「自然の中で暮らしたい、山に住みたい」という想いから、林業の世界へ飛び込んだ上井達矢さん。自伐型林業の会社で修業する傍ら、自身で山を持ちたいと山を探し歩き、縁あってたどり着いたのが、空知管内の北側にある北海道雨竜郡北竜町でした。
2020年に妻の仁美さんと一緒に移住し、現在は「Shizenka(自然下)」という屋号で、山を管理して木を伐るだけでなく、伐ったものに付加価値をつける木工プロダクトにも力を入れています。
今回は、上井さん夫妻にこれまでの歩みとこれからの構想や町の暮らしなどについて語ってもらいました。
幼い頃から自然に親しみ、大学では野生動物を学び、林業の道へ
「今は宅地化されていますが、子どものころは家の周りに畑や自然がたくさん残っていて、夏は裏山の森に入ってクワガタなど、いろいろな生き物を探していましたね。冬は崖の上から滑って遊んだり、かまくらを作ったりしていましたね。父もよくキャンプに連れていってくれたので、自然の中で遊ぶことは自分の中では日常的なことでした」
そう話す上井達矢さんは札幌の清田区出身。中学に進むころには、自然に関わることがしたいと考えていたそう。幼いころの原体験が、進路はもちろん今の暮らしにも繋がっているようです。
「大学は北海道江別市にある酪農学園大学に進み、環境共生学類を専攻しました。野生動物保護管理学研究室に在籍し、大学のときは外来種のカエルの駆除など個体数管理について、修士課程ではエゾシカの生態分析の研究をしていました。簡単に説明すると、増えすぎた野生動物の個体数の管理と、減っている野生動物の種を守るための調査や管理ですね」
「自然の中で暮らしたい、山に住みたい」という想いから、林業の世界へ飛び込んだ上井達矢さん。
大学院を卒業後、達矢さんは北海道虻田郡倶知安町の博物館に勤務しますが、「何か違う」と違和感を覚えます。
「単純に事務仕事が向いていなかったんですよね。館内にずっといて展示物を作るとかも自分には合わないなと感じていました。やっぱり外に出たいなと」
モヤモヤしたものを抱えながら倶知安町に暮らしていた上井さんは、羊蹄山の麓の森で自身が理想とするような暮らしをしているおじいさんと出会います。
「森の中のおしゃれな家に住んで自給自足に近い生活をしているおじいさんで、昔はそこでカフェをやっていたそうなんです。3ha近くある庭というか、もう山なんですけど、そこから羊蹄の湧き水がドバドバ出ていて(笑)。自分もこんなふうに森の中で暮らしながら年を取りたいなと思ったんです」
自然の中で暮らすにはどんな仕事があるか。そう考えた達矢さんの頭に浮かんだのは林業でした。自分で山を持ってそこに暮らしたいと思っていた達矢さんは、小さな規模ではじめられ、無理なく自分のペースで管理し、持続的に木を伐採、販売する「自伐型林業」に興味を持ちます。
とはいえ、林業に関しては右も左も分かりません。働きながら学べるところはないかとネットで調べ、白老町で自伐型林業に取り組んでいる大西林業の門を叩きます。
チェーンソーを手に木を伐り出す達矢さん。白老町でのハードな修業時代に、毎日現場に出て自伐型林業の技術を体で覚えていきました。
大学の研究室で出会い、一緒に自然の中で暮らすと決めて結婚
ここまでは達矢さんの話でしたが、達矢さんと同じ大学の研究室の先輩だったという仁美さんの歩みについても伺いたいと思います。
「出身は北海道日高郡新ひだか町の三石のほうで、実家はサラブレッドの牧場と牧場の間に建つお寺です(笑)。大学に進学するつもりは特になかったのですが、親から勧められて、そのとき興味があった野生動物のことが学べる酪農学園大学へ進学しました」
仁美さんが高校生のとき、エゾシカが増え、JRの線路に飛び出す事故が多発。実家のお寺の庭の木々も新芽や樹皮をエゾシカに食べ荒らされることが増えたそう。
こちらが、達矢さんの奥様の仁美さんです。
「それでエゾシカや野生動物関係に興味がわいて、勉強できたら面白そうだなという感じで大学を選んだんですよね」と振り返ります。
大学卒業後は一般企業で働いていましたが、野生動物保護管理学研究室の秘書や事務を担っていた人が退職するということになり、当時の教授からその仕事をやらないかと卒業生の仁美さんに声がかかります。そのとき、学生で研究室に在籍していた達矢さんと知り合います。
