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「何か良いことが起こる予感」を羽幌から届ける着物リメイク作家20260716

「何か良いことが起こる予感」を羽幌から届ける着物リメイク作家

繁栄や長寿、幸福などを願う縁起の良い吉祥模様があしらわれた古い着物や帯。大量生産されたものと違い、職人たちの技術が詰まったこれらは、年月が経っても色あせることなく、「素敵!」と思わせてくれる魅力を放っています。これらを用いた財布やバッグなどを制作しているのが、着物リメイク作家の荒田美香さんです。自身のオリジナルブランド「kikunosanchino(キクノサンチノ)」を立ち上げ、関西を拠点に活動をしていましたが、2024年に北海道の北西部にあるまち、羽幌町へ移住。現在は自宅で精力的に制作に取り組み、オンラインショップで販売も行っています。今回は、荒田さんが作家として起業するまでの話や、羽幌へ来ることになったきっかけ、さらに羽幌での暮らしについて伺います。

古い帯や着物から生まれる「幸せの予感」

発色の良い正絹(しょうけん)の着物や金糸銀糸が入った豪華な帯を用いて作られた長財布やトートバッグ、サコッシュ、ピアス...。美しいそれらはどれも一点もので、模様の出方もそれぞれ。ついつい見入ってしまい、身に着けたときのことを想像するだけで、気持ちが高揚します。「kikunosanchino」のホームページには、「あなたの毎日に『何か良いことが起こる予感』を」という言葉がありますが、まさに着物や帯にある吉祥模様が幸運をもたらしてくれるのではないかと思ってしまいます。

20260525kikunosanchino_18.jpg自宅兼アトリエでお話を聞かせてくださった荒田美香さん。

「問屋街などで探してきた帯や着物をほどいて、きちんと丁寧に洗い、模様を生かすようにデザインしていきます。帯や着物は、できるだけ華やかな刺繍や織りが施されているもの、明るくポップにも見えるような柄などを選ぶようにしています」

荒田さんが手掛けたこれらはオンラインショップで販売しているほか、荒田さんが出店するハンドメイドイベントなどでも購入できます。また、羽幌の道の駅でもある温泉ホテル「はぼろ温泉サンセットプラザ」にも置いてあるそう。2025年からはふるさと納税の返礼品にも加わっています。

「ご縁があって、ホテルに置いていただけたり、まちの返礼品にもできるよと声をかけていただいたり。羽幌に来て1年半ほどになりますが、周りの方たちには大変お世話になっています」

奈良出身の荒田さんが、羽幌へやってきたのは2024年11月。着物リメイク作家として「kikunosanchino」を立ち上げたのは2021年ということで、まずは「kikunosanchino」を始めるまでについて伺っていこうと思います。

20260525kikunosanchino_3.jpg羽幌町の公式イメージキャラクター「オロ坊」と。

着物やおしゃれが好きだった少女は、やがて衣装の世界へ

荒田さんは奈良県の橿原(かしはら)市出身。実家の近くには、日本の初代天皇・神武天皇が即位したとされる由緒ある橿原神宮がありました。

「橿原神宮で行われる行事などには、いつもおばあちゃんが着せてくれた着物を着て参加していました。子どもの頃の写真を見ると、何かイベントがあるたびに着物を着せてもらっていたようです」

振り返ってみれば着物もおしゃれも好きな子どもだったという荒田さん。はっきりした色味のものが好きで、その好みは今も変わらず、「大人になってからは黒い服に差し色でピンクの小物などを合わせてアクセントにするなど、はっきりした色のものを取り入れています」と話します。

また、荒田さんは自分で手を動かすのも好きで、子どもの頃は人形の洋服を自分で作ることもあったのだとか。

「ゴミ袋を使って自分が着て遊ぶ服を作ったこともありました(笑)。ミシンが使える年齢になってからは、ミシンを使うのも好きで家庭科は得意でしたね。どちらかと言うと美術より家庭科が好きで、デザインをするより作る方が好きという感じでした」

20260525kikunosanchino_10.jpg一つひとつ丁寧にアイロンをかけながら制作工程を進めていきます。

高校3年で進路について考えた際、「服が作りたい」と思った荒田さんは東京にあるファッション分野が中心の文化女子大学(現・文化学園大学)へと進学を決めます。

「ミシンを使う実習がある学部にいて、常に課題の制作に追われていました。でも、友達とワイワイしながら作る時間は楽しかったですね」

卒業後は、大学時代にインターンに行った衣裳会社に就職します。テレビや映画などで使用される衣装の製作やレンタルを行う会社で、テレビ局や映画スタジオの衣装室と撮影現場が仕事場でした。

「大学を出たあとはとにかくアパレルに関われたらと漠然と思っていたのですが、たまたまインターンでテレビ局の衣装さんの仕事を経験させてもらい、面白い仕事だなと思ってそのまま就職という感じでした」

