昔から家具や木工クラフトといった産業を中心としたデザイン活動が盛んな旭川市。2019年にはユネスコのデザイン都市に日本で3番目に認定され、「デザインの力で、持続可能で誇りある地域社会を実現する」というビジョンを基本方針として掲げています。そんな旭川で、デザインの視点でまちづくりに取り組む地域おこし協力隊の隊員たちがいます。今回は、協力隊のデザイン活動推進員として2025年3月に着任した小山さんに旭川へ来るきっかけや、今の活動内容、これからチャレンジしたいことなどを伺いました。
デザイン・公務員・フリーランス。多才な経験を糧に旭川へ
横浜生まれ、湘南育ちという小山さん。女子美術大学のデザイン学科を卒業後、東京で複数の広告会社等に勤務していました。
「進学情報の雑誌などのデザインを手掛けていて、大学などに取材も行っていました。現場のいちデザイナーからディレクターになり、忙しい日々を送っていたのですが、ちょっと疲れてしまって...。あと、割と同じ業種の人としか会わない中で仕事をしていることにも抵抗を感じていて、もっといろいろな人と繋がって仕事がしたいと考えていました」
2025年3月にデザイン活動推進員として着任した小山さん。
そこで思い切って転職することにした小山さんは、東京都内の市役所職員になります。デザイナーから公務員というのは意外な気もします。
「市民協働や教育に興味があったんですよね。市役所では、生涯学習や子育て関連の部署に長く携わり、大学生や若者の地域活動支援などを長く担当していました」
企画したイベントのポスターも自分で作る、イベントの写真撮影も自身で行うなど、これまでの経験を生かしながら仕事をこなしていましたが、「手掛けていた大学生のイベントが評判になって、私自身がいろいろなイベントに呼ばれて登壇する機会も増え、活動の幅が広がった一方で、周囲からの見られ方や立ち位置にも変化が生まれ、少しずつ仕事の難しさを感じるようになってきたんです」と小山さん。

イベントで撮った写真がSNSで評判となり、いろいろなところから撮影依頼がきていたこともあり、「写真もやりたかったし、公務員としてではなく違う形で市民協働や若者支援などに携わりたい」と市役所の職員を退職します。
その後はカメラマンとして活動する傍ら、派遣社員なども経験。フリーランスで、まちづくりや若者の支援プロジェクトなどに関わる「コミュニティデザイナー」として活動してきました。
「長野や札幌でデザインやカメラの仕事をすることも考えていたのですが、以前からユネスコのデザイン都市である名古屋市、神戸市の動きをチェックしていて、ちょうど2019年に旭川市がデザイン都市になったと知り、旭川も注目するようになっていました」
写真右上の円と直線で構成されたデザインは、旭川の徽章のパーツを組み合わせて展開した「旭川市デザインシステム」を導入したもの。
そんなとき、旭川市の地域おこし協力隊で「デザイン活動推進員」を募集していることを知ります。学生時代にたびたび北海道旅行に訪れていた小山さんは、旭川にも何度か立ち寄っており、なじみがないわけでもなかったそう。
「募集内容を見て、面白そうだなって思いました。行政の経験もあるし、民間企業の経験もあるし、もちろん市民の視点も持っているから、私にちょうどいいんじゃないかって思ったんですよね」
美術やデザインを学ぶ機会を広げ、中高生の感性をかたちに
そして、協力隊に採用された小山さん。現在は、歴史あるレンガ造りの倉庫を改装したデザインギャラリーの運営を中心に、自身が企画した中高生向けのデッサン教室のイベント実施のほか、旭川農業高校の生徒に伴走する形で探究活動も行っています。

「インターネットの普及もあり、都心と地方都市の教育環境の差は縮まりつつありますが、旭川に来て、美術やデザインの教育には地域ごとの環境の違いがあると実感しました。首都圏には画材を豊富に扱うお店や、美大受験のための予備校が数多くありますが、こちらに来てみると、そうした環境が限られていました。私が美大出身ということもあり、高校生たちから『絵を見てほしい』とか『教えてほしい』と言われる機会が増え、少しでもお役に立てるならと思い、デッサン教室を始めました」
この教室は好評で、今後もこうした活動を通じて、美術やデザインを学ぶ機会を広げていくお手伝いができたらと考えているそう。また、農業高校の生徒たちとは、探究学習の時間で押し花作りや多肉植物のカプセル作りなどに挑戦。
市内の中高生や市民を対象に開催しているデッサン教室。
「美術や学びに関する環境の違いを感じるものの、その一方で旭川に来たときにスゴイと思ったのは、素晴らしいデザインが身近に当たり前にあるということ。駅の構内にすごく価値のある旭川家具がさりげなく置いてあって、そこで高校生が当たり前のように勉強しているなど、そこは恵まれているなと思いました。私が学生時代に新宿や銀座にわざわざ見に行ったような家具が普通に置かれているのですから。行政がデザイン都市を意識し、地域資源を活用しているのが素晴らしいと思いましたし、市役所の職員研修でデザイン思考などについてレクチャーするのもいいことだと感じていました」
協力隊として1年が経ち、さらにデザイン活動に関してやるべき課題も見えてきたと小山さん。
旭川市役所新庁舎9階展望フロアには、個性あふれるデザインの家具が。椅子の形もひとつひとつ違うのだとか!
