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モットーは「たのしい農業」。「かのFARM」3代目の挑戦!20250721

モットーは「たのしい農業」。「かのFARM」3代目の挑戦!

道内有数の米どころ、北海道旭川市。昼夜の寒暖差、大雪山系からの豊かな伏流水、肥沃な大地と好条件がそろった場所で育まれるお米のおいしさは、全国でも高い評価を得ています。

今回取材させていただいた、東旭川エリアの「かのFARM」も3代にわたって稲作を行っている農家。家族経営でしたが、農地面積が拡大したこともあり、2023年に法人化。米以外にもソバやサツマイモといったほかの農作物の栽培にも取り組んでいます。

今回は、3代目の鹿野剛さんに法人化に至った経緯、農業へかける想い、これからのことなどを伺いました。

3人兄弟の末っ子。幼い頃から農業の手伝いをするのが好きだった

「かのFARM」におじゃましたのは5月上旬。風もなく、ポカポカ陽気の春らしい良いお天気でした。通りの両側に広がる田んぼは代掻きが終わったところもちらほら。水を張った田んぼの水面が陽の光に反射して、鏡のように輝いています。その向こうには、雄大な大雪の山々が連なっている様が見渡せます。

取材陣を出迎えてくれた鹿野剛さん。田植え前の忙しい時期でしたが、快く取材に応じてくださいました。早速、3人兄弟の末っ子という鹿野さんが、跡を継ぐきっかけを尋ねると...、「最初から跡を継ごうと思っていたわけでもなく、親から継げと言われたわけでもなく...」と笑います。

ご両親は子どもたちには「自分たちの好きなことをすればいい」とずっと言っていたそうで、「結果として、農業が好きで跡を継いだという感じですね」と話します。

kanofarm_01.jpgこちらが、「株式会社かのFARM」代表取締役の鹿野剛さん。

「子どものときからよく田んぼの手伝いをしていました。僕が子どものころ、父はトラックドライバーと農業の兼業という形で仕事をしていたので、田んぼは祖父母と母の3人が中心になってやっていました。僕たち兄弟も田植えや稲刈りなど、人手が必要なときはよく手伝いました」

その手伝いが楽しかったという鹿野さんは、「兄弟の中で一番農業に関心を持っていたような気がする」と振り返ります。

「いつも祖父の後ろにくっついて、トラクターの運転の仕方とか教えてもらっていましたね」と話し、なんと、小学6年生から一人で小型の田植え機を自ら運転して作業もしていたそう。

kanofarm_02.jpg北海道の広大な畑に、力強いトラクターが大地を耕し、お米の生育を育む準備を進めています。

大学卒業後に実家へ戻り、農業に従事。両親の凄さを実感

手伝いをするのは好きだったものの、跡を継ぐことまで考えていなかった鹿野さんは、地元の高校を卒業後、東京の大学へ進学。理系が得意で、大学では生物学の微生物について学んでいたそう。

「でも、途中で体調を崩してしまって、2年生の終わりに一旦休学して、旭川に戻っていたんです。このまま退学することも考えたのですが、自分の中でやり残した感があり、しばらくして復学しました。親にも随分心配をかけたし、これはやるしかないと自分を奮い立たせて頑張った結果、成績優秀者に選ばれたんです! そこまで勉強したら、普通は研究分野を深めるために就職活動とかするんでしょうけど、僕はもうそのときに農業をやろうって決めていたんですよね」

大学卒業後は実家へ戻り、そのころドライバーを辞めて専業農家になっていた父のもと、本格的に農業を始めます。

kanofarm_03.jpg北海道の豊かな大地で、今年も米作りが始まりました。写真に写るのは、若々しい稲の苗が青々と茂る育苗箱と、その一つひとつを慈しむように見つめる鹿野さん。

「僕が本気で農業をやると決めたのを受けて、父が『人生で一番高い買い物に行くぞ』って、一緒に新しいコンバインを買いに行ったんです。そして、新しい倉庫も建ててくれて...」

