旭川市に隣接する比布町。イチゴ栽培をはじめ、稲作など農業が盛んなまちです。「世界一大雪山がきれいに見えるまち」とも言われ、町内のいたるところで大雪山連峰のパノラマビューが楽しめます。「若いときは何とも思わなかったけれど、最近はこの眺めがいつも見られるのは幸せだなと思うようになりました」と笑うのは、今回おじゃました農業生産法人 株式会社ノウリエの代表を務める合田正人さんです。ノウリエがどのような会社なのかを合田さんに伺うほか、兵庫県出身のスタッフ・田中勇樹さんにも話を伺いました。
どうせやるなら好きにやろう。法人化を進め、耕地面積も100ha以上に拡大
ノウリエの代表・合田さんは農家の3代目。昭和10年に祖父が農業を始めたのがスタートでした。
「祖父が始めたころは、2ha、4haというくらいの小規模で、本州の兼業農家さんのような感じでした。父の代で12haまで拡大したものの、大規模農業が多い北海道の中ではかなり小規模でした。そのせいか、子どもの頃から『農業は稼げない』という印象が自分の中にありました」
農業生産法人 株式会社ノウリエの代表を務める合田正人さん。
旭川の高校へ進んだ合田さんは、卒業後、「フラフラしていましたね」と振り返ります。たまに実家の農作業を手伝ったり、アルバイトをしたりする一方、「パチンコ屋にも朝からよく並んでいました」と笑います。
そんな合田さんも20歳を過ぎた頃から少しずつ本格的に農作業を行うようになり、23歳で結婚。家族ができたことで本腰を入れ、「真面目に農業に取り組みはじめました」と話します。このころ、耕地面積は20haほどに広がっていました。
「25歳のときに父が急逝し、一人っ子だったこともあり、否応なく跡を継ぐことになったのですが、どうせなら自分の好きなようにやろうと思って、法人化をして、頑張って規模も大きくしようと考え、耕地面積も拡大することにしました。とはいえ、経営のことも、栽培のことも分からないことだらけで、最初はいろいろ苦労も失敗もしました」
壁にぶち当たるたびに、比布町内の農家の先輩たちや亡くなった父親の友人たちが助けてくれました。こうした周囲の支えもあり、2015年の設立から4年ほどで現在に近い規模にまで成長します。
比布町は「世界一大雪山がきれいに見えるまち」と呼ばれています。大雪山連峰のパノラマビューを背景に、ノウリエが農薬を減らして栽培する「ゆめぴりか」の水田が広がる雄大な風景です。
少しずつ広げていった耕地面積は、現在103ha。全体の90ha弱が稲作で、残りの面積で大豆、小麦、ブロッコリーなどを栽培しています。お米は「ゆめぴりか」と「ななつぼし」をメインに「えみまる」「そらきらり」も育てています。
「比布町内に上川農業試験場があり、そこで『ゆめぴりか』が誕生したのは知っていますか? 実は試験場の周りの10haほどある田んぼはすべてうちの田んぼなんですよ。そこではもちろん『ゆめぴりか』を作っています。安全安心なおいしいお米をたくさんの方に食べていただくために、うちで栽培しているお米は可能な限り農薬も減らしています」
また、稲刈りのあとのもみ殻の処理に苦労している農家は多いと聞きますが、ノウリエでは隣町の酪農家と連携し、もみ殻を堆肥にしてもらい、それを田畑に戻すという方法を取り、循環型農業にも取り組んでいます。
「今はまだハウスで栽培しているグリーンアスパラにしかこの堆肥を使っていないのですが、今後は田んぼのほうにも用いていけたらと構想しています」
ノウリエの農場に並ぶヤンマー製の大型トラクターです。耕地面積を100ha以上に拡大する中、従業員は会社の支援で大型特殊などの資格を取得し、安全管理を徹底して機械化農業を実践しています。
食堂経営や沖縄への販売など、ほかがやっていないことを積極的に挑戦
ノウリエという名称を付けたのは、合田さんの奥さん。「農業で利益を出そう」という思いを込めています。幼いころから合田さんの中にあった「農業は稼げない」イメージを自らの手で変えていこうという決意の表れでもありました。
「ほかの人がやっていないことをやりたいんですよね。稼げるスタイルを確立するには、ほかの人と同じことをやっていても変わらないと思うから...。だから、普通はやらないよねと言われるようなことであっても、自分のアンテナに引っかかったら、どんどんチャレンジしてきました」
