
なだらかな曲線が連なる丘陵地に広がる畑。パッチワークのようと表現されるこの風景は、北海道・美瑛ならではのものです。
今回おじゃましたのは、この美瑛の町で昭和48(1973)年に設立された農事組合法人「柏台生産組合」。東京ドーム約50個分にあたる総面積250ヘクタールの畑で、ジャガイモ、ビート、小麦を栽培しています。耕作面積は、美瑛で一番の広さを誇るそう。
現在、これだけの広さを社員6名とインドネシアからの技能実習生3名で管理しています。
道内でも早い段階で法人化。一般の会社員と変わらない働き方ができる
まずは柏台生産組合について、入社9年目を迎える社員の百瀬隆之さんに伺っていきましょう。
「250ヘクタールある畑のうち、63ヘクタールでジャガイモを栽培しています。これらは、みなさんがよく知っている菓子メーカーのポテトチップスの原料になります。小麦栽培には134ヘクタール使用。パンなどに使用する強力粉の品種を栽培しています。あとは、オリゴ糖の原料となるビートですね」
柏台生産組合の社員、百瀬隆之さん。百瀬さんは前職が機械エンジニアで、自然の中でメリハリのある農業の仕事に魅力を感じて転職しました。
この3品目の卸先はいずれも大手の企業や団体。安定価格で取引が行われています。これも法人だからこそできることです。
「設立に関しては、50年以上前の話なので、自分も伝え聞いているだけなのですが、この辺りの個人農家4軒が集まって、法人化したそうです。耕作面積は100haくらいからスタートしたと聞いています。昨今はうちのような農事組合法人を含め、農業法人の数は増えていますが、当時まだその数は少なく、北海道ではうちが1番か2番の早さで法人化したそうです」
法人化に踏み切ったのは、設備面に関するメリットがあったため。個人の農家では、1台数千万円もするトラクターなど大型の農機を導入するにも限界がありますが、それなりの耕地面積を抱える法人であればそれをフルに活用できるため、導入もしやすくなります。
また、家族経営の農家には休みと呼べるものはほぼなく、農業=休みのない大変な仕事と思われてきました。農家の仕事をしていても休みがきちんと取得できるような組織を作ることで、農業に従事する人たちが働きやすくなると考えての決断でもあったそう。
「実際、僕たちは農作業が仕事の会社員として働いています。休みもありますし、福利厚生も一般的な会社と遜色ありません。僕自身も転職する際、福利厚生の充実度はかなりチェックしました」
前職は機械エンジニア。自然の中でメリハリある仕事をしたくて転職
百瀬さんは静岡生まれ。秋田の大学に進学し、福島で就職。2016年に家族と共に美瑛へ移住してきました。
「もともと機械や車が好きで、大学を出たあとにカーオーディオの設計をする仕事に就いていたのですが、なかなかハードで...。朝から晩まで仕事漬けで、子どもたちと遊ぶ時間もなく、転職を考えたとき、メリハリのある農業の仕事に興味を持ちました。農業は自然のサイクルに合わせて仕事をするので、そこに魅力を感じたんです。とはいえ、家族もいるので、新規就農ではなく、会社員として働くことができる農業法人を探しました。あとは大きなトラクターに乗って仕事がしたいというのもありました」
北海道を移住先として選んだのは、日本の食糧基地であること、大型機械を使った農業を展開している法人が多いことのほか、「学生時代に登山をしていて、北海道にも何度か山登りで訪れた経験があり、そのときの楽しかった思い出もあって...」とその理由を話します。
柏台生産組合の広大な畑に停められた2台の大型トラクター。これらの機械を効率よく動かすことで、東京ドーム約50個分もの面積の畑を管理しています。
「柏台生産組合は歴史があり、福利厚生や制度が充実していたこともあり、転職先として良さそうだなと思いました。農業に関して未経験でしたが、当時の組合長(現・相談役)が『やる気だけで十分』と言ってくれたので、思い切って就職。こっちに来たのが8月の繁忙期だったんですが、先輩たちが仕事を一つずつ教えてくれたので、安心して仕事に取り組めました。大型農機を運転するための免許や資格も会社のサポートで取得しました」
広い面積を分業で作業しているため、9年目になる百瀬さんでも、まだ経験したことがない仕事があるそう。
「少しずつですけど、毎年できない作業を減らしていき、最終的にはひと通り全部をできるようになりたいですね。農業は天候で生育状況が異なるなど、とにかく経験を積んでいかなければ分からないことも多いので、常に勉強です」
機械化が進んでいるとはいえ、農業は自然相手の仕事。春から秋にかけては忙しい日が続きますが、冬になると長期で休みを取得することもできるので、百瀬さんは家族を連れて本州の実家に帰省します。本州出身者には喜ばれているそうです。ちなみに、社員の大半が本州出身&農業未経験者なのだそう。
町内にマイホームを購入したという百瀬さん。美瑛での暮らしも充実しているのが伝わってきます。
「仕事自体も毎日いろいろな作業に取り組むのでメリハリがあるし、外に出て体を動かしているからか、健康的になりました」と笑顔で話してくれました。
「農業は天候で生育状況が異なるなど、常に勉強」だと語ります。
中学の同級生2人組。ひょんなことから縁もゆかりもない美瑛で農業に従事
次に、百瀬さんの後輩にあたる若手男性社員・小崎真太朗さんと小林和希さんに登場してもらいました。2人は、京都府美山町出身の24歳。中学の同級生なのだそう。
まずは美瑛へ来るきっかけを小崎さんから伺っていくことにしましょう。
「うちの実家は代々農業と林業を営んでいて、僕も地元の農業高校に通っていました。高校を卒業したあとは、父が農業について学んだ北海道農業専門学校(札幌市にある八紘学園)に自分も進学することにしました。父がどんなことを学んできたのかを知りたかったんですよね」と小崎さん。