そんな期待に応えようと張り切ったものの、鹿野さんは力が入りすぎて、いきなりハードな草刈りの作業にダウン。ハイペースで飛ばしすぎた結果、翌日作業ができない状態に。子どものころから手伝いをしていたとはいえ、手伝いとの違いを強く実感します。

「若いし、体力にも自信あるし、両親の分も自分が...なんて思っていたんですけど、ずっと斜めのところに立って草刈り機を動かしていたら、長い時間踏ん張るから足の裏の皮とかがむけてくるんですよね。体中も痛いし。そうなると、次の日は作業ができなくて...。あのころは、思いあがっていたんですね(笑)。淡々とだけど、毎日そうした作業を続けている両親の凄さを目の当たりにしました」

kanofarm_06.jpg水が張られたばかりの田んぼの傍ら、鹿野さんのお父様がトラクターで草刈り作業を進めています。美味しいお米を育むための、大切な仕事です。

そんな鹿野さんにお父さんは「自分のペースで、息抜きしながらやればいいよ」と声をかけます。朝から日が暮れるまでびっちり作業をやらずとも、ときどき好きなバイクに乗って出かけてみたり、車を洗ってみたり、違うことをやって息抜きしながら作業するのがコツだと教えてくれたそう。

「父はマイペースな人なんですが、あれやれ、これやれと強制や口出しは一切せずに、とりあえず自分でやってみたらいいと任せてくれるんです。その上で、さりげなくアドバイスをしてくれるようなタイプ。いい親父なんですよ」

近隣で離農する人が増える中、地域の農業を守りたいと畑作にも挑戦

お父さんの作業の様子を見ながら、少しずつ農家として仕事を覚えていった鹿野さん。今から約7年前、お父さんが65歳になったタイミングで代替わりをします。

「うちは田んぼ30ヘクタールの稲作農家としてずっとやってきましたが、自分が農家として一人前に仕事ができるようになってから、稲作以外の農作物にも挑戦してみたいなと思うこともあったんです。ただ、田んぼと畑では使う農機具が異なるし、気軽にできる感じではなかったんですよね」

そんなとき、近所の畑作農家の方が急逝。残された畑、30ヘクタールをやってみないかと声をかけられます。

「畑だけでなく、農機具も一式そろっている状態だったので、これは...と思いました。周りの先輩農家の方たちに相談すると賛否両論でしたが、自分の中ではやってみようと決めていました」

畑を借りる形で引き継ぎ、その年は麦、大豆、ソバを栽培。稲作以外の農作物を手がけるのははじめてで、近隣の農家さんに教えてもらいながら、親子3人、手探りでなんとか収穫までたどり着いたそう。

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すると翌年、近所の稲作農家の方が離農することになり、18ヘクタールある田んぼを鹿野さんのところでやらないかと声がかかります。農家の高齢化や後継者不足といった課題が、自身の周りでも顕著になりはじめたと鹿野さんは痛感します。

「自分としてはこの地域の農業を守りたいという想いもあります。若い農家がほとんどいないこともあり、これからのことを考えると、法人化にして、これまでと違ったやり方でこの地域の農業を守りながら、発展させていかなければならないのではと思ったんです」

法人化を決め、株式会社に。モットーは「たのしい農業」

2023年に「株式会社かのFARM」を立ち上げ、鹿野さんは代表取締役に就任。農地面積が広がり大変だろうからと、2人の兄も仕事が休みになるたびに手伝いに来てくれていましたが、法人化のタイミングで2番目の兄が勤めていた会社を辞めて、株式会社かのFARMに転職。現在は、鹿野さん、両親、次兄の4人で切り盛りしています。長兄も休みになると、「手伝うことあるかい?」と連絡をくれるそう。

「とはいえ、これだけ広大な面積をこの人数でやるには限界があります。稲作だけでなく、畑作もあるので。そこで、ドローンで種まきをしたり、新しい田植えのシステムを構築したり、常にどうやれば効率よく回せるか、うまくいくか、いろいろ考え、チャレンジしながら仕事をしています」

