人口約3,600人のまち上川町が取り組む地域おこしの一大プロジェクト
『仕事×移住 KAMIKAWORK』を追ったシリーズの第2弾!
今回はこの取り組みを知って上川町に集結し、協力隊としてのスタートを切った5人のお話です。
(「KAMIKAWORK」については大雪山級の可能性!ブランディングと雇用に尽力するまちの記事をご覧ください)
訪ねたのは、完成したばかりでまだ真新しい木の香りがする、コワーキング施設『KAMIKAWORK.Lab』
実はこちらの建物、作業スペースの他にみんなでゆったりくつろげるキッチン兼コミュニケーションスペースも備え、さらには2階部分が住居スペースになっているという、まさに協力隊の方にとっては拠点となる場所なのです。
まだ一部未完成ですが、みなさんの拠点となるコワーキング施設兼シェアハウス「KAMIKAWORK.Lab」
そんな素敵な場所に集まっていただいたのは、水口加奈子(みずぐちかなこ)さん、古賀三輪子(こがみわこ)さん、絹張龍平(きぬばりりゅうへい)さん・育美(いくみ)さんご夫婦、近江美久(おうみみく)さんの5人。
みなさんつい先月上川町にやってきたばかり。さっそくみなさんのプロフィールをうかがってみました。
水口加奈子さんは、札幌から出たことがないという札幌生まれ札幌育ちの自称シティガール!(笑)
高校を卒業してから約9年半、ずっと札幌のスポーツショップ一筋で勤務していました。
担当はランニングコーナーとウインタースポーツだったそうで、ご自身もマラソンはもちろんスポーツが大好き!当然、今回が初めての転職であり、移住となります。
こちらが水口加奈子さん
古賀三輪子さんは何と佐賀県の出身。
佐賀県民は県外に行くとすれば福岡県に行く人がほとんどで、北海道に来る人はかなり少ないらしいのですが
「東京とか関東に出てくる人さえ少ないのに、自分は変わってる方ですね。自分のまわりを見渡しても北海道に来た人はほとんどいないかも」とのこと。
ということは、北海道の中でも札幌ではなく上川町となると、かなりのレアケースになるのでしょうか。
卒業後は東京や埼玉、神奈川などの関東圏で、プリンターの会社に勤務していたそうです。
真ん中が、佐賀県出身の古賀三輪子さん
絹張さんご夫婦のうち、旦那様の龍平さん(以下、龍平さん)はチューリップで有名な道東の湧別町出身。上川町に来る前は札幌でゲストハウス兼カフェのマネージャーを務めていました。ちなみにインディーズ焙煎士や、「Earth Friends Camp」という外遊び集団の代表など、様々な顔をお持ちです。
一方、奥様の絹張育美さん(以下、育美さん)も道東の北見市出身、専門学校卒業後は調理師免許を活かして飲食店で10年ほど勤務し、その後出産を経てからはパート勤務をしていました。
絹張さんご夫妻は子供連れでの一家まるごと移住です。
絹張さんご夫婦
最年少は、近江美久さん。道内では比較的雪の少ない伊達市のご出身。実家は本人曰く「山の中」とのこと。岩見沢の大学を卒業してすぐ、新卒でここ上川町にやってきました。聞けば、公務員試験には残念ながら不合格。民間企業への就活はどうしてもしっくり来ず、そんなときにこの「KAMIKAWORK」の事を耳にしたそうです。「山の中」で育ち、大学でアウトドアの学科を専攻していた近江さんにとってはまさにうってつけのお仕事!すぐに応募を決めたそうです。
新卒で応募を決めた、近江美久さん
「Earth Friends Camp」
さて、一見出身も前職も年齢もバラバラな皆さんですが、実は5人のうち絹張さんご夫婦、水口さん、近江さんの4人はある団体に属する友人同士だったのだとか。
その団体というのが、先ほど龍平さんの紹介でちらっと触れた「Earth Friends Camp」、通称EFCです。
どうやら、みなさんの「KAMIKAWORK」への参加にはそのEFCというキーワードがはずせないようなので、代表の龍平さんに詳しく聞いてみました。
