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赤平市

こだわりの革製品作りを続ける「鞄 いたがき」の次世代社員20250627

こだわりの革製品作りを続ける「鞄 いたがき」の次世代社員

1982年、職人であった故・板垣英三氏が赤平で創業した「鞄いたがき」。現在、全国6カ所に直営店を構え、いいものを長く使いたいという本物志向の人たちに根強く支持されています。同社を代表する「鞍シリーズ」をはじめとするタンニンなめしの革を用いた製品には、職人たちの技と情熱が詰まっています。素材調達から製造、販売、修理まで一貫して取り組む姿勢や、手間を惜しまないモノづくりへのこだわりは、創業時から変わりません。

そんな同社では、職人の技やこれまで守り続けてきたものを次世代にも継承しています。その一方で、若い職人のアイデアを活かす機会も設けるなど、時代のニーズに沿ったモノづくりも行っています。

今回は、赤平にある本社・本店に伺い、日々鞄作りに取り組む若手スタッフ2人に、就職した経緯をはじめ、仕事の面白さややりがい、職場のことについて話を聞きました。

モノづくりに興味があり、手仕事に魅力を感じ、高校を卒業後すぐに入社

国道38号沿い、緑あふれる中に現れる「鞄 いたがき」の工房と社屋。周囲の景観にマッチする丸みを帯びた建物は、ソーラーウォールの太陽熱を利用した暖房設備や屋上緑化など、環境に配慮した造りになっています。

木製の自動ドアから中に入ると、本店ショールームがあり、さまざまな革製品が並べられています。その奥には、外の緑を眺めながらコーヒーを楽しめるカフェも。

011_itagaki.jpg「ものづくりが好き」高校卒業後すぐに「鞄いたがき」へ入社した大島奈美さん。

まず先に話を伺うのは、製造部の縫製課に勤務する大島奈美さんです。赤平の隣、滝川市出身の大島さんは、高校を卒業後いたがきに就職。今年で9年目になります。

「子どものころから手先が割と器用で、手芸などが得意でした。高校のときは美術部に所属して絵を描いていました。周りの同級生は大学や専門学校へほとんどが進学したのですが、私自身は進学にあまり興味がなく、製造やモノづくりの仕事に就きたいと考えていました。ちょうど、いたがきの求人票が学校にきていて、興味を持ったのが入社のきっかけです」

入社試験前に訪れた会社見学で、初めていたがきの職人たちの仕事ぶりを見て、革製品の特徴やこだわりについて話を聞いた大島さんは、「革製品を作っている会社というのは前から知っていましたが、使っている革についても知らなかったし、職人さんたちがこんな風に作っているというのも知りませんでしたが、手仕事がとても魅力的に感じました。裁断されたバラバラの革のパーツが、順番に組み立てられて鞄になっていくのを見て感動。自分もやってみたいと思いました」と振り返ります。

先輩たちにアドバイスももらいながら、少しずつできることを増やしていく日々

念願叶って入社した大島さん、まずは3か月かけて、製造、総務、倉庫管理、カフェなど、社内の各部署を経験し、会社のことを深く知っていきました。それを経て、製造部の縫製課へ。

製造部には縫製課と裁断課があります。革を裁断してパーツを用意するのが裁断課で、その裁断したものを組み立てて形に仕上げていくのが縫製課です。

031_itagaki.jpg広々とした工房で、職人たちが一つ一つの工程に集中して取り組んでいます。

縫製課での最初の仕事は、下仕事の基本工程。糊付け、糸処理、けがき、コバ仕上げの4つを順に経験していきます。耳慣れない言葉が出てきましたが、けがきとは、のりの付き具合をよくするために革の表面の必要な個所にわざと引っ搔く作業。

コバ仕上げというのは、革を裁断した切り口の部分(コバ)を美しく見せるための色付けの処理のこと。新入社員は入社3か月後、この4工程が基本通りにできるかのテストを受けます。

「最初はうまくできないこともありましたが、いろいろな先輩たちの技術を間近で見させてもらったり、コツを教えてもらったりして、なんとかできるようになりました」

021_itagaki.jpg先輩からのアドバイスを受けながら、着実に技術を習得していく大島さん。

いたがきの縫製部は、鞄ができるまでの全工程をひとりで行うのが目標ですが、作業自体は4~5人の班に分かれて行っており、役割分担をすることもあるそう。ひとつの班にはベテランも若手も混ざっており、先輩が後輩にアドバイスをするなど、その技術をしっかり継承しています。

