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帯広市

ホースパークもオープン!十勝の人気ベーカリー「麦音」の想い20260518

ホースパークもオープン!十勝の人気ベーカリー「麦音」の想い

十勝の人たちに愛されている地元のパン屋さんといえば「満寿屋商店」。日本一の小麦生産地・十勝の恵みを最大限に活かすため、全店舗で十勝産小麦を使用しています。パンを通じて十勝の農業や食文化を盛り上げる活動も展開し、2030年には十勝を「パン王国」にというビジョンも掲げています。

そんな満寿屋商店のフラッグシップ店でもある「麦音」は、単独ベーカリーとして日本一の敷地面積を誇り、今年の春には敷地内にホースパーク「馬と小麦の丘」もオープン。今回はその麦音を訪ね、店長でもある常務取締役の天方慎治さんと麦音のスタッフの方たちに会社のことやこれからのことなどを伺いました。

満寿屋商店の想いとこだわり。十勝産小麦100%のパンを全店で提供できるまで

帯広市の郊外にある麦音は、円形の建物が印象的。中に一歩入ると、パンの焼けるいい香りが漂います。オープンキッチンになっており、次々と焼きたてのパンが店頭に並びます。目移りするほど多くのパンが並び、どれを手に取ろうか迷う時間さえも楽しみのひとつです。

まずは、麦音の店長で常務取締役の天方慎治さんに満寿屋商店について伺います。

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「満寿屋は1950年に創業。今の社長の杉山雅則で正確には4代目となります。もともとは杉山の祖父が始めたベーカリーです。昔から地元のお客さんに愛されてきましたし、小麦をはじめたくさんの生産者の方にも支えられている会社だと思います」

満寿屋商店は2012年から全店舗・全商品で十勝産小麦を100%使用。十勝産小麦の価値向上を目指し、地産地消にこだわった取り組みや、地域の子どもたちへの食育活動などが評価され、2024年のコープさっぽろ農業賞で交流賞特別賞を受賞しました。

「満寿屋が地元の小麦を使うことを意識するようになったのは、杉山の父親である2代目が、地元のお客さんから『これだけパンが並んでいるけど地元の小麦は使われているの?』と聞かれたのがきっかけと聞いています。調べてみると、十勝には広大な小麦畑が広がっているのに、ここで収穫されたものが自分たちのところには届いていない、農家さんですら口にしたこともないということが分かり、とても驚いたそうです」

当時はパンに適した小麦が国内ではほとんど栽培されておらず、使用するほぼすべてのパン用小麦は海外から輸入したものでした。

「ちょうど今から40年ほど前になりますね、江別製粉さんからハルユタカ(道産の強力小麦の品種)を使ったパン用小麦粉が発売され、それから満寿屋でもハルユタカを用いるようになったと聞いています」

とはいえ、当時はハルユタカの栽培は難しく、収量が安定しないなど課題がありました。

「ある程度栽培が安定しないと商品に使うのも厳しくなるため、2代目は地元の農家さんに協力を依頼して何とかうまく栽培できないかと一緒に普及に取り組んだそうですが、品種自体が十勝の気候になかなか合わなかったようで、100%使用するには難しく、仕入れられる分だけ使う形だったそうです。それでも、いつか十勝の小麦100%のパンを提供したいと奮闘していたそうですが、志半ばで亡くなり、奥様(現会長)が3代目として跡を継ぎました」

当時高校生だったという現社長は、道外の大学へ進学し、26歳まで道外の別の企業に勤務。帯広へ戻ってきたときにあらためて十勝の農業の素晴らしさを実感し、2代目である父親が取り組んできたこと、地産地消を加速させていかなければと感じたそうです。

mugioto_komugiko1923.jpeg麦音では「キタノカオリ」など十勝産の小麦のみを使用してパンを焼き上げています

「2006年に寒冷地向きに開発されたキタノカオリという品種が十勝での栽培に適していると分かり、社長が芽室に十勝産小麦を使ったパンを提供する店舗を試験的に作りました。キタノカオリはほかの小麦とブレンドしても相性が良く、麺用のキタノホナミや、パン用品種の春よ恋などと合わせて使用するなどして、どんどん十勝産100%に近づけ、2009年に十勝産小麦100%のパンだけを提供する麦音をオープンさせました」

