北海道の北部に位置し、冬には極上のパウダースノーに包まれるまち、名寄(なよろ)市。 日本トップクラスの雪質を誇るこのまちは、冬季競技の日本代表クラスが集う「まち」であり、スポーツを通じて地域の未来をデザインする「スポーツによるまちづくり」に地域全体で熱を注いでいる先進地でもあります。
そんなスポーツの熱気に満ちたまちで、市民や子どもたちの健康な体づくりを支えるためにやってきたのが、地域おこし協力隊として活動する、山崎(やまさき)達哉さん(33歳)です。 大阪出身の山崎さんは、6歳から大学卒業まで一貫してレスリングに打ち込んできたという、生粋の元アスリート。そんな山崎さんが2025年、不思議な縁で名寄の「スポーツトレーナー」としての活動をスタートさせました。今回は、山崎さんから名寄暮らしの楽しさや、等身大で楽しむ地域おこしのお仕事、そしてこれからのチャレンジについてお話を伺いました。
ゆるやかな打診が転機に。「もし気が向いたら」が心地よい
山崎さんと名寄の出会いは、今から4年前に遡ります。当時、ワンシーズンの農業ヘルパーとして、名寄市内でかぼちゃやアスパラ、とうもろこし、じゃがいもなどを幅広く栽培する「遠藤ファーム」へやってきたことがすべての始まりでした。
「純粋に農作業が面白そうだな、やってみたいなと思ったんです」
こちらが山崎(やまさき)達哉さんです。
そう振り返る山崎さん。春から秋までの農繁期を駆け抜け、一度は本州の生活拠点に戻って長年続けていたカフェ店員などの仕事に戻りましたが、名寄との縁が途切れることはありませんでした。ファーム代表の遠藤貴広さんとは、冬になるとふらりと名寄を訪れてスキーを楽しむなど、プライベートでの交流が続いていたのです。
そして2025年。2度目となる遠藤ファームでの農業ヘルパーの仕事へと足を運んだ山崎さんに、ある転機が訪れます。
「農繁期が過ぎたら、次は何をしようかなとぼんやり考えていたタイミングだったんです。その時に遠藤さんから『名寄で地域おこし協力隊のスポーツトレーナーを募集しているよ』と声をかけてもらいました。仕事でも遊びでも、これまで2度もめちゃくちゃお世話になった遠藤さんに、自分の力で何か恩返しがしたいという気持ちがありました。遠藤さんが偶然にもその募集元であるNスポーツコミッションなよろの会長を務めていたんです(笑)」
こちらが遠藤ファーム代表兼Nスポーツコミッション会長の遠藤貴広さん。遠藤さんと山崎さんは、休日に遠藤さんのご自宅で一緒に食事やお酒を楽しむこともあるそうです!
見知らぬ土地への移住や、地域おこし協力隊への応募となると、どうしても将来的な「定住」という重い二文字が頭をよぎり、二の足を踏んでしまう人も少なくありません。しかし、交わされた言葉は想像とは違うものでした。
「任期は3年。募集の際にも『任期が終わったあとに、もし気が向いたらそのまま暮らしててよ』というくらいの、軽めのトーンだったんです。『絶対にこのまちに定住して骨を埋めてくれ!』なんて最初にプレッシャーをかけられていたら、きっと一歩を踏み出せなかったと思います」
気に入ってくれたら住んでね、という圧が弱めでゆるやかなノリが、当時の山崎さんの気持ちにフィットしました。
トップアスリートの合宿地。名寄市が「スポーツ×まちおこし」に挑む理由
ここで、山崎さんが所属する「Nスポーツコミッションなよろ(Nスポ)」と、名寄市が取り組んでいるスポーツ振興について触れておきましょう。
名寄市は、周囲を雄大な山々と清らかな川に囲まれた豊かな自然を有するだけでなく、爽やかで過ごしやすい夏と、雪質・雪量ともに日本トップクラスを誇る冬が巡る、まさにスポーツをするには最高の環境が整った美しいまちです。
この恵まれた気候と環境を活かし、市内にはアスリートやスポーツ愛好家の厳しいトレーニングと、日々の豊かなライフスタイルが美しく交差する、多様なスポーツ環境が整えられています。
そのため、名寄市は古くからスキージャンプやクロスカントリー、バイアスロンなどの冬季競技において、日本代表クラスのトップアスリートたちが集結する「合宿の聖地」として発展してきました。単に選手を受け入れるだけでなく、スポーツを通じて地域の未来をデザインし、市民の健康増進やコミュニティの活性化、さらには観光誘致といった「スポーツ×まちおこし」に地域全体で本気で力を注いでいる先進地なのです。