柏台生産組合の若手社員、小崎真太朗さん。小崎さんは京都出身で、北海道の専門学校に進学後、美瑛での農業の仕事に就きました。
父のあとを追って専門学校に進んだのであれば、京都へ帰って跡を継ぐのかと思いますが、「帰る気はなかったですね」と想定外な回答。小崎さんのお父さんは実家を継いでほしいという考えは持っておらず、むしろ自分の代で終わらせてもいいと考えていたそう。
「北海道のような大規模農業と違って、農地も狭いし小規模。温暖化も進んでいて、その影響が作物にも出ているし、そもそも儲からないんです。それが分かっているから、父親も子どもたちに苦労をさせたくないという想いがあって、跡を継ぎなさいとは言わなかったと思う」と続けます。
トラクターに乗るのが大好きだった小崎さん。専門学校卒業後は北海道に残って農作業委託事業(コントラクター)を請け負っているところで仕事をしようと考えていました。
柏台生産組合では、手作業がほとんどなく、トラクターを効率よく動かす「農作業オペレーター」が主な仕事です。
「でも、土いじりも少ししたくなっちゃって(笑)、機械にも乗れて、土にも触れられるところに就職したいと専門学校の先生に話したら、ここを紹介されたんです」と柏台生産組合との出合いを話します。
とんとん拍子で就職先が決まった小崎さんは、京都の実家へ帰った際、友人の小林さんに柏台生産組合に就職することになった話をします。
小崎さんの話を聞いた小林さんは、「僕は高校を出たあと、地元の大学に通っていたんですが、大学が自分には合わないと感じていて、ちょうど退学したときでした。仕事を探すという話をしたら、彼が『一緒に来る?』と誘ってくれて...」と振り返ります。小崎さんはすぐに組合長に電話をし、小林さんを連れていくことの承諾を得ます。
「農業経験もないし、北海道もよく分からないけれど、とりあえず行ってみようと思って美瑛に来ました。もともと体を動かすのは苦ではなかったですし」と小林さん。元気いっぱいでアクティブな印象の小崎さんと違い、物静かで穏やかな雰囲気の小林さんですが、意外と大胆なよう。
同期入社という形で柏台生産組合へやって来た2人。美瑛の市街地に用意された寮に暮らし、それぞれ先輩に付いて仕事をひとつずつ覚えていきました。2人はタイプが真逆で、小崎さんが言うには「僕は感覚派で、失敗して、怒られて、仕事を覚えていくタイプ。でも、彼は頭脳派で、教えられたことを頭の中で理解してから、行動に移していくタイプ」なのだそう。
美瑛での暮らしについて尋ねると、「僕たちの育った美山町は京都の中でも自然が豊かな場所。毎日のように川で遊んでいたので、2人とも野生児なんです。しかも、コンビニもないくらいの田舎で、美瑛のほうがコンビニも飲食店もいっぱいあって、暮らしもずっと便利(笑)」と小崎さん。小林さんも隣で頷きます。
畑の小道を歩く二人。彼らは入社5年目を迎え、仕事にも慣れて様々なことを任されています。
自分たちは農作業オペレーター。社員間の風通しも良く、働きやすい環境
柏台生産組合で働き始めて5年目に入った小崎さんと小林さん。仕事にもだいぶ慣れ、いろいろなことを任されるようになりました。
小崎さんは、「僕は自分の仕事を農作業オペレーターと呼んでいます。うちは手作業するものがほとんどなく、トラクターを効率よく動かしてどれだけ耕せるかが大事で、いわゆる多くの人が想像する一般的な農業とは少し違うかも」と話します。
その農作業オペレーターのやりがいや面白さについて尋ねると、「思い描いた通りにトラクターを動かせたり、できなかったことがうまくできるようになったりすると、自分の成長が感じられて面白いですよね。農業っていかに効率よく進めるかというのも大事なので、そういうことを考えながら実践していくことができるのも面白い」と小崎さん。
こちらが、小崎さんの親友、小林和希さん。
一方、小林さんは「自分は土をおこす作業をしているんですが、予定通りに作業が進むと達成感を感じます。あと、畑に作物ができたときに一番喜びを感じるかな」と話します。
現場では一人でトラクターに乗って作業しますが、広大な農地で効率よく作業していくためにはチームワークも必要。組合長も組織は人間関係が大事だと考え、風通しの良い雰囲気作りに努めています。雨が降ると、常備してある七輪で焼肉まつりが始まるそう。
先輩たちとも仲が良く、「みんなやさしくて、いい人ばかり。上の人たちとの距離も近くて、何でも言い合えるのがここの魅力かな」と小崎さん。
小崎さんは昨年の10月に美瑛で知り合った旭川の女性と結婚し、小林さんも地元の女性とお付き合いをしているそうです。小林さんは最近、趣味の自転車も購入し、休みになると愛車で出かけているとか。2人とも美瑛での暮らしを楽しんでいる様子が伝わってきます。
これからの目標について尋ねると、「百瀬さんが言っていたように、できないことを減らしていきたいです。今任されている仕事をラクにできるようになり、まだ経験していない仕事にもチャレンジしたいですね」と小林さん。
いつか京都からお父さんを美瑛に呼びたいと考えている小崎さんは、「辞めるつもりはないですけど、もし辞めると言ったら、残っていてくれと言われるような人材になりたい。もっと応用力も身に着けて、必要とされるくらい成長したいですね」と最後に語ってくれました。
広大な畑を眺めている後ろ姿。「農業の未来を一緒に築いていきませんか」by 全員

- 農事組合法人 柏台生産組合
- 住所
北海道上川郡美瑛町字北瑛第2
- 電話
0166-92-4722
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