北海道中標津(なかしべつ)町にあるコンテナホテル「クテクン」、別海町で雪上で行われるマラソン「別海アイスマラソン」、独立リーグの北海道フロンティアリーグに所属するプロ野球チーム「別海パイロットスピリッツ」...実はこの取り組み全て、別海町で公共・民間施設の設備に関わる幅広い工事を担っている「株式会社高橋工業」が行っています。この取り組みの立案者であり、株式会社高橋工業の代表取締役である高橋宗靖さんに自社についてや別海町への想いを伺いました。
設備工事から住宅課題解決まで。地域に根ざした事業展開
株式会社高橋工業は1956年に創業しました。根釧路パイロットファームに入植した先代の高橋武志氏が、「高橋商店」を立ち上げたのが始まりです。当時は、ともに入植した仲間たちの暮らしを支えるため、金物や建材の販売、井戸工事、石炭販売などを手がけていました。1987年には社名を「高橋工業」へ変更。現在は、空気調和設備工事や給排水衛生設備工事、防災設備工事、建物施設メンテナンスなど、公共・民間施設の設備に関わる幅広い工事を担っています。
こちらが、株式会社高橋工業代表取締役の高橋宗靖さん
「弊社では、別海町を中心に、根室・釧路・帯広・標津など、道東一円を営業エリアとしています」
そう話すのは、2013年に先代から会社を引き継いだ高橋宗靖さんです。暮らしに欠かせないインフラを守ることが、同社の事業の主軸。さらに2019年には、酪農地帯の住環境を整える目的で、コンテナハウス「スムノア」の販売を開始しました。
「もともと酪農家さんから、従業員が住む場所がなくて困っているという相談を受けたのがきっかけです。マンションの建設は難しいですが、コンテナハウスなら設備会社として培ってきた技術やノウハウを生かせるのではないかと考え、新たなビジネスとして始めました」
実際に作ってみると、想像以上の反響があったといいます。1棟の予定が「自分も住みたい」という声が次々に上がり、現在までに10棟を完成させました。
「実際に住んでもらうと、改良点が見えてきます。私たちは技術屋ですから、より良い形にできないかと考えながら作っていく。その積み重ねが、次の事業へとつながりました」
その事業こそが、2022年にオープンしたコンテナホテル「クテクン」です。

中標津町にある「クテクンの滝」がホテル名の由来。冬には滝が凍って、薄水色の氷爆へと変化します。その滝の氷の色がホテルのイメージカラーとして用いられています

「本当にコンテナの中?」と思うほどの広さと清潔感にあふれるお部屋(ツインルーム)
「当時、中標津に弊社の遊休地があり、新しい事業に活用できないか考えていました。『スムノア』でコンテナハウスを手がけた実績もありましたし、そのノウハウを生かして、コンテナ型のホテルを運営してみようということになったんです。ちょうどコロナ禍で、事業再構築補助金の制度があることを知り、活用しました」
別棟には、高橋さんが手掛けるサウナ室も完備。室温100度前後のサウナ室から、マイナス気温の外気浴へ。サウナ好きな高橋さんのこだわりが詰まっています。
コンテナなら移動できる。その発想で始めたホテル運営
ホテルクテクンは、コンテナを活用した宿泊施設です。シンプルで清潔感のある内装は、ほぼ高橋さんが独自に考えたものだそう。全宿泊者が利用できるサウナも備えており、ビジネス利用から観光まで幅広い層に利用されています。「コンテナでホテルをやりたいと言ったときは、周りから『また変なことを始めたな』と言われました」
と、笑う高橋さん。なぜ、コンテナだったのでしょうか。

「コンテナは建物と違って動かせるところが大きかったです。うまくいかなければ撤退できますし、集客が難しくなれば、人が集まる場所に移すこともできます」
ホテルがターゲットにしたのは、車で移動する観光客。高橋さんの見立てどおり、観光地へ向かう途中の滞在拠点として利用されているといいます。
その中には外国人観光客の利用もあり、2024年度は利用者の約7%が海外からの観光客でしたが、2025年度は7.7%まで伸びました。台湾を中心に、アメリカやヨーロッパから訪れる人もいるといいます。
高橋工業では、今年、中標津町でキャビン型ホテル「キャビンクテクン」をオープンする予定です。

