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まちおこしレポート
上士幌町

町民の可能性のたねを育てる。(株)生涯活躍のまちかみしほろ20230110

町民の可能性のたねを育てる。(株)生涯活躍のまちかみしほろ

北海道十勝地方の北部にあるまち・上士幌町。日本一広い国立公園である大雪山国立公園の東山麓に位置し、町内の約76%を森林が占める自然豊かな町です。
基幹産業は、大自然の恩恵を活かした畑作、酪農、林業ですが、その一方で、ぬかびら温泉郷や日本一広い公共牧場であるナイタイ高原牧場、北海道遺産にも選定されている旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群など、観光業も盛ん。上士幌町の代名詞ともいえる北海道バルーンフェスティバル(熱気球大会)には、全国から多くのファンが訪れます。

そんな上士幌町は人口5,000人足らずの小さな町ですが、最近では50年ぶりに人口を増加させたまちとしても注目されています。ふるさと納税の寄付金を、認定こども園の完全無料化、高校生までの医療費免除などに活用し、子育てしやすいまちとして人気を集めたことが、その理由のひとつ。

さらに、上士幌町は「全世代型生涯活躍のまちかみしほろ」を掲げ、全ての世代が健康で充実した生活が送れるまちづくりを積極的に進めています。そのまちづくりの中心的な役割を担っているのが、「株式会社生涯活躍のまち かみしほろ」です。
上士幌町が多くの人に「住みたい」と思われるまちに進化してきた背景には、「生涯活躍のまち かみしほろ」が仕掛けてきた地道な地域コミュニティづくりがありました。

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大事なことは、しっかりとした地域コミュニティをつくること。

今回お話を伺ったのは、「生涯活躍のまち かみしほろ」で働く岩部栄美さんと渥美緑さん。
お二人自身も、地域おこし協力隊として上士幌町へ移住し、上士幌町のまちづくりに奮闘しています。

「株式会社生涯活躍のまち かみしほろ」とは、どんな会社なのでしょうか?

「上士幌町が目指す『全世代型生涯活躍のまちづくり』を実現させるために設立されたのがこの『株式会社生涯活躍のまち かみしほろ』です。行政の立場である役場が、行いたくても行えないこと、実行しようとすると時間がかかってしまうことなどを、スピード感を持ち、フットワーク軽く実行できる町の第三セクターとして、2017年9月に設立されました」

上士幌町役場では2017年7月に、「生涯活躍のまち 上士幌町創生包括プロジェクト基本構想」を策定し、上士幌町のだれもが健康で充実した生活を送れるようなまちづくりを進めてきました。その事業実行主体として、「株式会社生涯活躍のまち かみしほろ」が業務を担っています。
 
hareta_02.JPG上士幌町地域おこし協力隊である岩部栄美さん(左)と渥美緑さん(右)

特にまちづくりにあたって大事にしていることは、「地域コミュニティづくり」。

「上士幌町のような小さなまちでは、町民同士が心地よくつながり、助け合える『地域コミュニティ』がしっかり築かれていることがとても大切です。時代の流れとともに、町民同士の繋がりが希薄になってきたという課題を受け、当社がハブとなって地域コミュニティを改めて築いていこうというのが、全ての事業の根幹にあります」

子供も、学生も、高齢者も、主婦も、子育てする人も、働いている人も。
年齢やキャリア、立場などに関係なく、すべての人が生涯活き活きと暮らしていけるまち。そのためには、健康、仕事、交流できる環境など、さまざまなことが必要となってきます。それら必要なことを拾い、作り上げていくのが「生涯活躍のまち かみしほろ」の役目。 
「本当にいろんな業務を行っているので、何をしている会社なの?とよく聞かれるんですよ(笑)」と岩部さん。
それでは、「生涯活躍のまち かみしほろ」がどんな事業を行っているのかを見ていきましょう。

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仕事と人をつなぐ。誰もが役割を持つチャンスのあるまち。

■無料職業紹介所

生活をしていくためには、まずは「仕事」を見つけることが重要です。
そこで生涯活躍のまち かみしほろが上士幌町役場と業務提携して運営しているのが、無料職業紹介所です。

