札幌から飛行機で1時間、中標津空港から車で約1時間。
2月上旬、私たちはうっすらと流氷広がる羅臼町に来ていました。
どうも!
「水産について話す若者を増やす!」をモットーに活動している学生団体レディ魚―の中野です。
今回取材に向かったのは、大自然知床の羅臼町。「魚の城下町」とも言われるこの町は、町民の約4割が漁業を生業としています。大阪出身の私ですが、「羅臼」の地名は、百貨店に並ぶコンブやホッケの干物などを通して小さいころから目にしており、北海道に移ってからも訪れたことがなく憧れを抱いていました。
そんな中、羅臼漁業協同組合(以下羅臼漁協)さんからお声がけいただき5日間のインターンも兼ねてお邪魔できることに!憧れと好奇心を胸に、羅臼町に向かいました。

天候の影響で到着が1日遅れとなりましたが、中標津空港に到着!空港では羅臼漁協で参事を務める任田(にんた)勉さんにお迎えいただきました。滞在中の5日間、任田さんからは、羅臼町についてや羅臼漁協の取り組み、そして羅臼への想いについてなど多くのお話を伺いました。 本記事では、漁業協同組合で37年間羅臼町の漁業を支え続けてきた任田さんの想いを、5日間の漁業協同組合での体験と共にお伝えします。
今回記事を書かせていただく水産学部の中野です!よろしくお願いします!
羅臼町ってどんなところ?
所在:北海道根室振興局管内
人口:4089人(令和9年3月31日時点)
特産品:秋サケ、ホッケ、コンブ、ウニなど
観光名所:羅臼岳、羅臼観光船クルージング、羅臼温泉熊の湯
世界自然遺産・知床半島の東側に位置する羅臼町は、オホーツク海と険しい山々に囲まれた自然豊かな漁業のまちです。流氷と根室海峡の地形がもたらす豊富な栄養によって、コンブやサケ、スケトウダラなど多種多様な海産物が水揚げされ、古くから北海道有数の漁場として知られています。
特に羅臼昆布は、出荷までに23の工程を経る高級昆布として全国的にも有名で、日本の食文化を支える存在となっています。まさに「魚の城下町」魚好きとしては一度は行ってみたい憧れの土地なのです。
【水産豆知識】漁協とは?
訪問に行く前に、今回取材を行う漁業協同組合(漁協)とはどういった組織なのか少し調べてみました。漁業協同組合とはその地域の漁師さんが組合員となり作られる組織。漁師さんが仕事をするために必要な氷や発泡スチロール、燃料などの物資の他に、獲れた魚の売り先、船に対する保険の手続きや生活をするために必要な銀行や自動車保険の手続き、日用品の販売など行っています。日本全国津々浦々に852の組合が存在し(2024年3月時)その内北海道には約一割となる74の組合が存在します。
羅臼漁業組合事務所内部。この場所に様々な手続きで漁師さんが訪問します。
獲れる種類は約90種類以上!豊かな羅臼の海
訪問初日、私たちは羅臼漁協のセリ場にお邪魔していました。マダラにソイ、カレイ、ホッケ、150㎝のオヒョウまで多種多様な魚種がセリ場の端から端までずらっと並んでいます。魚の量に圧倒されていた私たち。「今日は魚の量は多いほうですか?」と任田さんに尋ねました。
「この時期は少ないほうだー、秋時期にはもっといっぱいになるよ」
目の前に広がる根室海峡は幅約20㎞で最深部は2400mにもなる「ドン深」の海。そのため豊富な栄養源に恵まれ、多種多様で豊富な魚が羅臼に水揚げされます。市場で利用される魚だけでも約90種類を超えるそう。 2月は獲れる魚種も少なく、魚の量も一年の中で特に少ないとのこと。
「この魚の量で少ない方なのか...」
かなりの衝撃と羅臼の海の豊かさに高揚を隠し切れませんでした。秋時期も見てみたい...
セリの直前。買受人(かいうけにん)がこれから競られる魚の周りに集まって来ました。
午前8時「カランカランカラン」「はい~マダラ!!」 セリ人の掛け声で始まりました。50人ほどの買受人がセリ人を囲いながら移動していきます。セリ人が通り過ぎた魚が買受人によりトラックに運ばれていきます。気が付いたらすでに値段が決まっているのだ。
セリが早すぎる...。次々に値段が決まり魚が運ばれていく景色にあっけにとられていました。
「羅臼は昔から下げゼリで値段を決めてる」
下げゼリ?
「普通のセリは値段が上がっていって一番高く値段を付けた人がその物を買う(ことが出来る)けど、下げゼリはだんだん値段を下げていって最初に手を挙げた人がその魚を買うんだよね。その方がすぐ値段が決まるのさ」
セリ人の野戸さん
この日セリ人(セリを仕切る人)を行っていた野戸さんに、お話を伺いました。
「下げセリでは、始める時の値段の設定、値段を言う間隔、買い手の合図への反応、全部が大事になってくる。できるだけ早く、でもできるだけ値段をつけて売りたい。タイミングを間違って1kgあたり50円安くなったら売値はいくら違うと思う?500kgのものだと2万5000円、1tだと5万円も漁師さんに入るお金が少なくなる。ほんの数秒、自分次第で数万円数十万円も変わる。それがセリ人の緊張するとこでもあるし、やりがいでもある」と力強く野戸さんは語ります。
春時期の市場の様子。マダラが大漁でした!