荒田さんは、各局のテレビドラマや映画に衣装担当として関わります。出演者の衣装合わせや必要とされる衣装の用意のほか、撮影現場にも立ち合います。朝の連ドラではヒロインの衣装も担当したそう。

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「出演者の方のサイズに服を直すことはよくありましたね。あと、ドラマは脚本通りの順に撮っていくわけではないので、たとえば服のリボンの結び方が前のカットと違うということにならないように、それを現場でチェックして直すといったことも衣装の仕事でした。大学のときに着付けの資格を取っていたので、朝ドラで着物を着せる際も資格と経験が役立ちました」

とにかく多忙な毎日でしたが、充実していたと振り返える荒田さん。時代ものから現代ものまでさまざまな作品の衣装を担当し、高価なものも含め、たくさんの服や着物に触れることができたのは自分にとってプラスだったと話します。しかし、とても充実した時間を過ごしていた一方で、ひとつの作品に入るとタイトなスケジュールが続くため次第に疲労が重なり、就職から5年経ったころ自身の働き方を見直す瞬間が訪れます。

しまっていたミシンが気づかせてくれた作る楽しさと喜び

一旦仕事から離れてリセットしようと、衣裳会社を退職。その後は派遣社員としてアパレル販売に携わります。

「スーツのブランドからレディースブランド、海外のブランドといろいろな店舗を経験しました。着物が好きだったこともあり、成人式用の振袖のレンタル販売店に勤務したことも。衣装の仕事をしていたおかげで、紳士服でも婦人服でも、どこに派遣されてもすぐに対応できました」

20260525kikunosanchino_16_2.jpg色とりどりの美しい帯が、一体どんな作品に変身するのかワクワクします!

そんな中、世界中がコロナ禍に見舞われます。外に出る人がいなくなり、あらゆるサービス業が打撃を受ける中、荒田さんが勤務していた店舗でも営業ができなくなってしまいます。

「コロナがまん延して、これからどうなるか分からなかったので、2020年の春先の緊急事態宣言のときにひとまず奈良へ帰ることにしました。とはいえ、実家に戻ってもすることがなかったので、しまっていたミシンを引っ張り出してマスクを作ってみたんです」

久々にミシンに触れた荒田さんの中に、忘れていた「作る楽しさ、喜び」が湧き上がってきます。

「作り始めたら、時間が経つのを忘れてしまうくらい熱中してしまって(笑)。完成したものを友達に見せたり、プレゼントしたりすると、みんなから『いいね』と言ってもらえて、それがまた嬉しくて次々作っていました」

その後一旦、東京へ戻った荒田さんでしたが、2回目の緊急事態宣言が発令されると、東京には戻らないつもりで荷物をまとめて再び奈良へ。前に帰省した際に感じた、作る喜びと周りからの評判に背中を押され、荒田さんは自身が作ったものをオンラインで販売しようと考えていました。

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「とりあえずやってみようと思って実家に戻りました。ただ、販売をするなら手芸屋さんで売っている生地で作ったものではなく、個性を出せるようなものにしたいと思っていました」

ずっと着物が好きだった荒田さんは、古い着物や帯を使ったものなら自分らしさが出せると考えます。大阪の問屋街に赴き、アンティーク着物やリサイクル着物を買い求め、ポーチやバッグ、マスクなどを作り始めます。

屋号は、いつも着物を着せてくれた祖母・キクノさんの名前を使用し、キクノさん家(ち)の「何か」をイメージできるよう「kikunosanchino」にしました。キクノさんちのバッグ、キクノさんちのポーチ、キクノさんちの...。展開が無限に広がっていくネーミングです。

「実はブランドを立ち上げてすぐのとき、両親と3人で録画したものを見ていたら、橿原神宮に皇族の方たちがいらしたときの昔の映像が流れていて、地域に住んでいる人たちが旗を振っていたんです。そしたら、その列の一番前に祖母がめちゃくちゃいい笑顔で旗を振っているのがばっちり映っていて!きっとブランド名を祖母の名前にしたのを喜んでくれているというサインなのかなと家族で話していました」

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作品作りも販売も好調!そんな中で起こった転機

オンラインショップを開設すると、周りの友人知人の協力もあり、じわじわと販売数が増え、SNSに作品をあげるとたくさんの反応も得られるようになります。立ち上げから約1年経ち、コロナも落ち着き始めた頃、荒田さんの中で対面販売をしてみたいという意欲が芽生えます。

「ダイレクトにお客さんとやり取りをして、お客さんの声を直接聞きたいと思ったんです。それで、まずはイベントに出店してみようと思い、近くの百貨店のイベントに参加させてもらいました」

自ら百貨店へ出店のアプローチをし、奈良や大阪の百貨店でポップアップショップ出店を実現させた荒田さん。ほかにも大阪や神戸で開催されるハンドメイドフェスなどにも出店し、着実に顧客も増えていきました。

