「なかとん愛」にあふれた住民と作る総合計画
かつてゴールドラッシュに沸き、一獲千金の夢を描いて多くの人でにぎわった町が、北海道の北部に位置する宗谷(そうや)地方にあります。そのエリアの内陸にある中頓別(なかとんべつ)町は、酪農が基幹産業で、青々とした牧草地が広がります。今でも砂金掘りができる川や名峰、スキー場など、豊かな暮らしをかなえる自然も文句なしです。
人口は一時期8000人を超えたものの、今は1400人ほど。小さな町だからこそ町民同士のつながりが深く、「なかとん愛」が強いのが特徴です。そんな魅力に惹かれて、ここに移り住む人や起業する人たちもいます。町民主体でまちづくりが展開され、みんなで協力しながら「なかとん」の暮らしを楽しんでいるそうです。いま、何が起きているのでしょうか? まずは、中頓別町役場の政策経営課まちづくり担当課長の野田繁実さんに聞きました。
こちらが、町民活動のサポートや人口減少対策のためのミッションの掘り起こし、分析企画を担当する、中頓別町役場政策経営課まちづくり担当課長の野田繁実さん
2022年に策定された、中頓別町の「第8期総合計画」。取っつきにくそうな名称ですが、これからの10年を見据えた際の、総合的なまちづくりの道しるべです。自治体の最上位計画として行政関係者にはおなじみですが、住民には身近とは言いづらいかもしれません。そんななか、中頓別町では町民が「理想の暮らし」について考えることで総合計画の策定に関わっているといいます。
野田さんは入庁以来ずっと企画畑で、「第6期総合計画」から30年分の計画策定に関わってきたベテラン。野田さんによると、2012年頃から「町民主体のまちづくり」をどう進めていくか検討が始まりました。行政側が整えた案を町の審議会で承認をもらう従来の方法に対して、「それは町民全体の意見ではないのではないか」という声が上がっていたそうです。時間をかけて議論し、2019年度から具体的な試行錯誤が始まりました。
行政職員と町民が一緒になってワークショップを進め、町民の意見を集めながらまちづくりの方針を少しずつ決めていきました
役場でワークショップを開催したり、各地区を野田さん自らが歩き、町民から教育・福祉・医療・健康などさまざまな分野について、「こういう町になったらいいよね」という願いやアイデアを聞き取りました。小さな町とはいえ、とても根気のいる作業です。そして皆さんの声をまとめた上で、町内での取り組みを発信する「暮らしのアイデア放送部」ができました。中頓別町で暮らすうえで迫られる選択や困りごとを楽しく乗り越えていくための楽しいアイデアを交換し、フリーペーパーやSNS、YouTubeなどで地域内外に発信する部活のような存在です。
中頓別町の第8期総合計画の中で生まれた「かます」。まちのアイコン的存在です。みどり色の体は中頓別町のシンボルである、ピンネシリ岳をイメージ。かわいい!
学びの場づくり、観光体験...多彩な町民活動
7つのチームによる町民主体の活動は「7つのアクション」と呼ばれ、総合計画を策定する過程で生まれました。
それぞれ「まちづくりをしなければ!」という堅苦しさはなく、「みんなで楽しもう!」という、いい意味でのゆるさがあります。
例えば「育児と仕事の両立」チームでは、掲げたテーマが大きすぎるということで、相手の立場を想像しながら考えを楽しく伝え合う「価値観共有ゲーム」をやってみたんだとか。「いつできるの?"いつラボ"」チームでは、福祉施設の木工設備を使い、コミュニティ施設でスマホスタンドづくりを開催しました。「なかシュラン」チームでは、各方面でチャレンジする大人から話を聞く「しごとBar」が名物企画に。「町営塾」チームでは中頓別町に帰省中の大学生が、小学生向けに「謎解きイベント」を開催。「サバイバルの達人」チームが釣ったヤマメを使って「エプロンツーリズムチーム」がマリネを作る、といったおいしすぎるコラボイベントもありました。
こうして町民の方が自主的にみんなで楽しめる企画をする町って、なかなかないのではないでしょうか。年度末には、「7つのアクション」を含む町内のさまざまな活動を一気に知ることができる「みんなの活動発表会」もあります。2026年3月の発表会では、町役場ロビーにある薪ストーブで焼いたピザを食べながら発表を聞きました。なんと、54人もの参加があったそうです。
光が差し込む中頓別町役場ロビーにて。 砂金を掘るために本州から移住された方からのお話や、空き店舗を活用したスペース利活用の経過報告など、今の中頓別でどんな活動が進んでいるのかを楽しく共有する時間となりました
自身は中頓別へJターン、長女はUターン