そんなスポーツのまちだからこそ、市民の健康や子どもたちの運動能力を支える「スポーツトレーナー」の存在が求められていました。

資格は働きながらでOK。未経験から始まったトレーナーへの道
しかし、山崎さんが応募するにあたって、一つの問題がありました。Nスポが提示していた募集条件は「トレーニング指導者」。山崎さんには長年のレスリング競技経験こそあれど、一般の人や子どもたちに対して専門的なトレーニングを体系立てて指導した経験は、これまでなかったのです。
「完全に条件からはみ出していたのですが、『地域おこし協力隊の活動費を使いながら、資格の勉強を進めていけば全然大丈夫だよ』と言っていただけて。そこまで受け止めてもらえるなら、未経験の自分でも挑戦してみよう、と気持ちを決めました。現在は、認定トレーニング指導者資格の取得を目指し、日々の業務と並行して勉強を重ねている最中です」
Nスポがリードする「ジュニアスポーツエコシステム形成事業」の一環で、名寄高校の運動部生徒へ身体づくりのアドバイスをする山崎さん。
現在の山崎さんのワークスタイルは、朝8時半に出勤し、17時過ぎには退勤するという、非常に規則正しくクリーンなもの。運動教室の指導が夕方からスタートする日は出勤時間を遅くして調整しているそうです。
山崎さんのミッションである運動指導では、現在バルシューレ教室と体操教室を担当しています。バルシューレとは、ドイツ生まれのボールを使った運動プログラムです。特定の競技に偏らず、遊びの要素を交えながらボールを使って運動の基礎感覚を養っていきます。
「幼児から通える子ども向け教室の指導・管理を任されています。子どもたちに心の底から『楽しい!』と思ってもらえるような環境を作るのが僕の仕事です」
子どもの習い事には、機会格差が起こりがちです。人口が多い都市部であれば選択できる習い事教室やスポーツが地方だとできないと感じることが少なくありません。しかし名寄では、高額な月謝は必要なく、子どもが好奇心を持てば参加できる教室があります。これは子育て世帯には非常にありがたい話だといえるでしょう。
今年からはじまったバルシューレ教室には20名、体操教室には38名が参加しています。「子どもたちと楽しく体を動かしています」と、山崎さんはうれしそうに教えてくれました。
マイナス20度でも寒くない? 想像以上に満喫している名寄の暮らし
名寄での暮らしについても聞いてみました。これまで関西や関東で暮らし、冬でも滅多に雪が積もらない地域で大半を過ごしてきた山崎さんにとって、北海道名寄市の冬は、どのような体感なのでしょうか。
「『マイナス20度』という現地の数字を天気予報で見るだけで、大阪人間の感覚としては凍りつくような数字です(笑)。でも、実際にここで冬を迎えて暮らしてみると、不思議とそこまで寒さを感じないんです。北海道の家の中はどこに行っても暖房設備が完璧でめちゃくちゃ暖かいですから。唯一のネックといえば冬場の光熱費の高さですが、地域おこし協力隊には通信費をはじめとする補助制度が用意されているので、本当に助かっています」
「事務作業はあまり得意じゃないんです。やっぱり体を動かしている時間のほうが好きですね」と笑う山崎さん。イベント運営や運動教室の際は企画立ち上げから参加することもあるため、企画書などの資料を作成することもあります。
そんな北国の冬を、山崎さんはアクティブに満喫中。休日は「名寄ピヤシリスキー場」へ通い詰めてスキーやスノーボードの腕を磨き、さらには地元の小さな「風連スキー場」の圧倒的な手軽さに心躍ったといいます。
「風連スキー場は利用料がたったの200円で、レンタル代はなんと無料です。こんな身近にスノーアクティビティを楽しめる環境があるのは、最高ですね」

また、春夏になれば温泉巡りでリフレッシュし、地元の回転寿司に足を運んでは、ネタの圧倒的な大きさと瑞々しい美味しさに感動。さらに、名寄の地域の人々が温かく迎え入れてくれる交流の輪もうれしい、と話します。