縫製部に在籍しているのは女性が多いそうですが、年齢層も幅広く、「仕事中は集中しているので静かですが、基本的に和気あいあいとした雰囲気で、居心地はいいです。皆さん優しいし、仕事の相談にも気軽に乗ってくれるし、風通しもいいですよ」と話します。

自分でデザインからサンプル作りまでを経験。モノづくりの面白さを実感

少しずつ経験を積み、いろいろなことを任されるようになってきた大島さん。「最初はできないことだらけでしたが、コツコツ続けていたらそれができるようになっていて、自分で成長を感じられるのがこの仕事の面白さのひとつ」と話します。

また、普段は工房の中にいるため、お客さまと直接やり取りをすることはありませんが、年に数回、本店でイベントをやる際は製造部もお手伝いで接客をすることもあり、「使いやすくていい鞄ですねと声をかけられるなど、お客さまから直接褒められるとやっぱり嬉しい」とも話します。

いたがきには、「LLC」(リトルレザークラブの略)と呼ばれる若いスタッフがデザインからサンプル作り、そして製品作りまでを手掛けるクラブがあり、中にはそこから生まれたものが実際にいたがきの商品として製造販売されたこともあるそう。そのクラブでリーダーを務めた経験もあるという大島さんは、5年ほど前から、決まったものを組み立てるだけでなく、干支をモチーフにした小銭入れをデザインから任されています。

「いたがきには専門のデザイナーがいません。縫製部の社員が企画、デザインを行い、サンプルを作るところまで自分で手掛け、社内で検討し、『いいね』というものを商品化します。若手にも自分で考えたものを商品化できるチャンスがあるんです。もちろん生みの苦しみもあって、大変ではありますが、モノづくりの面白さを実感できます」

ちなみに干支の小銭入れ。大島さんは丑年からメイン担当となり、もう1人の若手スタッフと今年の干支の巳までを形にしてきました。取材時にそれらを拝見しましたが、辰年の龍のヒゲをチャックで表現するなど、どれもアイデアが光ります。特に卯年のうさぎの小銭入れは人気で、もう在庫はないそう。今は、次の午年の馬のモチーフを考え中だとか。

最後にこれからのことを伺うと、「今は鞄を作る班にいるのですが、ゆくゆくは小物なども作れるようになりたいと思っています。とにかく目の前のことを一生懸命やって、技術をしっかり身に着け、班長レベルの先輩たちのように最終的には何でもできるようになりたいです」と話してくれました。

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友人の勧めで赤平市へ。モノづくりを行っている「いたがき」に惹かれ...

次に話を伺ったのは、製造部裁断課の山澤久治さんです。奈良県出身という山澤さんが、いたがきに入社したのは5年前、ちょうどコロナ禍に入る直前でした。

「大学を卒業してから、沖縄で農家の住み込みの仕事をするなど、季節労働者のような感じで気ままに働いていました。30歳近くなって、そろそろきちんと地に足をつけて働こうと思ったとき、ちょうど高校の同級生が赤平にいて、北海道に来たら?と声をかけてくれたんです」

当初は、牧場で働くことも考えていたそうですが、たまたま求人誌を見ていたら、いたがきの求人が出ていたそう。

042_itagaki.jpg沖縄での季節労働を経て、友人からの誘いで赤平へ。ものづくりへの興味から「いたがき」に入社した山澤久治さん。

「ちょうど本店で創業祭をやっていたので、どんな会社なのかなと様子を見に訪れました。モノづくりにも興味があったので、チャンスがあるなら働いてみたいと思い、その場で担当者に声をかけ、後日面接をお願いしました」

入社が決まり、配属されたのは裁断課。革製品の原材料であるタンニンなめし革を、主に機械を使って商品のパーツに合わせて切り出していくのが仕事です。

入社してすぐは、バンドナイフという機械を使って、裁断した革の厚さを㎜単位で調整する仕事を任されたそう。山澤さんは、「自分は大雑把なタイプなので(笑)、先輩たちの㎜単位の正確な仕事ぶりに驚きました」と振り返ります。

062_itagaki.jpgタンニンなめしの革を無駄なく使うことが、裁断課の腕の見せ所です。

革を無駄にせず、いかに有効に使えるよう裁断していくかがポイント

革製品に用いられる革は、もともとは動物の表皮。皮をそのままにしていると腐敗してしまうため、それを防ぐために「なめし」という加工を施します。なめす方法は大きくわけて2つ。いたがきがこだわっている「タンニンなめし」と、化学薬品を用いた「クロームなめし」です。

