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三世代で受け継ぐ室蘭市民のソウルフード。やきとりの一平20260312

三世代で受け継ぐ室蘭市民のソウルフード。やきとりの一平

札幌から南へ車で約1時間半。登別温泉と洞爺湖温泉に挟まれた港町・室蘭市は、カギ状の独特な地形が古くから天然の良港として活用され、北海道開拓の重要拠点として発展してきました。石炭の積出港としての歴史や製鉄・製鋼業の黎明期のストーリーは、日本遺産「炭鉄港」にも認定されています。

そんな室蘭を代表する名物グルメといえば?そう、「室蘭やきとり」です!

今回お話を伺ったのは、三世代にわたって室蘭やきとりを提供し続けてきた、地元でも指折りの老舗「やきとりの一平」三代目の石塚千津さん。このまち独自の文化として発展してきた室蘭やきとりの、これまでとこれからを教えてもらいました!

室蘭市民のソウルフード「室蘭やきとり」とは?

炭火で丁寧に焼かれたお肉に、ジュワッと爆ぜる脂の香ばしい香り...。気を抜くとおなかが鳴りそうですが、まずは「室蘭やきとり」についておさらいしておきましょう。


明治時代に日露戦争後の鉄鋼需要増化をうけて、夕張・空知の石炭と室蘭を含む噴火湾周辺の砂鉄・褐鉄鉱を活用した製鉄が室蘭で始まり、「鉄のまち 室蘭」が誕生しました。大正時代から昭和初期になると第一次世界大戦で再び鉄の需要が増え、多くの人やモノが集まり、まちは活況を呈します。当時の鉄のまちを作り上げたのは、屈強な肉体労働者たち。彼らの肉体と胃袋を支えてきたのが、豚肉とたまねぎを使用した室蘭やきとりなのです。

20260126_ippei_17.JPG室蘭市の工場群の夜景は、観光スポットとしても有名

でも、どうして「豚肉」?

一説には日中戦争の勃発により食糧の増産が急務となった日本で、農家が豚を飼うようになったことがきっかけなのだとか。当時、豚の皮は軍靴に使われていたため、豚の皮と肉以外は食べてもよいことになり、室蘭では豚のモツやスズメなどの野鳥が串焼きとして屋台で売られていたことが、豚串も「やきとり」と呼ばれる所以ともいわれています。また、長ねぎではなく玉ねぎが使用されているのも、当時の北海道では玉ねぎが手に入りやすかったためという背景があるようです。

こうして誕生した室蘭やきとりは、次第に「豚肉×玉ねぎ×洋がらし」のスタイルを確立し、地域の食文化として根付いていきました。洋がらしが添えられるようになったのは、おでんのからしをつけてみたことから始まったという説もありますが、今となってはこれがないと物足りないという室蘭市民はとても多く、もし一般的なやきとり店で洋がらしを注文している人を見かけたら...それは室蘭市民かもしれません!

20260126_ippei_hp_12.jpg豚肉と玉ねぎと洋がらしが室蘭やきとりの特徴!

お祝いの席や仲間との語らいの場など、市民の生活の一部となっている室蘭やきとりは、人それぞれ行きつけのお店や思い出の一串がある、まさに室蘭市民のソウルフード。市内には数多くの室蘭やきとりのお店があり、お肉の切り方やタレの味付けなど各店それぞれの味を提供しています。進学や就職などで市外で暮らしはじめると、「室蘭以外のやきとりって、豚肉じゃないんだ...」とカルチャーショックを受ける室蘭市民もいるとか、いないとか。

むむむ...やっぱりおなかが鳴りそうです!

三世代で市民に親しまれる「やきとりの一平 本店」

室蘭やきとりについておさらいしたところで、創業76年の老舗「やきとりの一平 本店」にお邪魔しましょう!

お話を聞かせてくれた三代目社長・石塚千津さんは、生まれも育ちも室蘭。やはり子供のころから室蘭やきとりを口にする機会は多かったそうです。

20260126_ippei_23.JPGやきとり一平の三代目・石塚千津さんも、やっぱり室蘭やきとりが大好き

「父は子供がお店に出入りするのが嫌いだったので、お店の中で食べるということはほとんどなかったのですが、やきとりはしょっちゅう食べてました。大人になってからは、かつての友人たちが集まると『石塚の家でやきとり食べようぜ!』という流れが定番になっていますよ」

今ではグループ店も増え、札幌にも店舗を構える一平ですが、お店の誕生は1950年に石塚さんのおじい様である初代・石塚亀ニさんが、室蘭市輪西町に「やきとりの一平 本店」を創業したときまでさかのぼります。ロゴマークに添えられている「一味平等」の文字には、「一度暖簾をくぐれば、老若男女、上下関係に拘らず、皆で楽しい席にしてもらいたい」という願いが込められています。

