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赤平市

赤平から世界へ。木とともに歩む会社、空知単板工業(株)20250630

赤平から世界へ。木とともに歩む会社、空知単板工業(株)

北海道のほぼ真ん中に位置する赤平(あかびら)市。かつて炭鉱のまちとして栄えたこの地に、木を活かしたものづくりの拠点として歩み続ける会社があります。1972年創業の空知単板(そらちたんぱん)工業株式会社は、住宅用の床材に使われる「単板(たんぱん)」の分野で、国内トップクラスのシェアを誇る企業です。

2024年には、松尾諭さんが三代目として社長に就任。現場経験を積み、経営を引き継いだ若き社長は、木材の伐採を行う矢田木材をグループに迎えるなど、生産体制の強化を進めています。

今回は、そんな空知単板工業で活躍する3人の社員と、社長の松尾さんにインタビュー。それぞれの視点から、空知単板工業が受け継いできたもの、そしてこれから育てていこうとしていることを伺いました。

「木のある暮らし」を支える、空知単板工業の製品たち

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今回、くらしごと取材班が訪れた空知単板工業の本社は、創業50周年を迎えた2022年に完成した建物。木のぬくもりが随所に感じられる、モダンで心地よい空間です。エントランスに入ると、ふわりと広がるのは、自社ブランド「moc(モック)」のアロマオイルの香り。社員の名刺も木製で、ほのかな香りと手ざわりから、木への愛着が伝わってきます。

空知単板工業は、住宅用フローリングの表面に使われる「単板(たんぱん)」や、それらを貼り合わせた「合板」の製造・販売を主力とする木材加工メーカー。天然木をわずか0.2〜0.3ミリほどにスライスした単板は、木の風合いをそのまま活かせるのが特長で、なかでもフロア用単板は、国内トップクラスの生産量を誇ります。また、体育館などの床で起きるささくれによるケガを防ぐために開発した床材「ササクレス」は、画期的な床材として高く評価され、スポーツ庁長官賞など数々の賞を受賞、全国の運動施設で採用されています。

従業員は、関連会社を含めて約180名。本社工場のほか、砂川市内にある2つの工場で生産を行っています。従業員のほぼ全員は正社員で、時間をかけて人を育てるという会社の姿勢がうかがえます。また、仮装盆踊り大会やかるた大会、焼肉大会など社内行事も盛んで、クリーン運動にも継続して取り組んでいます。

「私たちは木に生かされている」と語る創業者・松尾会長の言葉のもとに、同社はこれまで循環型のものづくりを大切にしてきました。近年、木材の生産から製品化までを一貫して行える体制をより強化するために、芦別市の原木生産会社・矢田木材をグループに迎え、木の価値を最大限に引き出すものづくりを進めています。

息を合わせて、木をかたちに。工場の現場はチームワークで

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それでは、空知単板工業で活躍する社員の方たちにお話を伺ってみましょう。まず訪れたのは、本社と同じ敷地にある本社工場。ここで活躍しているのが、入社10年目で30歳の積層事業部・花輪泰洋さんと、36歳の佐藤匠さん。佐藤さんは、各種機械のオペレーターを経て、現在は工程管理を中心に担当しています。
同社の主力商品であるフロア用単板は、製材の表面を滑らかにする「モルダー機」や、複数の板を接着してブロック状にする「プレス機」、それを薄くスライスする「スライサー」などの大型機械を使って加工されます。それぞれの工程で社員が連携しながら、0.2〜0.3ミリの美しい木目の単板を仕上げていくのです。
とはいえ、すべてを機械任せにできるわけではありません。木の種類や状態、さらにはクライアントの要望によって、細かな調整が求められます。また、複数の工程が同時進行する現場では、社員同士の連携が欠かせません。

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「常にコミュニケーションを取りながらチームワークでやっているので、やりがいはあります」と花輪さん。地元の赤平市の生まれ育ちで、野球が大好き。芦別高校ではショートとして活躍。地元での就職をと考えたときに、会社に野球部があると聞いて空知単板工業を選んだのだそう。同社の野球部は、2022年全国大会へ出場した強豪チームなのです。

空知単板で10年のキャリアを重ねた花輪さんは現在、高校野球部の後輩にあたる若手社員の育成にも取り組んでいます。「教える立場として着実に一人前になれるように、そして自分も成長したいと思っています」とまっすぐに語る花輪さん。

「札幌には遊びに行くこともありますが、暮らすならやっぱり赤平がいいですね。都会にはいろんな人がいますけど、こちらはやさしい人ばかりです」と、笑顔を見せてくれました。