さらに同じころに輸入小麦に負けない道産の超強力小麦・ユメチカラが登場したことが、2012年の全店舗十勝産小麦100%使用への後押しともなりました。

旗艦店「麦音」オープン。パンにまつわる人々をつなぐハブ拠点に

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2009年にオープンした麦音はほかの店舗とは違い、地産地消のパンを販売するだけではありません。敷地内には小麦畑があり、テラスや広々とした庭では訪れた人たちがくつろぎながらパンを食べることもできます。有機野菜を販売するマルシェをはじめ、食育に関する体験ものやさまざまなイベントを実施。

「麦音は、社長が2代目から受け継いできた地元への想いが形になった店ですが、社長の想いだけというより、お世話になっている農家さんや地域の方たちの思いを汲んで作った店、運営している店と言ったほうが正しいかもしれないです。 ベーカリーというのは、いろいろな方たちとのつながりや支えがあって成り立っている仕事。加工業でもあり、仕入れ業でもあり、販売業でもあって、そういう意味ではいろいろな人が集まってくるハブみたいな役割があると思うんです。また、満寿屋は創業時からずっと地域の食を安定的に守りたいとベーカリーを続けてきた会社です。先代たちの思いを継承し、未来へつないでいく使命もあると考えています。ですから、ただパンを作って売るだけでなく、パンを通じて十勝の魅力発信をしていくことが、麦音の役割だと考えています」

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2026年4月、敷地内にオープンしたばかりのホースパーク「馬と小麦の丘」も、十勝の開拓を支えた農耕馬の歴史を未来に伝えたいという思いがベースにあります。もともと敷地内の小麦畑を農耕馬が耕すなど馬との関わりはあり、5年ほど前からホースパークの構想を練っていたそう。

「帯広で馬車BARを運営している十勝シティデザイン(株)さんなど、地元のいろいろな企業の方にもご協力いただき、形にすることができました。はじまったばかりですが、馬と触れ合えるイベントやツアーなども企画しています」

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ベーカリーがあり、小麦畑があり、ホースパークもあり、まるでテーマパークのようですが、「まだ完成ではないんですよ」と天方さん。後ろに飾ってあるイラストを指さし、「ここの空いているところに何か施設を建てたいと考えています」とニッコリ。2030年の完成を目指し、現在はいろいろ構想中なのだそう。

ミクニを経て、満寿屋へ。経験を生かし、イベント実施や働き方改革も着手

麦音の店長として、日々店の運営に携わりながら、イベントの企画・実施、生産者をはじめ関係各所とのやり取りなどを行っている天方さん。ちょうど麦音がオープンする2009年頃、当時暮らしていた札幌から帯広へ。2010年に満寿屋商店に入社しました。

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天方さんは神奈川県川崎市出身。実家は個人ベーカリーで、「自分が跡を継ぐのだろうなと思っていた」ので、高校卒業後は都内のベーカリーなどで修業を積んでいました。あるとき、先輩からフレンチレストランのミクニが丸の内の店舗でベーカリースタッフを募集していると声をかけられます。 

「それまでは実家に戻ること前提で、いろいろなパンの作り方を学べたらという感じでしたが、ミクニに入ってからは新規店舗の立ち上げに携わるなど、ただパンを作るだけでなく、ほかのこともいろいろ経験させてもらいました」

2003年、札幌駅の再開発でミクニがオープンすることになり、天方さんもオープニングスタッフとして札幌へ。

「そのときのコンセプトが道産・国産食材とヨーロッパの食材を半分ずつ使うと決まっていて、パンも道産・国産の小麦を半分使うようにと決まっていました。今から20年以上前になりますが、パンに使える道産小麦を求めて江別製粉さんを訪ねたのがきっかけで、生産者さんとも交流を持つようになりました。それまで生産者さんとつながりを持つことはほとんどなかったので、自分にとってはそれがとても新鮮で面白かったんです」

こうした交流を通じて徐々に北海道の土地や人に魅了されていった天方さん。また当時、道内のパン職人や関連企業が集まったベーカリークラブN43°に入っていた天方さんは、そのイベントで十勝の小麦生産者さんたちと出会い、北海道の中でも十勝に強く関心を持つようになります。

