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まちおこしレポート
厚真町

地域に新たな芽を育む、腐葉土のような存在に。20190725

地域に新たな芽を育む、腐葉土のような存在に。

豊かな山林から、太平洋沿岸へと広がる北海道厚真町。

その地勢から、米やハスカップなどの農産物、ホッキとシシャモなどの魚介類に恵まれ、海岸では多くの人がサーフィンを楽しむまちです。2018年には、胆振東部地震で震度7を観測し、未曾有の被害を受けましたが、力強く、復興への道を一歩ずつ歩んでいます。

町のサポートで起業家を発掘する「ローカルベンチャースクール」

厚真町では2016年から「ローカルベンチャースクール」というプログラムを活用し、起業したい人を募集。選考を経て合格した人は地域おこし協力隊として、3年間町のサポートを受けながら起業準備をし、自立を目指す取り組みを続けています。


その運営を担う株式会社エーゼロ厚真の取締役・花屋雅貴さんと、厚真町役場で落ち合いました。役場の職員と立ち話をする姿は、一瞬「役場の人かな?」と思うくらい、その場に馴染んでいます。

e-zero3.JPGこちらが花屋さんです。

ローカルベンチャースクールは、岡山県西粟倉村でエーゼロ株式会社が始めた仕組み。エントリーした人は、合宿形式の一次選考、最終選考と、その間にあるブラッシュアップ期間を経て「このまちでこのビジネスをやりたい」という思いを明確化し、具体的なビジネスプランをプレゼンテーションします。

厚真町では、2016年から選考を開始。2017年度から合格者が活動を始め、現在は1期生から3期生までが、チャレンジを進めています。

チャレンジャーに問うのは「本気と覚悟」

現在活動している人は、地域での移動手段をITを駆使して補完する地域モビリティインフラ事業、デザインや広告プランニング、馬搬による林業、盲導犬の繁殖など、多彩な事業の展開を目指し、みなさん実際に厚真町内で動いています。


3年間は地域おこし協力隊として活動できるため、生活費や活動資金の補助が受けられるほか、自らが求めれば役場やエーゼロのスタッフからのサポートも受けられます。

e-zero4.JPG花屋さんのお隣に座る、右に写るのは元トヨタの社員で、このローカルベンチャースクールに参加した成田さん。協力隊制度を利用し、このまちへと移住してきました。

選考にあたって、最も問われるのは「本気と覚悟」。
選考の過程では、「なぜその事業をやりたいのか」「なぜ厚真町でやりたいのか」を徹底的に掘り下げます。

「うまくいってほしいし、地域に根付いてほしい。その人の人生においても、大きなチャレンジになると思います。本当に好きなことでなければ、続けてはいけません。本気と覚悟がある上でやったことは、結果はどうあれ、その人にとっての経験には必ずなります」と花屋さんは話します。

外からの新しい息吹で、持続可能な地域を

厚真町でローカルベンチャースクールを導入するきっかけを作ったのは、産業経済課林業グループ兼経済グループの主幹・宮久史さん。


e-zero2.JPGこちらが宮さんです。

宮さん自身は、持続可能な社会づくりを志して林業の研究をしていましたが、その実現には現場への落とし込みが必要と考え、社会人枠で厚真町役場に入職。林業を通して地域の持続可能性を高める方策を模索していた時に、西粟倉村で行っていたローカルベンチャースクールの活動を知りました。

「ローカルでベンチャーって、本当にできるの?というのが最初の印象でした。厚真町でベンチャーなんて、想像もしていませんでしたが、西粟倉村も林業のまち。それなら厚真でもできるのではないか、と思ったんです。地域に根付くビジネスが生まれれば、地域の持続可能性は高まると思いました」と宮さん。エーゼロの牧大介社長と関係を深めていく中で、厚真町での開催が決まりました。