タンニンなめしは、太古の時代から用いられてきた技術で、植物から抽出したタンニン(渋)を、時間をかけて浸透させていくもの。いたがきでは、創業時から人にも環境にも優しいこのタンニンなめしの革を使い続けています。

057_itagaki.jpg広くなった新しい裁断棟で、快適に作業に取り組む山澤さん。

「うちは、『栃木レザー』という国内有数のタンニンなめしの革のメーカーや、ヨーロッパの会社からタンニンなめしの革を仕入れているのですが、栃木レザーに研修に行ったとき、なめす前の動物の皮も見せてもらいました。それを見たとき、頭では理解していたのですが、こうなる前は確かに生きていたのだということがあらためてよく分かり、これは裁断の際に無駄にしてはいけないという気持ちになりました」

決められた鞄のパーツを1枚の革から何セット取れるか、いかに無駄を出さずに裁断していくかが、裁断課のスタッフの腕の見せどころ。革も多少の傷があったり、牛の部位(位置)によって柔らかさが微妙に異なったりもするため、それらも考えながら、パズルのような感覚で裁断にあたります。

「やっぱり上手にパーツが取れたらうれしいし、傷を隠すような形でうまく裁断できれば、それもまた楽しい。品質を落とさず、革を無駄にしないで裁断することを常に考えながら仕事にあたっています」

053_itagaki.jpg縫製課でのジョブローテーション経験を経て、改めて裁断の道を極めたいと決心したと言います。

去年の1月に裁断の作業場が入っている裁断棟の建物が新しくなりました。作業場がかなり広くなり、より作業がしやすくなったそう。エアコンもついて、快適だと話します。すぐ横には革を保管する大きな倉庫も完備。

会社の雰囲気や働く環境について尋ねると、「北海道らしいという言葉が合っているか分かりませんが、道外から来た自分から見ると、いい意味でのんびりしているイメージです。あくせくしていないので、落ち着いて仕事に取り組めます。働いているスタッフもみんな優しくて、会社の人間関係はとてもいいと思います」と話します。一度、山澤さんの身内が病気になり、その看病で1カ月半休職した際も、快く送り出してくれたそう。

ジョブローテのあと、さらに革の扱い方や裁断の学びを深め、極めたいと決心

山澤さんはずっと裁断課に所属していたのかと思いきや、裁断課で仕事をはじめて3年経ったとき、ジョブローテーションで1年間だけ縫製課に在籍した経験があるそう。

「自分たちが裁断したものをどうやって組み立てていくかを直接見ることができたのは大きかったと思います。縫製の大変さも分かったし、革の扱い方もあらためて意識することができました。縫製課の仕事も楽しかったけれど、でもやっぱり自分は裁断が向いていると思います。裁断は、自分としてはちょうどよいクリエイティビティーもあって、面白いんですよね」

058_itagaki.jpg革に関する知識を深め、より無駄のない裁断を目指す山澤さん。赤平での暮らしも満喫しています。

裁断の仕事は奥が深いと話す山澤さん。革に関する知識をもっとつけ、裁断ももっとうまくなりたいと意欲的です。実際に、革に関する講習会に参加しているほか、レザーソムリエという資格も取得したそう。

「とりあえず意欲があれば、チャレンジをさせてくれる会社なので、勉強がしたいとか、こういうことをしてみたいと言えば、まずはやってごらんと言ってくれるのはありがたいですね。裁断はやればやるほど、経験値が上がっていくので、目に見えて成長を実感しやすいと思います。だからこそ、現場での経験値プラス知識も増やし、より無駄のない裁断ができる人材になりたいです」

「赤平はどこへ行くにも便利な場所」と、休日は道内各地へドライブに出かけるなど、赤平を拠点にした暮らしも満喫している山澤さん。この場所で、裁断の仕事を着実に極めていく様子が目に浮かぶようでした。

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株式会社いたがき
住所

北海道赤平市幌岡町113番地

電話

0125-32-0525

URL

https://www.itagaki.co.jp/

【事業内容】皮革製品 企画・製造・販売

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こだわりの革製品作りを続ける「鞄 いたがき」の次世代社員

この記事は2025年6月12日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。