「札幌に住んでいると、気軽に外遊びできる機会があまりないな、ということに気づいたのがきっかけでした。
何かアウトドアすると言ったら、例えばニセコに行ってラフティングするとか、スキー場に行ってスノーボードするとか、登山するとか、何をするのにも道具を揃えなくてはならないし、お金もかかるし、ハードルが高いなと思ってたんですよね。もっとふらっと気軽に、ただ森の中に行ってご飯食べよう、みたいな軽い感じの遊びをしたくて始めました」
気軽に、手軽に、自然を楽しむ外遊び集団EFC。その活動は2014年から始まりました。
龍平さんの言葉通り、実施しているイベントは誰もが楽しめる内容がほとんど。
例えば「Sugaring Time」とメンバーが呼んでいる、メイプルシロップ採り。
春の森に出かけて、カエデや白樺の木を見つけます。
幹に穴をあけしみ出る樹液を採取したら、煮詰めてシロップにしたりそのまま沸かしてコーヒーを淹れたりして、自然の恵みをじっくり楽しみます。
「PukaPuka RIVER」という川遊びも人気の企画。
Tシャツ、短パンにライフジャケット一つで参加でき、「プカプカ」とただ川に浮かんで空や川辺を眺めるだけの究極のリラックス体験です。
絹張蝦夷丸のペンネームでWEBライターとしても活躍中
このように、EFCが普段行っているのは、どれも特別な装備も必要無く、どなたでも気軽に楽しめる遊びです。
川遊びと言えば、釣りやカヌーしか思い浮かびませんでしたが、なるほど、「浮かぶ」というこんなに単純で楽しい遊びもあるのですね。
また年に1回は龍平さんの地元である湧別町で「ダウンザリバー」という大きなイベントを開催し、アウトドアクラブの方達とキャンプや川下りをして大いに盛り上がるそうです。
「自然の中で過ごすことで、暮らしをちょっと良い感じにする」
というのがコンセプトだそうですが、この『ちょっと良い感じ』というのが、肩肘張らず、あくまで自然体で活動されるEFCの皆さんを表している気がします。
移住のきっかけ
そんなEFCのメンバーである4人が、大雪山という大自然を間近にのぞむ上川町にやってきたのは、当然の流れのような気もしてきましたが、それぞれに改めて移住のきっかけを聞いてみました。
みなさんの移住のきっかけとなったKAMIKAWORKのチラシ
4人の中で最初にこの「KAMIKAWORK」を知ったという近江さん。
4人の共通の知人でもあり、よく訪れていた層雲峡ホステルのオーナーに「KAMIKAWORK」のことを教えてもらったのがきっかけでした。
山が大好き、層雲峡が大好きな近江さん、チラシを見た瞬間に「仕事をするならこれしか無い!」と迷い無く応募を決めたそう。
龍平さんと育美さんもまた、きっかけはその層雲峡ホステルのオーナーでした。インディーズ焙煎士としても活動する龍平さんは、そのホステルに自分の焙煎したコーヒー豆を販売していた関係で、層雲峡温泉の奥にある紅葉谷のイルミネーションイベントで、3日間だけコーヒーショップを出店することになったのです。その際に何気なく目にした「KAMIKAWORK」のチラシに目が釘付けに!
「だって、そのKAMIKAWORKのイメージキャラクターらしいイラストが、自分の使っているキヌバリコーヒーのキャラクターとそっくりだったんですよ!」
縁を感じた龍平さん、「あ、受けよ!(笑)」と思ったそうです。
ちなみに育美さんは、そのイルミネーションイベントの間だけ、ホステルで食事を提供するお仕事を担当していましたが、龍平さんから見せられた「KAMIKAWORK」のチラシの中の「ランプワーク」という言葉に興味をひかれます。
「ランプワーク」とはバーナーを利用してガラス細工をつくること。特に上川町ではHARIO株式会社としてガラスのアクセサリーを制作することに従事します。
夫婦で相談した結果、応募することに決めた2人ですが、人生を左右する決断に葛藤はなかったのでしょうか?
