
皆さんこんにちは!
「水産の未来を考える若者を増やす!」をモットーに活動する学生団体 レディ魚ーです!
レディ魚ーが取り組む漁村訪問活動では、実際の水産現場を訪れて自らの体で漁を体験し、第一線で活躍されている漁師さんのお話を伺うことで、学生が水産に関わるきっかけを創る。そして大学での学びをさらに深めることを目指しています。
今回は漁村訪問担当の船橋河輝(ふなはしこうき)が2月の漁村訪問の様子をご紹介させていただきます!
ふなっしーこと船橋河輝です!よろしくお願いします!
今回の漁村訪問の始まりはレディ魚ーのインスタグラムに届いた一本のDMからでした。DMを送ってくださったのは噴火湾に面する豊浦町礼文でホタテ養殖を営まれている藤村ゆかさん。レディ魚ーの活動を知った藤村さんから、「噴火湾のホタテ養殖の現場を実際に見てみませんか?多くの課題にも直面している豊浦町の水産業ですが、水産でまちを盛り上げようと活動している人がたくさんいます!」とお声がけをいただきました。水産業を通じて地域振興に励まれている方々との交流は、きっと貴重な学びになる。そんな想いに共感し、私たちは今年2月、豊浦町を訪問することになりました。
今回は私ふなっしーが主に訪問させていただき、活気あふれるホタテ漁の現場をはじめ、既存の枠に捉われない様々な取り組みを体感し、豊浦町に息づく水産業への高い熱量を感じ取ってきました!訪問のラストにはアッと驚くイベントにも参加させていただいたので、是非最後まで読んでいただけますと嬉しいです!
レディ魚ーに声をかけていただいた藤村ゆかさん。豊浦町で生まれ育った藤村さんは、今回私たちにホタテ漁の体験の場を提供してくださったほか、豊浦町の見どころや地域で活躍している方々を紹介してくださいました。
豊浦町ってこんなところ
所在:胆振総合振興局
人口:3,473人(2025年1月末現在)
特産品:ホタテ、毛ガニ、イチゴ、とようらSPFポーク
観光名所:噴火湾展望公園、小幌駅
噴火湾の最奥部に位置する豊浦町は、海と山からの恵みを受けた一次産業が盛んな町です。特に今回訪問した豊浦町礼文地区は、噴火湾でのホタテ養殖発祥の地として知られており、その歴史は半世紀以上を数えます。戦後、深刻な魚の不漁を受け、地域の生き残りを懸けて先人たちが築き上げたホタテ養殖は、今も地域の基幹産業として豊浦町に活気をもたらし続けています。
また日本一の秘境駅として名高い「小幌駅」がある町としても有名で、鉄道以外のアクセスがなく、2本のトンネルに挟まれた空間にポツンと駅が佇む光景は訪れる者を圧倒します!
礼文漁港の漁協前に立つ、「噴火湾ほたて貝養殖発祥之地」の記念碑。豊浦のホタテ養殖の歴史を感じさせられます。
日本有数の秘境駅として知られる小幌駅。昔はこの小幌でも漁業が営まれ、藤村ゆかさんの旦那さん、藤村晃ニさんはこの小幌のご出身です。
深夜3時出港!迫力満点、あっという間のホタテ"収穫"を体験!
早速ですが漁の様子を紹介させていただきます!豊浦町をはじめ噴火湾で行われるホタテ養殖は、「耳吊り」とも呼ばれる垂下式で行われます。ホタテの耳と呼ばれる部分にピンを刺してロープに吊り下げ、じっくり海中で育て上げるこの方式では、まるで稲作のように手間暇をかけて、砂噛みのないプリっとした食感のホタテが出来上がるんです!
今回訪問した2月はちょうど"収穫"作業の最盛期で、生殖腺が肥大し旬を迎えたホタテが毎日大量に水揚げされます。
訪問初日、早朝2時30分に起き、3時の出港に向け漁港に向かいます!
朝に弱い私でしたがなんとか意地で目覚め、若干の眠気を引きずりながらも港に着くと、すでに各船出港に向けて浜は活気に満ち溢れています。気を引き締めて藤村さんの船に乗り込み、暗闇の中10分ほど船を走らせ漁場に着くと、早速収穫作業の始まりです!
穏やかな噴火湾を包む闇を切り裂きながら漁場を目指し進む。
漁場に到着すると、ホタテを吊るしているロープを手繰り寄せたのちに特殊な機械に通し、ホタテをロープからこそぎ取っていきます。その勢いはすさまじく、轟音を立てながら大量に収穫されていく様子はまさに圧巻です!
あっという間に船はホタテで満杯になり、私があっけにとられている間に収穫をあっさりと終えて帰港の途につきます。効率化が重ねられたホタテ養殖の凄さを思い知るとともに、洗練されたその一連の作業に感動を覚えました。
無事に帰港すると水揚げされ、作業場に運び込まれ、出荷に向け次なる工程に移っていきます!

