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まちおこしレポート
中頓別町

日本最北のワインで文化まで醸す?中頓別でブドウを育てる協力隊20260530

日本最北のワインで文化まで醸す?中頓別でブドウを育てる協力隊

持続可能な中頓別町へ。ワインで新しい産業をつくる

ワインやお酒に詳しい人であれば、「北海道ワイン」が全国で注目されていることをご存じかもしれません。温暖化で栽培適地が北上し、道内でもワイナリーが急増。ワインではよく、自然環境や風土が品質に影響を与えるという意味で「テロワール」という言葉が語られますが、豊かな北の大地が醸すお酒として人気が高まっているようです。

今回は、「日本最北のワイン」を夢見て、誰も正解が分からないなかで奮闘する2人の物語です。長く酪農を営んできた後藤敏直さんと、本州から家族4人で移住してきた山口隼人さんにお話を聞きました。

nakatontiikita72.jpg後藤敏直さん(写真右)がご自身でこれまで営んできた酪農場は、ワイン造りに情熱を注ぐ山口隼人さん(写真左)と町との共同作業によって新たなワイン造りに必要なほ場へと姿を変えました

舞台は北緯45度に位置し、厳寒期はマイナス30℃にもなる宗谷地方の中頓別(なかとんべつ)町。基幹産業は酪農で、人口は1400人ほどと小さな町なので、これからの持続可能な町づくりを考える上で、新たな産業をつくることが求められていました。

そこで町が着目したのがワインだったのです。数年前まで宗谷地方は醸造所の空白地帯でした。ワインがブームになり、道内でも醸造用のブドウ栽培が増えていることから、町内で試験栽培をすることになりました。そこで試験圃場の管理を任されたのが、ベテラン酪農家だった後藤さんでした。

「ブドウか、と。栽培したことないんで、興味はありましたよ。ワインというのも、歴史があって人を惹きつける、沼にハマる人もいるので面白いなと」。後藤さんは打診があった時の受け止めをこう語ります。

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2017年に試験栽培が始まりましたが、植えた苗40本が全滅。2020年にようやく実がなり、一気に機運が高まります。2023年には試験醸造にこぎつけ、商業栽培へ弾みがつきました。本州の産地が、ワインの酸を下げてしまう気温上昇に悩むなか、中頓別ならではの強みも見えてきました。

町役場と一緒になって試行錯誤を重ねてきた後藤さん。不安はあったものの、新しいことに挑戦する楽しみが勝ったようです。「最初はもう、葉っぱ1枚切るのも悩みながらでした。『これ切ったら枯れるんじゃないか?』って。雪も多いし、寒い。誰がやっても戸惑いますが、『絶対こうだよ』と言える人は誰もいない。行政も含めてみんな素人だから、同じ気持ちでやれました」

そんな折、2023年に強力なパートナーが参画することになりました。

「できるかどうか分からない方が面白い」

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地域おこし協力隊として、埼玉県出身の山口さんが着任しました。どんな巡り合わせで、中頓別にたどり着いたのでしょうか?

小学1~3年の時に札幌で暮らし、漠然と北海道への憧れがあった山口さん。やがてゲーム「牧場物語」をきっかけに牛に興味を持ち、地元の高校で農業を学んだそうです。大学は、畜産を学べる北海道江別市の酪農学園大学へ。学生時代、好きだった日本酒の作り方を独学で勉強しましたが、卒業後は「ITの力で農業に貢献したい」と都内のシステム会社に就職しました。しかし日本酒への想いが再燃し、プログラマーとして3年働いた後は酒蔵に転職。千葉、石川、兵庫、愛知の各県で経験を積み、醸造技術を身に着けました。

この行動力に驚かされますが、ご本人に聞くと「知りたい欲求がすごく強いんです。日本酒も、なんでコメと水だけでこんな香りがいい液体ができるのかと不思議で...。飛び込まないと分からないから飛び込んだ、というだけなんです」とのこと。

中頓別につながる転機は、2人目のお子さんの誕生でした。札幌出身の妻と相談し、「自然豊かな北海道でのびのびと子育てしたい」「できれば醸造に携わりたい」と候補を探していたら、中頓別町がブドウを栽培する地域おこし協力隊を募集していることを知りました。「これしかない!」と直感したそうです。

そこで初めて中頓別という町を知り、不便そうなことをピックアップして検討しました。「買い物は大変かと思ったら1時間半も行けば名寄市にイオンがある。マイナス30℃と言っても暮らしている人はいるし、そのうち慣れるだろうと思いました」とのこと。

一方でプラスの材料だったのは、手つかずの大自然はもちろん、町立認定こども園のプログラム「森のこども園」でした。「子育て環境を重視していたので、四季を通じて森の中で遊び、自然に親しむプログラムがあるのは魅力でした」と山口さんは話します。

