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まちおこしレポート
安平町

協力隊が活躍する安平町。新たな「観光人材」募集の狙いは20250629

協力隊が活躍する安平町。新たな「観光人材」募集の狙いは

菜の花と鉄道で注目を集めている安平町(あびらちょう)では、新たに観光人材を採用してさらなる飛躍を目指しています。地域おこし協力隊として単に採用するだけではなく、現状と将来を見据えた観光振興とともに交流人口や町の人口の増加も期待する町の人々の想いは何でしょう。安平町役場、あびら観光協会、そして、開業後6年2カ月で来場者数400万人を達成した安平町観光の一大拠点「道の駅あびらD51ステーション」、それぞれの担当者や責任者に、今回募集する人材への想いと展望について教えていただきました。

安平町が募集する回遊交流推進員とは

安平町では、2025年度に地域おこし協力隊として観光分野での「回遊交流推進員」を募集しています。回遊交流推進員とは、安平町随一の観光拠点施設「道の駅あびらD51ステーション」などでのイベントや町内での体験事業の企画運営が主なミッションです。

安平町ではなぜ今、回遊交流推進員を募集するのでしょう。募集をする背景や理由、期待をすることなど気になることがいくつもあります。そこで、この募集に関するキーマンとなる3名、あびら観光協会事務局長の木村 誠さん、道の駅あびらD51ステーション支配人の西嶋 基さん、安平町商工観光課の高橋 克年さんにお話を伺いました。

大人気の道の駅。そこから町のあちこちへ回遊して欲しい

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まず、安平町の観光に関する現状と、観光人材を募集する意図を観光協会の木村さんに伺いましょう。安平町は、新千歳空港から車で約20分、200万人都市の札幌まで1時間圏内に位置しており、北海道の中では交通面での立地に恵まれています。古くからチーズやアサヒメロンなどの特産品と、競走馬の産地、鉄道の要衝となる町として知られ、近年では5月後半に見頃となる菜の花が有名です。


特に2019年に道の駅あびらD51ステーションのオープンをきっかけに、多くの方々が安平町を訪れています。道の駅に展示している蒸気機関車や、かつて道内を駆け抜けた特急車両のキハ183、町内産のチーズやメロン、菜の花、豚肉などを使用した加工品や食事などを目当てにたくさんの方が訪れるようになったのです。町の魅力や資源をテーマとしたイベントも頻繁に開催していることもあり、いまでは道の駅に年間約65万人もの人が訪れるそうです。春は菜の花観光、夏は収穫体験などのグリーンツーリズム、秋は鉄道イベント、冬は雪遊びのイベントなど、年間を通じてさまざまな観光コンテンツもあります。

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一見すると安平町の観光施策は大成功を納めているように感じられます。ただ、木村さんにたずねると、課題があるのだと語ります。

「道の駅にはたくさんのお客さんに来ていただいていますが、どうしてもイベントや道の駅だけで終わってしまうので、町内の他の場所へもぜひ立ち寄ってもらいたいというのが次の課題です」

もちろん町内を回遊してもらうための仕掛けや企画を行ってきました。例えば、菜の花やハチミツを使ったメニューを町内のお店で提供してもらい、そのお店を巡るスタンプラリーを実施したり、町内のお店を利用するごとに鉄道に関するデザインカードがもらえる企画も行っています。
ただ、これらのイベントやキャンペーンの実施期間は1〜2カ月程度。いかに年間を通じて来客を促し回遊性を高めるかが課題です。

「一緒にそういったことを考えてやってくれるような方に来てもらいたいなと思います」と木村さん。さらに、このようにおっしゃいました。

「地域内の回遊といっても、安平町の町内だけでは観光客の視点では難しいだろうなとは思います。苫小牧や千歳市をはじめ近隣市町なども含めて少し大きな視点・エリアで回遊を促せるような仕組みができたらいいなと思います」

まずは道の駅などに立ち寄ってもらい、そこからもう1カ所、町内でも町外でも訪れてもらえるような企画を組み立て、いかに促していくか。その課題に対して共に取り組める仲間を求めているのです。

「回遊交流推進員」として活かせる3つのスキル

今回の地域おこし協力隊「回遊交流推進員」には回遊性を高めるための企画立案のほかにもミッションがあります。年間を通じて町へ訪れてもらうための仕掛け、例えば道の駅などでの集客イベントや、地域の食や農業を生かした体験型観光事業の企画運営なども担当します。具体的にどんなスキルや能力が活かせるのでしょうか。次に観光の現場となる道の駅を取り仕切る支配人の西嶋さんにお話を伺いました。


西嶋さんによると、今回の「回遊交流推進員」のミッションには、商品作り、PR、販売の3つの経験やスキルが役立つそう。観光商品は、町のイベントや道の駅のイベントなど、多岐にわたるので、さまざまな関係者や外部の会社、町の人たちと企画を練っていく必要があります。観光商品を企画したら、それを告知をして知ってもらい来てもらうPR業務も必要です。最終的にはできあがった観光商品の販売も行います。

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ただ、これら3つのスキルすべてが必要ではないと西嶋さんは考えています。