ホタテ収穫専用の機械。ロープを引き揚げながらホタテをものすごい勢いでこそぎ取って収穫していきます。

収穫されたばかりのホタテ。育成2年目の貝で今年は成長が良かったそうです!
帰港後の水揚げの様子。出港からまだわずか40分程しかたっていません!いかに効率化されているかがわかります。
付着物との戦い!出荷に向け素早く洗浄!
水揚げされたホタテにはイガイ(ムール貝)や海藻などの付着物が多く付いており、出荷までには洗浄が必要です。まずはホタテ貝専用の洗浄機に投入し、大まかに付着物を取り除き、最後は人の手でベルトコンベヤーの上を流れるホタテ一枚一枚、付着物や空貝がないか確認していきます。一日に数千枚~1万枚ものホタテ貝を出荷しますが、一枚一枚チェックされているなんて驚きですよね!しかし、特に近年は海洋環境の変化でミズボヤなど新たな付着物も増加し、ホタテの成長を阻害してしまうため、収穫後だけでなく海中に吊るしている間も洗浄作業が必要となるなど対応が求められています。藤村さんは垂下中もこまめに洗浄を重ねることで、収穫時の付着物量を抑え、効率的に出荷できるように努力されているのです。
このように洗浄されたホタテは漁協での計量を経て、その日のうちに噴火湾周辺の加工業者に競り落とされて出荷されていき、皆さんの食卓へと向かっていきます!

ホタテ専用の大型洗浄機。左側に付着物(ゴミ)が、右側にホタテが分けられていきます。

一枚一枚ホタテに付着物が残っていないかチェックしている藤村ゆかさん。集中力が求められます!
出荷前の計量の様子。出荷の際は奥のベルトコンベヤーを使って直接トラックの荷台に積み込まれていきます。
藤村ゆかさんお手製!絶品ホタテ料理を堪能!
漁を無事に終えて休んでいると、「お腹すいたでしょ?たくさんご飯用意したからお腹いっぱい食べてくださいね」と、ゆかさんに獲れたてのホタテをふんだんに使った料理を振る舞っていただきました!
もちろんそのままお刺身でもプリっとした食感でとっても美味しいのですが、ホタテの炊き込みご飯にホタテフライ、白子と卵巣の酢味噌和えはどれも絶品で、ホタテフルコースを満喫できたとにかく幸せな時間でした!特にホタテのアヒージョは衝撃的で思わずハマってしまい、レシピを伺い個人的にも家で再現したほどです。かなり簡単にできるのでぜひ皆さんもお試しあれ!
こんなに新鮮で美味しいホタテを毎日食べられる漁師さんは本当に羨ましいですね!

ゆかさんお手製!贅沢なホタテフルコース。一口ごとに美味しすぎて笑顔になってしまいます!