すると龍平さんは「もちろん最初は迷いました、気持ちとしては移住するという割合は10%くらいでしたね」と打ち明けてくれました。
龍平さんの勤務先となる改装中のヌクモにて、こっそり1枚
「やはり札幌という都会から、上川町に来るということは,今まであったものが無くなるという側面も大いにありますからね」と育美さん。
「でもそのイベントの3日間を上川で過ごす間に、ちょっとずつパーセンテージが上がっていって、ついには80%までに!一言で言えば『ここで生きていける』と思えたんです。例えば感動的な光景の広がる『大雪森のガーデン』に行ったり、近所のラーメン屋さんにいったりするうちに自分がここでの生活を楽しんでる様子がイメージ出来たんです。ここでは森のガーデンも、ラーメン屋さんもすぐそこにある日常でした。無いものは旭川でも札幌でも行けば手に入る、何ならネットで何でも手に入る時代ですしね」と龍平さんが話します。
「観光ではなく、暮らすなら、という視点でじっくり考えてみました」と育美さん。
その結果、「スーパーもコンビニもある、必要なものはその気になればどうにでもなる、それよりもせっかくの機会だし将来にきっとプラスになる仕事にチャレンジしてみよう!」と思ったそうです。
「あとで知ったことですが、自分達だけではなく、加奈ちゃん(水口さん)、美久ちゃん(近江さん)、などEarth Friends Campのメンバーがいたことも大きかったです。実は加奈ちゃん(水口さん)の彼氏もEFCのメンバーなんです。メンバー8人のうち5人が上川町に移住して、もう拠点が上川町になっちゃいましたね(笑)」とお二人。
キッチン前のスペースはメンバーのくつろぎの場所です
その水口さんが「KAMIKAWORK」に応募したきっかけも実は、前出の層雲峡ホステルだったそうです。お付き合いしている彼が、昨年からそこでスタッフとして働いていましたが、長期で働ける仕事を探していたところ、近くにある上川大雪酒造でちょうど募集がありそこで働くことになったそうです。
「彼がこの上川町にいる時間が長くなるし、自分もちょうど仕事を辞めたときだったし、何か他のことをやりたいなと考えていたタイミングだったんですよね。層雲峡ホステルの友人から、KAMIKAWORKのことを聞き、4つの仕事の部門のうち自分に何が出来るか考えました。今までやってきたのは接客業だったので、コミュニティプロデューサーという、人と人をツナグようなお仕事なら自分にも出来るのではないか、と思いました」
そんな中、唯一道外から参戦の古賀さんのきっかけはというと....。
「実は東京にいたときから地方への移住に興味があって、東京で開催される色々なまちの移住フェアに行ったり情報を集めたりしていました。調べていくと、実は大きいまちや観光で人気のあるまちほど移住者獲得にあまり積極的では無かったり、ウエルカムな感じが弱いということに気づきました。これでは役場の人とやっていけるか心配だなあと思っていたところ、『KAMIKAWORK』を発見しました。正直、上川町の名前を聞いたこともなかったし、どこにあるのかもわからなかったのですが、今まで見て来た中で特にまちとしての一生懸命さを感じました。仕事ありきなのも、とても画期的でしたね!」
と、たくさんのまちの移住情報を見比べてきた古賀さんならではの目線で語ってくれました。
古賀さんと近江さんはコワーキング施設の2階にお住まいです
「KAMIKAWORK」へのそれぞれの関わり方
そんな皆さん、これからは協力隊として「フードプロデューサー」「アウトドアプロデューサー」「ランプワークプロデューサー」「コミュニティプロデューサー」と、それぞれの分野で本格的な活動がはじまるわけですが、取り組むお仕事の内容や、今後の野望!?について教えてもらいました。
ランプワークというお仕事に興味を持った育美さんは「実は、昔から趣味でアクセサリー作りをしていました。シーグラスを拾ったり、ガラスを集めたりするのも好きで、小樽にガラス細工を見に行ったりもしていました。『ランプワークプロデューサー』という仕事に出会えて、ずっと思っていた『手に職をつける』チャンスが来たと思っています。実はいずれお店(飲食店)を開きたいと思っているのですが、札幌と違って人口規模の少ない上川町のような場所でやっていくためには、美味しい食事や、ゆっくりくつろげる場所、というのはもちろんでその他ににもうひとつ何かオリジナルの武器が必要だと思いました。ランプワークの技術はまさにそれにぴったりだったんです!まずは一生懸命技術を身に付けるつもりです」
と静かな決意を語ってくれました。
一児の母でもある育美さん
