
北海道胆振方面にある苫小牧駅から徒歩10分程度のところに位置する丸茂商店は、農林業機械や電動工具の卸売、修理、販売やメンテナンスをおこなう、1952年創業の老舗です。なかでも多く取り扱っているのは、造園業や林業に関わる機械とその関連用品。芝刈り機やチェーンソーから、オイルや防護用品に至るまで、さまざまなアイテムが揃います。今回は3年前に本州からIターンした、3代目で専務取締役の丸茂亮平さんにインタビュー。老舗に新たな風を吹き込みながら、林業の未来にも想いを馳せる亮平さんの今後の展望についても伺いました。
「どうする?」と聞かれて「じゃあ継ごうかな」


芝刈り機やチェーンソーを持った近隣のお客さんが「この部品ある?」「いま調子悪いんだよね」と、ひっきりなしに訪れる丸茂商店。「ここに来ればなんとかなる」という、地元の人からの厚い信頼が伝わってきます。
「苫小牧には、このような専門店が非常に少ないんです。機械が壊れたらすぐに対応しないと仕事にならないので、店が遠かったり、部品がなかったりすると、皆さん困りますよね」
こちらが、株式会社丸茂商店・専務取締役の丸茂亮平さん
丸茂商店は70年以上続く町の専門店で、亮平さんのおじいさんが開業した当時は、日高と芦別にも支店があったそうです。林業の衰退や、社員への暖簾分けなどにより、現在残るのは苫小牧本店だけ。
亮平さんは「地元の人たちの駆け込み寺を潰してはならない」という使命のもと、家業を継いだ...と思いきや「最初は軽い気持ちだったんです」と話します。
「僕は札幌の中高一貫校から東京の大学に進学し、そのまま東京にある大手食品メーカーに営業職として就職しました。仙台、盛岡、岡山、広島と全国を転々として、最後に東京へ戻ってきたんです」
そして就職して10年を迎えたころ、突然社長であるお父さんから電話がかかってきます。
「(これから)どうする?と聞かれて、じゃあ、継ごうかな...と。それくらいの気持ちでした。結婚もしていたので、一応妻に相談したら、好きにやればいいんじゃない?と言ってくれたので、北海道に帰ることに決めたんです。大学卒業時には、地元に帰って店を継ごうかなという気持ちもうっすらあったし、機械をいじるのも好きだったので、なんとかなるかな、と」
実際に帰ってみるといまは残業らしい残業もほとんどなく、自宅から職場までは2〜3分、そして頼れる両親も近くにいて、広々遊べる公園などもたくさんあることから、二児の父でもある亮平さんは「子育て環境としても苫小牧は最高」と話します。いろいろな面で、Iターンは正解だった様子。
そして社長である亮平さんのお父さんも、店の歴史を絶やすことなく後継者が戻ってきてさぞ喜んでいることと思いますが...「どうなんでしょうね?社長は何も言わないので、未だにわからないんですよ」と亮平さんは笑います。
実際に社長に聞いてみると「もう覚えてないね〜、そんな昔のことは」とはぐらかされてしまいました。しかし、若い感性を武器にして、この店を良くしようという亮平さんの気概は、きちんと伝わっているようです。
亮平さんの隣で微笑んでいるのが、亮平さんのお父さんである丸茂社長です。
アナログだった店に、デジタルの風を吹き込んだ
2021年末に苫小牧に戻り、翌年から丸茂商店で働き始めて4年目。新しい機械が入荷するたびに、近隣の企業に飛び込みで営業をしに行くという亮平さんですが、案外冷たい反応に苦戦することも多いと言います。「食品メーカーで営業をしていたころと比べて、門前払いをくらうことも多くて。会社の名前が知られていないと話も聞いてもらえない、ということを痛感しましたね」と肩を落とします。
やはり時代はインターネット。欲しいものがあれば、まずウェブやSNSで検索をしてから店に問い合わせるというパターンが定番ですが、亮平さんが働き始めたとき、丸茂商店にはまだデジタルコンテンツが何も整備されていませんでした。
「そこでとりあえずホームページを作り、SNSも開設してみたら、たまに『SNSを見て来ました』と言ってくださる方がいらっしゃって、ああ見てくれている人がいるんだと、ひとりで安堵しています(笑)。この業界、いまだに発注がFAXのところも多いんです。その慣習に従わざるを得ないところもありましたが、いま、ホームページはどこの企業でも持っていますからね。うちも何かやらなければ、このままだとホームセンターなどに淘汰されてしまう、という焦りもありました」