「旭川のデザインに関する取り組みをはじめ、デザイン都市であることをさらに外に発信していきたいと考えています。すでに構想していることもあって、今後は首都圏等で美術を学ぶ学生たちを旭川に招き、私が現在中高生向けに行っている絵画教室などを一緒に実施できないかと考えています。首都圏の美術系学生と旭川の子どもたちが互いに刺激を受けながら学び合えるような取り組みにできればと、現在構想を練っている所です。関係人口が増えるという観点からもいいと思うんですよね」
すでに東京の美術系の学生たちに話をしているとのことで、とにかく行動が早い小山さん!さらに、東京の学生たちと地元の子どもたちをつなぐことで、子どもたちに自分たちが暮らす土地のポテンシャルの高さにも気付いてもらえたらと考えているそう。

「旭川の子どもたちは、小さいころから当たり前のように素晴らしい景色の中で育っていて、都会の子よりも感性の引き出しはすごく多いと思います。でも、その感性をアウトプットできる機会が少ないし、こんな素晴らしい環境のなかで暮らしているのに、住んでいるまちや自分自身に対しても自信を持てない子が多い気がするんです。それはすごくもったいないと思うんです。大人もそうなんですけど、旭川の人は どこか控えめなところがあって、地域の魅力を強く打ち出しすぎない印象があります。でも、だからこそまだ伝えきれていない魅力がたくさんあると感じています」
まるで留学しているような気分!?な旭川での暮らし
旭川に来て、1年ちょっと経った小山さん。旭川の暮らしについて伺うと、「いまだに『留学』しているような気分。同じ日本でもこんなに違うんだなぁと思います」と笑います。
「旅行で来たことはあっても、暮らすとなると別。知らないことがたくさんあったので、有楽町の移住相談窓口やイベントで生活のことを聞いたり、旭川市地域おこし協力隊の先輩のYouTube動画をめちゃくちゃ見て参考にしたりしましたけど、それでもまだ知らないことや驚くことがあります」
市街地なのに思った以上に広い部屋に住めること、暖房はエアコンしか知らなかったけれどガスや灯油の暖房機器があること、夏の暑さも東京に比べれば暑いと思わないこと、道路もスーパーの駐車場も広い、歩いているとキツネに遭遇するなどを順に挙げ、「10月から4月頃までは雪が積もり、気温も氷点下10度前後になるなど、一面雪景色の生活、水落としの文化に戸惑いながらも何とか最初の冬を越しました」と話してくれてくれた小山さん。道民にとっては当たり前のことばかりですが、話を聞いているうちに首都圏出身の人には当たり前ではないのだと取材チームもあらためて実感しました。
「あと、徒歩圏内の感覚の違いも面白いなと思いました。家からデザインギャラリーまで歩いて20分くらいなんですけど、私が歩いて通っていると旭川の人に話すとみんな驚くんですよ。駅から徒歩20分の部屋に住むとか、東京ではよくあることなので、私はまったく抵抗ないんですけどね(笑)。雪道の運転が怖くて、冬も歩いて通っていたらそれもみんなに驚かれました」
「私はペーパードライバーだったので、1年目は車なしで生活していましたが、雪が降っても旭川の交通機関は整っているので安心感はありました」と小山さん。
あれこれ暮らしの違いはいろいろありますが、「何より一番いいのは通勤ストレスのないこと」と小山さん。東京にいた頃、日々のストレスの3~4割は通勤時のストレスだったそう。たくさんの人にもまれることもなく、20分歩いて職場に到着できるのはそれだけで十分ありがたいことと話します。
「驚いたことといえば、夜の風景ですね。少しまちなかを離れると明かりも人通りも少なくなるので、都心では経験したことがないほどの暗さだと感じました(笑)。特に郊外へ行ったときは、本当に真っ暗で人の気配もなく、その静けさに衝撃を受けました。でも、これも育った環境の違いなんでしょうね。そう考えると面白いです」
旭川の人たちについて尋ねると、「温かい人が多い。排他的なところが全然なくて、皆さん受け入れてくれるんです」と話し、「皆さん、夏になると野菜をいっぱいくれるんです。野菜ってもらえるものなんだと驚きました」と笑います。「しかも、その野菜がまたおいしいんですよね」とニッコリ。
デザイン都市・旭川はクリエイターが埋もれないまち
フォトグラファーとしても活動している小山さんは、旭川に来てから有名な写真家にお声がけいただくなど、自身の活動にも変化があったと話します。