絶品 ホタテのアヒージョ!サラダ油(orオリーブオイル)とニンニクを軽く熱して香りをのせ、薄くスライスしたホタテと玉ねぎにかければ完成です!
地元 豊浦へのゆかさんの想い〜ホタテの町と学生の交流〜
今回の漁村訪問をご提案くださり、漁の体験や豊浦町の案内を親身になってしてくださった藤村ゆかさん。その背景には、変わりつつあるホタテ養殖と、地元 豊浦への想いがありました。
水産を学ぶ私たち学生に、「どんどん変わっている噴火湾のホタテ養殖の今を現場から知って、豊浦で奮闘している人と交流することで地域への理解を深めて欲しい」と、ゆかさんは言います。
真ん中が藤村ゆかさんです!大変お世話になりました。
海水温の上昇により、稚貝が取れず規模縮小を余儀なくされたり、真心込めて育てていたホタテが大量死してしまうなど甚大な被害を受けている噴火湾のホタテ養殖。
そんな中でも地域で築き上げてきたホタテ産業を未来へ繋げようと、海と対話しながら工夫を凝らす漁師、そして従来の漁業とは違ったカタチでホタテの町 豊浦を盛り上げようとする地域プレイヤー。
ゆかさんのおかげで、町の内側からホタテに懸ける豊浦の方々の想いに触れ、地域と水産業の結びつきのかけがえのなさに改めて気付かされました。
またゆかさんは今年の春、北海道で生産される食材についての豊富な知識を身につけ、広く発信できるエキスパートを認定する、「北海道フードマイスター検定」に、忙しい仕事の合間を縫って勉強されて見事合格されています!
「北海道フードマイスター検定」合格証書と熟読された参考書。(画像:藤村ゆかさんご提供)
今後は、「豊浦が誇るホタテをもっと多くの方に食べてもらいたい」というゆかさん。
ゆかさんのさらなる取り組みに目が離せません!
ここからはゆかさんにご紹介していただいた、豊浦で活躍されている地域プレイヤーの方々とその取り組みについて見ていきましょう!
噴火湾のホタテ養殖を「技術力」で支える~山下機械店~
ホタテの収穫作業でご紹介したように、収獲機や洗浄機、耳吊り機械、カゴ洗い機、ふるい機...などホタテ養殖は数多くの機械の活躍によって成り立っています。そんな多種多様な機械の販売・修理を噴火湾一帯で行っている地元企業が、豊浦町礼文華(礼文)にはあります。
その名も「山下機械店」。
前身の「山下鉄工所」を含めると、礼文で半世紀以上の歴史を持ち、噴火湾のホタテ養殖の歴史と共に歩んできました。山下機械店は「技術力」の面からホタテ養殖を支え続けている、まさに縁の下の力持ちといえる存在なのです。
山下機械店の山下修吾さんは大学卒業後に上京を経て、10年程前に地元 豊浦町礼文華に戻り入社を果たした経緯があり、修吾さんと同じく一度礼文華を離れ再び戻ってきた、弟 和哉さんと共に地域への貢献に奮闘されています。
そんな山下修吾さんに、地元 礼文華や地域のホタテ養殖に対する熱い想いを伺ってきました。
ホタテ養殖器具が描かれた特製手ぬぐいをもち、山下親子と記念撮影!右から山下圭一社長、兄 修吾さん、筆者(船橋)、弟 和哉さん。
礼文華に活気を取り戻す!山下兄弟の挑戦!
東京から地元 礼文に戻り、修吾さんも仕事に慣れてきた2020年、新型コロナウイルスが猛威を振るいます。
「ただでさえ数少ない地域のイベントも軒並み中止になって、ホタテも大量死した。町の人同士の交流も減って礼文華全体が明るさを失ってしまっていたなかで、みんなで上を向くために何かしたい」と、山下ご兄弟は礼文華で「華火(はなび)」を打ち上げることを決意。2020年、2021年と2年連続で「華火」を打ち上げ、2023年には、「過疎化が進む小さな町でもやればできるところを見せたい!」と、クラウドファンディングを敢行。結果は当初の目標金額 60万円を大きく超え、最終的にはなんと340万円以上が集まり、花火大会も大成功を収めました。
一度礼文華を離れたからこそ気付いた地元への愛情は多くの人の共感を呼び、失われかけた人々のつながりを取り戻したことで、礼文華に大輪の笑顔の「華」を咲かせたのです。
山下修吾さん(左)と筆者(右)。これまでの挑戦の数々や礼文華への熱い想いに触れ、心を動かされました。
地域に新たな交流スペースを!~新社屋に込めた想い~
2022年12月、現在のとてもよく整備された新社屋に移転を果たしたのですが、その目的は社員のワークスペースの改善のためだけに留まりません。礼文華の人々の交流の場としての機能を重要視し、コミュニティセンターとして地域に開放するという意味合いが込められています。
新社屋にはカフェエリアやキッズスペース、靴をぬいでくつろげるスペースなど「人との繋がり」を生む工夫が随所に凝らされています。私もできれば住んでみたいと思うほどアットホームな空間で居心地がよく、地元にもあればなぁと感じさせられました。
「地域に支えられて今がある。礼文華に少しでも恩返しをして、これからも地域と『ものづくり』に励んでいきたい」と、礼文華の未来を見据えていました。

新社屋の外観。すごくきれいですよね!