「ミクニにいる間に父が倒れ、当初の予定通り、実家に戻って跡を継がなければならないと思っていたのですが、父が無理に跡を継ぐ必要はない、好きなことをやりなさいと言ってくれ、それで北海道に残ることにしました。ちょうど子どもが生まれて、子育てをするなら北海道がいいなと思っていたこともあり、都会的な札幌の良さも知りつつ、以前から興味を持っていた十勝で仕事ができないかと江別製粉の方に相談したところ、麦音を立ち上げたばかりの満寿屋を紹介されました」

社長と会い、その想いなどに共感した天方さんは、パンを焼く職人としてではなく、これまでの経験を生かしたイベントの企画や、生産者やほかの関連企業と親交を深めるなど、外向きの仕事を担当する形で入社します。

「社長は麦音から十勝小麦の魅力、十勝の魅力を伝えていける人材が必要だと考えていたようです。自分としては、ミクニ時代にホテルや生産者さんとコラボしたフェアなどの経験を生かすことができると感じて入社しました」

入社時は「地産地消部」という部署にいましたが、5年ほどして麦音の店長に。現在は、イベントなど外向けのことだけでなく、社内の人材育成や採用などにも関わっています。

「会社としては、会社の想いやプロジェクトに共感してくれる人材をもっと増やしていきたいと思います。そして生産者さんの想いをしっかり受け止め、それをパンで表現できる職人も育てたいと考えています」

パン作りを『キツイ』から『面白い』へ変える工夫

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麦音の開店時間は朝6時55分。昨今どこも人手不足で営業時間の短縮などが行われているにも関わらず、早朝からオープンできるというのは人材がそろっているからかと思いきや、「いいえ、いいえ」と天方さん。

「正直なところ、人手はいくらあっても足りないくらいなのですが、パンづくりの工程を見直し、継続的に機械を導入して、6時55分オープンを可能にしました。ちなみに製造スタッフは6時出社なんですよ。従来のやり方でこのオープン時間だったら、夜中に出社しなければなりませんが、工夫して6時出社を可能にしました」

パン職人の仕事は朝早くて、キツイと思われがちですが、これからも機械を導入するなどして、働き方の改善をしていきたいと考えているそう。

「職人としても成長の機会がたくさんある職場ですし、いろいろな経験ができるのも魅力だと思います。麦音もこれからまだまだ進化していくと思うし、ここでなければできない仕事もたくさんあると思います。十勝という自然豊かな恵まれた場所で共に面白い仕事がしたいという人が増えてくれたらうれしいですね」

最後にそう語ってくれた天方さん、「最近は仕事が趣味みたいなもので...」と笑いながら急いで次の打ち合わせへ。忙しそうですが、充実している様子が伝わってきました。

麦音で活躍するスタッフの仕事のやりがいやこれから挑戦したいこと

さて、次に麦音で働いているスタッフの方たちに話を伺います。入社2年目の堂端悠月さん、3年目で副店長を務める鈴木友里さんです。2人とも十勝以外のエリア出身。まずはどういう経緯で麦音に勤務することになったかを聞いてみましょう。


mugioto_dobatasan2029.jpeg堂端さんは入社1年目に製造を担当。2年目の今春から販売スタッフとしても活躍しています

札幌出身の堂端さんが帯広の満寿屋商店に入社したのはインターンがきっかけでした。「そもそもインターン先に満寿屋を選んだのは、札幌の調理製菓の専門学校に通っていたときに天方さんが製パンの講師でいらしていたからです。天方さんからインターンに来ないかい?と声をかけてもらって、実際に来てみたら、職場の雰囲気がすごくよくてそのまま就職を決めました」と話します。入社から1年間は麦音の製造スタッフとしてキッチンで勤務し、この春からは販売へ。

すると、「実は...」と鈴木さん。堂端さんを販売にスカウトしたのは鈴木さんなのだそう。「彼はコミュニケーション力が高くて、オープンキッチンからのお客さまの対応も見事。気遣いもできるし、それで販売の人手が足りなくて、こちらに来てもらいたいとお願いしました」と話します。

mugioto_suzukisan2005.jpeg鈴木さんは東京出身、元ホテルスタッフとあって、笑顔がとても素敵!

