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地域おこし協力隊が実践する新たな「教育のかたち」20210615

地域おこし協力隊が実践する新たな「教育のかたち」

北海道十勝平野の南西部に位置する浦幌町は、道内でも地域おこし協力隊の活動が目覚ましい町のひとつです。現在の人数は11名。今年度(令和3年度)になって、4名もの新しい協力隊員が仲間入りしました。

旧常室小学校を利活用したコミュニティスペース「TOKOMURO Lab.」で働く人。地域産業である林業に関わる活動をする人。2020年に設立された「十勝うらほろ樂舎」で活動をする人。そして、今回お話をうかがったのは、浦幌町独自の教育体系「うらほろスタイル」の取り組みをサポートする古賀詠風(こが えいふう)さんです。2019年4月に浦幌町の地域おこし協力隊に着任して、今年で3年目。新卒で協力隊という進路を選んだその経緯と、2年間の活動、そしてこれからについて語っていただきました。

浦幌町独自の教育プログラム「うらほろスタイル」

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いまどきの25歳らしい、ふわっとした空気に穏やかな語り口調。取材チームが最初に感じた古賀さんの印象です。待ち合わせ場所になったのは、浦幌町中心部にある「うらほろスタイル複合施設FUTABA」。普段の古賀さんの活動場所です。薬局だった場所を改装して作られたこの施設は、町内外から来る人々の交流拠点にもなっています。

そもそも「うらほろスタイル」とは、浦幌町が官民協働で立ち上げた「教育プログラム」とも呼べるもので、2007(平成19)年にスタートしました。地域に住む大人が、過去から受け継いだ地域を未来(次世代=子どもたち)へ引き継ぎ、「持続可能な地域」を作ることを目指して活動をしています。

具体的には、町内に住む小学生・中学生・高校生を対象に5つの柱になるプロジェクト「地域への愛着を育む事業」「農村つながり体験事業」「子どもの想い実現事業」「高校生つながり発展事業」「若者のしごと創造事業」を展開。小中学生は、義務教育の9年間を通して、農園作物を使った調理実習、町の産業や文化、歴史に触れる体験、農林漁業家庭での生活体験などを通して、我が町の魅力を身をもって知るようになります。

子どもたちが地域への愛着と当事者意識をもち、自ら課題解決する力を養うために、学校と地域とが連携して取り組みを進めています。古賀さんは、そのなかでも高校生のサポートが主な担当。具体的な活動内容は、記事の後半で触れることとし、まずは古賀さんがなぜ教育の道を志すようになった経緯を紐解いていきましょう。

「学校の外にある教育」に気付くまで

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古賀さんは、北海道の右上に広がるオホーツク管内の遠軽町の出身。小中学校を経て、遠軽高校に学び北海道大学の教育学部...ではなく総合理系に進みました。その当時は、具体的にやりたいことや目指すべき進路は見つかっておらず、1年間教養科目や基礎科目を学んだ後、2年生時に専門の学部・学科に異動できる総合理系を選んだというのが実際のところです。

しかし、広く理系の勉強をしながら、1年生の夏には「教員になりたい」という目指すべき目標が見つかりました。これには高校生のときの担任の影響が大きかったそうです。

「先生というよりも一個人として接してくれるし、先生も一個人として振舞っていた。その頃は、割とネガティブであまり挑戦もできなくなっていたのですが『こういうのもありなんだ』と思わせてくれた先生でした。自分も誰かにとって、視野が広がる存在になれたら良いなと思ったんです」と話してくれました。

ただし、教師という目標が見つかり教育学部への異動を志したものの、実際に学部を移れるのは2年生になってから。1年生の後期は、引き続き物理などの理系科目を勉強していました。やりたいことや目標は徐々に(しかも早い段階で)はっきりしていく一方、どこか大学での学びに物足りなさも感じていた古賀さん。そこで、「学内でできないのなら、学外でやりたいことに関われる機会はないか」と外に飛び出したことがひとつの転機となりました。

そこで古賀さんは、NPO法人いきたすが主催する「カタリ場」プログラムに顔を出すようになりました。カタリ場とは、学生ボランティアが高校生のもとを訪れ、2時間本音で語り合う授業のこと。「高校生の探究心に『火を灯す』授業」をコンセプトに、進路について本格的に考えたり、探究学習の振り返りをする場として利用されています。古賀さんは、1年生の秋から卒業をするまで述べ70回(!)ほどカタリ場の活動に参加し、主に全道の中学校や高校をまわりました。そうした活動のなかで「学校教育だけではない教育」というものの存在に気付いていきます。

「当時は学校教育に身を置いていましたが、北大の教育学部は教員を目指している学生が多いというわけでもなかったので、徐々に『学校の外に教育がある』という認識が当たり前になっていきました。結果的に教育という分野で最初に志した『教員』とは別の目標を探すようになりました。でも、具体的にそれが何なのかはまだ分からなかったんです」

地元がいいのか、都会がいいのか、それとも...?