達矢さんが倶知安の博物館に就職する際、仁美さんも一緒に倶知安へ。達矢さんが仕事に関して思い悩んでいる姿を間近で見てきた仁美さん、森の中で暮らしたいという気持ちも十分理解していました。そして2018年春、白老へ行くタイミングで2人は結婚します。

北竜町の人はみんな温かく、子どもから高齢者までイベントの参加率も高い
白老に引っ越し、大西林業に入った達矢さんは自伐型林業についてひと通り経験します。
「とにかく毎日現場に出て、体で覚えていくという感じでした」と話し、山に入って道をつけ、チェーンソーで伐り出した木を運び出し、それを薪にしたり、炭窯で焼いたりしていたそう。肉体的にもかなりハードでしたが、「修業という意味では良かったと思いますね」と振り返ります。
そのまま白老で働き続けることもできましたが、もともと独立するつもりで大西林業に入った達矢さんは2年くらいで卒業しようと考えていました。
仁美さんは、「大西林業から独立する前に自分たちの山を見つけなければと思って、最後の1年はちょっと焦り気味で山探しをしていました」と当時を思い返します。
山を探すと言っても、家を探すのとは訳が違います。各地の森林組合に相談したり、山林情報の総合サイトをチェックしたりしましたが、なかなか自分たちの条件に合う山が見つかりませんでした。
「最初は安く購入できる広めの山を、札幌周辺に絞って探していました。でもやはりいい山は金額も高いし、なかなか条件に合う山が見つからなくて、Googleマップで気になる山を見つけて実際に足を運んでみて、持ち主を探して連絡を取るなどもしましたが、そう簡単には見つけられずにいました」と達矢さん。
そんなとき、知人から北竜町の山林を譲ってもいいという人がいると情報が入ります。問い合わせて調べたところ、条件が一致。
北竜町で見つけた約25haの広葉樹林の山。のどかで子育てしやすいこの町で、お子さんを連れて山に入ることもあるそうです。
「ただ、その山に行くまでに別の所有者の方の土地があったりして、道をつけさせてもらわないと山に入れないので、その許可をもらうための交渉などもあり、なかなか大変ではありました」と達矢さんは話します。
2020年1月に登記が完了します。購入した山林は約25haの広さがあり、カラマツを主体としながら、白樺やミズナラなどの広葉樹も混じる豊かな森でした。3月には白老から北竜町へ引っ越しも済ませます。
「ちょうどいいタイミングで公営住宅に入ることができ、半年くらいそこに住んでいました。北竜町の山を買うことになって移住が決まった時、とにかく役場の人たちが親身になってくれて、本当に助かりました」と仁美さん。
達矢さんも「町としても林業で移住してくる人は珍しかったのか、興味を持ってもらえたようですね。今もいろいろ応援してくれてありがたいです」と話します。
「移住が決まった時、役場の方々がとにかく親身になってくれたのが心強かった」と語る仁美さん。公営住宅での準備期間を経て、念願の北竜町での暮らしが始まりました。
伐った白樺を無駄にしないプロダクト作り。手探りしながら新たなものも構想中
森を守りながら、そこにある木を活かす自伐型林業。基本的に植林はせず、森が本来持つ自然の力を残し、笹刈りや間伐といった手入れを通じて、持続可能な森を育てていきます。
上井さん夫妻は、「Shizenka(自然下)」という屋号で、伐り出した木を使った薪やほだ木のほか、森の素材を無駄にしないプロダクト作りにも取り組んでいます。インテリアにも使える白樺の樹皮や枝、丸太を素材として販売するほか、白樺樹皮を用いた雑貨なども販売しています。
仁美さんも白樺樹皮を用いたコースターなどを作ることがあるそうですが、「やり始めるとついつい夢中になってしまって」と笑い、「町内のハンドメイド好きな主婦の方たちの『つむぎ』というグループでも、うちの白樺樹皮を使ったアクセサリーなどを作ってくれています」と続けます。
「農閑期になると時間があるせいか、北竜町にはハンドメイドが得意な方が多いような気がします」と仁美さん。昨年の秋には、日本最大のハンドメイドマーケットのサイトとして知られるCreema(クリーマ)と一緒に「ひまわりのまちクラフトマルシェ」が開催され、Creemaの作家さんのほか、地元の作家さんたちも登場し、とても盛り上がったそう。
秋のCreemaのイベントには出店しませんでしたが、1月に東京のビックサイトで行われた「HandMade In Japan Fes' 冬」には、達矢さんも白樺のライトなどを持って出店。
