11/5。この日、札幌駅近くの、とある会場に、水産業の未来を真剣に考え行動する人たちが一同に会し、『魚のいる未来を選べ!日本の水産の未来を語り合おう!』というトークイベントが行われました。
2048と題したプロジェクトのキックオフイベントであり、発起人は、本間雅広さん。札幌市中央卸売市場で水産仲卸を営む、一鱗共同水産(株)の経営企画室長として、幅広く活躍中です。
スピーカーの皆さん
●長谷川琢也さん....SDGsメディア「Yahoo! JAPAN SDGs」編集長、一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン Co-Founder、他。震災後、石巻に移住。漁業を「カッコよくて、稼げて、革新的」な新3K産業に変えるため、地域や職種を超えた漁業集団フィッシャーマン・ジャパンの立ち上げに従事。現在、そのノウハウの全国展開にも取組中。●小笠原宏一さん......通称たこーいち。苫前町のタコ漁師であり、FIPと呼ばれる漁業改善プロジェクトをけん引。タコの資源管理に加えて、消費者が直接資源に対してアクションを起こせる『ReTAKOーリタコー』の販売を開始。さらには、漁師たこーいちの名前で、ユーチューバーとしてもファンを獲得中。 ●柏谷晃一さん....オホーツク海に面した北見市常呂町で生まれ育った漁師と行政書士が立ち上げたマスコスモ合同会社代表。 「オイシイ。でツナガリタイ」をテーマに、オホーツクの海産物を世界中に届けるべく、本業を営みながら六次産業化を推進。 「2048年問題」に対する取り組みとして、「アートロックフリーザー」という特殊冷凍技術を用い、貴重な水産資源が無駄にならないようフードロスを削減する活動を積極的に展開。 今後は魚食推進や問題啓発に向けた食育活動を進めていく。
●小西一人さん....東証一部日本デジタル研究所の製品デザイン部門に7年間勤務後、 29歳でUターン。函館にある父の会社のマルショウ小西鮮魚店に入社。 2018年代表取締役就任。 売上規模7倍に拡大。 食はエンターテイメント。四方よし。という社是のもと、 品質、情報、などトータルプロデュース。 2020年地域プロデュース会社函館ミライカモン取締役就任。 未来を作る人を増やすという社是のもと活動中。
●布施太一さん....大手総合商社にて食品流通関係の業務に従事。震災を機に、地元である石巻に戻ることを決意。 大正元年から続く家業である株式会社布施商店に転職し代表取締役に就任。 Youtube(『仲買人、タイチ』)での活動も開始し、美味しいお魚に関する情報発信に努めている。
●大坪友樹さん....上場企業の専門商社を経て、2005年に居酒屋「港町酒場もんきち」を中心に北海道で12店舗、長野県松本市に北海道海鮮業態開発プロデュースを行った「シハチ水産」のほか、北海道の鮮魚のEC流通・卸を行う「SHIHACHI」などを展開する「ラフダイニング」を創業。北海道らしい新鮮な鮮魚を手頃な価格で提供する店を多数展開している。
の面々。本業の他にも、情報発信や、担い手育成や、SDGs活動などなど、新しい挑戦を続ける、まさにこれからの水産業を背負う方々です。
そもそも2048とは何なのか? プロジェクトの目的は? 北海道の漁業、このままいったらどうなっちゃうの? 自分たちに何ができるの?
それらについて、各スピーカーがそれぞれの立場から、率直に、真剣に、思いを語るとともに、参加者からも積極的な意見や質問が途切れず、約2時間の枠のほぼ時間いっぱい、アツいトークが繰り広げられました。
今回はイベントレポというカタチで、当日の模様をお伝えしたいと思います!