その鈴木さんは東京出身。新宿の大きなホテルで勤務していましたが、十勝の牧場へ転職した夫の後を追う形で移住したのだそう。

「ホテルの仕事が好きだったこともあり、私は子どもたちと東京にいたんですけど、保育園児だった2人の子どもを抱えて、通勤時間1時間半の都心で働くのはさすがに厳しく、夫のいる十勝へ移ることに。最初は同じようにホテルで働こうかと思いましたが、せっかく知らない土地へ来たのだし、違うことをしたほうが楽しいかもと思い、ご縁あって麦音で働くことになりました」と話します。

「麦音はパン屋さんなのに、食育のことをやったり、農家さんとつながりがあったり、それも面白いなと思いました」と続けます。

仕事をしていて面白さややりがいを感じる瞬間を尋ねると、堂端さんは「オープンキッチンなので、製造にいたときもお客さんと直接やり取りができ、『おいしい』と言っていただけるとうれしかったですね。今もレジで『これおいしかったから、また買いに来た』とか言っていただけるとうれしく思います」と話します。また、「製造に関しては、十勝産小麦100%使用の特徴や生地の扱い方が学べるのは面白いです。あと、個人のパン屋さんではなく、企業だからこそ経験できることもあると思っていて、みんなで大きな売上目標に向かって頑張る経験などはここにいなければできない経験だと思います」とニッコリ。

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鈴木さんは、「お客さまに満足していただきたい、また訪れたいと思っていただきたいと思って接客にあたっています。イートインのお客さまから『おいしかったですよ』と声をかけていただけるとうれしいですね。あとは、店舗の売れ行き状況を見ながら、生産数の指示も出させてもらっているのですが、売上が上がるとモチベーションも上がります。売り場づくりなども工夫しながらできるのは面白いですね」と話します。

また、長年ホテルで接客を行ってきた鈴木さんは、「麦音は地元の方はもちろん、観光客の方もたくさんいらっしゃる店。生産者さんたちが大事に育てた十勝産の材料を使って作ったおいしいパンをおいしく食べていただきたいから、ホスピタリティの気持ちを持って笑顔で接客するように心がけています」とも話します。確かにこれからおいしいパンを食べようと楽しみな気持ちでレジに並んでいても、接客対応がイマイチだと残念な気持ちになってしまいます。鈴木さんは「せっかくのパンを販売スタッフの対応で台無しにしたくないですから、そこは気を付けています」と続けます。ちなみに、天方さんは鈴木さんのホテル勤務の経験をもっと販売部門で生かしてほしいと考え、採用活動や新入社員研修も任せているそう。


十勝の暮らしについて尋ねると、2人ともそろって「食べ物がおいしい」と笑います。堂端さんは「自然も豊かだし、人も温かい人が多いし、同期も仲がいいので、楽しくやっています」と話します。一方、鈴木さんは「1年目は都会が恋しくなるときもありましたが、今は逆に東京へ帰ると空も狭いし、人も多いし、十勝のほうがゆったりできるなと思うように。何より子どもたちが走り回ってのびのび遊んでいる様子を見ていると、こっちに来て良かったなと思います」と笑顔を見せます。

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最後にこれからやってみたいことを教えてもらうと、堂端さんは「ゆくゆくは製造も販売もどちらも完璧にできるようになりたいです!」と話し、「あとは何か趣味でも見つけたいですね」と笑います。仕事が楽しいそうで、仕事以外の楽しみも見つけたいとのこと。鈴木さんは「イートインとは別に、麦音の敷地内で飲食サービスを提供できる施設ができたらいいなと思います。それができたらぜひそこで接客がしたいですね。あと、副店長として天方さんのサポートもしていきたいし、十勝のこと、満寿屋のことももっと勉強してレベルアップしていきたいです」と力強く話し、「自分が道外から来たというのもありますが、道外の人たちにももっと十勝のこと、麦音のことを知ってもらいたいですね」と締めくくってくれました。

長年、十勝の人たちに愛され続けてきた「ますやパン」。旗艦店の麦音では、北海道内外から集まったスタッフが今日もおいしいパンを焼き、人をつなぐ場を作るために活躍していました。

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麦音(株式会社 満寿屋商店 )
住所

北海道帯広市稲田町南8線西16-43

電話

0155-67-4659

URL

https://www.masuyapan.com/shop/index.php

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ホースパークもオープン!十勝の人気ベーカリー「麦音」の想い

この記事は2026年4月15日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。