
福祉や介護の仕事に就く人は、髪は黒くして、お化粧も控えめに、ピアスやネイルアートなんてもってのほか。そんな印象が持たれがちですが、今はもうそんな時代ではないようです。
「オシャレをすることでスタッフの気分があがれば、とびっきりの笑顔で利用者さんたちと接することだってできるでしょ」と話すのが、今回取材に伺った旭川市にある(株)ee-soin(イーソワン)の代表・岩本健哉さん。旭川市内で3つの住宅型有料老人ホームを運営しています。
自由な雰囲気の中、心のこもった介護が評判の同社が運営する施設へおじゃまし、岩本代表と、職員である生活相談部係長の石川美和子さんに、会社のことや働き方、やりがいについて伺いました。
とにかく困っている人を助けたい。業界を知らなかったからこそできた働き方改革
「会社自体は令和元年にできたんですが、僕自身は一昨年から会社に入って、代表を務めさせてもらっています」と岩本代表。もともとは農業系の仕事に就いていましたが、専務に声をかけられて(株)ee-soinに入社したそう。
「創業したときから会社の理念は、『困っている人を助ける会社でありたい』でした。その意志は自分が代表になってからもしっかり引き継いでいます。身寄りがない人も生活保護の人もすべて平等に接し、困っている人、寂しい人、すべてひっくるめて利用者さんたちに対し、『私たちは第二の家族』とスタッフに話しています。スタッフもそれをよく理解して利用者さんと接してくれています」
こちらが、代表取締役の岩本健哉さん。「オシャレをすることでスタッフの気分があがれば、とびっきりの笑顔で利用者さんたちと接することだってできる」と、職員の自由な働き方を推進しています。
困っている人を助けたいという思いから、最近「生活相談事業」もスタート。身寄りがない人の引っ越し作業のサポートや遺品整理のお手伝いなど、幅広く相談事に対応していくそうです。
(株)ee-soinは、もともと福祉や介護に関して経験がない前代表によって立ち上げられた会社だったこともあり、「福祉業界で昔から言われているような暗黙のルールや業界内の常識というものは一切知らなかったので、最初は手探りでしたが、自分たちのやり方で運営を行っています」と話します。
髪の色やネイルが自由ではないこと、低賃金でサービス残業も当たり前であること、休みが取りにくいなど、それまで介護業界で常識とされてきたものを「どうして?」「本当にそうであるべき?」と考え、自分たちのスタイルに変えられるものは変えていくように努めました。
職員が安心して働けることが、結果として利用者さんの笑顔につながる
「一般企業にできていることが、なぜ福祉や介護の業界ではできないのか。そういう考えでやってきましたが、そのやり方を同業者からは随分非難されたときもありました。賃金やボーナスに関しては、従業員に還元できるものはきちんと払おうという考えなので、おそらく同業他社に比べるといいほうだと思います。でも、実際に施設を運営していて、出せると分かったから還元しているわけで...。そもそも私たち経営陣に儲けようという意識はなく、職員がお金の心配をせずとも安心して働ける環境を整えることが大事だと考えています。職員が満足できていないと、利用者さんにきちんと寄り添うことも、利用者さんを笑顔にすることもできないと思っています」
現場職員の中には、役員よりも年収が上の人もいるそうで、「社長だから偉いとか、そういう上下の隔たりは基本的にないんです」と岩本社長は続けます。当然、風通しは良く、取引先の業者からも「職員同士、本当に仲が良いですね」と言われるくらいチームワークもバッチリと胸を張ります。困った人を助けたいという理念に則って、職員みんなが同じ方向をきちんと向いているのが伝わってきます。
施設内に掲示された、合同企業説明会に行けなかったスタッフから学生さんたちへのメッセージカード。「職員が安心して働ける環境が、利用者さんの笑顔につながっています。」という想いが込められています。
「いろいろなタイプの職員がいますが、言葉の使い方や物の言い方だけは気を付けるように注意しています。言葉が乱暴で口調がキツイと、利用者さんも嫌な気持ちになりますし、職員同士のコミュニケーションにも支障が出ると思うので」
地域に密着した会社でありたい、介護施設でありたいという思いから、できるだけ旭川市内のイベントなどにも参加するようにしているという同社。現在の住宅型有料老人ホーム3施設を5施設にし、デイサービスも設けたいと目標を掲げています。さらに、岩本代表は「ゆくゆくは、困っている子どもたちやその保護者の方たちも助けられるような施設も構えたい」と構想を語ってくれました。
利用者さんを応援したいという気持ちから、一人ひとりに合った介護を考える日々
さて次は、実際に現場で仕事をしている石川さんに話を伺います。髪型やネイルは自由と聞いてはいましたが、ばっちり太目のハイライトが入った石川さんの髪を見て、本当に自由なのだと分かります。
「実はこの髪型にしたの、つい最近なんです」と笑う石川さん。「ほら」と見せてくれた社員証の顔写真には、黒髪姿の石川さんが写っていて、目の前にいる石川さんとは別人のよう。「前職が葬儀関係だったこともあり、髪はずっと黒くしていたんです」と話します。