取り扱う商品についても、お客さんがより便利に使いやすいものはなにか、仕事をしやすい器具はないかと探し回る日々。そのなかで、最近亮平さんが着目して販売を開始したのが、林業防護服です。
ファッションを入り口に、林業に興味を持つ若者が増えたら
防護服とは、林業従事者が作業の際に着用する服のこと。たとえば「チャップス」という防護ズボンは、万が一チェーンソーが足に触れても繊維が絡み付いて歯の回転を止め、足の切断などの事故を食い止めてくれます。
そういった防護服の着用が義務化されたのは、ここ数年のことです。大型重機と人間が近いところで作業するようになり、視認性がより大事になってきていることが理由のひとつといわれています。
「視認性の悪い防護服だと、着ている人の存在に気づかず、うっかり人のほうに木を倒してしまい重大な事故につながる可能性が高まるんです。また万が一、なにかあって人が倒れてしまったときに、視認性が悪いと発見が遅れて命を落とす危険性もあります」
「視認性の高い色」とは、自然の保護色にならない色を指します。代表的なのは、蛍光のオレンジやピンク、黄色などのビビットな色。しかしこれまでの防護服は、似たようなデザインのものが多かったのです。
こちらが新しく取扱いを始めた防護服です。
「それはそれでかっこいいんだけど、もっと他にないかな?と思っていたところに『この防護服、取り扱えない?』とお客さんから相談を受けたんです。どこのメーカーのものかもわからなくて『カラフル』『作業着』など、複数の検索ワードを使って調べたら、やっとヒットしたのが、イギリス・アーバーテック社の防護服でした」
カラーバリエーションも豊富で、これまでの防護服ではめずらしかったパッチワーク風のデザインを採用するなど、ファッション性にも優れています。林業の後継者が不足するいま、おしゃれ感覚で防護服を選んでもらうことが可能になれば、「林業ってかっこいい!」と思ってくれる若者が増えるかもしれない。亮平さんは、そんなことも考えています。
「サイズもデザインも展開が多いので、店頭に在庫を置くよりカタログから広く選んでもらって予約販売にして、注文がある程度まとまった段階で発注する形を取ろうと思っています。4月1日にリリースを出して、すでに何件か注文をいただいていますので、この調子だと5月中には1回目の発注ができそうです」
SNSでの告知やプレスリリースの発行など、積極的に広く周知したことが功を奏しました。北海道だけでなく、西日本からも注文が来ているそうです。オンラインショップやメールといった利便性の高いツールを採用し、地域の縛りなくどこからでも注文を受け付けられるようになったことも追い風になったのでしょう。
困りごとの解決のため、やれることはなんでもやる
林業従事者同士で情報交換をおこなうネットワーク『森の魅力発信し隊』のメンバーでもある亮平さんは、グループ内でも情報発信をおこないながら、林業機械やその他関連用品にまつわる意見をたびたび募っています。
「林業に携わっている人たちがまだ知らないような用具を見つけてきて、率直なご意見を伺っているんです。試しに使ってもらい、実際どうだったか聞くと、いいときもあれば悪いときもある。それを接客にフィードバックできるので、とても助かっています」
メンバーからは、逆に「こんなの欲しいんだけど、扱ってない?」と相談されることもしばしば。
「そういった相談や意見は、全国どこからでも大歓迎です。私たちができることには限りがありますが、可能な範囲で力になりたい。社長も言っているんです。『まずは、やれることをやってみよう』と。最初からできないと言うのではなく、探してみて、ちょっと違うものでも近いものがあれば、提案してみる。そうやってお客さんとの関係を作りながら、弊社は祖父の代から続いてきたんですよね」
実は、取材中にも、「ここちょっと見てもらえる?」とチェーンソーを持った方が複数来店され、お客さまとの距離の近さ、厚い信頼関係を感じたのでした。
たしかに、店に訪ねてくるお客さんと社長のやり取りを聞いていると、とてもスムーズ。「あのチェーンちょうだい」と言われたら、すぐに出てくる気持ちよさがあります。インターネットの導入により、今後はより広い範囲で、たくさんのお客さんと信頼関係を築いていくことができるでしょう。
亮平さんは「まだまだ社長には追いつけないけれど」と付け加えながらも、着実に店を守りながら林業の活性化を目指し、自分にできることを続けていきます。

- 株式会社丸茂商店
- 住所
北海道苫小牧市本町2丁目6-12
- 電話
0144-32-2090
- URL