「対面だと、『こういうのを探していました』と声をかけてくださる方もいて、いろいろな反応を見ることができるのが嬉しかったんですよね。中には『亡くなった親の形見の着物でバッグを作れないか』といった相談を直接受けることもありました」

20260525kikunosanchino_1.jpg普段使いができそうなトートバッグやサコッシュから、華やかなお財布やチェーンバッグ、ピアスなどバラエティに富んだ作品が誕生しています。

自由に作品を作り、販売も順調。このままオンライン販売を中心に続けていければと考えていた荒田さんに大きな転機が訪れます。

「東京で衣装の仕事をしていたときの仕事仲間で北海道出身の友人から急に連絡がきたんです。幼なじみに私を紹介したいと」

紹介された男性とLINEでやり取りを重ねるうちに、お互い惹かれるものがあり、紹介されてからしばらくして東京で初めてご対面。そのあと結婚を前提に正式にお付き合いが始まります。

「彼は羽幌で働いていたので、結婚したら北海道へ行くことになるのは分かっていました。でも、仕事はミシンがあればできるし、販売もオンラインが中心。奈良での活動を糧にして、北海道という新しい環境へ飛び出すことに抵抗はありませんでした」

家族旅行や高校の修学旅行、大学の卒業旅行でも訪れていた北海道は、荒田さんにとって好きな場所のひとつでもあり、そこに暮らすことへの期待のほうが大きかったそう。とはいえ、最初は「羽幌」の読み方も分からず、どこにあるかも知らなかったと笑います。

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穏やかな気持ちでいられる羽幌での暮らし

荒田さんが初めて羽幌を訪れたのは秋でした。穏やかな海を見て「落ち着く」と感じたのだそう。さらに「夕日がステキでいいところだなと思いました」と続けます。ただ、「初めての冬はさすがにびっくりしました。一面真っ白で(笑)。でも、季節によって風景が変わることにワクワクしてましたね」と話します。

2024年11月に結婚し、羽幌での生活がスタートした荒田さん。家の一部屋をアトリエにし、日々制作に励んでいます。「部屋数のある家に住めたこともあり、ゆったりとした広さの中で作業ができるのはありがたいし、夫に感謝しています。商品の写真撮影もしやすいですし」と、作品作りもはかどっている様子。

羽幌での暮らしについて尋ねると、「住み心地はいいです。生活に必要な店はだいたい揃っているし、不便を感じることはそんなにありません。強いていうなら、作品作りに必要な糸やファスナーが足りないときにすぐに買いに行けないことくらいかな」と話します。さらに「食べ物が何を食べてもおいしい。こっちに来て甘えびを食べたときは感動しました。あとは、トウキビも鮮度が良くておいしいし」とニッコリ。ご主人が釣り好きで、魚を持って帰ってきてくれることもあるそうで、「北海道ならではの暮らしを楽しんでいます」と続けます。

20260525kikunosanchino_17.jpg羽幌にあるバラ園のボランティア活動に参加したのをきっかけに、地元の方たちとの交流も楽しんでいる荒田さん。皆さんに「美香ちゃん」と呼ばれているそう。

荒田さんは、「私の周りの羽幌の方は親切にしてくださる方ばかりで、本当にありがたいです」と話します。新聞掲載をきっかけに声をかけてくれたり、山菜や海の幸などをおすそ分けと言って持って来てくれたりする地域の方々をはじめ、道の駅に荒田さんの作品を置けるよう担当者と繋いでくれた役場の方々は、ふるさと納税返礼品への登録の手続きの際にも親身に相談に乗ってくれたのだそう。さらに羽幌でモノづくりをしているクリエイターさんとの交流も生まれています。

「オンラインでも販売をしていたので、東京や関西にいなくても仕事ができるというのもありますが、羽幌に来て本当に良かったと感じています。穏やかな環境でストレスもなく、安定した気持ちで作品作りに取り組めていますし、自然がすぐそばにあって、息抜きがしやすいのも魅力かなって。人も土地も大らかで、本当にいい環境だと思います」

今後はオンラインショップを強化しつつ、北海道内の人たちにも実際に作品を手に取ってみてもらえる機会を設けていきたいと考えている荒田さん。つい先日、北海道に来て初めて札幌のハンドメイドイベントにも参加したそう。また、「北海道に住んでいるからこそできる作品を作ってみたいですね」と最後に話してくれました。

pixta_113523043_XL.jpg天気のいい日は地平線の向こうに美しい「利尻富士」が見えることも!

kikunosanchino(キクノサンチノ) 荒田 美香さん
URL

https://kikunosanchino.com/

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「何か良いことが起こる予感」を羽幌から届ける着物リメイク作家

この記事は2026年5月25日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。