しかし、そんな時に起きた2018年の震災。
一時は選考の継続を断念しようという声も上がりました。それでも「こういう時だからこそ、外からの力を受け入れて、復興に向けての力にしたい」と、続行を決定することになりました。

まちに入り込まないと、人はつなげられない

一方、現在は厚真町に常駐し、ローカルベンチャースクール生のサポートのほか、まちと人をつなぐ事業に携わっている花屋さんは、以前は東京でゲームプログラマーをしていました。環境をテーマにしたゲーム「エコゲー」の制作を機に、エーゼロの牧社長と知り合い、いくつかの事業を手伝っていくうちに、厚真町でのローカルベンチャースクールにも関わることになりました。


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当初は東京に拠点を置いたまま、選考の段階でメンターとしてビジネスプランをブラッシュアップするサポートをしていました。2018年から、起業家を地域に根付かせるにはエーゼロの担当者が厚真町に常駐することが必要と考え、花屋さんが転居することに。

「当初は、役場を通じてまちのことに関わる関係でしたが、やはり自分たちが直接まちの人と関わらないとダメだと思いました。外から来て何か事業をする人たちのことは、まちの人にとっては『よく分からない存在』。それを『まちに新しい機能を補完する存在』と思ってもらえるようにしたいと思っています」

e-zero5.JPG取材時に訪れた厚真町にあるシェアオフィス。元々保育園だったところをリノベーションしました。

花屋さんはさらに続けます。
「地域で事業をしていくには地元商工会との関係はとても大切。私たちが思っていることを少しでもわかってもらうには、自分たちがきちんと伝えていくしかないと思いました。そこで、まずは商工会の方と『飲みに行こう!』と。結局、焼肉屋から始まり、スナック4軒をはしごしていました。それで少しは距離が近づいた気がします」

地域の人たちと話をする機会を増やしていく中で、「商工会の理事をやってみないか?」と声がかかったことは、花屋さんにとって大変嬉しいことでした。お祭りではお手伝いをしてくれる外部の人を呼び込むことで運営に協力し、喜んでもらうこともできました。

「まちにあってよかったね」と言われる存在を目指して

地域の人との関係が濃くなれば、外から人を呼べる可能性も広がります。企業の新入社員研修でボランティアを受け入れたり、農業大学校の視察を受け入れるなど、「自分たちのところに来てくれたら、とりあえず何とかなる。受け入れてから、どこにつなげるか考える」というスタンスで、関係人口を増やしています。


今後は、後継者がいなくなった事業者から引き継ぐ人を紹介するなど、まちと人とのつながりを通して、持続可能な地域づくりに携わっていきたいと花屋さんはいいます。

「エーゼロが、このまちにあってよかったね、と言われる存在になりたいですね。震災から約1年が経ち、まちの人たちの暮らしは徐々に元に戻りつつありますが、崩れたインフラが復活するには、10年、20年単位で時間がかかると思います。役場も、ローカルベンチャースクールなどで新しく来る人をまちの活力にしたいと考える一方、受け入れに労力を割けないのが現状。こういう時だからこそ、私たちがしっかりサポートしていきたいと考えています」

e-zero6.JPGこちらはエーゼロ厚真のスタッフ山下さん。山下さんも、厚真町へ自ら飛び込みこのまちを元気にすべく活動中です!

ちなみに...エーゼロの名前は、森林生態学の用語で、土の表面にある腐葉土層「エーゼロ層」からとっています。

「地域という土壌があって、エーゼロ層の私たちがいる。そこに、ローカルベンチャースクールにエントリーする起業家など外の人が、種としてやってくる。エーゼロ層がしっかりしていれば、蒔いた種から芽が出る可能性があります。小さな種でもいいから、地道に育てていける組織でありたいですね」

株式会社エーゼロ厚真
住所

北海道勇払郡厚真町字上厚真18-1

電話

070-1226-0980

URL

https://www.a-zero.co.jp/


地域に新たな芽を育む、腐葉土のような存在に。

この記事は2019年6月18日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。