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まちおこしレポート
厚真町

「ここに来て、これがやりたい」を受け止める風土が、町の底力に20190814

「ここに来て、これがやりたい」を受け止める風土が、町の底力に

太平洋沿岸の東胆振地区の中で、山林と田畑、水産資源にも恵まれた厚真町。農業は米やハスカップ、漁業はホッキやシシャモ、また林業も盛んで、浜厚真の海岸には良い波が来ることからサーフィンのメッカでもあります。
そんな厚真町は、2018年9月に起こった北海道胆振東部地震により震度7の強い揺れに襲われ、土砂災害にも見舞われたことで多くの尊い命が奪われました。

立役者も移住者だった!?

取材班が訪れた2019年の厚真町は、田んぼでは稲が青々と茂り、浜辺ではたくさんの人がサーフィンを楽しんでいる、風光明媚でのどかな町でした。地域の人たちの生活インフラも徐々に復旧し、一歩一歩着実に復興への道を歩んでいる姿が見て取れます。


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その大変な復旧・復興のさなか、厚真町で起業する人を選考する「ローカルベンチャースクール」の第3回となる募集を、震災後わずか2カ月後の11月に開始。合格した3期生が、2019年度から起業準備の活動を始めています。

町として、ローカルベンチャースクールにどんなことを期待しているのか、まずは厚真町にこの制度を導入した時の主担当である、林業グループ兼経済グループの主幹・宮久史さんに尋ねてみることにしました。

atsuma_yakuba3.JPGこちらが宮さんです。

聞けば、宮さん自身も移住者だといいます。岩手県出身で、大学では林業の研究をし、持続可能な社会づくりを模索していました。林業では、森林を保全しつつ木材を利用することが持続的な管理をする上で重要ですが、研究を進めるうち、現場に研究成果を落とし込むことがこれからの林業を考える上で重要だと考えるようになりました。そんな時に厚真町で社会人枠の職員募集があることを知り、入職しました。

林業一筋35年のベテランであった前任者からの引き継ぎを3年間かけて受け、林業の担い手や関わる企業・人が増えたり、林業に触れる機会がなかった町民に森林の楽しさを伝えるNPO法人「あつま森林(もり)むすびの会」の設立に携わるなど、林業としては一定の成果が出てきましたが、町全体として持続可能な地域づくりができているか?と考えた宮さん。

ベンチャーの力で持続可能なまちづくりを

そこで、岡山県西粟倉村でローカルベンチャースクールを立ち上げたエーゼロ株式会社の活動を知りました。西粟倉村は、村の面積の9割を森林が占める林業のまちです。「ローカルでベンチャーを起こすということが、まずは信じられませんでした。でも、人口1,500人の西粟倉村ができるなら、厚真町でもできるかもしれない。地域に根ざしたビジネスが生まれれば、まち全体の持続可能性が高まると思ったんです」 そして、エーゼロの牧大介社長とコンタクトを取り、関係性を深めていく中で、2016年度から厚真町でも開催することになりました。


ローカルベンチャースクールは、「厚真町で起業したい人」が応募し、一次選考と最終選考で、起業に向けての決意やビジネスプランを精査して、合格者を決める仕組み。合格者は、地域おこし協力隊の制度を利用し、任期中最大3年間、町からの財政的支援を受けながら厚真町で起業し自立することを目指します。
現在は、1期生から3期生が、地域での移動手段をITを駆使して補完する地域モビリティインフラ事業、デザインや広告プランニング、馬搬による林業、介助犬の繁殖など、多種多様な事業に向けて厚真町で活動しています。

「地域おこし協力隊の募集をしても、本人が本当にやりたいことと、市町村が求めることが合わない場合も多いと思います。本当にやりたいことをやるのが、一番力が出る。だから、提案型の地域おこし協力隊として来てもらい、自分の力を出し切ってもらうことが本人や町民含めてみんなの幸せにつながると思いました」と宮さん。

atsuma_yakuba4.JPGこの取り組みで厚真町へやって来た人たちに対して親身に寄り添う宮さん。

「起業の内容は何を提案してもいい」といいます。「必要なのは、本気と覚悟。本当に厚真町でやりたいのか。そこがしっかりしていないと最後の踏ん張りがきかないと思いますので、そこは真剣に問います。そして、事業計画については、エーゼロさんの力を借りながら最終選考までブラッシュアップしてもらい、審査します」

企業に所属しながら、厚真町へ移住

同じく産業振興課経済グループの主査、小松美香さんは、2018年10月から厚真町役場で働いています。小松さんも、移住組の職員です。福島県出身の小松さんは、食を通して持続可能な社会を作りたいと考え、有機農業や環境への取り組みに携わりたいと考えていました。


atsuma_yakuba5.JPGこちらが小松さん。

東京で食品の卸会社勤務や飲食店の店長を経て、会社の中で上厚真地区の太陽光発電に携わる部署への異動を打診されました。「生産者に近い位置に行くには、田舎で暮らしたいと考えていたので、即やります!と返事しました」
小松さんは、三大都市圏の企業に勤務する人が、会社に籍を置きながら地域おこしに従事する「地域おこし企業人」の制度を利用し、厚真町に移住しました。