「上士幌町専門のハローワークという位置づけですね。上士幌町は(十勝地方の中心都市である)帯広市まで1時間かかりますし、帯広市のハローワークには上士幌町の求人はほとんど載っていないんです。だからこそ、自分たちのまちで上士幌町の仕事をちゃんと発信しようというのがこの事業のはじまりです」

今では上士幌町への移住を検討している道外の方を中心に、年間40件ほどの問い合わせがあるのだとか。

「あとは町民の方がふらっとやってきて、『こんな条件でこんな仕事ある?』と相談されたりもします。上士幌町の職業情報サイト『かみしほろ会社・仕事図鑑』を基にお仕事を紹介したりしています」

hareta_04.JPG電話や対面などで求職者の方のご相談に対応しています

■まちジョブハレタ

「生涯活躍のまち」を掲げる上士幌町ならではの取組みが、「まちジョブハレタ」という事業です。
「まちジョブハレタ」の前身は、シルバー人材センター。他地域にあるシルバー人材センターとは一歩進んだ取組みとして年齢制限を設けず、健康で働く意欲のある高齢者だけでなく、空き時間を活用したい主婦など、自分のスキルや経験を活かしたい全ての世代が活躍できる場として「まちジョブハレタ」がつくられました。

「まちジョブハレタは、『町民の困りごと』と『町民ができること』の出会いの場なんです。畑の草取りや落ち葉拾い、不用品の処分など、町民から依頼のあった困りごとを町民に解決してもらう。無料職業紹介所とは違い短期・単発のお仕事がメインで、もちろん賃金は発生しますが、お仕事重視というよりも町民同士の共助の仕組みをつくることが目標なんです」

「70歳を超えているおじいちゃんが活躍されたりしているんですよ」と担当の渥美さん。高校生が夏休みなどの休暇中にイベントのお手伝いをしたりすることもあるのだとか。どんなに小さなことでも、自分の「できること」で誰かの困りごとを解決できるのは、誰だってうれしいもの。そうして人の役に立てることは、自分の居場所ができることでもあります。
これも、上士幌町の地域コミュニティが築かれる仕組みのひとつとなっているようです。

hareta_05.JPG誰でも登録可能なWEBサイトで気軽に利用できるのもポイント

町民の可能性の種を発掘し、育てる。まちも町民も進化していく理由。

上士幌町には、無料職業相談所やまちジョブハレタのような、お仕事と人をつなげる仕組みだけでなく、お仕事を「作る」仕組みもあるのがユニークなところです。

■ハレたね企画

「ハレたね企画」は、町民一人一人の趣味や特技などの「可能性のたね」を活かした、町民のチャレンジを後押しする事業です。

「上士幌町の皆さんは、いろいろ趣味や特技を持っている方が多いんです。でもそれを家族や友人同士といった限られた範囲で楽しんでいるだけで、ご自身の『可能性のたね』に気づいていない方がほとんどで。そこで、『その趣味や特技を活かして、町の方々に向けたイベントにチャレンジしてみませんか?』と背中を押すのが私たちの役割です。起業とまではいかなくても、まずは自分のできることにチャレンジの初めの一歩を踏み出す町民の方たちに伴走しながら、企画を進めていきます」

生涯活躍のまち かみしほろの事務所が入っている交流施設「hareta(ハレタ)」のスペースも活用しながら、これまで、主婦の方が料理の腕を活かして食堂を開いたり、会社員時代に世界中を旅した方が写真展を開いたり、さまざまな町民のチャレンジが実現されてきました。

「将来、飲食店を開いてみたいけどまだちょっとハードルが高いな、という町民の方には、ハレタで期間限定のチャレンジカフェを運営していただくことも可能です。上士幌町のような小さな町では、大きな企業を呼んで雇用を増やすよりも、町民が既に持っている『可能性のたね』をちょっとずつ芽吹かせて生業(なりわい)化させていく方が、まちが本当の意味で元気になるという考えで、この事業が始まりました」

hareta_06.JPG取材時にもharetaの中にチャレンジショップが開店していました

■かみしほろ起業塾

さらに町民の趣味や特技から、本格的なビジネス化に向けた後押しするのが「かみしほろ起業塾」です。「起業塾」の名のとおり、中小企業診断士である講師の講義を通して起業について学び、実際に事業計画書を作成していきます。