すべての挑戦は、合田さんの糧になりました。その一つが、市街地で開いている「のうりえ食堂」です。
「自分のところで作ったおいしいお米をおなかいっぱい食べてもらいたいと始めました。それまでは、お米を作ってただ出荷していただけでしたが、お金を払ってご飯を食べる人の気持ちやお米を扱ってくれる飲食店のありがたみを肌で知ることができました。正直、利益はほとんど出ないけれど、エンドユーザーの人たちと接点を持つことができる大切な場所なんです」
また、食堂を始めたことで、町内の人たちみんなが「お客さま」であるという意識を日ごろから持てるようになったそう。
「店に食事に来てくれるのは、地元の農家の人もいれば、JAや役場で働く職員の人もいます。みんなうちの『お客さま』です。だから、店と違うところで町内の人と接する際も、たとえ相手が若い職員であっても決して横柄な態度は取らないようにしています。農業だけやっていたら、そういうことにも気付けなかったですね」
このほか、合田さんがチャレンジしてきたことで大きな成果を生んだのが、自身で開拓してきた販路。実は、ノウリエのお米は沖縄でも販売されています。
「東京や大阪に卸すのはすでにどこもやっていること。誰もやっていないところを探していたところ、ご縁があってJAおきなわと取引をさせてもらっています。毎年50t以上の『ゆめぴりか』を沖縄に送っています。『ゆめぴりか』は沖縄でも大人気で、おいしいと評判。多少高くても買いたいという人が多いと聞いて、やっぱりうれしいですね」
今後の展望について伺うと、「お米の乾燥調製施設をリニューアルしたので、うちからお客さまのところへ直接売れる状況をもっとしっかり作っていきたいと考えています。今、輸出米もやっているんですが、各商社さんとも直接取引させてもらっているので、そちらも伸ばしていきたいですね」と合田さん。耕地面積を150haまで広げることを目標にしており、ドローンなどを使ったスマート農業にも少しずつ着手しているそうです。
「農業で利益を出そう」という決意が込められた株式会社ノウリエ。既存の枠にとらわれず、沖縄への米の出荷やドローンを活用したスマート農業など、新しい営農スタイルに挑戦しています。
ハードワークを経て、空気のキレイな北海道へ。偶然出会った農業の世界
さて、ノウリエには4人の従業員がいます。合田さんは、従業員が自分たちで休みの日を決められるユニークな休日システムを設けたり、自社米をプレゼントしたり...と、常に従業員の働きやすさを第一に考えています。
そんな合田さんについて、「理不尽な指示をされたことは一度もなく、常に話の筋が通っている人」と話すのは、従業員のひとりである田中さんです。「一緒に仕事をして、近くで見ていて、社長は大変だなと思うので、自分にできることがあればすぐに力になりたいと思います」と続けます。ここからは田中さんがノウリエで働くようになったきっかけや仕事の面白さなどを伺っていこうと思います。
田中さんは兵庫県豊岡市生まれ。小学3年まで暮らした豊岡は自然が残っているまちで、外でよく遊ぶ子だったそう。小学4年から尼崎市へ移り、高校まで野球に打ち込んでいました。子どもの頃に足を運んだ豊岡市の「城崎マリンワールド」で海の生き物と触れ合った経験がきっかけで、水族館の飼育員を目指し、高校卒業後は大阪動植物海洋専門学校へ進学します。
兵庫県から移住した田中勇樹さん。なんと取材班の1人と地元が一緒でした(笑)
「でも、いろいろな水族館で研修を受けているうちに、自分が想像していたものとのギャップを感じて、卒業後は水族館とは関係のない尼崎のスーパー銭湯に正社員で就職しました。本当は鱒の養殖場で働きたかったんですけど正社員の枠がなくて、親からまずは正社員で働いたほうがいいと言われ、スーパー銭湯へ...。ろ過装置など機械室のメンテナンスや接客を3年間担当しました。ろ過装置は水族館でも使っていたので一応学んだことは役立ったんですけど、なかなかハードで...」