話だけを聞いていると「大変そう」に感じますが、話している鹿野さんは終始笑顔。話の中に、「楽しい」という単語も頻繁に登場します。法人化にあたり、モットーも「たのしい農業」に決めたそう。

「ラクではないですよ。大変なんだけど、農業って面白いんです。田んぼも畑も、それぞれ作業の工程ごとに達成感を得られるんです。そして、どうしても天候に左右されるので、その都度、自分たちで考えて、知恵や工夫で課題を解決していくんですけど、毎年同じということがない。それが面白いんですよね。僕自身、あれこれ考えることが好きなんです。春になるたび、今年はどんな一年になるかなって、わくわくします。農業ってすごく楽しい仕事だと思うんですよ」

大雪連峰の美しい景色を眺め、季節の移り変わりを感じながら仕事ができるのも魅力だと鹿野さん。今回も撮影時に、山が見える眺めの良いお気に入りの場所を教えてくれました。

kanofarm_07.jpg北海道の広大な大地で農業を営む鹿野さんが、「大好きな場所」と語る一枚がこちらです。まだ雪を残す雄大な大雪連峰を背景に、鹿野さんがにこやかに振り返ります。

「残念ではありますが、離農する方はこれからも増えると思います...。でも、このエリアの農業を途絶えさせたくはないんです。だから、うちが離農された方の分の農地も引き受けることになると、どう考えても4人では無理。一緒に働いてくれる仲間が必要なんです」

農業は休みがないと思われがちですが、法人化を機に休みもきちんと取れるようにシフトを組んでいるそう。お子さんが4人いる鹿野さん自身も子どもたちの学校行事などには参加したいと思っており、「一緒に働く仲間にも家族との時間や息抜きの時間は大事にしてほしい」と話します。

「これから入ってくるスタッフには、農業を一緒に楽しくやる仲間として意見も聞きたいと思っています。これをやってみたいとか、こういうやり方はどうだろうとか、一緒に新しい農業の形を作り上げていきたいと考えています。だから、言われたことをただやるのではなく、共に創意工夫しながら、この地域の農業を盛り上げてくれる仲間が来てくれたらうれしいですね」

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まだ模索中の日々。それでも楽しく仕事をしている姿を子どもたちに見せたい

法人化して2年、まだまだいろいろなことが手探りだと鹿野さん。米、ソバ以外の作物として、今はサツマイモの栽培に挑戦しています。今後、田植えのシステムを変えることで、現在使用しているハウスが何棟か空く予定なので、ほかのものも育ててみたいと考えていると話します。そんな話をしているときも、鹿野さんは何だかとても楽しそうです。

鹿野さんは、祖父、父と続けてきた農業をこの地域でやる以上、自分だけが儲かればいいとは思っていないと言います。地域全体が盛り上がるようなことをしていきたいという想いが根っこにあります。

kanofarm_13.jpg次兄の幸二さんと鹿野さん。

「いろいろなことがまだ模索中ですが、いつか、ここに『かのFARM』という会社があってよかったよねと、地域の皆さんに言ってもらえるようになりたいと考えています。そのためにもまずは会社の土台をしっかりさせないと!」

ゆくゆくは民泊など、農業以外のことにもチャレンジしてみたいと考えているそう。ここで収穫したソバを使ったソバ打ちなど、ここに来ないとできないような体験、ここに来ないと見られない美しい景色など、ここに来てもらう理由を作って発信し、結果的にエリアの活性化に繋げられたらと構想しています。

鹿野さんは、自身が農業に興味を持ったきっかけについて、「機械に乗ったり、外で体を動かしたりするのが好きというのもあったけれど、祖父や父の背中を見て育ち、同じ景色を見たいと思ったからかもしれない」と取材の終わりに話してくれました。その上で、「僕も、楽しく仕事をしている背中を子どもたちに見せたいと思います」と語ってくれました。

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株式会社かのFARM
株式会社かのFARM
住所

北海道旭川市東旭川町米原1616-1

電話

0166-76-2456

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モットーは「たのしい農業」。「かのFARM」3代目の挑戦!

この記事は2025年5月12日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。