「クテクンで培ったノウハウもありますし、中標津にはまだ宿泊施設が少ない。キャビン型にすれば宿泊料金も抑えられますし、出張などでも利用しやすくなると思います」
クテクンで働く人のバックグラウンドもさまざまです。グループ会社「ガス・テック株式会社」工事・保安主任の気田直貴さんも、その一人。北見市出身で、幼少期に家族の転勤で別海町へ移り住んだといいます。施工中のキャビンクテクンにおじゃまさせていただき、入社に至るまでの経緯を聞いてみました。
こちらが株式会社高橋工業のグループ会社「ガス・テック株式会社」工事・保安主任の気田直貴さん。キャビンクテクンのガス設備全般の設置・管理を担当しています
「新卒で入社したのは、ブライダルの撮影会社でした。テレビで見るような大型カメラを担いで結婚式を撮影していましたが、体力的にキツくなり、2年ほどで退職しました。その後はフリーターとしてパン屋で働いたり、夜勤の仕事をしたりしていましたが、あるとき友人が『高橋工業はいい会社だよ』と紹介してくれたんです。まったくの異業種からの転職でした」
一方で、高橋さんはこう語ります。
「夜勤で働いていたからか、入社した頃は肌も白くてひょろっとしていましたね(笑)。でも今は、会社の中で彼より動ける人はいないんじゃないかと思います」
現場で経験を重ね、今では欠かせない存在に。クテクンの運営は、こうした一人ひとりの成長によって支えられています。

高橋さんは、さらに新たなビジネスチャンスも探っています。宿泊施設が不足している道内の自治体から相談を受ける中、クテクンのような宿泊スタイルを、設計から運営まで一つのモデルとしてパッケージ化できないか検討しているそうです。
「コンテナそのものを投資対象にできないか、という構想もあります。いわゆるオペレーションリースのような形で、投資家の方にコンテナを購入していただき、それを運用していく仕組みをつくれないかと考えています」
課題を解決するのが好き。仕組みをつくれば仕事は自走する
「仕事は、仕組みをつくってしまえば自走していくものじゃないですか。自走させるまでが大変なんです。でも、いろいろ考えながら目の前の課題を解決していくのが好きなんです」
そう話す高橋さんは、高校まで別海町で過ごし、卒業後は東京の専門学校へ進学しました。
「高校時代の友達のほとんどが札幌の専門学校に進学したので、本当は自分も札幌に行きたかったんです。でも父から、『友達と遊ぶだろう』と言われて。完全に見抜かれていましたね(笑)」

専門学校卒業後は、地元に戻り、父が経営する高橋工業へ入社します。その後、高橋さんは高橋工業でさまざまな仕事に携わることになります。その中には、「課題を解決するのが好き」という言葉を裏付けるようなエピソードも。それは、グループ会社がJR札幌駅のステラプレイスに和食店を出店したときのことです。経営が思うようにいかなくなり、高橋さんは立て直しのため現場に入りました。それまで担当していた設備工事とは、まったく異なる業種です。
「大変でしたね。それでも、3〜4年かけて売上は回復しました。その時も課題を解決すれば、どうにかなると考えてひたすらがんばりました。ただ、このまま営業を続けるのは難しいとも感じていましたね。父は継続を望みましたが、最終的に私の判断で店を閉じることに決めたんです」
新しい仕事を生み出すだけでなく、事業の可能性を見極め、必要であれば撤退を決断する。そうした判断力やビジネススキルを少しずつ磨いていきました。
スポーツで人を呼ぶ。アイスマラソン開催と野球チーム発足
高橋工業は、クテクンのほかに別海町を舞台にさまざまな取り組みに関わっています。その一つが、2023年から始まった「別海アイスマラソン」。マイナス20度の氷上を走る、日本でも前例のない大会です。北極冒険家の荻田泰永氏と、トライアスロンの第一人者である白戸太朗氏の監修のもと開催されています。きっかけは、高橋さんの幼なじみとの会話でした。