山口さんにとっては農業もワインも初でしたが、誰もやったことがないことに挑戦するのが好きな性格がハマりました。

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「できるかどうか分からない方が面白い。宗谷には当時、ウイスキーの蒸留所も、ビールの醸造所もありませんでした。宗谷にお酒の文化がないんだったら、一からつくる出発点を見られるというワクワクもありました」

手探りの挑戦で見えた、「中頓別ワイン」の強み

日本酒からワイン造りへ。知識ゼロから始めた山口さんは、「何が分からないかが分からない」という壁に直面しました。酸が強く耐寒性のある品種「山幸」を育てていましたが、基本となるブドウの知識の上に山幸の知識を重ねるべきところ、当初はやみくもに吸収して混乱したこともあったそうです。

また、温暖化が進んだといっても寒さは大敵です。6月までは遅霜への万全の注意が求められ、枝の食害をもたらすシカの対策にも気を抜けません。右も左も分からない状態から飛び込んだ山口さんですが、「みんな素人なんだから同じ気持ちでやれる」と言うベテラン農家の後藤さんとともに、毎日畑に通いました。

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農業歴が半世紀を超える後藤さんも、油断とは無縁でした。試験醸造を控えた2023年の春は、霜対策として例年の2倍ほど地元の薪を燃やしたそうです。原木の周りを覆って熱をかけ、霜に当たるのを防ぐ、欠かせない作業です。無事にワインとなり、ソムリエからは「色合いも濃く、酸味もまろやかで飲みやすい」と評価されました。

その後も2人は工夫を続けます。主力の「山幸」は酸がとても強い品種ですが、2024年に「ブドウの段階から酸を落とさないとワインも酸っぱくなる」ということを教わりました。翌年から葉っぱを落とし、ブドウの実に日光を多く当てる対策を施し、手応えを得られたそう。2025年からは、霜対策として地元の森林組合に発注してスウェーデントーチを燃やしました。地域と関わりながら自然相手の仕事をするため、毎シーズンが新しいチャレンジです。

IMG_4611-1749443478824.jpegスウェーデントーチとは、切り込みを入れた一本の丸太に直接火をつけて燃やす、北欧発祥のアウトドア用焚き火のこと。夜通し焚いてブドウを霜から守ります

経験を積んできた2人には、「中頓別ワイン」の強みも分かってきました。

「土壌を調べると、海由来のマグネシウム成分が異常なまでに高いんですよ。海外だと有名な白ワイン産地にフランスのシャブリ地区がありますが、そこも昔は海の底で、牡蠣の化石がたくさん出ていて、ワインもミネラルが豊富で飲みやすいと言われています」

と、山口さんが解説してくれました。もともと海底だったところが隆起していた土地で、ミネラル分が豊富であること、ブルゴーニュ地方の北で造られるシャブリワインと共通点があることを聞くと、一気にイメージと期待が膨らみます。さらに山口さんが続けます。

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「ワインはその土地を表すものです。ブドウは1年ではできないし、その土地にしっかり根付くことでワインができます。風土で味も変わってきます。冷涼な気候とともに、すっきりとした飲みやすい味わいは中頓別の強みになります」

スキルや知識は?協力隊に求められるもの

そんな山口さんですが、2026年4月をもって地域おこし協力隊(雇用型)としての任期を終えました。以降は委託型の協力隊として、ブドウ栽培を継続します。「日本最北の醸造用ブドウ産地」として2028年頃のワインの本格販売を目指す中頓別町は2026年度、山口さんや後藤さんと一緒に栽培に携わる隊員を新たに募集することにしました。

ここであらためて、家族4人で愛知県から移住した山口さんに協力隊としての仕事や暮らしのことを聞いてみました。

畑に一日中いるのかと思いきや、町役場の産業課の中にデスクがあり、平日勤務で役場に出勤してから畑に通うのが基本だそうです。ただどうしても天気に左右されるため、例えば土曜に仕事をして平日に振り替える、朝7時から畑で作業して早めに退勤するなど、ブドウの管理をしやすい柔軟な勤務ができたそうです。
畑での作業を終えた冬の期間は、町と事前に協議した上で、役場内での勤務や、将来の起業に向けた準備や情報収集、町外への研修に時間を充てていました。

DSC08701.jpgワインセミナー中の試飲会にて町の方にふるまう山口さん

またブドウ栽培は町の事業であるため、町民や宗谷地方の関係者に向けた情報発信も大切な仕事です。町主催のソムリエを迎えた町民向けワインセミナーではスタッフとしてお手伝いをしたり、町内のコミュニティ施設で期間限定の「ワインバー」を開いたり、稚内のスーパーで角打ちイベントのお手伝いをしたりと、積極的にPR。町の広報誌で「ワインづくりへの挑戦」というコーナーを連載するなど、機運の醸成にも余念がありません。

今回募集している協力隊の守備範囲は専門的なもの。知識や経験が求められるのでしょうか? 