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「私の父はもともと製鉄所に勤めていたのですが、超が付くほどのジャズ好きでして。製鉄関連企業の城下町として賑わっていた輪西町で、ジャズ喫茶をオープンさせ、製鉄所職員と喫茶店の二つの草鞋を履きこなしていました。当時、やきとりのお店は私の叔父にあたる人が継ぐはずだったのですが、祖父が亡くなる前にやっぱり長男である私の父に継いでほしいという話になったそうで、叔父は輪西町の店を守り、父は二代目に就任された際に開店した中島町のお店に入ることに。実は、父はやきとりがあまり好きではなかったのですが、当時は親に逆らうなんて考えられない時代でしたからね」

20260126_ippei_18.JPG二代目の石塚和義さん

こうして不本意ながらも一平を受け継いだ二代目でしたが、自分のモチベーションを上げるために、中島町にもジャズ喫茶を作ったのだそう。やがて輪西町にあった本店は中島町のお店に移転となり、現在の本店は、そのジャズ喫茶だった場所にあります。石塚さんによると先代は空間作りが好きだったそうで、店内には印象的な蓄音機や銅板で作られたダクトなど、大正レトロを感じさせる雰囲気があちこちに見受けられます。緑色の布張りのイスは、昔の汽車に設置されていたイスがモチーフなのだとか。凝ってますね!

「私は小学生まで輪西町で暮らしていたんですが、お店の中はスーツの人や作業着の人でいっぱいでした。ほとんどが男性で、女性のお客様はあまり記憶にないんです。父はそのイメージを変え、家族連れや女性も気軽に入れるお店にしたいと考え、ジャズが聞けるやきとり店として一平をリニューアルさせました。元来がんばり屋の父なので、ジャズを取り入れていくうちにだんだんと楽しくなっていったみたいです」

二代目のジャズ好きはお店だけにとどまらず、仲間とともに「室蘭ジャズクルーズ」というイベントを10年間にわたり主催し、ジャズを通してまちの賑わいづくりにも貢献していました。

「家でもよくジャズがかかっていて、休みにの日にはかなり大きな音を出していました。子供の頃はうるさいなあと思っていましたね(笑)。父のレコードコレクションは絶対に触っちゃいけなくて。当時はよくわからず父が流す音楽を聞いてましたが、ある程度の年齢を重ねて私もようやくジャズの良さがわかってきた気がします」

リニューアルし、変わるものがある一方で、変わらないものも。初代から連綿と継ぎ足されてきた秘伝のタレもその一つ。レシピを守りつつ、時代時代に合わせて微調整を繰り返しています。なんでもこのタレ、全店舗で同じレシピを使っているものの、味は各店で結構違いがあるのだとか。

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「串をタレにくぐらせる時に肉汁や脂がタレに溶け込むんです。なのでお店によってまろやかだったり、少し尖っていたり、個性が出てくるんですよ。精肉の提供数では本店が一番多いので、ぜひ一度味わってみてください」

変わらぬ老舗のこだわりは、串にも宿っています。

「詳しくは企業秘密なので言えませんが、お肉の赤身や脂身のバランス、カットの仕方などを見極め、1本の串の中に先人の経験と知恵を詰め込んでいます。これは創業以来、今もずっと追求し続けていることです」

メニューには、「ひと串に『旨いと幸せの』の思いを込めて」という一文が。

今すぐ思いに向き合いたい。...おなかが鳴りました。

室蘭やきとりを未来へつなぐために

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2017年、千津さんが三代目に就任してからは、これまで手を付けてこなかったお店のWEBページの制作やSNS発信の強化など、室蘭やきとりのPRに力を入れてきました。そんななか、まちの将来を見据えたときに、ある大きな課題を感じていたそう。それは室蘭やきとりを未来に残す方法。

「室蘭だけではありませんが、とてもおいしいのに急に無くなってしまうお店が増えています。人口減少や跡継ぎの不在による飲食店の閉業が相次ぐ中、室蘭やきとりという地域独自の文化をどうしたら残していけるのか、ずっと考えています」

継ぎ足し続けるタレや串打ちのノウハウはありますが、それを実践する職人の成り手は減り続けているのが現状です。熟練の焼き手になるまでにはそれなりの経験が必要で、夏の焼き場は非常に暑く、炭による低温やけどもしょっちゅうという過酷な仕事。長く働いてもらいたい気持ちはあっても、少子化の影響もありなかなか正社員を確保するのが難しく、特にコロナ禍以降は手堅く生活の保障がある仕事が選ばれやすくなっていると千津さんは感じています。

20260126_ippei_21.jpg備長炭でじっくりと焼き上げた一平の室蘭やきとりには、旨味がぎゅっと閉じ込められています

そんな状況のなかで、室蘭やきとりの火を残すため、千津さんは考え方を変化させました。

「昔のように10年、20年と同じ会社で続けてくれる人ももちろんいますが、飲食店の場合は修行を積んで自分でお店をやりたいという人も多いんです。実際にうちを卒業して創業した人もいて、今の子たちってすごいんです。だから、室蘭やきとりのお店で修業した人は、もしかしたら自分のお店でも室蘭やきとりを提供してくれるかもしれない。一平で働くことが室蘭やきとりの作り方を知るきっかけになって、室蘭やきとりの文化が外に広がっていくかもしれない。そういう人を増やし続けることが、今の私の課題であり使命だと考えるようになりました」