発起人であり、司会の本間さん
2048プロジェクトって何だろう
もともとは、2006年にアメリカの科学冊子に掲載された、『2048年には、海から食用魚がいなくなる』という論文から、名前をとったものです。ただし、現在はその説は撤回。なぜかと言うと、世界的に資源管理をした国は、水揚げ量がきちんと増えているからです。
漁業先進国の水揚げは増えているが、日本は減っている。なぜなのか?これが重要であり、日本の水産業界の抱える課題として
・水揚げの減少・漁価の上昇・消費の低迷・漁業者の激減
などがあります。世界的には回復しても、日本の漁業はこのまま行けば、最初の論文通り2048年前後に破綻する可能性もある、という有識者もいます。いずれにしても、日本の漁業が危機に面していることにはかわりありませんので、名称として2048という数字は残すことに。
2048プロジェクトの目的
1 『知らせる』将来的に海から食用魚がいなくなる可能性があることを世に広める。2 『繋がる』海に関するさまざまな問題と向き合う全国の水産業に関わる方々や、問題に関心を持ってくださる消費者の皆さんとのコミュにティを組成し、育む。
3 『動く』その方々と一緒に改善、解決に向かうためのアクションを楽しみながら行っていく。
本間....「世界は増えているのに、30年前と比べて日本の水揚げ量は半減しているという現状や、漁師さんが激減しているという課題に対して、現場で働く漁師さんや流通関係者それぞれがどう感じているのか、直接お話して頂こうと思います!」
ファシリテーターをつとめた、さとみーること菊島聡美さん。しあわせ設計舎代表。 本質的で持続的な健康について企業講演からスタートし、現在は 第一次生産者へのコンサルティング・サポート事業や商品開発(食・美容)、 食に携わるSDGs推進アドバイスなどを行う
さとみーる.....「水産業に携わる人以外は、魚が、海から食卓に届くまで、どんな人が関わっているのか、それぞれの役割を理解していないかもしれません。ですので、今日は、役割(立場)別にお話して頂こうと思います。
水産業の課題と一口に言っても、それぞれの視線からだと、その課題は全く別のものになるかもしれませんね」
プログラム1 漁師の目線から 語る
長谷川....「まずは、漁師さんの目線から、魚がいなくなると言われることに対してどう捉えているのか、どんな取り組みをしているのか、聞いていきましょう!
残念ながら毎年亡くなる人がいるくらい大変な職業でありながら、皆さんはなぜ本業以外でも活動するのか、魚食活動だったり、ユーチューバーとして漁業の魅力を発信したり、大変じゃないですか?」
柏谷....「何ででしょうね(笑)。魚を獲るだけでは面白くなくなったからかな。食べる人が、美味しいとか美味しくないとか言ってる反応を直接見てみたい、知りたいと思った。ただ獲って売るだけでなく、商業的にしかけて、都会と繋がって、いろいろやってみたいと思った」
長谷川....「それは漁師何年目くらいから?最初はそんな余裕ないよね?」
小笠原....「こういう活動できるようになったのは漁師10年目くらいからかな。最初はとにかく慣れるのに必死だったから」
漁師パートで登壇した、(左から)柏谷さん、小笠原さん、長谷川さん
長谷川....「YouTubeで一番バズッたのは、タコを獲る瞬間の動画だよね!60万回再生!つまりみんな、どうやって獲ってるのか、興味あるんだよね!
でも、そういう活動って、周りがみんなやってたわけじゃないよね?むしろ、最初浮いてなかった?」
柏谷....「それはありますね。特に田舎は。でも第一歩を踏み出さないと、次の世代の子どもたちが変わってこないので。自分の子どもも、比較的さかなを食べなくなってるし。食育がコンビニみたいになってる部分ってありますよね?親には自分が小さいときは魚を食べろって言われたけど、じゃ、実際自分が親になって毎日魚を料理するかって言うと正直めんどくさい、やらない。これが子どもたちが親になったらますます魚を出さなくなると思う。
だから、今のうちに、作りやすさ、食べやすさを提供していかないと」
長谷川....「昔は魚食普及なんてする必要なかった。戦争に負けて、食べるものないから、海に出て魚をたくさん獲った。じゃ、なんで今、こんなに魚を食べなくなったんだろう?漁師目線でどうしてだと思う?コンビニ的な便利(な他の食べ物や、安いものが)が溢れてるから??」