「ブドウに詳しければもちろん良いですが、私も知識ゼロから始めたので大丈夫。スキルの有無も問われません。中頓別町のいろいろな方々が期待する事業なので、多くの方に協力を仰ぎ、進めていく必要があります。協力隊への応募を検討する方には、ぜひ一度試験醸造したワインを飲んでいただければと思います。味を確かめ、方向性を知り、『自分がこれを造りたい』という思いを持てれば、作業を身に着けたり、方法を考えたりもしやすくなります。また、協力隊としてブドウ栽培と町役場業務の両方を担いますので、行政組織の中でうまく仕事を進めるのも大切。町が目指す目標を理解し、スケジュールを上手く調整しながら、ワイン以外の『時間の活用法』も検討し進めていくのが良いかもしれません」

さて、暮らしの面ではどうでしょうか。山口さんの妻は看護師として町内の医療機関で働き、夫婦で共働きです。小学1年と年少のお子さんは期待通りにのびのびと育ち、冬になると自宅近くで雪遊びを楽しんでいます。地域にスムーズに溶け込めたのは、お子さんの存在が大きかったと山口さんは語ります。

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「中頓別には、子どもにすごく優しい人しかいないんです。スーパーに焼きそばの具材を買いに行った帰り、庭いじりしているおばちゃんに子どもが『今日焼きそば食べるの』と言ったことがありました。すると『いいね。何を入れるの?』と返してくれたんですよ。子どもが地域との接点をつくってくれて、まさに子ども様様です」

何気ない日常のなかで感じる温かさが、中頓別の魅力の1つです。

自前の醸造所で「オール中頓別産」のワインを

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「日本最北のワイン」という夢に向かってギアを上げる中頓別町。2人の目には、ワインを含めた「宗谷の酒を楽しむ文化」にも向いているようです。後藤さんは「気づけば利尻島にウイスキーの蒸留所が、稚内にクラフトビールのブルワリーができました。そして中頓別のワインができると、3つのお酒がそろいます」と話します。

現在、中頓別産のブドウは北海道内のワイナリーに委託して試験醸造していますが、山口さんはかねて、中頓別町内で自前の醸造所を新設する構想を温めています。苦労して育てたブドウを最後まで手掛け、「オール中頓別産」を叶えたいという想いからです。そしてワインだけでなく、日本酒の経験を生かして別のお酒も造る狙いがあります。

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「宗谷地方にはブドウ以外でも、猿払村のイチゴや、稚内のメープルシロップとホップのように、新しい農作物の挑戦がたくさんあります。そういうものをお酒に取り入れたいですね」と山口さんが言うと、後藤さん「中頓別には蜂蜜もあるし、蜂蜜を使ったお酒(ミード)を作ってもいいかも」とアイデアが飛び出しました。

確かに、地域を素材を生かせば可能性は広がりそうです。山口さんによるとワイン以外の醸造は経営安定の上でも大切なようで、プロジェクトにかける意気込みが伝わってきます。

「宗谷のワイン文化、宗谷のお酒の文化という、未来に残るようなものができたら素晴らしいなと思っています」と語る山口さん。移住前から描いていた夢の実現が、着実に近づいているようです。

インタビューを終えようとしたその時、同席していた役場スタッフに連絡が入りました。「町役場にワインが届いた」という一報です。急いで役場に向かい、梱包を解きます。2025年産の「山幸」で試験醸造したボトルに対面できるとは、なんという幸運! 6月6日は待ちに待った試飲会です。どんな味に仕上がっているのか、中頓別ワインの未来はどうなるのか。ますます目が離せません。 

20260428_041.jpg中頓別町長(写真左)も一緒に役場に届いたワインの出来栄えをチェック。山口さんをはじめとする中頓別町のみなさんと一緒にワイン造りに情熱を注いでみませんか?

中頓別町地域おこし協力隊 山口隼人 さん
住所

中頓別町役場/北海道枝幸郡中頓別町字中頓別172-6

電話

01634-6-1111

URL

https://www.town.nakatombetsu.hokkaido.jp/

「令和8年度中頓別町地域おこし協力隊募集業務」

※記事内容は編集部の取材・編集方針に基づき制作しています。

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日本最北のワインで文化まで醸す?中頓別でブドウを育てる協力隊

この記事は2026年4月28日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。