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まちおこしレポート
厚真町

誰も取り残さない。人と人が繋がり元気を保つ厚真町の社会福祉の姿20210214

この記事は2021年2月14日に公開した情報です。

誰も取り残さない。人と人が繋がり元気を保つ厚真町の社会福祉の姿

(※撮影時のみマスクを外して頂いています)

太平洋沿岸の東胆振地区にあり、ハスカップ、ホッキ、シシャモなどが有名な厚真町。林業も盛んで、サーフィンのメッカでもあります。

以前、くらしごとでは、厚真町の取り組みについて取材しています。

■地域に新たな芽を育む、腐葉土のような存在に。
■「ここに来て、これがやりたい」を受け止める風土が、町の底力に
■自分は何者か?が見えてくる、リアルを感じるローカルビジネス。
■地域と都市。これからのクリエイターのあり方を見つける活動。

地域おこし協力隊として、3年間サポートを受けながら起業を目指す「厚真町ローカルベンチャースクール」など、独自の取り組みを行っている厚真町。
介護などの社会福祉分野でも、特徴的な取り組みを行っていると聞きつけた取材陣は、厚真町役場住民課福祉グループの中村信宏さんのもとへうかがい、お話を聞いてきました。

中村さんが社会福祉の道へ進むきっかけ

まずはじめに、中村さんが厚真町で社会福祉事業に関わることになったいきさつを聞いてみます。

実は、中村さんのご出身は岡山県倉敷市。元々、北海道に対して憧れを持っていたという中村さんは、北海道厚真町に平成26年に移住。社会福祉士の資格を活かし厚真町役場の職員として入職しました。
大学時代は川崎医療福祉大学で社会福祉・介護を学び、大学卒業後は岡山県船穂町の社会福祉協議会で約6年勤務し、その後横浜市の社会福祉協議会で12年勤務を続け、厚真町への入職に至る現在まで社会福祉のお仕事一筋です。

中村さんは、社会福祉のお仕事を志したきっかけを、このように話します。
「高校2年生のとき、私のことをずっとかわいがってくれた祖父が脳梗塞になって、別人のように動けなくなってしまいました。筋肉隆々で、肉体労働もできるくらいたくましい祖父が動けなくなってしまって。祖母を中心とした家族も、どうしたらいいのかと困惑していたときに、看護師やリハビリの先生、相談員(市役所の方)が来てくれて、リハビリの計画を作ってくれました」
それは中村さんにとって大変ショックな出来事だったことは想像に難くありません。そして、こう話を続けます。

atsumafukushi05.JPG中村さんは社会福祉士やケアマネージャー等の国家資格を持ち、介護の現場経験豊富なスペシャリスト

「リハビリを見守っていた私たちは、祖父の指が1本少し動いただけで大喜びでした。この指を少し動かすということに、これだけの人が関わっているんだな、と印象に残り、『祖父が杖をつけば歩けるくらいまで回復できたのは、医療を担当する人と介護サービスの相談に乗ってくれる人がいたから。繋いでくれる人がいないとどこへ相談へ行って良いのかわからないものなんだな・・・自分もそうやって困っている人を助けられたらいいな』と思ったんです」

そう語る中村さんの言葉は、人の人生を想う優しさに溢れています。その人に備わった機能をフルに活かして、生きていく手助けをすることが人の人生を豊かにすると感じたのだと語ります。

厚真町の介護サービスへの使命

移住先として地域を選ぶ際に、将来的な備えとして考えたいのが、その地域の社会福祉や介護サービス。厚真町には、厚真町社会福祉協議会、NPO法人ゆうあいネットあつま、北海道厚真福祉会という社会福祉に関わる団体が3つあります。それぞれ、各種介護サービスや施設を網羅しているので安心です。もちろん都会に比べれば選択肢は限られますが、厚真町の規模だからこそできることを模索されている姿が印象的です。
「きちんと選ぶことができる福祉施設や介護サービスや見守ってくれる住まいを整備することで、移住してきた方や町民を裏切らない制度をしっかり確保していくというのが、住民課福祉グループの使命です」と、まっすぐな優しいまなざしで中村さんが力を込めます。