「地域の方にお願いして、地元の伝統的なしめ縄づくりを手伝わせてもらったりしました。猟師さんから新鮮な鹿肉をもらって、自分でローストディアに調理したり、じっくり煮込んでカレーに入れたりして、北海道の自然の恵みをもらっていろんな形で楽しませてもらっています。最近は名寄市内で新しくブラジリアン柔術のサークルも立ち上げました。新しい仲間もできて、名寄の暮らしをしっかりと楽しめている実感がありますね」

3年でこのまちに、足跡を残せたら
「次にやりたいことが明確に決まっていなかったから」と、良い意味で肩の力を抜いた状態で名寄へとやってきた山崎さん。これまでも大阪、神奈川と拠点を変えて暮らすことに慣れていて、どこか風まかせな雰囲気が印象的です。
一方で、「この3年の間にしっかりと何かを残したい」という名寄での限られた任期への想いは、強い言葉で語ってくれました。
「夏休みや冬休みの長期休みには、名寄で子ども向けの本格的なレスリング教室を企画・開催したいと考えているんです」
そう語る山崎さんの胸の奥には、今も色褪せない少年時代の原体験があります。
「地元のレスリング教室の人たちがマット運動やハンドスプリングを軽々とこなす姿を見て、『うわ、めちゃくちゃかっこいいな!』と衝撃を受け、その光景が今でも目に焼き付いているんです。レスリングは相手の体と密着して組み合うことで、自分の体をどうコントロールするかという運動感覚が、他のスポーツとはレベル違いに上がります。柔軟性も高まりますし、基礎的な筋力もバランスよく身につきます」
スポーツセンター内にはトレーニング室も完備。「トレーニングをしたいけど、正しいやり方がわからない」そんな方にトレーニングの方法を教えたり、サポートすることも山崎さんのお仕事なんだとか。「今のところ、まだそういった相談がきたことはないのですが...(笑)。気軽に声をかけてほしいですね!」
さらに、山崎さんだからこそ思い描ける企画もあるそうです。
「ありがたいことに、僕のこれまでの格闘技人生のつながりで、知人にはオリンピックのメダリストやトップクラスのアスリートたちがいます。彼らをこの名寄に招いて、子どもたちが本物のアスリートの技や精神に触れ合えるような、そんな時間を創出できたら最高ですね」
現在は、隣町の士別市でもレスリングの指導に携わるなど、地域を超えて着実に指導実績を積み重ねている山崎さん。お世話になった名寄の人たちへ、自分の持っている経験と技術で恩を返したいという、ひょうひょうとした佇まいの奥にある志が垣間見えました。
名寄でオススメの飲食店は「廻転寿司きらら」だそう!
将来を決めきらなくていい。ステップアップの場として
最後に、これから全国で地域おこし協力隊を目指そうとしている人や、スポーツトレーナーとしての第一歩を踏み出そうと迷っている人に、温かいアドバイスをもらいました。
「もし、『自分で大丈夫だろうか』『将来が見えない』と悩んでいる人がいるなら、『自分の人生をさらに高くへ進めるための、ステップアップの通過点としてやってみたら?』と思います。名寄というまちは、ここで3年間しっかり学び、成長して、次の大きなステップへ羽ばたいていくことを心から応援してくれる。懐が深い環境があると思います。最初からすべての将来を決めきる必要なんてないです」
もし、このインタビューを読んで少しでも名寄に興味が湧いたなら、まずは気軽にイベントがあるときにでもまちへ遊びに来てください、と山崎さん。名寄では、市街地をそのまま舞台にして大運動会をやるといった『まちなか運動会』など、市民みんなが本気で楽しむユニークで最高に面白い行事もたくさんあるそうです。「Nスポに連絡をもらえたら僕が案内しますよ!」と軽やかに語ってくれました。
スポーツは体だけではなく、人の心をも健全に保ってくれる効果があります。「名寄で受けた恩は名寄へ返したい」という思いがきっかけで始まった山崎さんの新しいチャレンジ。それは夏の風のように爽やかで軽く、健やかなものでした。
広大な自然に抱かれた名寄の美しい景色に、驚くほど心地よく、そのチャレンジが馴染んでいく。 山崎さんがこれからの3年間という時間のなかで、名寄の地にどのような新しく力強い足跡を刻んでいくのか。人の縁がつながって始まったその新しい歩みを見届ける日が、今から楽しみです。


- 一般財団法人Nスポーツコミッションなよろ
- 住所
北海道名寄市西7条南12丁目55-134
- 電話
01654-3-6627
- URL















