
「こども家庭センター」という言葉を聞いたことはありますか? 2022年に改正された児童福祉法に基づき、2024年から全国の自治体で設置が進められているセンターで、子どもと子育て世帯を支える新たな地域の拠点として大きな期待が寄せられています。
昨年(2024年)5月に行われた子ども家庭庁による設置状況の調査によると、全国で設置済みの自治体は全体の約半分。これからその数は増えていくと考えられていますが、道内でいち早く「こども家庭センター」を設置した町のひとつが長沼町です。
今回は長沼町のこども家庭センター長を務める三浦理枝さんにセンターの役割や現状課題などを伺うとともに、地域おこし協力隊にも関わってもらいたいという構想についても教えてもらいました。
全道でも早い段階で設置された長沼町のこども家庭センター

取材に伺ったのは、長沼町の「児童センターぽっくる」。町内の子どもたちが遊びを通して心身ともに健全に成長できるよう、2019年に誕生した施設です。施設内には、児童センター、放課後児童クラブ、子育て支援センター、ファミリーサポートセンターが入っていて、それぞれの対象となる子どもや保護者らが利用しています。
取材時は平日の午前中ということもあり、利用していたのは、子育て支援センター「はぴはぽ」に来ていた赤ちゃんの親子と、児童クラブの子が数名。そのため館内は静かでしたが、放課後になると小学生から高校生までたくさんの子どもたちがやって来てとても賑やかになるそう。
このぽっくるの中に、2024年春に設置されたのがこども家庭センターです。センター長の三浦さんに早速お話を伺うことにしました。
長沼町こども家庭センター長を務める三浦 理枝さん
「道内でこども家庭センターが既に設置されている市町村は、現時点で20%ほどと聞いています。長沼での設置は、全国的に見ても早いほうだと思います。このこども家庭センターというのは、これまで別々だった母子保健と児童福祉に関する支援機能をひとつに統合した拠点。両方が連携することで切れ目のない適切な支援を行うことを目的としています」
長沼町ではセンター設置前に、過去5年の母子保健と児童福祉で対応したあらゆる相談ケースを洗い出したそう。
「その結果、両方の連携ができていれば早い段階でより良い支援ができたのではないかというケースがいくつもあり、これは少しでも早いうちに設置をしたほうがいいという結論になりました」
実際に子育てをしているとあらゆる悩みごとや困りごとに直面します。少子化や核家族化が進む中、どこへ相談すればいいか分からないという人も多いはず。そんなとき、とりあえず何でも相談できる包括的な窓口があると分かれば、それだけで安心して子育てができます。公園や遊び場がある、教育環境が整っているという子育て環境の充実度や医療費免除など経済的支援の有無も大切ですが、本当に安心して地域で子育てを行うには、いざというときに相談できる場所がきちんと整備されていることも実は重要なのです。
相談窓口の一本化で、より良い子育て支援を実現

現在、こども家庭センターに在籍している職員は15人ですが、ほかの部署と兼務をしている職員が多いそう。
「センターができたことで窓口はひとつになりましたが、現状、職員自体は保健福祉課や子ども育成課との兼務という職員が大半です。ただ、これまではそれぞれの部署で相談に対応していたために分断されていたものが、センターを中心にチームで動けるようになったのが大きいです。さらにここから保育園や学校といった関係機関とも連携が取れるようになり、町全体でより良い子育て支援を行えるようになったと感じています」
統括支援員さんと。母子保健と児童福祉を一体化し切れ目なくサポートします
こども家庭センターの設置にあたって、法律で「統括支援員」と呼ばれる資格を持った職員を配置しなければならないそう。長沼町でも研修を受けて母子保健と児童福祉の両方の知識を備えた有資格者が1名在籍しています。
「まだセンターができて1年足らず。これからもっとセンターの存在を町民の方たちに知ってもらって、ちょっとしたことでも気軽に相談してもらえるようにと考えています」
保健師として活躍したのち、行政職へ。その経験を生かしてセンター長に

