を傾け、寄り添うことが大事だと考えています」

20250130_enbetsu_kunibechocho_19.jpg町民一人ひとりと話すことを大切にしている國部町長。誠実さが伝わってきます。

町長や市長のインタビューといえば、失礼があってはいけない、といったような緊張感の中で行われることも多いのですが、國部町長の朴とつとした口調と庶民的で親しみやすい雰囲気のおかげで和やかな時間となりました。
 
「遠い遠い話になるかもしれないけれど、町並みを含めた町づくり計画、町のグランドデザインをするべきじゃないかなと考えています。空き家対策も含めてね。そう簡単にできることではないかもしれないけれど、最終的には自分が町長をやっているときじゃなくてもいいから、任期とか関係なく、町自体が良くなっていればいいと思っています。そのために今自分ができることをやるだけです」

最後にそう語っていた國部町長。「こんな話で記事になるの?大丈夫?」と笑ってましたが、話の端々から本当に町のことを大事に思っている様子が伝わってきました。國部町長と同様に、町を大事に思っている町民の方たちはたくさんいるはず。だからこそ、みんなで新たな一手を打つときなのかもしれません。遠別町が新しい人も受け入れながら、より暮らしやすい町にどう変化していくのかが楽しみです。

enbetsu_harachan_x_2.jpg遠別町のグリーンシーズンはこんなにも爽やか!草木が一斉に芽吹き、自然の生命力が感じられます。天気の良い日は利尻富士が見えることも。

遠別町長 國部 雅人さん
住所

〒098-3543 北海道天塩郡遠別町本町3丁目37 遠別町役場

URL

http://www.town.embetsu.hokkaido.jp/

遠別町長公式Instagramアカウント

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飾らない人柄と誠実さで遠別の未来を切り拓く、新・町長の想い

この記事は2025年1月30日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。