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eifukun11.JPG撮影協力:TOKOMURO Cafe(トコムロカフェ)/TOKOMURO Lab内

この「学校の外にある教育」の他に、もうひとつ当時の古賀さんが気になっていたテーマがあります。それは「地元(ローカル)」。遠軽町という田舎で小中高を過ごし、札幌に出てきた古賀さん。遠軽高校は、町内や近隣の市町村に住まう生徒が大半を占める学校でしたが、北海道大学は全国から学生が集い、それぞれのバックグラウンドや育ってきた環境も全く違います。「高卒で就職する人なんているの?」という価値観を持っている人もいて、驚くこともあったそうです。

古賀さんにとって札幌にやって来た理由は、やりたいことを見つけるためであって、都会に憧れていたのではありませんでした。「地元には何もない。でも『都会が良いじゃん!』と割り切ることもできなかった」と当時のモヤモヤとした感情を振り返ります。

そんな古賀さんが20歳になる頃、同じく遠軽町出身のさのかずやさん(現 株式会社トーチ代表)が運営していたウェブメディア「オホーツク島」に遠軽町で新規就農したえづらファームの江面暁人さんの記事を発見し、衝撃を受けます。「(江面さんは)東京の大企業を辞めて、自分が何もないと思っていた地元に来て、農業をはじめた。それだけではなく、地元のお母さんたちとレシピを開発したり、企業研修をしたり、民宿を経営したり......今をこんなに本気で生きている人がいるんだ」と、感銘を受け、なんと成人式の直前の日に会いに行ったのだそうです。

これを機に「地域で自ら暮らしをつくっている人たち」との出会いが続いていきます。遠別町の原田啓介さんや、上川町の絹張蝦夷丸さん、そして現在「ドット道東」として活動する5人のクリエイターなど、地域のプレイヤーとの関わり合いのなかで「ローカル」という軸にも落とし所をつけられるようになっていきました。

浦幌町の地域おこし協力隊を選んだわけ

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「学校の外にある教育」と「地域(ローカル)」という2つの軸が見つかった古賀さん。大学2年生のある日、浦幌町の地域おこし協力隊(当時)がカタリバ北海道へ視察に来たことが全てのはじまりでした。打ち上げの際に、「うらほろスタイル」について話を聞き、その取り組み方に大きな感銘を受けたのです。

このことを話している最中、「だってこんなのありえないじゃないですか!」と半ば興奮気味で、かばんから取り出してくれたのは、「rosa rugosa」のハンドクリーム。元浦幌町地域おこし協力隊で、今は起業し株式会社ciokayを経営する森健太さんが地域住民と一緒に開発したオーガニックコスメです。
「この商品は、地元の子どもたちの絵がパッケージに採用されているんです。将来の子どもたちのしごと創造につなげるために、子どもたちの想いを受けて商品化されました。こんな取り組みは、なかなかないですよね」

今まで、学校教育と学校の外での教育とを分けて考えていた古賀さんですが、「地域のなかで子どもを育てていく」というコンセプトに強く共感した取り組みのひとつが「rosa rugosa」の製品だったのです。

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そこで、大学3年生の夏休みに「うらほろスタイル」の立上げに関わった近江正隆(おうみ まさたか)さんの会社、株式会社ノースプロダクションで2週間のインターンを経験。その後も何度か足を運ぶうちに、浦幌町の地域おこし協力隊という進路選択が現実的なものになっていきました。

「大学在学中の頃から浦幌町に通っていましたが、(地域おこし協力隊という選択は)直前まで悩みました。遠軽という田舎で高校まで過ごし、札幌へ進学しても結局は北海道という島の中。北海道から一度外に出た方が良いのかとも考えました。新卒で地域おこし協力隊になるのは、決して華々しいキャリアではない。そのリスクはもちろん考えました」と冷静に自らの進路を考えていました。

それでも、「町内に住む普通の大人たちが、当たり前のように次の世代に対し本気で向き合う姿、今あるものを子どもたちに受け継いでいこうとする意志を目の当たりにして、この町に関わりたいという思いがどうしても強かった。そのときは地元にいつか戻ることも選択肢にあったので、その前にここで修行したいという気持ちもありました」

こうして、晴れて浦幌の地域おこし協力隊になることが決まったのです。

それにしても驚かされるのは、古賀さんのフットワークの軽さ。成人式の直前にえづらファームを訪ねたり、浦幌町でのインターンも、もともと募集していたのではなく、古賀さんが頼んで受け入れてもらったのだそうです。古賀さんは、「単純に人に会いにいくのが好き」で「地元にいた頃は、地域のプレイヤーとの出会いが少なかったことのリバウンドかもしれない」と分析していますが、それ以上に、そこで得られるものの大きさを良くわかっているのでしょう。