今度は職員として、町の復興に携わる

太陽光発電の事業のほか、厚真町との協力のもと、地域の特産品の開発などにも携わってきた小松さん。厚真町の古民家再生・活用のために、民泊やレストランを運営する計画が立ち上がり、このビジネスプランでローカルベンチャースクールに応募することに。

2017年に応募しましたが、最終選考で落選してしまいました。
「本気と覚悟があったかというと、会社と意見を調整しなければ、と考えていたため、そこが足りなく、プランも煮詰まっていなかったのだと思います」と振り返る小松さん。古民家活用事業も思うように進められない中、次第に気持ちが切れてしまったといいます。

会社を辞めることを決めた小松さんでしたが、2018年8月末で退職だったところ、9月に震災が起こり、会社は退職を1カ月伸ばしてくれました。9月は炊き出しのボランティアなどをして過ごしていましたが、関わりのあった職員から「震災後の復興に向けて職員が足りない」と声が掛かり、10月から町で採用になりました。「宮さんをはじめ、職員の皆さんも温かく受け入れてくれて、よそ者を受け付けない雰囲気は一切感じませんでした」

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民間企業に勤めていた小松さんにとって、仕事は役場の仕組みに慣れることから。さまざまな夢や希望を持ちつつも、「まずは、役場の仕事を責任持ってできるようになりたい」といい、事業計画や予算に沿った業務の遂行に奮闘しています。

役場では、雑相(ざっそう)が大事!

そんな、クセ者ぞろい!?の職員を温かく受け止めているのは、理事兼産業経済課長の大坪秀幸さん。「以前も、移住・定住促進事業を行っていましたが、その時は人数にしか着目しておらず、来てくれた人に何をしてもらうかまでは目が向いていませんでした。移住してきた人がもっと地域で活躍するために、ローカルベンチャースクールのような取り組みは素晴らしいと思います」と評価しています。


atsuma_yakuba7.JPG奥で優しく微笑むのが大坪さん。

大坪さんの周りには、いつも笑い声が飛び交っています。「雑談と相談が合わさって、雑相(ざっそう)を大事にしているんです。話しやすい雰囲気をいかに作るかですね」
そんな雰囲気から、仕事のアイデアや「これがやりたい」という活力も生まれてきます。
「町外出身で、社会人を経験した人にはドラマや思いがあります。だからこそ、縁もゆかりもない人であっても、厚真町のことを真剣に考えて一生懸命仕事をしてくれているんですね」
現在は、役場職員の45%が町外出身者。宮さんは、「厚真町出身の職員の同僚や退職されていった先輩たちがいて、その皆さんがやってきたことに対する信頼があるから、私たちが受け入れてもらえて、結果として多様性が生まれていると思います」と感慨深く語ります。

町への移住は、まだ様子見の段階

2019年の震災後、厚真町の移住促進事業は一旦様子見の状態です。 まちづくり推進課総合戦略グループの主幹、小山敏史さんによると、移住に関する問い合わせは今もありますが、相談を受けてから実際の移住までは数年かかることもあり、被害状況の説明にとどまっています。移住先の住宅などが確保できれば、体験移住なども再開したいといいます。


atsuma_yakuba8.JPG移住担当の小山さん。

小山さんも以前は転勤のある一般企業に勤めていましたが、苫小牧市に配属された時に隣の厚真町に住み、厚真町の居心地の良さから転職を決意し、厚真町役場の社会人枠で採用されました。

「転勤先は都市部が多かったこともあり、近所の人と会話するということもありませんでしたが、親しく話せたのは厚真町だけだったんです」
移住の決め手にもいろいろありますが、小山さんにとっては「人」だったといいます。反対の立場で、小山さんが移住フェアで親身に話を聞いてくれたから移住を決めた、という人も多くいます。新しい人の力で町を活気づけるためにも、環境の整備が待たれます。

非常時こそ、移住者が町を支える

一方、ローカルベンチャースクールは、一度は中止も検討されましたが、「こんな時だからこそ、外の人の力を受け入れて、復興に向けての力にしたい」との役場の思いをエーゼロが受けて、発災後間もなく募集に踏み切ったのです。 ローカルベンチャースクールの選考や起業のサポートを皮切りに、町と人をつなぐ役割として活動しているエーゼロ厚真の取締役の花屋雅貴さんはこういいます。


※エーゼロ厚真についての詳しい取り組みは「地域に新たな芽を育む、腐葉土のような存在に。」という記事も合わせてご覧ください。

atsuma_yakuba9.JPGこちらが花屋さん。

「まちの人の暮らしは元に戻りつつありますが、本当にインフラが復旧するまでには10年、20年単位の時間が必要です。町も、移住者の支援に力を入れたいと考えつつ、労力を割けないのが現状。だからこそ私たちがしっかりサポートし、持続可能な地域づくりに携わっていきたいと考えています」
新しい人を柔軟に受け入れ、その声に耳を傾けてきた厚真町。今まで培ったその力を原動力にして、さらに復興は加速していきそうです。

厚真町役場
厚真町役場
住所

北海道勇払郡厚真町京町120

電話

0145-27-2321

URL

http://www.town.atsuma.lg.jp/office/


「ここに来て、これがやりたい」を受け止める風土が、町の底力に

この記事は2019年6月18日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。