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まちおこしレポート
上士幌町

「3つの柱」でまちづくりを活性化。上士幌コンシェルジュ20240104

「3つの柱」でまちづくりを活性化。上士幌コンシェルジュ

避けることのできない日本の人口減少と少子高齢化。十勝エリアの北部にある上士幌町は、道内でもいち早く移住者の受け入れに向けた取り組みを行ってきた地域のひとつです。2011年から始めたふるさと納税では、返礼品の和牛肉などに人気が集まり、数年後には全国からの寄付がなんと21億円に。上士幌町は、この寄付金を子育て支援に活用します。認定こども園の無料化、高校生までの医療費全額補助、子育て世帯の住宅購入補助などを行った結果、若いファミリーの移住が増え、2016年には十勝管内で唯一まちの人口が増加に転じました。

ここまでは、2017年にNPO法人上士幌コンシェルジュさんを取材したときのお話です(「子育て支援が実り、十勝エリア唯一の人口増へ!」)

concierge_30.JPG広大な農地が広がる十勝エリアの上士幌町。気球のまちとしても知られています。

上士幌コンシェルジュは、町役場と連携しながら全国に上士幌町をPRするとともに、移住者や移住希望者へのサポートを積極的に行ってきた、いわば上士幌移住プロジェクトの立役者。あれから6年、いまは新しいメンバーの方たちが活躍していると聞いて、再び上士幌を訪ねてみました。ますます幅を広げる上士幌コンシェルジュの現在の活動や、東京や関西からの移住者のみなさんの、実感のこもった経験談もお話しいただきました。大都市圏からの移住を検討している方には、特に読んでいただきたいレポートです!

concierge_2.jpgこちらが今回伺った上士幌情報館です。

地域交流や商品開発の拠点「豊岡ヴィレッジ」

十勝エリア北部にある上士幌町は人口5,000ほど、畑作や酪農、林業といった第一次産業が盛んなまちです。公共牧場として日本一の広さを持つナイタイ高原牧場があり、町内の牛の数は人口の8倍の約4万頭。近年では環境省の「脱炭素先行地域」に指定され、家畜のふん尿を利用したバイオマス発電などで、エネルギーの地産地消を目指す取り組みが注目を浴びています。

取材班は、上士幌コンシェルジュのサテライスオフィスであり、特産品販売や観光案内も行っている「かみしほろ情報館」を再訪しました。

2010年に設立したNPO法人上士幌コンシェルジュのメイン業務は、町役場からの委託事業「移住・定住の窓口とお試し暮らしモニター運営」「ふるさと納税の返礼品発送などの推進業務」。それに加えて、2019年には自主事業として交流スペース「豊岡ヴィレッジ」を町内にオープンしました。そのほかにも、地元特産品のECサイトの管理・運営などを行っています。

concierge_3.jpg旧豊岡小学校を活用した豊岡ヴィレッジ。

新たにオープンした豊岡ヴィレッジでは、どのような活動をしているのでしょうか。シニアマネージャーの若藤和尚(わかふじ・かずひさ)さんが説明してくれました。

「長いあいだ使われずにいた旧豊岡小学校を、地域ストックの活用として交流スペースに改装しました。木々に囲まれ川も流れる静かな場所で、訪れた方がくつろいで過ごせるように校庭を整備しています。建物内には町民の方々からの寄付によるマンガ本約千冊がおいてあり、自由にゆっくりと読んでいただけます。週末食堂やカフェの営業、ワークショップやイベントなども行っています。地元の農産物を使った商品開発も行っていて、オリジナルのドレッシングやケチャップも販売しているんですよ」

concierge_4.jpgこちらが若藤和尚さんです。

ふるさと納税では、生産者の商品開発もサポート

ふるさと納税の業務は返礼品の発送がメインですが、商品を提供する事業者さんの相談に乗ったり、六次化商品の開発に関するアドバイスもしているそうです。

「加藤農場さんの4種のジャガイモを使ったコロッケや、ゴーシュ羊牧場さんの『小羊包(しょうやんぽう)』などを商品化しました。自分たちが育てた食材を使って、何かまちのために役立ちたいと思っている生産者さんが多いんです。私たちも一緒にアイデアを出し合ったりしてサポートさせていただいています」と、担当マネージャーの鈴木亜有子さんが話してくれました。 

concierge_5.jpgこちらが鈴木亜有子さんです。

上士幌町に子育てファミリーの移住が増える起爆剤となった、ふるさと納税の寄付金について尋ねると、「昨年は町内すべての小学校にエアコンを設置しました」とのこと。今年の夏は、北海道でも異常なほどの暑さに悩まされましたが、上士幌の子どもたちは快適な環境の中で過ごすことができたようです。