「地方創生で何かできないか、という話をしたんです。そこから知り合いを通じて白戸さんとつながり、南極マラソンのような大会を別海町でできないかと。選手だけでなく、家族も滞在するので、地域に人を呼べると思いました」
第1回の参加者は約130人。関東や関西、沖縄、さらには海外からも選手が訪れました。2025年の第4回大会の参加者は200人に増加。全国から人が集まる大会へと成長しています。中には、南極マラソン出場をめざし、本番前の準備として参加するランナーもいるそうです。
「開催前は、正直あまり乗り気ではない町民もいました。でも、多くの人が集まるのを見て、好意的に受け止めてくれる人が増えましたね」
今年は2月8日に開催。走り抜いた後に入るサウナと、キンッキンに冷えた海水の水風呂に浸かる、極上体験ができるんだとか
さらに2024年には、独立リーグ「北海道フロンティアリーグ」に所属するプロ野球チーム「別海パイロットスピリッツ」も発足しています。もともとは地域課題解決としてホテルを建設しようと、一般社団法人を立ち上げたのが始まりです。計画を進める中で、プロ野球チームをつくらないかという話が持ち上がりました。
「『どうだろう』と聞かれたので、『やってやろう』と。一般社団法人の中に野球チーム部門をつくりました。ただ、野球をするにも資金は必要です。企業や取引先に協賛をお願いして回りました」
初年度の戦績は、4チーム中4位。それでも、地元開催試合が増え、選手や関係者が町を訪れることで、飲食店や宿泊施設には確かな経済効果が生まれています。別海町からの資金面・施設面での支援もあり、官民一体の取り組みとなっています。
「2026年にはジュニアチームも誕生します。別海町は学校が点在していて、野球をやろうとしても単独ではなかなか人数が集まりません。それなら学校の垣根を越えて、子どもたちを集めたチームをつくればいいんじゃないかとなったんです」
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子どもたちにとっては、トップチームの選手から指導を受けられる貴重な機会になります。また、地域活動の裾野を広げていくことも、社団法人の大切な活動の一つだといいます。
「何年後かに、子どもたちがこのチームの選手として活躍してくれたらうれしいです。あとはやっぱり...セパリーグで活躍するような子たちを育てられたら、最高ですよね」と高橋さんは話します。
人口減少をどう食い止めるか。それが自分たちの仕事の領域
今後も、いろいろな仕組みづくりをしていきたいと話す高橋さん。将来的には、事業運営に必要な業務を、外部に委ねることも視野に入れているといいます。
「例えば、税務や法務に詳しい人にオペレーションリースの仕組みをつくってもらうとか。仕組みができたら、それを運用する人も必要になりますからね。雇用形態はあまり気にせずにやりたい人が責任をもってやる。これが今後必要になってくるかなと思います」
どのような人と一緒に働きたいか尋ねると、「問題を自分で発見して、課題解決できる人」と即答しました。
「最初からできなくてもいいんです。性別や国籍も問いませんし、道外からの移住者も歓迎です。うちにも優れた技能を持つ外国人スタッフがいますが、今後はそうした人材がもっと増えていくはずです」
業界自体も週休2日がほぼ当たり前になるなど、以前に比べて働きやすい環境が整ってきました。本人が望めば、将来的に独立をめざすことも応援したいといいます。

「2050年には人口が35%減少するといわれています。人口が減った後を前提にするのか、減少のスピードをどう落とすかを考えるのか。戦略によって町の未来は変わります。人が入ってくる仕組みをつくれば、過疎化のスピードは遅らせられると思うんです」
人口が減り続ければ、商売は成り立たなくなり、技術者も流出する。負の連鎖が起こると高橋さんは言います。
「人口をどう残すかが、町の規模を維持することにつながります。それを考えるのは、暮らしの環境を整える私たちの仕事の領域だと思っています」

設備会社として暮らしの基盤を支えながら、人が集まる仕組みをつくり続けている高橋さん。次々と新しい取り組みを形にしてきた背景には、常に地域の課題を解決したいという想いがありました。別海町の未来を見据えた高橋さんの挑戦が、これからどんな景色を生み出していくのか、楽しみにしています。
