厚真町の高齢者の方の特徴としてあげられるのが、年齢を重ねても元気な方が多いことだといいます。
「農家を営んでいる方が多いので、高齢になっても元気な方が多いと思います。厚真町全体の高齢者の方(65才以上の方)の人数は約1,650人。要支援・要介護が約300人と、認定率は約18%と比較的低めです。農家の方は、80歳でも現役!というような方も多いので、そのような背景もあるかもしれないですね」と話します。

高齢者の方が介護を受けずに元気に暮らし続けられることは何より重要ですよね。ずっと健康に暮らしてもらうために、町として力を入れていることがあるのだといいます。

atsumafukushi03.JPG介護予防のために利用できる機能訓練室や各種教室を備えた総合ケアセンター「ゆくり」

「要介護となってしまった際に、しっかり支援できるような介護サービスの充実・維持はもちろんなのですが、それにプラスして元気な高齢者を増やす取り組みを町として頑張っています。『介護の予防と見守り』が、厚真町が一番力を入れていると自信を持っていえる部分ですね」と中村さん。

「介護の予防と見守り」。これが厚真町の介護を語る上でのキーワードとなりそうです。
町民が安心して介護サービスを受けられるのはもちろんのこと、それ以前に「介護を受けなくていい状態づくり」を大切にしているのです。人口約4,500人の厚真町だからこそ、細やかな予防や見守りも1人1人にしっかり手が届くのでしょう。

atsumafukushi14.JPG「ゆくり」の中に厚真町住民課があります

それでは、具体的にどのような取り組みを行っているのか、まずは「予防」の観点からお話をきいてみます。

「厚真町が取り組んでいる予防事業は2種類で、『いきいきサポート事業』『元気あっぷ事業』というものです。『いきいきサポート事業』は、介護が必要のない状態を継続できるように、体操などの運動や交流を通じてサポートしていく事業です。出かけられる場所がありそこで体を動かしたりすることが、介護予防の助けになると考えています。この予防事業は好評で、来年度は定員を今年度の2倍の18人に1日定員を増やして、更に多くの高齢者の方が利用できるように整備します。『元気あっぷ事業』では、理学療法士・リハビリの先生の指導のもと、短期的にリハビリを頑張らないと体の調子が落ちてしまうかもしれない人をピックアップして短期集中でのリハビリを行っています」

震災の発生で、揺らいだ介護の基盤

次に「見守り」についてお話を伺う前に、2018年に発生した北海道胆振東部地震が厚真町の社会福祉に与えた影響について聞いてみます。厚真町に大きな爪痕を残したこの震災は、地域住民の生活に大きな影響を与え、その影響は介護サービスにも及びました。厚真町の丘の上にあった障害者支援施設「厚真リハビリセンター」、特別養護老人ホーム「豊厚園」をはじめ、デイサービスセンター、居宅介護事業所を擁する北海道厚真福祉会の施設が震災の影響で全壊してしまったのです。もちろん、電気や水道などのライフラインも停止してしまいました。

「震災が起きたのは夜中でしたが、介護施設に職員がすぐに駆けつけ、明かりもないまま利用者さまの救助にあたりました。職員の全力の救助によって、幸い施設内で犠牲者が出ることはありませんでした」と、中村さんが当時の様子を振り返ります。
大変な状況の中、ご自身を顧みずに懸命に救助にあたった職員さんたちには本当に頭の下がる思いです。震災という辛い経験を基に、避難計画なども整備されているのだといいます。

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その後は、「福祉仮設住宅」が建てられたのち、2020年の年末には、新たに建設された北海道厚真福祉会施設への移動が完了しました。
また、福祉施設以外の仮設住宅に住む人たちとっても、仮設住宅の撤去による環境の変化が。新しい住宅に移り住んだときに、人との繋がりが薄くなることに不安を覚えた人もいたのです。現在は、そのような方々が見守りを受けながら安心して生活ができる環境を整えるべく、NPO法人ゆうあいねっとあつまが「サービス付高齢者向け住宅すまいる」を2021年春のオープンに向けて建設中です。

中村さんは震災について、このように語ります。「震災後、町の人口が平成29年8月の4,653人から令和2年10月には4,430人へと、200人強が減ってしまいました。被災地への移住について、不安に思う方の心情は想像できます。私たちにできることは、このまちがどういう状況になっても、まずは『介護や相談がしっかり受けられて、それぞれの人が必要とするベストな支援に繋げていける』という環境を守り続けることだと思っています」

また、震災をうけて厚真町は「ライフサポートアドバイザー(LSA)」という方を配置しました。震災後、仮設住宅を出て環境が変わった方について、相談にのったり様子を見たりと、生活をサポートするアドバイザーです。仮設住宅から通常の住宅へ移って人との繋がりが薄くなってしまったり、落ち込んで行く人たちを見落とさない支援を行っています。介護が必要な状態にある人がいないかどうかも、ライフサポートアドバイザーが訪問をするときに、何かあれば他の機関と連携する体制が整っています。

「3つの目」で支援が必要な人を見落とさない!