ふるさと納税の使い道は申し込み時に選べるのですが、「子育て・教育」を選ぶ人が多いといいます。

concierge_35.JPG上士幌町産の羊を使い、職人が一つ一つ手包みした小羊包。

子育て世代に注目される上士幌町の「Two-way留学」

上士幌コンシェルジュの大きな柱である、移住・定住に関する業務は、井田純子さんが担当しています。現在の移住の状況について、教えてもらいました。

「前任者の川村さんの時は『子育てのまち』として知られるようになっていましたので、子どもを持つ方やシングルマザーからの問い合わせが多かったそうです。私が担当になってからは、50代後半ぐらいの単身でお試し暮らしを希望される方が多くなっています。ご家族はいらっしゃるけれども、『まずは自分ひとりで上士幌に滞在してみて、良かったら家族で住もう』という感じでしょうか」

concierge_7.jpgこちらが井田純子さんです。

子育て世帯の移住で最近の特徴としては、上士幌町の「Two-way留学」が始まったことが大きいと井田さんは話します。この制度は、都市部に住む家族の子どもが住民票を残したまま上士幌町の小中学校に通えるというもので、一時的な移住や二地域間居住を希望する子育て世代に注目されているそうです。現在、数組のファミリーがこの制度を利用して上士幌に滞在しており、検討中の家族もいるのだとか。

東京や大阪の移住フェアや移住セミナーにもよく出向いているという井田さん。先日くらしごとでもご紹介した、無料職業紹介所を持つまちづくり会社「㈱生涯活躍のまち かみしほろ」の岩部さん、役場の担当者さんと一緒に行くことが多いといいます。

「職探しについて聞かれたら、岩部さんが相談に乗っています。何回も一緒に出張をしているうちに親しくなって、岩部さんの会社が入っている起業支援センターの「hareta(ハレタ)」にも行きやすくなりました。時には相談に乗ってもらったりして、とても良い連携が取れていると感じています」

concierge_34.jpg道外で開催している移住フェアの様子です。

移住に迷い続けるより、行動すればなんとかなる!

ご登場いただいた3人は、本州からの移住者でもあります。そこで、みなさんが上士幌町に移住したいきさつを伺ってみました。居住歴が長い順に、まずは鈴木さんにお話をお聞きしてみましょう。

「私は関西出身で、上士幌に来る前は10年間ニセコで働いていました。夫の仕事の都合で、6年前にこちらへ引っ越したんですよ。上士幌町の良いところは、イメージしていた通りの北海道らしいスローライフが送れること。帯広だと、私にはちょっと都会過ぎる感じですね」

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井田さんも関西出身で、関東の会社で20年以上働いた後、上士幌に来て4年になります。移住したきっかけは、母親との北海道旅行でした。旭川や富良野を回り、上士幌町のぬかびら温泉に泊まった井田さんは、このまちの良さに惹かれます。

「十勝に来たのは初めてだったんですけど、人が少なくて広々とした感じや、おいしい牛乳と乳製品が気に入って、ここに住みたいなと思いました。北海道といえば、ニセコのスキー場でシーズンバイトをしたこともあるんですけれど、あちらは住むというより観光地という感じでしたから。『どうやったらこちらに来られるだろう?』と帰りの帯広で見つけた情報誌や、ネット検索で見つけた移住サイトで調べましたね」

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そして、移住を決意した井田さんは職場に退職を申し出ます。それから、十勝管内の移住相談ができる帯広市東京事務所を訪ねました。上士幌で家を決めてから仕事を探して...と計画していた井田さんは、その際に重要なアドバイスを受けます。

「借りる家と仕事は一緒に見つけたほうがいいと言われたんですよね。『借りる家を決めた後に仕事を探すと、通勤距離がひどく遠くなってしまう場合があるから』というのが、その理由でした。どうしようと思って調べてみたら、上士幌町には『お試し暮らし』という制度がある。まずは生活体験住宅で暮らしてみようと思い、申込書を送りました」

concierge_32.JPG短期から中長期まで滞在ができる生活体験住宅がそろっています。

その後に、上士幌町からのメールで東京での移住セミナーに参加、町役場の担当職員さんや上士幌コンシェルジュの川村さん、そして移住経験者の方々と知り合います。1年間の生活体験期間では、移住者や町民が月1回夕食を持ち寄って交流する「誕生会」で声を掛けられたのをきっかけに、豊岡ヴィレッジでボランティアを、さらには生活体験住宅の清掃などのアルバイトを経験しました。お試し暮らしを終えた翌4月に、上士幌コンシェルジュの職員になりました。