「『やりたいことがあるけど、何から手をつけたらいいかわからない』、『ビジネスの構想が実現可能なのか検証したい』など、起業に興味のある町民に対し、専門家より事業計画所の書き方からびっちり教えてもらいます。受講生は最後に自分の事業についてプレゼンをして、そこで最優秀賞・優秀賞を獲得した方は、開業資金の補助を受けることもできるんです」

起業塾からはこれまで、スパイス製品ブランド(以前、くらしごとでご紹介させていただいた「クラフトキッチン」さん)やお豆腐屋さん、民泊の立ち上げや、助産師の資格を活かした産前産後の子育て支援事業など、町民の趣味や特技、キャリアを活かした多様なビジネスが生まれてきました。

こうして上士幌町で、町民たちが、自分の輝ける役割や場所を見つけていく。そのことによって、さらに住みやすい環境やサービスが充実し、新たなコミュニティが生まれていく。
この循環が、みんなが住みたくなる上士幌町が少しずつ築かれてきた理由のひとつなのかもしれません。

CraftKitchen_6.JPGクラフトキッチンさんの「旅するスパイス」は起業塾から生まれました

誰もに役割と居場所があるまちをめざして。

生涯活躍のまち かみしほろの事務所が入っているharetaを見渡すと、カフェコーナーがあったり、町民のみなさんの手作り品が売られていたり、誰もが気軽に立ち寄れるアットホームな空気に満ちています。

特別呼びかけたりしなくても、いろんな世代や立場の人たちが集まってくるのが、ここharetaなのだとか。こうして自然発生的に地域コミュニティができる環境、誰もが集まれる居場所をつくることも、生涯活躍のまち かみしほろの役割です。

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さらに、このharetaの2階はシェアハウスとしても使えるようになっていて、「MY MICHI(マイミチ)」という事業で上士幌町にやってきた若者たちの滞在拠点になっているのだそう。(※シェアハウスは一般的な宿泊施設としては開放されていません)

「MY MICHI(マイミチ)は、20代・30代の若者をターゲットにした『おとなの体験留学』です。1カ月間の滞在期間中、上士幌町の大自然の中で仲間と共に遊び・学び・働いてもらって、上士幌町を丸ごと体験してもらいます。この体験留学を通して、上士幌町に残りたいって言ってくれる若者が多くて。実際に地域おこし協力隊になった方もいらっしゃるんですよ。みんな上士幌町のことを大好きになってくれて、すぐに『ただいま〜!』って戻ってきてくれるんです」

町民だけでなく、北海道外の人々をも温かく迎え、魅了している上士幌町。この町に住む人たちが活き活きしていること、誰もを受け入れてくれる居場所があること。その居心地のよさと安心感が、多くの人を惹きつける上士幌町の魅力なのかもしれません。

hareta_08.JPG2022年には第8期までが実施され、それぞれの期毎に撮影したフォトブックが制作されています

ここまで、生涯活躍のまち かみしほろのお話を伺って、上士幌町がたくさんの方々に愛される理由が垣間見えたように思います。

何より印象深かったのは、この会社で働く岩部さんと渥美さんが、町民の方々や上士幌町に関わる方々に、大きな愛をもって接しているということ。

「上士幌町での仕事を探したり、つくったり、町民の皆さんのチャレンジを応援したり。いろんなことをしているけれど、その目指す先は全て『誰もが生涯活き活きと活躍できるまち』です。そのために、より町民が来やすい場所、町民に近い場所であること。それが当社の存在意義なんです」

このように地域に密着し、町民に寄り添う生涯活躍のまち かみしほろだからこそ、たくさんの可能性のたねを見つけ、地道に育ててくることができたのでしょう。そのたねが今、どんどん芽吹いているようです。

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株式会社生涯活躍のまち かみしほろ
住所

北海道河東郡上士幌町字上士幌東3線235番地6

電話

01564-7-7630(営業/8:30~17:15)

URL

https://kamishihoro-town.com/


町民の可能性のたねを育てる。(株)生涯活躍のまちかみしほろ

この記事は2022年9月28日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。