柏谷....「魚を食べなくなった訳じゃ無いと思う。外食って言ったら一番はお寿司だし。でも家で食べる、つくるとなると別で、もっと便利な食材に行くんだと思う」
長谷川....「タコは比較的、食べやすい調理しやすい食材だけど。それでも食べない、何で?そしてどうしたら食べてくれると思ってユーチューバーをやってるの?」
小笠原....「消費者が漁師を、現場を知らないことが大きいと思う。昔はもっと食生活が直接的だった。住んでいる場所の前浜であがった魚を食べる。そこが山なら山でとれたものを食べる。だから漁師とか身近だった。今は、便利になったぶん、どうやってそれが獲れるのかわからない。
だから興味を持つきっかけが足りないし、薄いのかなと思う。でも魚が美味しければ食べるし、皆さんお寿司は食べますよね?でも自ら、買って食べないのは、漁師のことや魚のことや現場のことを知らないからだと思う。
だから、興味を持ったり知ってもらうために、ユーチューバーとして活動してるんです。ほんとは人前に出るのいやだけど」
長谷川....「ユーチューバーなのに?(笑)。では、手応えは?前に出たことによっての自分の思ってる方向に行ってる感はある?」
小笠原....「4~5年前は、ぽっと出のただの漁師だった。その頃は今日ここで話していることなんて考えられなかった。水産業界や漁師に、自分みたいに出る人がまだ少ないのもあるかもしれないけど、やればやるほど前に出れる感はある。YouTubeも少しづつ見てもらえてる実感もあるし、まちを歩いてると、あ、タコさんだ!とか、タコの人だ!とか声かけられるし」
長谷川....「たこさんなんだ(笑)。 実際彼のYouTubeを5年くらい見てるけど、ある小学生が、宏一君のことすごい格好良いって言って、ファンになって。漁師になりたいって、コミュニケーションがはじまったりっていうのを見て、すごいなーと思って。
そういうふうに、子どもの気持ちさえ、かきたてられるくらい発信できてるっていうのは、手応えを感じるよね!」
小笠原....「はい!」
柏谷....「(自分の)会社の社員は若い子が多くて、その子たちは、ものごとのストーリー性を客観的に見れている感じがするので、そういうところをリアルに伝えることができる。だから反響も大きい。最近そういうのをポツポツと感じてきてます」
長谷川....「いいですねー。自分は全国いろんなところに行くけど、こういう前に出る人って、たまーにいるんです。けど、漁村や田舎にポツンと1人でいて、出る杭打たれまくってつぶれちゃう。または1人だけがんばってるけど、後に続く人やフォロワーが近くにいない。柏谷さんとかは、若い社員さんなど、バトン渡せそうな人たち、仲間を近くにつくってるよね」
柏谷....「自分はもう、次の世代にバトンを渡そうと思ってる。自分がやるより早いし、任せた方がうまくいく。自分はお金だけ持って来る人でいいと思ってる。そういう子たちが活躍できる環境をつくるのが自分たちの役割だし、若い人ががんばってるのを見るのがすごく楽しい」
長谷川....「ほんとこれですよ、大事なのは!元気ない業界に必要なのは、『良き世代交代』です!それが、自然とできてる人たちが今日集まってて、今日この後(のパートで)も出てくるので、そんな目線でも今日話聞いてくれたら面白いかもね」
「そもそも、お二人もおじいさんとかお父さんから、バトンを引き継いだ、良き世代交代な感じだよね!」
柏谷....「ホタテ漁師は120年の歴史がある。先代の方たちがつくってきた、持続可能な4年サイクルのホタテ漁が120年続いてます。あ、言ってなかったですが、自分は、ホタテと毛ガニの漁師です!タコより、毛ガニの方がいいですよね!皆さん(笑)」
長谷川....「あ、争いがはじまってる!(笑)。
ところで、宏一君のタコはものすごくおいしいんだけど。正直、魚や貝ほど、タコは美味しい、美味しくないの違いがわかんないと思ってた。でも宏一君のタコはマジでうまい!なんで?
じゃ、このへんで2人から生産物の自慢してみましょうか!」
小笠原....「自分はリタコっていうのをつくってます。自分はタコが大好きなんですよ。よく漁師飯とかいうけど、このリタコのレシピは、実際自分がゆでて食べるときのレシピです。食感は生に近いけど、歯切れも良くて、美味しいんです!」
長谷川....「そのコツは何なんですか? ゆで方? しめ方?