それでは、ここからもう一つの柱である「見守り」について、詳しくお話をうかがっていきます。
ライフサポートアドバイザーの他にも、介護が必要な人を見落とさないように、網の目のようなネットワーク「支え合いセンター」を厚真町社会福祉協議会は構築しているといいます。厚真町地域包括支援センター、生活支援体制整備事業、ライフサポートアドバイザーの3つが合わせたものが「支え合いセンター」です。

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「町の高齢者やご家族に介護が必要となったときに相談の窓口となるのが『厚真町地域包括支援センター』。相談員は看護師、ケアマネジャー、社会福祉士など、介護のスペシャリストが勢ぞろいしています。相談員を法定人数より少し多めに配置し、手厚く町民をサポートできるようにしていることも特徴です。また、地域住民のことを一番身近にみられるのは自治会や民生委員の方という考えのもと、ボランティア・社会福祉協議会職員・NPOなどが一体となって、自治会単位で集まれる場所を作ったり支援をする『生活支援体制整備事業』も整えています」

生活支援体制整備事業という名前は、なかなか聞き慣れない方も多いかもしれませんが、2015年に厚生労働省が介護予防のために策定した事業です。目的としては、住民が主体となり、生活支援や介護予防サービスの充実を目指して身近な地域での支え合いを推進し、地域づくりをすすめていくというものです。

atsumafukushi15.JPG色々な方が協力し合い厚真町のネットワークが出来上がっています

「厚真町にいたら、知らないうちに要介護状態が進行していた、ということは起こらないように気を配りながら事業を進めています。これらのネットワークが連携しあって、全ての高齢者を誰かが何らかの形で見守ることができる状態にしています」都市部より介護サービスの選択肢は少なくても、その分介護が必要なときに手を差し伸べてくれるネットワークが充実しているのが、厚真町の社会福祉のあり方なのです。

その他の取り組みとして、「ボランティアポイント制度」も新たに導入し、積極的なボランティア参加をうながしています。1時間200ポイントと、ボランティアに参加するほどポイントが貯まり、町内の飲食店などで使える仕組みです。65歳以上の高齢の方も大歓迎で、ボランティアでの社会貢献を通じて元気を維持し、生き生きと暮らしてほしいといいます。

コロナ禍でもできることを。北海道の自治体として初めての取り組み

「見守り」でもう一つ注目したいのが、厚真町が令和2年に新たに立ち上げた「高齢者のWEB見守り事業」。民間企業では、オンラインを使った見守り事業を既に取り入れている団体・施設も多いそうですが、自治体単位でWEBを使った見守りのサービスを開始したのは北海道で厚真町が初めてなのだそう。どうしてこのような事業を自治体という規模で始められたのでしょうか?

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「とても残念な話なのですが、コロナ禍の緊急事態宣言中に、いきいきサポート事業に来れなくなってしまって、この期間中に調子が悪くなり要介護になってしまった人もいたんです。これからもそういう人が増えてしまうかもしれないという危機感をいだきました。このような事態にならなければ元気でいられるはずだった人が、外出自粛などをきっかけに要介護状態へ進んでしまうのは、とてもつらくもったいない話だと思っています。少しでもそのような人を減らすために、タブレットを使って家で体操ができる仕組みなどを作ろうと思っています」