お店で働いている人の中には室蘭工業大学の学生も多いそうで、その覚えの早さに千津さんは「ほんとに優秀!」と舌を巻きます。卒業までの4年間働いてくれる人もいて、相当な戦力になっているのだとか。こうした大学生を含め、千津さんは一緒に働いてくれた仲間たちが、将来それぞれが活躍する場所で室蘭やきとりを思い出してくれることに期待を寄せています。

20260126_ippei_hp_7.jpg経験を積み重ねた職人技がものをいう焼き場の仕事

「室蘭やきとりの会」発足とこれからの展望

そんな室蘭市で2025年4月、市内25店舗の室蘭やきとりを提供するお店が加盟する「室蘭やきとりの会」が発足されました。千津さんは副会長を務めています。

「もともと私は一般社団法人 日本やきとり文化振興協会の理事として、全国各地でやきとりの食文化の普及活動をしていたのですが、あるとき室蘭でがんばっている室蘭やきとり店の若手店主から『室蘭やきとりの会』を作りたいと相談を受けたんです」

若手同志のがんばりを応援しないわけにはいかない!と千津さんも発足準備に加わり、加盟店舗を増やすために一軒一軒お店を訪問したそうです。お店を回っていく中で感じたのは、「賛同したい気持ちはあるが身軽に動くことは難しい」というお店の苦悩でした。会の発足に当たり、千津さんにはある狙いがあったそうです。

20260126_ippei_24.jpg「室蘭やきとりの会」のみなさん

「室蘭やきとりを守っていくための方法として、文化庁の『100年フード』への登録を目指したいと思っていました。100年フードへの登録を通じてブランド化を図ることは、食べる人はもちろん、作る側のモチベーションアップにもつながるはず。そのためにも協議会や組合などの団体が必要だったんです。今、100年フードの登録に向けて、日々取り組みを進めています」

2025年10月には室蘭やきとりの会で初めての出前授業を行いました。市内の中学校3年生40名を対象に、「一平 本店」「伊勢広」「今昔」「ありがたや」と室蘭やきとりのお店が講師を務め、室蘭やきとりの歴史や由来の授業を実施。その後、生徒たちは自分でブロック肉と玉ねぎをカットし、自分だけの室蘭やきとりを串打ち。中庭に設置した焼き台で丁寧に焼き上げ、自分だけの室蘭やきとりを味わいました。

20260126_ippei_25.jpg出前授業での一コマ。中学生のみなさん、真剣です!

「みんなすごく可愛くて!もしかしたら初めて包丁を持ったという子もいたかもしれません。まちのソウルフードを自分で作れるようになってほしいという思いが昔からあったので、それを子供たち向けの出前授業でできたことは一歩前進だな、と思っています」

学校で室蘭やきとりを作る授業があったという記憶は、いつの日か子供たちの郷土愛や自信につながるはず。今後はさらに出前授業の回数を増やし、より多くの子供たちと一緒に室蘭やきとりを作りたいと千津さんは力強く語ります。さらに2026年8月22日・23日には「やきとりJAPANフェスティバル」が北海道初上陸!そしてなんと、ここ室蘭市内で開催されます。

「やきとりJAPANフェスティバルは日本最大級のやきとりイベントで、初回の開催時からいつか室蘭開催を!と打診していました。それがついに実現することになったので本当に嬉しいです。当日は室蘭やきとりの会の加盟店や、やきとり以外の室蘭の特産品ブースも登場しますので、ぜひ会場にお越しください」

20260126_ippei_21_fb.jpg2025年に鳥取で開かれた「やきとりJAPANフェスティバル」での様子。2日間で約9万人が訪れ、8,000本の室蘭やきとりが売れました!

お店に、やきとりの会にと大忙しの千津さんですが、一緒に働くスタッフの労働環境の改善にも取り組んでいます。特に休暇の充実化に力を入れており、会社全体で有休をとりやすい雰囲気づくりを進めているそうです。

「やきとりの真空パック商品を作る場合、生産者さんからお肉が届き、そこからカットして肉を刺していきます。それが終わったら炭で焼いて真空パックに詰める。全部終わったらようやく発送、という役割分担があるので、働いてくれる人たちは全員がうちの心臓部です。一人ひとりの力があるからこそ、おいしい室蘭やきとりをお客様に提供することができていることを常に伝えています」

やきとりJAPANフェスティバルも控え、出前授業も拡大し、今年大注目となる室蘭やきとり。親子三世代が未来につないでいくグルメ文化遺産を味わいに、次のドライブは室蘭へ!そして晩御飯はもちろん、やきとりの一平 本店できまり!

やきとりの一平 本店
やきとりの一平 本店
住所

北海道室蘭市中島町1丁目17-3

電話

0143-44-4420

URL

https://www.e-ippei.com/

やきとりの一平 本店 公式Facebook

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三世代で受け継ぐ室蘭市民のソウルフード。やきとりの一平

この記事は2026年1月26日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。