近江さんは「まずはガイドの資格をとります!北海道アウトドアガイドという北海道が認定する資格があるんですが、夏山とか冬山とかカヌーとかいろんなジャンルがあるので、それらの資格をとる為に今は勉強中です。それと層雲峡にグランピング施設ができるので、そこの開発やアウトドアプログラムの提案と実践に関わりたいと思っています」と目を輝かせます。
「グランピングってハードル低いですよね?難しくないと言う意味で。だから今までキャンプしたことが無い人や興味の無かった人にも、そういったオープンな施設を通してキャンプの楽しさとか、アウトドアの楽しさとかを知って欲しいんです」
にこにこと元気に語る近江さんがアウトドアに興味を持ったのは、母校である岩見沢教育大でのオープンキャンパスでの体験だったそうです。
アウトドア・ライフコースという学科の体験授業でやっていたのは、拾ってきた木で何かを作るというクラフト体験でした。
資格の取得に向け勉強中
「そんな簡単なことがすごく楽しかったんです」
それは、やはり小さな頃の楽しい原体験の影響なのかもしれません。「アウトドアプロデューサー」も近江さんにぴったりのお仕事のようです。
さて、4つのお仕事の中では一番内容を想像しづらい「コミュニティプロデューサー」になるのは古賀さんと水口さんです。
当面は、廃校になった小学校を改装した全天候型の交流施設「ヌクモ」に常駐し、子供向けプログラミングのワークショップなどに携わりながら、地元の方や移住者、観光客双方の橋渡し役としての活躍が期待されています。
古賀さんはご自分の経験からこんな抱負を話してくれました。
「本州の人間は、はっきり言って旭川市でさえどこにあるのかも良くわからないんです。いざ行こうと思っても、飛行機を降りた後の交通とかプランとかを考えるだけで大仕事。だんだんめんどくさくなって、あきらめてしまう人もいるはず。そこで、家族連れやF1層などの属性毎にプランを提案してみたり、マトリクスを組んでわかりやすく提案したりといった、まずは来てもらう、候補に入れてもらうための企画を考えたいと思っています。
地域おこし協力隊という制度に関してもまだまだ認知度は低いです。何となく都会にいるけど、もっと地方でゆったりと暮らしたいという思いを持っている人はたくさんいます。でもいきなり田舎というのはハードルが高くて、惰性で都会に住んでいるんです。協力隊の制度を知れば行ってみたいと思う人もたくさんいるはずです。実際私が上川町に移住する話をすると、自分もやってみたい、うらやましい、という声がたくさんありました」
5人の中では唯一、道外から北海道を見る視点を持つ古賀さんならではの意見です。
閉校した小学校を改装した「ヌクモ」
水口さんは
「私はまだこのまちのことを何も知らないので、まずはもっと住んでいる人達のことを知りたいと思っています。例えば、ここだけではないですが、雨が降ると子供を連れて行くようなところが無いという声も良く聞きます。そんな声を拾いながら、まちを盛り上げるというよりは、一緒にこの環境を楽しみたいと思っています」
と正直な気持ちを教えてくれました。
「自分は楽しむつもりで来た!」
と言い切る笑顔がとても印象的でした。
最後は龍平さんです。「フードプロデューサー」としては当面「ヌクモ」にてカフェの運営や、オリジナルのスイーツの開発に携わることになるのですが、それ以外にも何か考えていることはないか聞いてみると...。
「やってみたいことは、ノーベルジュです!」
ノーベルジュ?またしても聞き慣れない言葉がその口から飛び出します。
察しの良い方はお気づきかもしれませんが、そう、農業+オーベルジュから生まれた龍平さんオリジナルの造語です。
「自分達で収穫体験した野菜や農作物を、一流のシェフがおいしく調理、最高のお料理が食べられてしかも泊まれる。最高じゃないですか!」
取材陣もいただいた龍平さんのコーヒー、美味しさに感動しました
次々に出てくるアイディアや、すでにもう場所探しをしているというその行動力にはほんとに脱帽します。
きっとそのノーベルジュでは龍平さん開発の絶品スイーツも提供されるのでしょう。
まだ、スタートを切ったばかりの協力隊の皆さんと、「KAMIKAWORK」ですが、今日うかがった皆さんのプランが動き出し、思いがカタチになれば、きっとたくさんの人がこの上川町にやってくることでしょう。
自分達がその地域の自然や環境を全力で楽しむことで、またはその姿を見せることによって、改めて自分達の住む場所がどんなに素晴らしい環境なのかを知って欲しい、5人からはそんなメッセージを受け取った気がしました。
皆さんも、是非、大雪山や層雲峡といった自然はもちろん、新施設のヌクモや、大雪森のガーデンといった協力隊の5人も活躍する場所を訪れて上川町の魅力に触れてみませんか。
KAMIKAWORKの仕掛け人、上川町役場のみなさん
- 上川町地域おこし協力隊の皆さん
- 住所
北海道上川郡上川町南町1106(KAMIKAWORK.Lab)