「例えば小売業の現場で働いている方は、業者さんが開発して出来上がった商品を、おすすめして販売していくことを日々おこなっていますし、企画開発は私たちと一緒にやっていけばいずれノウハウは備わっていくので、3つのうち2つ得意だったり経験があれば活躍できると思いますよ」

すべてを一人でこなすわけではなく、チームで実施します。コミュニケーションをとりながら企画をして販促、販売をしていくので、小売業や販売業のほか、営業職の経験も役立つそうです。

「営業の方は、商品の魅力の伝え方に長けているでしょうし、業者さんとの調整も経験しているでしょうしね。大切なのは、これまでの業種で培ってきた力を武器として活躍できるということだと思っています」

こう聞くと、経験豊かな即戦力を期待しているかのように思えますが、必ずしもそういうわけではありません。例えば、西嶋さんと世代が異なるZ世代の方であれば、同じ業務をするにしてもツールの使い方などやり方がぜんぜん違うことが多く、それ自体が刺激になるし勉強にもなるのでありがたいと言います。

「明るく元気で人と関わることが好きな方なら、中身は後からついてくるので、一緒にチームで職場を作り上げていければと考えています」

一気にハードルが下がった気がします。経験の長短や年齢というよりも、コミュニケーションを取りながら企画を考え、人に紹介をして提供をしていくマインドがあるかどうかにかかっているようです。

ひとつ知っておいて欲しいのは、観光業は一般的にまわりの人がお休みの時に忙しいということ。つまり、平日は比較的ゆとりがあるけれど土日祝日はイベント運営や接客などがあります。年間を通じて、安平町の場合はゴールデンウィークとその直後の菜の花のシーズンが観光のトップシーズンに忙しくなります。観光客の出足が鈍る秋冬は比較的ゆとりがあります。この時期は来シーズンに向けたイベントの企画や観光商品づくりをじっくりと行うことができる時間でもあります。このような働き方に魅力を感じる方にはぴったりですね。

地域おこし協力隊が活躍しやすいまち、安平町

いま安平町で募集している「回遊交流推進員」は、安平町の地域おこし協力隊の隊員として安平町役場に採用され、主な職場は観光協会という形になります。安平町では平成26年から46人もの地域おこし協力隊を受け入れてきた実績があり、現在も22人の現役隊員が活動中です。令和6年度に受け入れた人数は北海道内ではトップ3に入る多さ。任期終了後に独立起業した方やグリーンツーリズムに携わる方、飲食店を開業した方など、町内には10数人も地域おこし協力隊OBがいます。

安平町は地域おこし協力隊の受け入れに関して北海道内では経験値が高く、多様な活用類型での受け入れ実績が多いため他の市町村から問い合わせが来るほどだといいます。着任して3年の任期を終えたのち、町に残る人の割合は50%を超えており、半数以上の方がそのまま安平町に腰を据えて暮らしています。

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多くの地域おこし協力隊を採用し活躍し、卒業後も町への定着を果たしている要因を、安平町役場の商工観光課・高橋さんに伺いました。高橋さんは安平町で長年、地域おこし協力隊の制度設計や募集に関わってきた方です。

「うちの町の地域おこし協力隊員は、任期満了後の仕事や職場に選択肢を用意するようにしています。例えば任務に就いている職場にそのまま採用されたり、逆にまったく違う仕事に定着することもあります」

安平町では、任期終了後の働き方を想定した上で地域おこし協力隊の募集をかけています。これが安平町と隊員希望者とが互いにマッチングすることが多い要因のひとつです。

3年と任期が決まっている地域おこし協力隊。応募をする際には、卒業後の進路も気になるポイントです。応募時に任期終了後の就職先が確約されているわけではありませんが、選択肢があるということは安心に繋がります。なによりも、将来のビジョンが描きやすくなるため日々の仕事や行動も前向きに取り組みやすくなるはずです。

そういった意味では、今回募集する地域おこし協力隊の卒業後の進路として、観光協会や町内の観光分野での活躍ということも選択肢になるのでしょうね。

もうひとつの成功要因は、手厚い支援体制があること。隊員が所属する役場の各部署による業務のサポート、政策推進課を通じた他の隊員との情報交流もあります。それと外部委託企業による独立支援やマネジメントもあるので、役場に直接言いにくいことも相談できるのです。
地域おこし協力隊になるためには、その町へ移住する必要があります。移り住んだ町で慣れないことがあってもしっかりとサポートを受けられるのは魅力ですね。また、隊員同士の交流も活発なようです。

「年2回、町内の地域おこし協力隊が集まって交流する機会を設けています。そこで隊員同士みなさんつながって、その後より交流を深めているようですよ」と高橋さん。

任期後のビジョンが描きやすい環境で、さまざまな方々による日々のサポートもある。そして、安平町には外から来る人を受け入れる豊かな経験、歓迎する風土があります。これなら安心して飛び込んでいけるのではないでしょうか。今回取材させていただいた3人も、まさに「welcome」な空気感と、しっかりとバックアップしてくれる心強さのある方々でした。

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一般社団法人あびら観光協会
一般社団法人あびら観光協会
住所

北海道勇払郡安平町追分柏が丘49-1

電話

0145-29-7733

URL

https://www.abikan.jp/

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協力隊が活躍する安平町。新たな「観光人材」募集の狙いは

この記事は2025年5月26日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。