「こちらに来てから、雪の上に輝く光をテーマに写真を撮っています。毎日歩いていると、同じような場所でも太陽の光によって反射のきらめき方が違って見えるんですよね。そういうシーンを切り取って連作にしてコンテストに出したら、準グランプリをいただいたんです」
旭川の身近な自然の景色は小山さんの感性にも変化を与えているよう。
「道を歩いていても出合う景色にいちいち感動しちゃうんですけど、これからも自分なりの旭川の魅力を写真におさめて、それを発信し、旭川を知ってもらえたらと思います」
見事準グランプリを獲得した小山さんの作品。
また、クリエイターが旭川で活動することの利点として、「東京は人も情報も多すぎると感じていて、クリエイターも埋もれてしまいやすいんですね。でも旭川は活動するにもちょうどいい規模感で、クリエイター同士の距離感も心地いいと感じます」と話します。「そして、空港が近くて東京へもすぐに行けるから、2拠点で活動がしやすいのも魅力だと思います。札幌も割と近いですしね」と続けます。小山さんも2、3カ月に一度は東京へ行き、札幌にも2カ月に一度は遊びに行くそう。
協力隊の卒業後のことを尋ねると。「これまでデザイナーとしても公務員としても教育に携わってきたので、ゆくゆくは教育関係のNPOを立ち上げるなども考えています。大学院へ進んでデザインと教育を組み合わせた勉強もしたいし、それを学んだ上で地域に貢献できればとも考えています。学ぶために旭川を一度離れる可能性もあるけれど、旭川とはずっと関わっていきたいと思います」と小山さん。
デザインに詳しくなくてOK。デザインはあくまで問題解決のツール
取材の途中から、任務で外出中だった先輩協力隊の上田さん(写真右)も飛び込み参加してくれました!
小山さんのようにデザイン活動推進員として活躍してくれる地域おこし協力隊を募集する予定の旭川市。小山さんに、応募を検討している人へメッセージをお願いすると、「私が旭川に安心して来ることができたのは、行政の人たちのサポートが手厚かったからだし、先輩協力隊の上田さんがいてくれたから。もし協力隊を検討している人は、楽しみながら事業に関わろうという気持ちや、地域のみなさんとつながろうという気持ち、デザインについて学ぼうとする姿勢があればやっていけると思います。やりたいことやチャレンジしたいことがある人にはぴったりだと思います」と話してくれました。
小山さんが「サポートが手厚い」と太鼓判を押す話す、旭川市の担当・経済部産業振興課の高橋さんは、「小山さんも上田さんも得意分野が違っていて、私も日々勉強させてもらっています。次に来てくださる方は、旭川市のデザインやデザイン思考を学びたいという想いがあり、地域に入って、子どもから高齢者までいろいろな人たちと関係を構築しながら、イベントをやってみたい、チャレンジしたいという意欲のある方を期待しています。生活面でのサポート、特に冬場の暮らしは心配もあると思いますが、そのサポートは私たちが全力で行いますので、安心して来てもらいたいです」と話します。
デザイン推進員のサポートを担当する旭川市経済部産業振興課の高橋さん。
続けて高橋さんと同じ部署の佐藤さんは、「小山さんと上田さんが常駐しているデザインギャラリーは、年間2000~3000人が行き交う創造拠点。子ども、学生から企業の方、年配の方までさまざまな人が利用する場所です。次に来ていただく方にもそこに常駐してもらう予定です。高橋の話と重なりますが、私たちはデザインというのは色や形のものだけでなく、問題解決のためのツールだと考えています。だから難しく考えず、このデザインギャラリーでいろいろな人と触れ合い、デザインのキャリアを積み重ねながらコミュニティを築いていってほしいと考えています。デザインというのは、何ものにも縛られない力があると思うので、存分にやりたいことにチャレンジしてほしいですね。行政としてもそれをできる限り応援します」と語ってくれました。
デザインを難しく考え、特別なものと捉えがちな人が多いかもしれませんが、とても身近なものです。デザイン活動推進員の活動内容に興味がある人は、一度デザインギャラリーを訪れ、小山さんやもう1人の協力隊・上田さんに会ってみるのもいいかもしれませんね。
旭川市経済部産業振興課の佐藤文俊さん(写真中央)とスリーショット!終始なごやかな雰囲気の取材でした。
- デザインギャラリー
- 住所
〒070-0030 北海道旭川市宮下通11丁目 蔵囲夢
- 電話
<協力隊に関するお問い合わせ>0166-25-6212(旭川市 都市振興部 交通政策課)
<デザインギャラリー>0166-23-3000 - URL