石川さんが入社したのは今年の2月。石川さんの強い希望で当社に加わりました。旧知の仲という専務曰く、「人のお世話をするのが上手なタイプで、絶対に介護の仕事が向いていると思った」とのこと。石川さん自身は、「子育ての経験はあるものの、介護やケアは別ものですし、そもそも介護や福祉の業界は初めてだったので、最初は自信がありませんでした」と話します。
こちらが、生活相談部係長の石川美和子さん。
しかし、実際に現場に入ってみると、「自信があるとかないとか関係なく、自然と利用者さんにどうイキイキ過ごしてもらえるかを考えていました」と言い、一人ひとりにあった介護とは何かについて日々真剣に考えるように。「今も毎日そのことを考えながら、利用者さんのケアにあたっています」と続けます。
働きながら、週2回学校に通い、介護職員初任者研修の資格も取得。大変だったのでは?と思いますが、「勉強は頑張りましたけど、とにかく、毎日利用者さんたちに会うのが楽しくて(笑)。気が付けば、私、いつも施設で笑っているんですよね」と話します。
ただ明るいだけではなく、一人ひとりに合った介護について思案する石川さんが、利用者さんたちに寄り添っていると分かるエピソードが、手作りのおやつ。
「毎日のおやつが、業者さんから仕入れている決まったもので、利用者さんが『また、これかぁ』とつぶやくのを聞いたんです。その時、ご家庭で味わうような手作りのおやつを提供して喜んでいただきたいと強く思いました。それで、施設長に相談して、無理のない範囲で手作りしたおやつを提供するようにしました。いつもとは違う、温かみのある手作りおやつが出てくると、皆さんの表情がパッと明るくなるんです。その笑顔を見るのが、私たちにとって何よりの喜びですね」
そんな石川さんに女性の利用者さんが手紙を渡してくれたこともありました。なんと、宛名には「女神石川」と書いてあったそう。「照れますよね」と言いますが、その利用者さんが石川さんの優しさや明るさに助けられているという証です。
「利用者さんたちが一生懸命ここで頑張って生きているのが伝わってくるので、応援したいという気持ちが湧いてくるんですよね。だから、利用者さんがやろうとしていることや、したいということに対して、すぐに否定はしないようにしています。できないとか、ダメと言わず、まずは本人がどうしたいかをきちんと聞いて、その上でできなさそうなことであれば、代替案を提案したり、できない理由を分かりやすく説明して納得してもらったりしています」
利用者さんと笑顔で向き合う石川さん。「利用者さんたちが一生懸命ここで頑張って生きているのが伝わってくるので、応援したいという気持ちが湧いてくる」と、利用者さんへの温かい想いを持っています。
自由で働きやすい職場環境。それを土台により温かな施設にしていきたい
働き始めて約半年の石川さん、介護の仕事が楽しく感じられるのは、職場の雰囲気がいいというのもあると話します。
「風通しがいいんですよね。意見も言いやすく、上の人もきちんと耳を傾けてくれるんです。手作りおやつの件も、イレギュラーな話なので、ルールの厳しい施設だったらすぐに却下されていたかもしれません。でも、利用者さんが喜んでくれるならやろうという考えがベースにあるから聞いてもらえたんです」
「風通しの良い職場で、意見も言いやすく、役職者も現場の意見に耳を傾けてくれます」と石川さん。
普段から職員間のコミュニケーションは取れていますが、より親睦を深めようと数年前から年に1回、職員が集まって食事をするお楽しみ会を会社で開催しています。今年は役員賞として、豪華プレゼントが当たるじゃんけん大会も追加され、役職者が全員に当たるプレゼントを用意したこともあり、とても盛り上がったそうです。プレゼントは、ブランドもののバッグや時計、空気清浄機などがあり、石川さんはケルヒャーの高圧洗浄機が当たったとか。
「風通しの良さという点でいくと、利用者さんのご家族ともいい関係を築けているのがうちの良さのひとつなのかなと思います。3つの施設はどこも面会自由にしているので、毎日のように顔を出すご家族の方もいらっしゃいます。看取りまで行っている施設なので、余命宣告を受けた利用者のご家族が最期のときを共に過ごさせてくれてありがとうと言ってくださったこともありました。こうしたいい関係が築けているのも、先輩たちが、ご家族一人ひとりときちんと向き合ってきたおかげだと思います」
職場の雰囲気の良さ、風通しの良さはもちろん、職員が働きやすいように環境整備されているところもポイントです。
「役職者の人たちが現場の職員が介護に集中できるようにと、雑務などは一手に引き受けてくれるんですよね。福利厚生もかなり充実しているほうだと思うし、休みも取りやすい。みんな旅行したり、家族と過ごす時間に充てたりしています。髪やネイルが自由というのも含め、楽しく仕事ができる環境が整っているのは大きいと思います。だから、利用者さんやその家族に寄り添った介護ができているのだろうなと感じます」
これからの目標や目指したいことを伺うと、「一人ひとりに合った介護を目指したいし、今まで以上に温かい施設にしていきたいです。ここで働くようになって、一人では何もできないなと改めて実感。人と人がつながり、支え合うことで、いい化学反応を起こせたらと思います。利用者さんも職員も、周りの人たちも、みんながお互いに『ありがとう』が自然と言い合えるような環境にしていきたいですね」と笑顔で話してくれました。