年間休日約70日という激務で体が悲鳴を上げていた田中さん、もともと気管が弱かったこともあり、工場の多い尼崎から空気のキレイなところで休養しようと、会社を辞め、母親の実家がある旭川を訪れます。
「子どもの頃から年に2、3回は旭川に来ていたので、馴染みはありました。1年くらいのんびりしていたんですが、そろそろ少し働こうかなと思って、派遣会社の求人でトマトジュースを作る工場のアルバイトを見つけて応募したら、農業の仕事をやりませんかとノウリエを紹介されたんです」
右も左も分からない農業の世界、当初はそれほど興味もなかったそうですが、普段の生活では乗ることのない大型農機に乗る楽しさや農作物を育てる奥深さに少しずつ魅了されていきます。合田さんをはじめ、先輩スタッフもみんな優しく、仕事を覚えるまで丁寧にレクチャーしてくれたそう。
水田のあぜ道を歩く合田社長と従業員の田中勇樹さんです。兵庫県から移住し農業に飛び込んだ田中さんは、週休2.5日以上という働きやすい環境や社長の温かい人柄に惹かれ、充実した日々を送っています。
作業ごとに達成感を得られる仕事。しっかり休みも取れ、メリハリのある毎日
シーズンが終わった時点で、田中さんは合田さんから「このままうちで働きませんか」と声をかけられます。
「北海道の気候が自分の体には合っていて、喉の調子も良く、このままここで働けたらいいなと思っていたので、社長から声をかけてもらったときはうれしかったです。圃場にいると、天気がいい日には美しい旭岳がくっきり見えるし、空気がキレイな中で仕事ができるのは気持ちがいいなと思います。そして社長が、いつもみんなが働きやすいようにといろいろ考えていてくれるのも、ここに残って働きたいと思った理由のひとつです」
正社員としてノウリエに入社した田中さん、まずは仕事の傍ら、会社のサポートを受けてさまざまな資格を取得していきます。大型特殊、フォークリフト、けん引、玉掛け、車両系建設機械、振動工具取扱など、10個近くの資格を手に入れました。今年はドローンの免許も取得。農業の仕事はこんなにたくさんの資格が必要なのかと驚いていると、合田さんが「個人の農家では見過ごされがちな資格もあるのですが、うちは安全管理を徹底しているので会社で資格取得の補助をしています」と教えてくれました。
田中さんを含む4人の従業員は、皆長く働いている人ばかり。その理由を「やっぱり働きやすい環境が整っているからだと思う」と田中さん。4人の連携もばっちりで、「この仕事は段取りと準備がとても大事。また、天気にもとても左右されるのでみんなで天気予報を見ながら情報共有をしています」と話します。

入社から7年になる田中さんにこの仕事の面白さややりがいについて尋ねると、「最近ちょうど田植えが終わったところなのですが、作業の節目ごとに達成感を得られるのがいいところかな」とニッコリ。
「知識ゼロのところからスタートして、農機を自分で動かせるようになっても、どうしても農機が故障するときがあるんです。経年劣化など理由はいろいろなのですが、経験を積んでいく中で『あれ、おかしいな』と早く気付くことができ、故障を予防できるようになるなど、自分の中で成長を感じられるのもこの仕事の面白さですね。と言っても、まだまだ勉強中ですが(笑)」
農家の仕事は休みがないというイメージがありますが、「会社なのできちんと休みもありますよ。5月、9月の繁忙期はしっかり働き、閑散期には有給休暇を使わずとも月に12〜15日の休みがあるなど、平均すると週休2.5日以上になります。スーパー銭湯にいたときよりもきちんと休めています」と田中さん。休みの日には、趣味の登山や筋トレ、道の駅スタンプラリーを満喫しているそう。また、この夏からは婚約者と一緒に暮らし始めることも決まっており、仕事もプライベートも充実している様子が伝わってきました。
今回、合田さんと田中さんの話を伺い、人口約3000人の小さな町で、新しい営農のカタチと働き方を進めていることに新鮮な驚きがありました。法人化して11年、これからの発展が楽しみな会社です。

- 農業生産法人 株式会社ノウリエ
- 住所
北海道上川郡比布町西町2丁目3-9
- 電話
0166-76-9216
- URL