あ、皆さん、しめ方って知ってます?要するに殺し方なんですけど。これによって全然味がかわるんですよね!こういうの大事なんですよ、それを知ると面白いし、それをやってる人のを買って食べたくなりますよね。しめ方ちょっと教えてもらえる?」
小笠原....「タコはみけんに針というかピンをさすんですけど、そうすると一瞬で全身が白くなります。これを神経締めって言います。それを、鮮度が落ちないうちに、お湯の温度や、塩加減などに気をつけてゆであげます。
ちなみに、皆さんが食べてるタコを悪く言うわけじゃないですが、一般的なタコは、神経締めはしていないのがほとんどで、自然に亡くなるものです。だから、鮮度をもたせるために長時間ゆでたり、添加物を入れることもあります。
そして、美味しさもそうなんですが、自分はこの商品、ストーリーを大事にしています。6次化って言って、加工から販売まで全部自分でやるんです。まあ、その分大変なんですけど。その利益を利用して、獲ったタコをリリースしています。皆さんが買ってくれるとその利益で、よりリリースできる、みたいな感じです」
長谷川....「まさに、資源管理ですね。SDGsで言うと、14番。14番は魚が減ってるから何とかしようぜ、とプラスチック海に流れてるから何とかしようぜ、っていう大きくわけて2つなんです。そのうちの魚減ってるのを何とかしようというところですね。そのタコの部分をやってるってことですね」
小笠原....「はい。先日も1万円分のタコをリリースしてきました」
長谷川....「1万円を海に投げたんですね!(笑)」
小笠原....「はい。いやでも、それは買ってくれる皆さんのおかげで利益があがって初めて可能なんで、消費者の皆さんと一緒にできるSDGsってことですね!」
長谷川....「じゃ、柏谷さんは毛ガニ自慢?それともホタテを自慢する?自分はホタテ120年にぐっときたんだけど」
柏谷....「ホタテ漁は120年前、明治から始まってるんですよ。もともとカキが居たところにカキがいなくなったら、ホタテがいたと。でも、自然界のホタテをどんどん獲ったらなくなっちゃうから、先代が、じゃ撒けばいいじゃん、って撒いたら増えて来た」
長谷川....「これまた面白い話で、養殖と天然の差の曖昧さ、みたいなのあるよね。特に日本の漁業界には天然至上主義みたいなのがある。じゃ、皆さんは天然の牛って喰ったことあります?ないですよね!だから、今さら天然とか養殖とかわけなくても良いかなーと思う。特にホタテは、撒いて1年たてば天然物になるよね」
柏谷....「そうですね。撒いて1年のものは天然ホタテって言ってます。カゴに吊してるのは養殖って言ってる。むしろホタテは養殖の方が、砂を噛んで無くて、身も肉厚で、美味しいくらいです」
長谷川....「120年の物語の他に、どんなこだわりや特徴があるんですか?」
柏谷....「(オホーツク地方の)ホタテは、顕微鏡レベルの大きさの赤ちゃんを採取して、海域を4つにわけて年数をずらして育て、それぞれ4年後に獲るというサイクルができあがっている、とても安定的な漁業なんです。
でもそれは、漁師だけでは無理で、加工業者もあってはじめて、海外に出して行けるっていう、地域としての大事さ、がありますね。基本的には、自分達のホタテは、干し貝柱になって海外に輸出しているので、道内にはあまり出回らないのですが」
長谷川....「そう、日本の海産物の輸出量はホタテがダントツの1位なんですよね。資源としては減ってるの、増えてるの?」
柏谷....「資源としてはむしろ、安定してて、この先、何が一番問題かというと、人です。結局、獲る人や加工する人がいなくなれば、生産性が落ちるので、また人がいなくなるという悪循環に。今の時代は人に価値があるので。人を増やさないと」
長谷川....「自分のフィッシャーマンジャパンも、漁師をふやす活動をしてるけど、漁師が減るって事は、魚屋さんも加工屋さんも減るってことなんですよね。だから、業界全体を盛り上げて、面白くしたり、稼げるようにしていこうぜってことを全国でやってるんですけど。
だから、まさにこの二人も、小学生のファンができたり、後輩が育ってきたりと、次の世代や、自分の子どもに、漁師かっこいいだろ!漁師も悪くないぜって、いうのを背中で伝えてるんですね!すごい
では、このあとは、流通の人たち、わかりやすく言えば魚屋さん的な人達に登場してもらいます。
前半では、漁師側から見た、こんな美味しいものつくってるんだよ、こんな課題があるんだよ、ってことを聞いて頂きました。
その上での話なんですが、漁師がそのバトン(さかな)を渡す先が、市場や魚屋さんじゃないですか、だから、自分も最初、消費者と漁師が直接つながっちゃえばいいじゃん!と誤解してたんですけど、そうじゃなくて、加工やさんや魚屋さんなど流通の人たちってすごく大事な役割なんですよ。そして、その人たちも課題を持ってるんですよ。今日は水産業全体の話として、それも是非知って欲しいです!
それでは、流通のパートにマイクを渡しましょう!」
さとみーる....「一言も口を挟めないくらいのアツいトークでしたね!(笑)」
チャットボードにも、漁師と消費者がお互いに顔が見えないことや、おうちで調理することへのハードルの高さ、が課題かもという意見が多いですね。でも、こうやって直接漁師さんに聞くと、自ら加工までやってたり、資源を守ろうとしてたり、こんなにやってるんだなって知ると、何か買いやすくなるし、食べたいって思うし、知るってやっぱり大事なんですね。
では、次に、流通に関わる皆さんに登場して頂きましょう!」
<中編に続く>