高齢者の方が一方的に配信を受け取る形ではなく、講師を含めて10人くらいで集まって、お互いに端末を通じて見ることができる仕組みなのだとか。先生から「もうちょっと肩をあげてくださーい」みたいな指導も受けられるといいます。お互いが顔見知りであり安心できるので、家にいながら気楽な雰囲気で運動ができ、介護予防に繋がります。

atsumafukushi06.JPGWEB事業を担当している、住民課福祉グループの高橋卓嗣さん

「タブレットの操作は高齢者には難しく感じられることも多いので、直接対面できるタイミングで端末を渡して、ちょっと操作してみて、と慣れてもらうようにしています。操作については1から、ここタップしてくださいね、と丁寧に教え、いざ緊急事態宣言が出たら自分で操作できるようになってほしいと思っています。高齢者の具合の悪さにも気づくことができるなどオンライン上での見守りになります。体操ができる人はまだ元気な方が多いので、比較的その心配は少ないのではないかと予想しているんですけどね」

高齢者の中には、要介護要支援認定を受けていない方でも、見守りは必要だという人が結構いらっしゃるのだとか。希望者をつのって、タブレットを無償で貸しだして、こういう見守りができますよ、と案内できるように準備をしているそうです。

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厚真町では、その他にも以前から町で1人暮らしの方に向けた「緊急通報サービス」を行っているといいます。高齢者の携帯にGPSがついており、具合が悪くなったときに通報すると、普段担当している看護師さんが「大丈夫ですか?」と確認し、救急車を呼ぶなどの対応をしてくれるという仕組みです。

これらの事業について中村さんはこのように話してくれました。

「要介護認定が300人規模の厚真町だからこそ、このような事業が行いやすかったのではないかと思います。都市部で多くの方にタブレットを配る、ということは現実的にむずかしいでしょうから。自宅での見守りが必要な方はだいぶ絞られますので、希望者にはもれなく配れる状況にできていると思います」
必要なサービスを整備しても、利用してもらえないことが一番つらいことだと中村さんは話します。都市部であれば、サービスに対して身内の許可を得て、使ってもらうための門戸を開くこと自体難しい場合も多いですが、厚真町ではそのようなケースが比較的少ないそうです。

自然に囲まれ、手厚いサポートを受けながら介護の仕事ができるまち

最後に厚真町での暮らしと、介護のお仕事について聞いてみました。
スキーやカヌーなどのアウトドアが好きだという中村さんにとって、厚真町での日々は大満足なのだといいます。「元々、都会にいたときは満員電車で通勤していましたから、歩いて雪を見ながら通勤できるなんて、最高に幸せな環境だと思っています」という何とも素敵なお言葉も。

新千歳空港まで約35分、札幌まで約1時間30分というアクセスの良さも魅力だといいます。お子さんがいる中村さんにとっては、子どもが自然豊かな環境でのびのびと過ごせることも、厚真町に来て本当に良かったと感じた瞬間だったのだといいます。「都会のコンクリートに囲まれた学校に通わせていたときより、豊かな子育てができていると感じますね」と、笑顔で話す中村さんからは、厚真町での暮らしの素晴らしさが伝わってくるようでした。

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「厚真町は移住者が多く、移住者もすぐになじんでとけこめる町です。町長も移住者を非常に大切にしていて、現在の役場職員も半分以上が移住者なんです。町全体に移住者が多いですし、『コミュニティスペース イチカラ』では色々な方と交流ができます。移住者同士で情報交換ができたり、仲間ができたりと、心強い場所になると思いますよ」とも話します。

また、厚真町では介護のお仕事に就く方に対して就労支援金制度を設け、サポートしています。

<介護人材確保支援事業>
●町外からの移住者の方
雇用時、30万円を支給(引っ越しに要した費用が30万円を超える場合は上限を50万円に実費相当額を支給)

●町外から通勤する方
雇用時、20万円を支給

●町内在住の方
雇用時、20万円を支給

※それぞれ規定があります。詳しくは厚真町介護人材確保支援をご確認ください。

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そのほか、介護初任者研修などの研修費用の助成制度もあります。今後、さらにこの制度を充実させていきたいと中村さんは話します。

自然の中でのんびりと過ごすことができ、人があたたかく、移住者も暮らしやすく、心強い介護支援がある、と魅力溢れるまち、厚真町。厚真町に住まうすべての人が、将来を見据えてもっと安心して過ごせるまちへと進んでいく取り組みに、これからもぜひご注目ください。

厚真町役場
厚真町役場
住所

北海道勇払郡厚真町京町120

電話

0145-27-2321

URL

http://www.town.atsuma.lg.jp/office/


誰も取り残さない。人と人が繋がり元気を保つ厚真町の社会福祉の姿

この記事は2021年1月14日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。