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登別市

登別温泉で動き出す「お土産からの進化」。大黒屋民芸店20260618

登別温泉で動き出す「お土産からの進化」。大黒屋民芸店

北海道の温泉地でも屈指の知名度を誇る登別温泉。その始まりは江戸末期とされ、歴史ある温泉旅館やホテルが軒を連ねます。登別温泉が世界的にもユニークなのは、その泉質の多彩さです。ラジウム泉、酸性鉄泉、明ばん泉(含アルミニウム泉)など9種類ものお湯が湧き出し、まさに「温泉のデパート」。

さて、「今回のくらしごとは、温泉のはなし?」と思ったかも知れませんが、テーマは温泉ではなく温泉土産。創業から100年以上の歴史を誇る老舗ながら、ネット通販や自社商品の開発などに取り組む大黒屋民芸店が舞台です。

温泉だけじゃない、登別というまち

登別温泉がある登別市は、北海道の南西部、太平洋に面した胆振(いぶり)地方にあります。道内でも雪が少ない穏やかな気候で、降雪量は札幌の1/3程度。北海道らしい豊かな自然に抱かれ、苫小牧や室蘭といった都市部へのアクセスも良好。新千歳空港からは車で1時間ほどの距離です。

kumazasa02.jpg登別温泉街に向かう道すがら。登別のシンボルがお迎えします。

また登別は、登別温泉をはじめ、クマ牧場や地獄谷、水族館など観光資源が豊富。観光はまちを支える基幹産業であり、国内外から訪れる観光客は年間約300万人に上ります。

温泉街の老舗土産店が「ブランド」を目指す理由

登別温泉街の入口に店を構える大黒屋民芸店は、大正3年(1914年)に創業しました。建物はいかにも老舗という風情があり、「大黒屋」の大看板が目印。店頭には登別名物の「ひょうたん飴」やお馴染みの木彫りの熊、北海道限定お菓子などが並び、道行く観光客が次々に店を訪れます。

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温泉街の土産店と聞くと昔ながらの対面販売が中心を想像するかもしれませんが、同社は早くからお土産品のネット販売にも力を注いでいます。楽天やAmazon、ふるさと納税サイトなど、多数のECプラットフォームを駆使し、「既に売上の軸はEC」と坂井社長は説明します。

また、健康に良いとされる熊笹茶やハラル対応のバウムクーヘンなどオリジナル商品の企画・開発を手掛け、店頭やECサイトで販売。従来のお土産店のイメージとは一線を画す「攻め」のビジネスを展開し続けています。

そんな同社が現在、力を入れているのが温泉水を活用したオリジナルのスキンケア商品「OV9(オーブイナイン)シリーズ」です。OV9は登別温泉の中でも美肌効果が高いとされる硫黄泉と酸性鉄泉を配合し、ウォッシングフォームやフェイスマスクなどをラインアップ。

2026年3月にはハンドセラムの新発売と既存商品のリニューアルを実施し、「雪の香り」をコンセプトに、北海道らしさを表現したデザインに生まれ変わりました。

こだわりの成分におしゃれなパッケージも相まって店頭での売れ行きは好調。しかし、その先を見ているのが、入社10年目の雪吉真実さんです。

「登別温泉は今も北海道を代表する温泉地です。ただ、かつてのような爆買い需要も落ち着きを見せていますし、この店だけで売っていては広がりがありません。『お土産だから買う』から『いい商品だから買う』への転換が必要。それを私たちは『お土産からの進化』と言っています」

自社商品のこれからを考える雪吉さんと、それを支える入社2年目の高橋美穂さんが今回の主人公です。

沖縄、東京、そして地元へ。「ネットの仕事がしたかった」

雪吉真実さんは登別出身。高校卒業後に沖縄へ渡り、その後は東京でヘアメイクの仕事や事務職を経験しました。ヘアメイクを扱う会社では、海外から商品を取り寄せて国内で卸す業務にも携わり、ECサイトの運営経験もあったといいます。

28歳の頃、ご家族の体調不良をきっかけに登別へUターン。仕事探しで重視したのは、「接客ではなくデスクワーク系であること」と「介護と両立できる勤務形態であること」の2つでした。

kumazasa06.jpg商品の企画・開発・デザインを手掛ける雪吉真実さん

「あまり接客が得意ではなくて、ネットの仕事とか、デスクワークをしたいなと思っていました」

そんな時、偶然見つけたのが、大黒屋民芸店のネットショップ受発注スタッフの募集。東京での経験が活かせそうなこと、アルバイトからのスタートで時間の融通が利くことが決め手になりました。