さまざまな活動をサポートする町職員でもあり町民でもある野田さんは、「なかとん」の居心地をどう感じているのでしょうか? ご自身のことを聞いてみました。
野田さんが生まれたのはオホーツク海に面した、ホタテで有名な猿払村です。中学卒業後、隣町の浜頓別高校に進学、その後札幌近郊の短大を経て、中頓別町役場に就職しました。高校時代から役場で働くことをイメージしていた野田さんは、親戚がいる猿払村や浜頓別町ではない中頓別町で働くことについて、「同級生や友人も中頓別町内で働いていて、卒業した後も昔からの縁があるので、仕事はしやすく、住みやすいですね」と言います。

そんな野田さんのご長女は中頓別町生まれ。教師になる夢を持ち、高校・大学への進学を機に地元を離れたものの、「中頓別に戻ってきたい」という思いが消えず、猿払村の学校で勤務した後、2026年4月からは中頓別町の教育委員会で働いています。幼い頃に中頓別町で育った環境や思い出がずっと心の中に残っていたようです。野田さんのご長女のように「中頓別町で暮らしたい、一度離れたとしても戻ってきたい」と想われるような町でありたい。そんな想いから中頓別町の教育方針として、町の魅力を子どもたちに発見してもらう「総合学習」の時間を設けています。野田さんによると、総合学習で地域の魅力を重点的に学ぶようなカリキュラムが採用されるようになって以降、「将来も中頓別に住みたい」と答える子どもが増えているそうです。
野田さんに改めて中頓別の魅力を聞くと、「ベースにあるのは人付き合いですね」という答えでした。「ご近所同士でも、ちょっとした挨拶や何気ない話ができます。今の時代、ひょっとしたら距離が近すぎると思われるかもしれませんが、自分にとって不快なものではありません。適度な距離感で、みんな仲が良いですね」

そして、好きなことに没頭できるのも大きなポイントだそう。「釣りでもスキーでも登山でも、やりたいことが見つかれば毎日が楽しいです」。野田さんのライフワークは、地元の「寿スキー場」で滑ること。冬はほぼ毎週末通っています。スキー少年団の事務局も担当し、子どもたちがスキーを楽しめる環境作りに尽力しています。令和7年冬からはご長女もその活動を手伝うようになり、地域の大人と一緒になって子どもたちとコミュニケーションを取って少年団活動を盛り上げています。
「集まる理由をつくりたい」 一念発起で起業
「7つのアクション」の活動に関わって「なかとん愛」を再認識し、大きな挑戦をしている町民もいます。2026年4月29日、町役場近くの住宅地に念願の飲食店「オグバル」を開業させた小倉弘さんです。
7つのアクション活動で、「町営塾づくり」チームに息子さんと参加し、感じたことがあります。「みんな中頓別が好きなんだ、というのがすごく伝わってきました。いろんな方が集まる場がないと、なかなか中頓別愛を語れる場もないですからね。一方で、子どもたちが将来ここで住み続けるイメージが持てないという、子どもたちの不安もよく分かりました」
中学生の頃から料理を作るのも食べるのも好きだった小倉さん。生まれ故郷の浜頓別町では飲食店は多くないため、自分で勉強して自分で作るという習慣が自然と身につきました。お小遣いでレシピ本を買い、どんどん料理の深みへ。「いつか自分の店を」という夢が芽生えたそうです。
こちらが、「7つのアクション」の活動から派生して自分のお店「オグバル」を構える夢を叶えた小倉弘さん
高校卒業後は、中頓別町内の郵便局で勤務。当時は知り合いは少なかったものの、お店があったことが救いになりました。小倉さんは「ぺーぺーの自分でも、人の集まる飲食店やスナックに行くと、年齢関係なく色んな方とコミュニケーションが取れました。知り合いができて、仕事にも活かせる良い経験ができました。でも、今の若い人にはそういう場所は少ないなと思います」と言います。
28年間の郵便局員人生の中で、中頓別で働いたのはトータル25年。生まれ故郷の浜頓別よりも年数が長くなりました。「浜頓別が浜の気質だとしたら、中頓別は農耕気質というか、大人しい方が多く、人にすごく優しいイメージがあります。たぶん、9割方の町民の名前と顔は一致しますね」と笑います。
2024年12月末に郵便局を退職し、準備を重ねてきました。2025年には開業に向けて、目標1000万円のクラウドファンディングを実施。「町民の皆さんに知っていただいて目標金額を超えることができました」と喜びます。
木の温もりが感じられるカウンター。見上げれば美味しそうなお酒がずらり...!色々なつながりが生まれそうな素敵な空間です
応援してくれる知り合いが多い中頓別。しかし人口は減り、菓子店や飲食店も減少していくなど元気がなくなっていくのが気がかりでした。「だんだん衰退しているのを目にして、何とかしなきゃと思いました」と小倉さん。オグバルが「集まる理由」になればと、こだわりのウイスキーなどを多くそろえ、立ち飲み用のおしゃれなカウンターや雰囲気たっぷりの木樽も作りました。子ども連れでも気兼ねなく楽しめるよう、個室も多く用意しました。