オペレーターから管理担当へ。目配りと対話で支える

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9年前にも「くらしごと」に登場した佐藤匠さんは、現在、積層事業部で工場全体の工程管理を担っています。「いろんな機械に触れてきたので、自分も作業を手伝いながら、全体を見渡すようにしています」と語るように、製造と管理を両立する「司令塔」的な存在です。
納期の厳守や品質管理は、会社の信頼を支える重要な柱。ミスがあれば即座に原因を探り、対処をする判断力も求められます。バスケットボール部で中高ともにキャプテンを務めてきた佐藤さんが、チームを支える力となっています。


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「指示するときは命令口調ではなく、お願いする話し方を意識しています。『ありがとう』とか『ごめんね 』とか、声のかけ方ひとつで職場の空気って変わるんですよね」と、現場の明るい雰囲気づくりを大切にしているそう。

そんな佐藤さんも赤平市の出身で、芦別高校卒業後に、空知単板工業に就職しました。入社したきっかけは「落ち着いた生活ができる地元で働きたかったし、木材という形で世界に発信するような大きな仕事ができると思いました」と話します。それから15年以上、佐藤さんはこの会社で木材と、そして仲間たちとの仕事に誠実に取り組んでいます。

「当社は国内シェアだけではなく、世界にはばたく企業を目指しています。天然木の良さを伝える使命を持ちながら、空知単板工業の商品を一緒につくっていく仲間が増えていけばうれしいですね」と佐藤さんは語ってくれました。

原木を求めて道内を縦横無尽に駆ける営業職

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続いてご紹介するのは、営業職として活躍する林産部の菊池遼さん。30歳の菊池さんは、北海道内で針葉樹の原木を仕入れ、本州の合板工場やメーカーへ販売する国内の業務を担当。林産部でのキャリアは4年ほどになりますが、本社にいることはめったにないそうで、普段は道内各地を縦横無尽に走り回っています。

「原木は船で本州に輸送するんですが、効率よく満載で出すためには、一定量を確保しなければなりません。クライアントの発注量や納期にもこたえる必要があるので、遠方の仕入れ先を回って原木をかき集めることもあります。しかも、船は天候しだいで出航できなくなることもあって...。そこをなんとか調整して、無事に送り出すのが私の仕事です」

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年間で4〜5万キロもの距離を車で移動しながら、安定した原木の供給に努めている菊池さん。月間の販売目標を達成できたときは、ひときわ喜びを感じるといいます。「目標を追いながらの仕事ですが、達成感がありますし、年間の目標もクリアできるよう日々の積み重ねを大事にしています」

そんな菊池さんのこれまでについても、少し伺ってみました。

出身は、同じ空知エリアの滝川市。高校時代は、野球部でサードを守っていました。進学部長でもあった顧問の先生が「社会人になっても野球を続けることの意義」を語ってくれたことが印象に残り、野球部のある空知単板工業への入社を決意。もちろん、社内の野球部にも加入しました。

最初は積層事業部でプレス機を担当。複数の板を接着してブロック状に加工する作業に、6〜7年間携わりました。「体力は使いますが、人間関係が良くてやりがいがありました」と、菊池さんは振り返ります。その後、現在の林産部に異動し、営業職として新たな道を歩み始めます。

現在、林産部の所属メンバーは4名ですが、今後は3倍、4倍の規模に広げていく構想があるといいます。「これからまだまだ伸びる会社だと思っています。人も仕事も増えていきますし、自分の経験を、次に入ってくる人たちにしっかり伝えていきたいですね」と、意欲を語ってくれました。

会社を継ぐ決心をさせたのは、社員たちの声

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花輪さん、佐藤さん、菊池さんと、それぞれの分野で奮闘する社員たちの姿からは、空知単板工業の現場を支える力強さが伝わってきます。そんなメンバーたちとともに歩んできたのが、2024年に三代目として社長に就任した松尾諭さん。ここからは、会社の歴史と松尾社長のこれまでの歩みをご紹介します。
空知単板工業のはじまりには、創業者である松尾会長の原体験がありました。戦後、生活に困窮していた青年時代、滝川市の木材会社で伐採の仕事に就いたことで、温かい食事や風呂にありつくことができた――「木が自分を助けてくれた」と感じたことが、その後の歩みに繋がりました。木への感謝と、人への思いやりを大切にする姿勢は、社内行事や社員教育にも受け継がれています。
経営の荒波を乗り越えて事業を広げた初代。そのあとを継いだ二代目は、現会長の息子で、外交力に長けていました。住宅のフローリング化が進む時代の流れをとらえ、輸入材の導入や製品開発を進め、会社を大きく成長させます。日本一の生産量を誇るフロア用単板や、ササクレ防止床材「ササクレス」など、空知単板工業の主力製品を作る技術はこの時期に確立されたといいます。
そんな二代目のあとを継ぐことになったのが、現社長の松尾諭さんです。三代目として順調に後継者となったのかとお聞きしたところ、「正直、最初はこの仕事に就くつもりはなかったんです」とのこと。松尾さんの自宅は会社の敷地内にあり、創業者である祖父から「おまえは三代目だ」と言われて育ちましたが、継ぐつもりはなかったのだとか。
テニスに打ち込み、中学時代は北海道で優勝し、国体にも出場します。高校や大学でもテニスを続けましたが、自分の進路を考えたときに「お客さんに直接反応がもらえる、喜んでもらえる仕事がしたい」と大学を中退して専門学校へ。美容師の国家資格を取得した後は、東京の大手ヘアサロンに7年間勤務し、結婚、お子さんも生まれました。
そのまま東京でヘアスタイリストとして歩んでいくはずつもりだった松尾さんに、あるとき転機が訪れます。