「冬にはマダラ・スケソウ、春になったら、ウニ・ホッケ、夏になったらコンブ、秋になったらサケ、最近だとブリ。四季と共に漁業がある。漁で四季を感じられる。それが羅臼の魅力だぁ」
そう語る任田さんの言葉に羨ましさを感じました。
漁業協同組合での経験
十勝の豊頃町出身の任田さん。帯広工業高校を卒業後、父が漁業協同組合の職員だったこともあり、札幌の漁業協同組合学校に入学。卒業後は羅臼漁業協同組合に入社し今年で37年。現在は参事として羅臼漁協の統括を行っています。
「ここは他の職業と違って幅広く色んな仕事がある。羅臼漁協では数年ごとに、配属される部署が変わり本当に全く違う色んな仕事を経験できる」と任田さんは言います。
羅臼漁協に入社後、まず任田さんが配属されたのが共済保険部。ここでは、漁業者に対して保険の説明を行ったり、事故や船舶などの故障の際、保険の手続きを行います。保険料の見積もりを行う際に損傷個所の確認や事故の検証に立ち会うこともあり、船の細かいパーツや事故事例などの専門知識が求められる仕事だと言います。
修理工場の訪問に同行。損傷個所の確認や修理料金の確認を行っていました。
次に任田さんが配属されたのが信用部。信用部はJFマリンバンクとして、口座の管理や送金、融資の際の作業など漁業者を支える銀行としての役割を果たします。その次に配属されたのが総務部の経理。経費や売上など組合内でのお金の動きを管理します。私も一日経理でお手伝いさせていただきましたが、簿記の知識に苦戦し、数字に頭をくらくらさせていました。
任田さんはこの部署で5年ほど働いた後、総務部長となり、信用部長、漁業権の管理や資源管理などを行う指導部の部長を経て、現在参事として漁業協同組合に努めているとのことです。この他にも漁師さんに漁具や日用品を販売する購買部や放流用のウニやナマコなどを育てる栽培部、直売所の経営を行う販売事業部など、漁協には数多くの事業が詰まっています。
同じ漁協に勤めていても、部署ごとにかなり業務が異なり、それぞれ業務の内容もかなり専門的なことに大変驚きました。幅広い業務を持つ漁業協同組合の仕事ですが、共通して大切なことがあると任田さんは言います。
任田さんに漁協のこと羅臼のこと沢山教えていただきました。
「やっぱり人づきあい。どの部署でも色んな人と話す。特にここは協同組合なので平等性を保たないといけないね」
漁業者と買受人の間、漁業者と修理会社の間、漁業者と保険会社の間など、人と人の間に入る仕事が多いことも漁業協同組合の特徴。「どんなに仲良くなっても、その人に偏ったりしてはいけない。それが難しいんじゃないかな」と苦笑しながら話します。
漁業協同組合で働く魅力とは
「漁協で働くと、色んな経験ができて、色んな知識が身につく。それは良かったと思うな。まあその分勉強しないといけないけどな」
任田さんの経歴を聞く中でも羅臼漁協での経験の広さ、深さを感じさせられました。
「あとは、海の下の見えない魚を扱うというところも面白いとこじゃないかな」
陸上で生活する私たちにとって海の中は見ることが難しく、そこで生活する魚を正確にとらえることは困難を極めます。その「未知」に向き合うことが任田さんの感じる魅力の一つだといいます。水産を学ぶ私にとっても「未知」の面白さに強く共感しつつも、漁業者を支えるという方向から海に向き合う姿はかっこよくみえました。
羅臼の町と任田さん。趣味は桜を育てること。
そんな任田さんにとってこの仕事のやりがい。
「やっぱり、漁業者さんの『ありがとうな』が一番うれしい瞬間だな」
浜のためになる。漁師さんのためになる。そう感じる瞬間に、この仕事を行っていてよかったと思うという任田さんの顔からは、少し笑顔が浮かんでいました。
変わりゆく羅臼
「羅臼も変わってきている。数十年前と比べたら魚の量もかなり少ない」
昔はイカにホッケにサケに、まさに「魚の城下町」。質も良い魚が量もあり、大口での取引で大量の魚が羅臼ブランドとして全国に出回っていました。しかし現在では獲れる量が減少したり、不安定な漁獲などで大口での取引はかなり少なくなったとのこと。
「今までとは違って量で勝負ではなく、質を大切にして付加価値をつけていかないといけなくなってきている」
羅臼漁協では直営店の「海鮮工房」の経営も行っており、セリに参加して羅臼の魚を仕入れて販売も行っています。「海鮮工房を通じて少しでも羅臼の魚のPRに価値をつけていきたい」と任田さんは言います。
道の駅に併設されている羅臼漁協の直営店。コンブや鮮魚、トド肉まで羅臼の海産物がそろっています!
羅臼町では、都市部への人の流出や以前に比べ魚が少ないこともあり、漁業に関わる人が減ってきていると言います。
「最近では廃業する漁業者さんも毎年10人近く出てきた。羅臼漁協の職員の人数もだんだん少なくなって、その約半分が50代以上だ。あと10年後にはごっそり人がいなくなるね」
10年後漁協からも市場からも漁港からも、こんなにも満ちていた活気がなくなってしまうかもしれない。そんな未来は想像したくないと思いました。
「羅臼町は漁業があってこその町。最近はクルーズやツアーなどで観光客も増えてきている。観光業も大切。だけど羅臼町の根っこの部分には漁業・水産業がある。未来永劫、羅臼の漁業が続いてほしいと思うよ」
そう語る任田さんの姿がとても印象的でした。
沖から見た羅臼町
- 北大水産サークルレディ魚ー×くらしごと
- 住所
北海道札幌市北区北20条西5丁目2-50(レディ魚ー事務局)
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