さて、三浦さんのことについて少し伺おうと思います。三浦さんは札幌出身で、保健師として長沼町の役場に就職。「実家のある札幌から近いという理由もありましたが、何より町の明るい雰囲気に惹かれて、長沼町に就職を決めました」と振り返ります。
長沼町に暮らしながら保健師として忙しくしていましたが、結婚を機に再び札幌へ。現在も札幌から通っているそう。「札幌と言っても長沼寄りのエリアなので、通勤時間もたった30分なんですよ」と笑います。
保健師という専門職として役場に入った三浦さんですが、
「ケアマネの資格も取得したので介護分野にも携わり、長い間、医療や介護で町民の方たちと関わってきたのですが、課長補佐職になったのを機にまちづくりに関することに挑戦したいと他分野への異動を願い出ました」と話します。
まちづくりに興味を持ったのは、「これまで町の人たちの健康づくりを推進する中で、健康な人がいっぱいいると町も活気づいて元気になる。健康な人が増えてもっといい町にするためにもまちづくりのことにも関わりたい」と感じたのがきっかけでした。
異動願が受理され、三浦さんは政策推進課や産業振興課というこれまでとは違った部署を経験します。
「いろいろやってみたいと考えていたことはあったのですが、ちょうどコロナ禍に入ってしまったこともあって、なかなか実現するのは難しかったんです」と話します。
それでも、保健師の経験を生かし、産業振興課でグリーンツーリズムを担当した際はイベント時の子どもの食事に関してのサポートなど懸命に取り組んできました。
そして、昨年2024年にこども家庭センターが設立される際、これまでの経験を買われ、センター長に抜擢されます。
各所の連携が取りやすい環境。しかし、町民からは厳しい意見も...
現在、長沼町の未就学児から小学6年生までの子育て世帯は600弱。学校法人が運営する新しい小学校(まおい学びのさと)ができたこともあり、子育て世帯の移住が増えつつあります。現在町内には保育園、認定こども園、公立の小学校、中学校がひとつずつ。令和9年度にはこの小学校と中学校が一体型義務教育学校になる予定だそう。
「町がコンパクトな分、保育園から小学校、中学校とも連携が取りやすく、町全体で子育てを行えるという利点がもともとありました。こども家庭センターができたことで、よりその連携を強めていけたらと考えています。それと同時にもっと町民の声を拾わなければならないとも感じています」
今年2月に、まちづくりに関して町長と町民が対話する会議が開催され、参加者の中から、子育て中の方も参加できるような会議も開いてほしいという要望がありました。
さらに、町で子ども・子育て支援事業計画を立てる際に子育て世帯にアンケートを実施したところ、5年前に実施したアンケート結果と比べ、子育て・教育の満足度(肯定的な意見)が20%近く下がっていて、「子育てしにくい」という厳しい意見も寄せられたということも鑑み、もっと生の声を拾うべきだと痛感。
「施設的なものや手当てなど、長沼町は子育て支援が充実しているほうだと思っていましたが、アンケートの結果を見て、このままではいけないと感じました。センターとしても、相談にきてくれる方をただ待つのではなく、町の子育て環境をより良くするために実際に子育てをしている町民の方の意見を聞くことも大切にしたいし、こちらから声をかけることで課題の掘り起こしもしていかなければと思いました」
より良い子育て環境の整備に向け、「動ける」地域おこし協力隊に期待

地域の関係機関との連携強化、町の子育て世帯の意見の吸い上げ。そして、困っている家庭を支援し、必要なところと繋いでいく。こども家庭センターの役割は大きく、センターとしての機能を充実させていくためにはフットワークを軽くし、どんどん動いていかなければなりません。
しかし、思いはあるものの、ほかの部署と兼務している職員が多く、日々の業務に追われがちなのが実情。それをなんとか打破するために思いついたのが、「地域おこし協力隊」でした。以前在席していた政策推進課が地域おこし協力隊を担当していたこともあり、協力隊のことをよく知っていた三浦さんならではの発案です。
「協力隊の方のほうが、役場の職員よりも自由に動けるので、子育て中の町民の方たちや教育委員会などの関連機関と対話もしやすいのではないかと思ったんです。長沼町の協力隊は、午前中に決められたミッションを行ってもらい、午後は割と自由に動けるというスタイルも取れるのでちょうどいいと思います」
子育てワークショップの企画や運営、そしてSNSでの子育てイベント情報発信や子育てガイドブックの刷新などのほか、町の人達が、子育てに対しどんな支援を求めているのか、そのニーズを調べるのもミッションです。
「役場の課や所属の垣根を超え、各所と連携をもっと深められるような動きをしてもらいたいし、町民の中にもどんどん入ってもらって意見を吸い上げ、それを繋いでもらいたい」と話します。
「たとえば、子育て支援センターの行事で親子と触れ合ってもらい、実際にお母さんから話を聞いてもらうとか、夏と冬の長期休みの際は児童センターで行うイベントを企画から参加してもらうとか...。こぢんまりとでいいので、保護者と意見交換できる場の開催もできたらと思っています。あと、地域に入ってもらって、子どもがいない世帯の方にも子どもと関わってもらうような機会も作ってほしいですね。子育ては終わっているけれど、手に職がある方にものづくりのワークショップで子どもたちと触れ合ってもらうとか...」
三浦さんの中ではいろいろな構想が浮かんでいるようですが「これはあくまで私の考え。新たに来てくれる協力隊の方には『子育て』という命題に向かって、一緒に相談しながらやっていきたい」と話します。
「子育て支援」を目的とする「ミッション型」の協力隊募集ですが、「割と自由に動いてもらいたいと考えています」と三浦さん。
「保育士や教員といった資格がなくても、子育てや子育てを通じたまちづくりだったり、人と人を繋ぐことに興味があるような方に来てもらえたらと思います。協力隊が終わったあとも、官民の壁を超えた子育てにまつわる事業による起業なども可能性としてはあり得ると思います」と続けます。
三浦さん自身は、センター長としてやらなければならないことが山積していると笑いますが、長沼町をみんなが健康で子育てしやすい町にしたいという思いが日々の原動力になっているようです。

- 長沼町 子ども育成課こども家庭センター
- 住所
北海道夕張郡長沼町南町2丁目3番2号 児童センターぽっくる内
- 電話
0123-76-7461
- URL
https://www.maoi-net.jp/kenko_fukushi/ikuji/sodan_shien/kodomokatei.html