「地元には選択肢が少ないと思っていたのですが、『見えていなかった』というのが正しかった。江面さんという素晴らしい方の存在を僕が知らなかっただけで、実際はいらっしゃったんです。そういった『見えていなかったもの』を見えるようにしたいなと常に思っているし、見えたときの楽しさや充実感を切実に感じているので、町外に越境して活動しているのかもしれません」と教えてくれました。

子どもたちの「やりたい」を実現するために

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古賀さんの仕事は、うらほろスタイルにおいて高校生のサポートをすること。

現在、浦幌町には高校が存在しません(浦幌高校は平成21年度に閉校)。町内の中学3年生は主に池田町や本別町などの近隣の高校に進学しますが、その際に町を出てしまう生徒も多くいます。

そこで、「町外の高校に通うことになっても、浦幌町と関わり続けたい」という高校生が、2016(平成28)年に「浦幌部」を発足。町内でのお祭りの出店や、大人との対話を通じたキャリア探究プログラム、近年ではYouTubeチャンネルを立ち上げて自分たちの活動を町内外に発信しています。古賀さんは、高校生の想いを形にできるよう、その活動をサポートしているのです。

また、浦幌の子どもたちは小中学校の9年間で、記事冒頭で触れたような様々な学習活動を体験しますが、その集大成が中学3年生のときに行う「まちづくりに関する発表会」です。自分たちで町を活性化させる企画や提案を考え、行政や地域住民の前で発表します。一昨年はある班が「中学校でも浦幌部をやりたい」と提案。昨年には現実のものとなり、浦幌の中学生たちが「中学生版浦幌部」を始動させました。現在はiPadを利用して、町の絵本を作成中です。

子どもたちから出た地域活性化案は、発表したらそれで終わりではありません。この町では、大人があいだに入り、子どもたちの「やりたい」が詰まった企画や提案を実現させるために、できるかぎりのサポートをしているのです。

「この町での将来が楽しみです」という若者がいる町

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古賀さんが、活動を通じて得た「喜びの瞬間」を教えてくれました。ひとつは「もっと町をよくするために起業したい」という夢を抱く高校生が出てきたこと。現在は、一緒に起業の本を読んで勉強をしているそうです。また、別の高校生は「この町での将来が楽しみ」と話してくれたといいます。過疎化が進む地域に住む若者の口からは、なかなか出てこない言葉ではないでしょうか。「次世代にバトンを渡し、持続可能な地域づくりをめざす」大人たちの真剣な姿勢が、確実に彼らに届いているのです。

もちろん、町外に出た高校生や若者に関しては、十分なケアができていないという課題もあります。古賀さんは「高校生に『戻ってきなさい』という変な圧力は与えたくない。でも可能性を感じたなら浦幌でできることを実践してもらえたらいいし、彼らが帰ってこられる場所は作っておきたいと思っています」と将来を見据えます。

「子どもたちがこの町で学ぶ中で、自ら人生をデザインし、社会を作っていく当事者になっていければと思っています。それは必ず町づくりにつながっていくから」

これからも教育と地域をベースに

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古賀さんは、協力隊卒業後も浦幌町に残ろうと考えています。

「最初は(任期の)3年で遠軽へのUターンも考えていましたが、浦幌町が十数年もの間続けている『うらほろスタイル』という取組みに関わらせてもらって、受け取ってきたものが本当に大きい。『次世代へ受け継ぐ』ということを当たり前のようにできるこの町で、これからもできることを続けていきたいという気持ちが今は強いです。遠い先のことはあまり考えず、目の前のことを積み重ねていきたいです」と抱負を語ってくれました。

活動をしていく上での「町と自分のバランス」について悩むこともあったという古賀さん。「地域をおこすために協力する隊員」として、一部の町民からの「こうあるべき」という声もあったのですが、「結局は自分が今後もこの町で楽しく暮らしていくためなんだよな」というある人の言葉がきっかけで、今は古賀さんも自分の「楽しい」を信じて活動しているそうです。

「次世代に対する強いマインド」と「次の世代(子どもたち)と共につくる」という浦幌らしさをこれからも大切に、古賀さんはこの町で新しい「教育と地域」を学び、実践していきます。

浦幌町 地域おこし協力隊 古賀 詠風さん
浦幌町 地域おこし協力隊 古賀 詠風さん
住所

北海道十勝郡浦幌町本町16-1(うらほろスタイル 複合施設 FUTABA)

URL

http://www.urahoro-style.jp/


地域おこし協力隊が実践する新たな「教育のかたち」

この記事は2021年3月18日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。