「僕は山にいるほうが好きなので、イベントでの接客も展示も苦手で...。イベントの展示のコーディネートは全部妻がやってくれています」と苦笑します。
「白樺のプロダクト作りにも力を入れていけたら」と考えている達矢さん。
実は移住から6年目を迎えるにあたって、これまでの自伐型林業から少し方向転換を考えているという達矢さん。
「自分の山だけで一人で自伐型をやるにはいろいろ難しさを感じている部分もあり...。農家さんの庭木の伐採や管理ができていない山林管理などを請け負うこともあって、これまでの経験を生かしてそういう仕事を増やしながら、白樺のプロダクト作りにも力を入れていけたらと考えています」と明かしてくれました。
達矢さんは、「庭木の伐採現場で、日の光をたっぷり浴びて真っすぐ伸びた白樺の美しさに目を奪われることがあります。こうした、まだその価値に気づかれていない素材を、持続可能な形で活用したい。自分の中で、持続可能ではないことはしないと決めているんです」と語ります。

「その美しさを生かしたプロダクトができないか、今はちょうど構想を練っているところです。里山で育った白樺を使い、都会のホテルやショップの雰囲気を変えるような空間提案ができたらと考えています」
さらに、プロダクト作りをやってみたい、アイデアを形にしたいという人が身近にいてくれたらという願望もあると言い、「もちろん、町内で一緒に林業をやりたいという人もいてくれたらと思います」と話します。
ちなみに、趣味でコーヒー豆の焙煎もやっているという達矢さんは、白樺や森の木の実の香りがするドリップパックを「森のコーヒー」として販売できないかと考えてもいるそう。
手入れが行き届き、まっすぐに伸びた白樺が美しい北竜町の山林。今後もこの豊かな資源を活かし、他業種とのコラボやワークショップなど新たな挑戦が続きます。
やさしい人が多い町は子育てもしやすく、たくさんの資源が眠っている
移住の翌年、仁美さんは男の子を出産。その3年後には2人目のお子さんも誕生しました。5歳と2歳になったお子さんを連れて、山に行くこともあるそうです。
「北竜町はとても子育てしやすい町だと思います。出産祝い金の金額も高いほうではないかな。子どもが生まれてお祝い金がいただけるなんて、ありがたい話ですよね」と仁美さんが話すと、「移住の引っ越しのときも助成金が出たよね」と達矢さん。子どもの医療費無料や修学旅行の費用補助など、あらゆる面で手厚いと感じることが多いそう。
「北竜町に移住して良かったです!」と話してくれた、上井ご夫妻。笑顔が素敵です。
「あとはやっぱり人がいいですよね。北竜町は温厚な人が多いというか、みんな大らか。役場の人だけでなく、町の人たちも移住者に対してすごくやさしいし、町の子どもたちも素直で穏やか。豪雪地帯ですけど、田園地帯が広がるのどかな感じが町の人たちの雰囲気と繋がっている感じがします」と仁美さん。今後は移住仲間も増えたら嬉しいと続けます。
「北竜町はひまわりだけでなく、自分の山も含めてほかにもいろいろな資源が眠っている町だと思います。自分も山に関していろいろやれることはまだまだあると思うし、今後はワークショップやほかの業種の人とコラボなどももっとできたらと考えています。でも、自分は基本的に山で作業しているのが向いているので、この資源を使ってプロデュースしてくれるような人がいてくれたら...(笑)」と達矢さん。
現在は手探りで方向性を確かめている段階ですが、上井夫妻が手掛ける北竜町生まれの「Shizenka(自然下)」のプロダクトや素材が、全国の人にどのように届けられるのか注目をしていきたいです。
私たちは、北竜町の豊かな自然を次世代へ繋ぎ、この町をさらに活気づけていきたいと考えています。町を一緒に盛り上げたいという志を持つ方はもちろん、「Shizenka(自然下)」が手がけるプロダクトやこだわりの素材について詳しく知りたいという方も、どうぞお気軽にご相談ください。皆様との新しい出会いを心よりお待ちしております。
- Shizenka(自然下)
上井達矢さん・仁美さん - URL
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shizenka.net@gmail.com