それから3年。移住担当の仕事の面白さを聞くと「私もそうでしたが、移住って人生の大きな転機ですよね。いろいろな方のライフイベントに関わることができるのは、とても貴重なことだと思います」と語ってくれました。

concierge_9.jpg日本一広い公共牧場であるナイタイ高原牧場。

移住を検討している人へのアドバイスについては、このように答えてくれました。

「私自身、いきなり会社を辞めて移住したのは無謀だったかもしれません。それでも、『なんとかなるよ!』とお伝えしたいですね。生活体験をされる方のなかには『あと10年若かったら移住していたんだけどなあ』と言って帰られる年配の方もいらっしゃいます。そのように後悔されるよりは、早めに決断するほうが、楽しめることは増えますよって言いたいですね」

まずは、行動してみること。自らの体験をたどるように、何度もうなずきながら話す井田さんです。

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数字を追いかける日々から「人の顔が見える仕事」を求めて

「僕は、移住をするというよりも、やりがいのある仕事を求めて上士幌町に来たという感じですね」

そう話すのは、全体を統括するシニアマネージャーの若藤さん。東京では、新聞社の広告・販売部門で働いていたそうです。

「ずっと数字を追いかける仕事でした。50歳を過ぎて、親や子どもの心配もなくなったころから、人の顔がちゃんと見える仕事をしたいと思ったんですね」と若藤さん。ひとやまちの幸せに貢献できるソーシャルビジネス的な仕事を求めて、沖縄や長野などでも仕事の面接を受けたそうです。

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上士幌コンシェルジュの仕事に就いた若藤さんですが、東京でのビジネスのやり方との違いに気づいたところがありました。

「前の仕事は数字を追いかけるために、かなりのスピード感を持って動いていました。けれども、ここでは実際にいろいろな方とお会いして、顔を突き合わせて仕事をするので、スピードは出ないわけです。その代わり、ひとつひとつが動き出せば、確実に進んでいく。車に例えると、ギアは上がっていないけれどもトルク(回転させる力)は強いような気がします」

数字を追いかける仕事は、長年働いていればある程度テクニックでできてしまう。いまは、人と一緒になって仕事のひとつひとつをしっかりと進めていくことに、やりがいを感じているといいます。

concierge_16.jpgちょうど取材中にも町民の方が、イベントポスターの掲載のお願いに来られていました。

地元の人とのつながりで、仕事も暮らしも良いほうに動く

「上士幌コンシェルジュでは、綿貫さんの存在が大きいんですよ」と、若藤さん。

実は、取材に同席していた職員の方がもうひとりいらっしゃいました。上士幌コンシェルジュで、唯一地元育ちの事務長、綿貫光義さん。上士幌町役場を定年退職後、再雇用などで65歳まで勤めました。

concierge_17.jpgこちらが綿貫光義さんです。

「辞めた後はもう何もしないって思っていたら、こちらに引っ張られてきて...」と、こぼす綿貫さん。「すごいんですよ、綿貫さんは上士幌のことは何でも知っているんです」と井田さん。「私がこちらに来るときは住まい探しに苦労したんですが、綿貫さんに話して賃貸の一軒家を見つけてもらいました」と、若藤さんは感謝しながら言葉を続けます。

「上士幌コンシェルジュのスタッフは全員が移住者なんですよ。そのなかで、上士幌をよく知り、地元の人をつないでくれる綿貫さんの存在は本当に大きくて、仕事が上滑りしてしまうことがないんです。先ほど車に例えましたが、まさに綿貫さんがギアを1段下げながら、しっかりとトルクをかけて着実に進めてくれるんですよね。とても頼りにしています」

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若藤さんの、移住を検討している人へのアドバイスも、地元の人とのつながりを大切にするというものでした。

「このまちをつくってきた地元の方たちは、私たちの『先輩』なんですね。移住者同士のコミュニティーも大切ですけれど、地域の方たちにリスペクトを持って相談やお願いなどをすれば、綿貫さんのようにこたえてくれる。あまり移住者ということを意識しないで、隔たりなくお付き合いをしていくことがとても大事だと実感しています」

最後に、上士幌コンシェルジュの将来像について若藤さんが話してくれました。

「上士幌コンシェルジュの大きな3本柱、移住窓口とふるさと納税、そして自主事業の豊岡ヴィレッジをうまくつなげていけたらと思っています。上士幌町に移住してきた方が、例えばふるさと納税の事業者さんとつながって仕事が得られるようになり、豊岡ヴィレッジも大きくなることで暮らしの豊かさに貢献できる。そのようになれればと考えています」

ひとつひとつを、着実に。上士幌コンシェルジュを核にしたまちづくりが今後も期待できそうです。

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NPO法人上士幌コンシェルジュ
住所

北海道河東郡上士幌町字上士幌東3線231番地 かみしほろ情報館内

電話

01564-2-3993

URL

http://kamishihoro.net/


「3つの柱」でまちづくりを活性化。上士幌コンシェルジュ

この記事は2023年10月27日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。