こちらは2階の内装。社屋の四隅にアイヌにおける村の守り神 シマフクロウの彫像が配置され、礼文華のこれからを見守っています。
ホタテを「〇る」!?奇想天外の町おこし!
ホタテ養殖が町の基幹産業を担う豊浦町では、ホタテは食べるだけじゃありません。なんとホタテを「釣る」んです!耳吊りのように「吊る」すんじゃありません!
名付けて「ホタテ釣り」!
殻の隙間に物が入り込むとそれごと殻を閉じるというホタテの習性を利用して、竿を巧みに操つり先端についてた金属の棒を、殻の間に滑りこませることで釣り上げます。
噴火湾とようら観光協会は20年近く前からホタテ釣りに注目し、町を盛り上げるために独自に「TOYOURA 世界ホタテ釣り選手権」を開催。コツさえつかめば老若男女問わず誰でもできるホタテ釣りは大人気で、全国的にも紹介される貴重な観光資源としてうまく活用されています!このホタテ釣り以外にも、衆議院の「解散総選挙」になぞらえて、町特産の海産物が立候補する「海産総選挙」を行うなどユニークな取り組みが数多くされています。
今年行われた「第17回 TOYOURA世界ホタテ釣り選手権」の様子。プロレス調の実況・解説が競技を盛り上げ、会場は熱気に包まれます!筆者は気になって訪問後観戦しに行ってきました!
そんなホタテ釣りが楽しめる施設(運営:噴火湾とようら観光協会、期間限定で営業)が今年オープンしたということでホタテ漁の後で行ってみることに!
「豊浦町の観光の起爆剤になれば!」とオープンした「ホタテ釣り堀」。いざ挑戦してみると竿の操作に悪戦苦闘したものの、観光協会田中博子さんのアドバイスとエールを受けながら、3分の制限時間の中で見事8枚を釣り上げることができました!釣り上げたホタテは全てその場で調理していただき、美味しくいただくことができました!
ホタテをまさにフル活用した観光協会の取り組みは、手軽に町の魅力を楽しむことができたのはもちろんのこと、従来の漁業のみに頼らず、地域の海の魅力をあの手この手で活かす新しい水産業のカタチ、「海業(うみぎょう)」の可能性を感じさせられました。

竿の操作に手こずる筆者(船橋)。コツを教えていただき、この後ダブルで釣り上げ挽回しました!

有珠山の溶岩プレートと火山に見立てたバケツで蒸し焼きにする「ホタテの噴火焼き」は、ここでしか味わえない絶品でした!
ホタテポーズで記念写真を撮ってくださいました!右から地域おこし協力隊 野村紳也さん(観光協会所属)、ホタテマスクの帽子をかぶった筆者(船橋)、観光協会 田中博子さん、豊浦町議会議員 宇川裕哉さん。
今回の漁村訪問を振り返って
今回の訪問は終始、ホタテとは豊浦町を活気づける原動力であり、町とは切っても切り離せないかけがえのない宝物であると痛感させられるものとなりました。噴火湾のホタテ養殖は近年、海洋環境や社会情勢の変動による様々な課題が見られますが、ホタテへの愛情が深く感じられるこの豊浦は、きっと一丸となって先人が築き上げてきたこの産業を未来へ発展させていけると信じています!
また漁師以外にもホタテに関わる町の人々が、町を内から元気に、そして町の外に向けて発信していこうと懸命に取り組まれている姿に心を打たれ、町のいたるところでみんなの心を一つにするホタテの力を感じました。
漁を終え落ち着いた時間が流れる礼文漁港。左の船は藤村さんの潤宝丸。
藤村ゆかさんにはお忙しい中にも関わらず訪問を受け入れてくださり、漁の体験のみならず、色々な方と私たちをつなげてくださりとても貴重な経験をさせていただきました。
また、山下機械さん、噴火湾とようら観光協会の皆様には、突然の訪問にも関わらず様々なことを教えていただき、大変勉強になりました。
本当にありがとうございました。
これからも頑張って参りますので応援よろしくお願いいたします!

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