奥さんと子どもを連れて赤平に帰省した時のこと。ちょうど、会社の恒例行事である「仮装盆踊り」が賑やかに行われていたそうです。松尾さんはこのように振り返ります。

「私が小さい頃から知っている社員たちから口々に『早く帰ってこいよ』『待っているからな』と温かく声を掛けてもらいました。そして、初代や先代に対する感謝の言葉もたくさん聞いたんです。その時に『この会社を受け継ぐのは自分しかできないこと』と気づき、赤平に帰る決心をしたんです」

赤平へUターン、現場修業を重ねて経営へ

後継者となることを決意した松尾社長は、木材業界の知識を得るために東京の大手建材商社で1年間修業した後、赤平市に家族でUターン。空知単板工業に入社し、工場勤務からスタートしました。父親である先代から言われたのは「人から信頼される人間であれ」ということ。会社の業務をしっかりと身につけるとともに、多くの人とコミュニケーションを図りながら信頼を得ることが大切だと教わったのです。

また、工場勤務のなかで松尾社長が感じるようになったことがありました。「これってどう使われているんだろう?どう喜ばれるものなのかな」と、美容師のときのように直接は見えなくても、商品の先にある『お客さん』を考えるようになったのです。空知単板工業の商品がどのように役立っていることを理解するなかで、松尾さんは仕事に対するモチベーションを見出していきました。
さまざまな部署を経ながら、7年をかけて主任、課長、取締役社長室長と昇格していった松尾社長。先代社長の逝去により、2024年2月には三代目として代表取締役社長に就任しました。

木も人も、じっくり育てる職場づくりを目指して

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そしていま、松尾社長はこれまでの思いと歩みを受け継ぎながらも、時代に合わせて変えていくこと」を大切にしています。使った分の木を植える植樹祭などの循環型林業に取り組み、生産から製品化までを一貫して担える体制を整備。社員一人ひとりがやりがいと働きやすさを感じられる環境づくりにも力を注いでいます。
持続可能な林業に向けて取り組んでいる事業のひとつが、道産の広葉樹を家具やクラフト製品などに加工・販売していくこと。従来、紙用パルプや燃料チップ用に安く販売されがちだった木材を適正価格で買い取り、地域資源として活かしていく。そんな発想から、アロマオイルなどを展開する自社ブランド「moc」が誕生しました。

なかでも人気のアロマオイル「TUKI」は、女優・常盤貴子さんのエッセイ本で紹介され、ちょっとした話題に。「掲載を知ったときは、本当にびっくりしましたね」と、松尾社長は笑顔で語ってくれました。
現在、空知単板工業では、業務拡大に伴い、新たな仲間を募集しています。「木も人も、じっくり関わってこそ育つもの。時間をかけて、一緒にプロフェッショナルになっていけたら」と松尾社長は語ります。
社内には、部門や年齢を超えて相談し合い、教え合う文化が根づいています。若手がベテランから技術を受け継ぎ、ベテランも若手の感性から学ぶ──そんな自然な循環が、現場に息づいているのです。

「入社した人には、長く働いてほしい。そして、自分の手で何かを生み出す喜びを味わってもらいたい」

木と人、どちらも丁寧に育てることを大切にする空知単板工業。ここでの日々が、木とともに歩む新たな一歩につながっていくかもしれません。

空知単板工業株式会社
空知単板工業株式会社
住所

北海道赤平市平岸西町6丁目12番地6

電話

0125-38-8001

URL

https://sv-wood.com/

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赤平から世界へ。木とともに歩む会社、空知単板工業(株)

この記事は2025年6月5日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。