「いつか自分の店を」という自身の夢と、「大好きな町に気軽に集まれる場所を」という地域への思い。この2つが交わったオグバルは、子どもからシニアまでみんなで楽しむ空間に育っていきそうです。現在は札幌の大学で学ぶ息子さんも起業に興味を持っているそうで、小倉さんの挑戦が周りの人の心を動かしていくのかもしれません。
オグバル公式HPはコチラ→https://ogu-bar.com/
小倉さんに寄り添うのが、奥様の満恵さん。開店初日には町内外の方が次々とお祝いに訪れました。小倉さんご夫妻の夢はここからまた始まります
「7つのアクション」を未来につなぐために、町民と協力隊と一緒に走る
「なかとん愛」にあふれた町民が楽しむ活動をサポートするうえで、これから大切になってくるのは外部の視点や自由な発想を持った人材です。
2024年度までは、「まちづくりサポーター」として前任の地域おこし協力隊を務めた男性が「暮らしのアイデア放送部」のメインメンバーとなり、「7つのアクション」に関わる活動をサポート。このほか、スマホ教室や転入者への歓迎バーベキューといったイベントの運営をしたり、前職の経験を生かしてのカフェ運営やフリーペーパー・SNSを通した広報活動など、幅広く手がけました。
「7つのアクション」を推進する町民の活動情報を届ける広報誌。前任の協力隊が編集の中心となって第6回まで刊行しました。新しい協力隊員の方が来られたら、デジタルでもペーパーでも動画でも、得意分野に合わせて発信できるように一緒に考えていきたい、と野田さんはいいます。
町は、さまざまなバックグラウンドを生かした「まちづくりサポーター」にどんなことを期待しているのでしょうか?
仕事はまず、「7つのアクション」の町民活動に参加し、野田さんと一緒にそのサポートをすることから始まります。前任者も釣りの経験があまりなく、町民や野田さんと一緒になって体験したそうです。
「こうして町民とのつながりをつくり、それぞれがやりたいことや、できることを自由な発想で見つけてほしいです。一人でも活動をサポートできるようになったら、少しずつ隊員に任せていきたいです。町民の暮らしが豊かになるのであれば、変化はどんどん起きていいと思っています」と野田さんは言います。
長らく商店として使われた建物を、町民の集まるフリースペース「モトマツダ」としてリニューアル。勉強会や読書会、ワークショップなど、誰もが気軽にイベントを開催・参加できる場として再活用されています
町外から赴任する人にとっては不安もあるかもしれませんが、野田さんによると、「1人でやらなきゃ」「ゴールをしっかり作らないと」というプレッシャーはないそうです。普段から町民活動のサポートや人口減少対策を担当している野田さんをはじめ役場のスタッフが、協力隊の募集・採用から相談、活動の実行補助まで一貫して伴走します。
野田さんは「外の目線を生かして地元の人も知らない魅力を発見してほしいなという想いはあります。ですが、『まずは町の人と楽しく暮らしてみませんか?』という気楽な感じからスタートしてもらいたいです」と言います。着任にあたっては、住まい探しのサポートもあるので、安心してチャレンジできそうです。
前任の協力隊の男性は3年間の任期終了後、町内のコミュニティ施設(モトマツダ)の運営・管理のサポートなどをしていました。卒業後のキャリア選択についても随時フォローするという野田さん。「起業する、町職員になる、どこかで自分の役割を見つけるなど、その人の個性や事情に合わせて一緒に考えていきたいです。今まで暮らした都会と中頓別町の田舎暮らしを比較してもらい、『これからもここで暮らしたい』と思ってくれたとしたら、出口が見つかるまで伴走します」
小倉さんのように中頓別への想いをもった方を発掘し、想いを汲み取り、各チームとマッチングを図っていく。そうして「なかとん愛」を形にしていくことが、協力隊としての大切な活動の1つです。中頓別町で温かさとつながりを感じてみませんか?

- 中頓別町役場 政策経営課まちづくり担当 野田 繁実さん
- 住所
北海道枝幸郡中頓別町字中頓別172-6
- 電話
01634-6-1111
- URL
【オグバル】北海道枝幸郡中頓別町字中頓別147-10電話番号:01634-8-7766公式HP:https://ogu-bar.com/
「令和8年度中頓別町地域おこし協力隊募集業務」※記事内容は編集部の取材・編集方針に基づき制作しています。