目指したのは「登別」に頼りすぎないこと

店頭での接客を行うことはあるものの、雪吉さんの主な役割はECサイト運営や自社商品の企画開発です。特にここ数年はOV9シリーズのブランディングとプロデュースを担っています。

商品コンセプトの策定からOEM先とのやり取り、パッケージデザインの方向性決定、外部デザイナーとの協働、LP(商品紹介ページ)の制作、販促のマーケティングまで。坂井社長は雪吉さんの役割を「ブランドマネージャー」と評します。

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新しい商品をつくる際に雪吉さんが目指したのは、「登別」の知名度に頼りすぎないこと。

「登別温泉は素晴らしいし、地元の人間にとって誇りであるのは間違いありません。だから、今まで通りで良い、変える必要はないと考える人もいる。でも、本当にそれで良いのかなって思うんです。いつまでも頼ってばかりではいけないんじゃないかって」

「社長は基本的に新しいことが好きで、何でもやってみようという人。だからこそ、一度、地元を離れた私の意見に耳を傾けてくれるし、実際に形にしていけることにやりがいを感じています」

一つの商品を世に出すことの大変さは「本当に身に染みました」と笑う雪吉さん。その一方、お客さんの反応をダイレクトに感じられることに確かな手応えを感じているようです。

「北海道にホームシック」、各地を巡って登別へ

もう一人の主人公、高橋さんは静岡県熱海市の出身です。大学進学を機に北海道へ渡り、酪農学園大学で野生動物の調査を学びました。在学中には登別のクマ牧場で実習を行ったそう。

卒業後は環境省の自然保護官補佐(アクティブ・レンジャー)として福島県の尾瀬国立公園へ。しかし、赴任して数カ月で芽生えたのは「北海道に戻りたい」という気持ちでした。

「北海道の環境も人も文化も、全部が自分にあっているんです。在職中もたびたび北海道を訪れていて、『やっぱり帰ろう』と任期満了を待たず退職を決意しました」

kumazasa10.jpgECサイトの管理を担当する高橋美穂さん

自然保護官補佐を退いてからは、知床で4年、旭川で1年半、洞爺湖で4年と道内各地を転々とし、そのほとんどがネイチャーガイドなど自然と関わる仕事でした。洞爺湖時代に現在のご主人と出会い、登別へ。しかし、次の職場を探す頃には小さなお子さんを抱え、第二子の出産も間近に迫っていました。

大黒屋民芸店の求人を見つけた高橋さんは、面接で率直に伝えました。「もうすぐ2人目が生まれるんですけどいいですか。入社してしばらくしたら産休に入ると思うんですけど、雇ってくれますか」。

坂井代表の返事は「いいよ」の一言。2024年5月末に入社し、約1年間の産休・育休を経て、半年ほど前に復帰したばかりです。

想像以上に「本格的」だったネット通販

高橋さんのメイン業務は、ECサイトへの商品登録や受発注対応、顧客からの問い合わせ対応など。入社当初は想像をはるかに超えて本格的なネット通販事業だったことに、驚いたと振り返ります。

「前職のビジターセンターでもネット販売に携わっていたので、経験が活かせるかなとは思っていました。ですが、商品を置くサイト数も売上規模も桁違い。まさかここまでとはまったく予想していませんでした」

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入社前に抱いていた職場のイメージとのギャップも大きかったといいます。

「もっと田舎的というか...変化が少ない職場かなと思っていたんです。でもここは問題があるとすぐに改善策を出したり、新しいことにも積極的にチャレンジしたり。常に更新、更新で、たまにこっちがついていくのが大変な時もあるくらい(笑)」

週末に休んで週明けに出勤すると、売り場のディスプレイが変わっていたり、新商品が並んでいたりする。そのスピード感を「すごく面白い」「意欲的な職場だな」と前向きに受け止めています。

「職場の人間関係も魅力的なんです。すごくみんな和気あいあいで、子供の事情などを話すと『いいよ、やっておくよ』と誰かがカバーしてくれます。社長はスタッフにも先々のことをしっかり話してくれるので、些細なことも相談しやすいんです」

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地元の人も移住者も、それぞれの心地よさ

登別の暮らしについて、2人の視点は異なりますが、どちらもこの街の居心地の良さを映し出しています。

地元出身の雪吉さんに登別の良いところを聞くと、「静か。緑もたくさんある」とシンプルな答えが返ってきました。近所を散歩をしたり、自宅の庭で家庭菜園を楽しむ日常。トマトやきゅうり、ナス、ピーマン。採れたての野菜が食卓を彩ります。

本州出身で各地を転々としてきた高橋さんは、アクセスの良さと自然環境の両立を挙げます。

「苫小牧とか室蘭とか街に出るのにもいいですし、山に行くにもすごく手頃なところが多い。特に子どもと一緒に遊べる場所が結構あるのがいいですね」

お気に入りは隣の白老町にあるポロトキャンプ場で、長期連休には家族でよく訪れるそう。室蘭の子育て支援施設「きらん」には年間パスを購入して月1回は通っており、近くの道の駅付近では子どもと水遊びも楽しんでいるとか。子育て世代にとっての遊び場の選択肢は、想像以上に豊富なようです。

kumazasa13.jpgこちらも登別温泉街のシンボル、地獄谷

そんな2人が口を揃えたのは、店舗に隣接する温泉施設「夢元さぎり湯」の存在。雪吉さんは「ここら辺で一番お湯がいい」と語り、高橋さんもお気に入り。皮膚トラブルへの効果が高く、高橋さんのご主人も定期的に訪れるそう。地元の人にも愛される温泉が、職場のすぐそばにあります。

知床や旭川での生活経験がある高橋さんから見ると、胆振エリアの雪の少なさも魅力的。

「以前、私がいた福島の尾瀬はここよりもずっと雪が多かったです。北海道はどこへ行っても豪雪だと思っている人には意外なギャップかもしれません。室蘭や苫小牧には商業施設もたくさんあり、車さえあれば生活に特に困ることはないですね」

「買わない理由をなくす」、変化を恐れない経営者の眼

大黒屋民芸店を率いる坂井社長は、大手企業で14年間のキャリアを積んだ後、家業を継ぎました。その商売哲学の根底にあるのは「変化対応業」という言葉。お客さんが何に感動するかを見極め、品揃えも売り方も柔軟に変えていく。それが坂井さんの考える「商い」です。

kumazasa14.jpgこちらが坂井昭一社長

繰り返し語るのは、お土産に必要な要素として「美容」「健康」「美味しいもの」、そして「感動」の4つ。特に重視するのは「感動」です。

温泉水の品質は裏付けとして持っておく。しかし、それだけを前面に出すのではなく、お客さんが感動し、気持ちよく使える形にまで昇華させて初めて商品になる。OV9のブランド化もまた、その哲学の延長線上にあります。

キャッシュレス決済の早期導入や、自社商品をハラル対応にしたのも、同じ考え方から生まれたもの。

「ハラルのマークがあるから売れるんじゃない。買っていこうと思っても買っていけない理由を持っている人から、その理由をなくしてあげるだけ」

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OV9シリーズのリニューアルでは、香りのコンセプトを雪吉さんに全面的に委ねました。

「どういう香りが良いかは、もう自分じゃわからない(笑)。雪吉に任せたほうがいい」

高橋さんの入社時に出産間近だと聞いても「いいよ」と即答した坂井社長。それぞれの事情を受け入れ、力を信じて任せる。その姿勢が、スタッフが力を発揮できる土壌をつくっています。

温泉街から広がる、次の一歩

「登別温泉のお土産」としてだけではなく、「登別温泉発のブランド」として。その挑戦は始まったばかりです。リニューアルしたOV9シリーズをどう届けていくか、雪吉さんの仕事はこれからが本番。高橋さんも多数のECサイトを管理・運用しながら、お客さんの声をダイレクトに受け取る日々の中に面白さを見つけています。

異なる道を歩んできた2人が、登別温泉街の小さな会社でそれぞれの持ち味を活かしている。変化を恐れず、やってみようという空気の中で働くこと。大正から続く老舗が、今も変わり続ける理由は、きっとそこにあります。

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大黒屋民芸店 北海道熊笹本舗有限会社
大黒屋民芸店 北海道熊笹本舗有限会社
住所

北海道登別市温泉町60

電話

0143-84-3314

URL

https://www.kumazasahonpo.jp/

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登別温泉で動き出す「お土産からの進化」。大黒屋民芸店

この記事は2026年5月8日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。