HOME>まちおこしレポート>地域のために!人手不足の農業・運送業へ働き手を派遣

まちおこしレポート
名寄市

地域のために!人手不足の農業・運送業へ働き手を派遣20230921

地域のために!人手不足の農業・運送業へ働き手を派遣

地方の人手不足対策として、全国で注目されている総務省の「特定地域づくり事業」。
組合を立ち上げて「マルチワーカー」を採用。そのマルチワーカーが季節ごとに人手を必要とする会社や団体へ行って働いてもらうという新しい労働者派遣の形です。くらしごとでも、中頓別町や、石狩市での取り組みを取材してきました。

北海道北部の名寄市でもその特定地域づくり事業をスタートしています。特長は、派遣先が農業とドライバー業という異色の組み合わせであるということ。いずれも人手不足に悩んでいる業種ではありますが、なぜこのような組み合わせを選んだのでしょうか?

「なよろ地域づくり事業協同組合」がどのように生まれ、実際にマルチワーカーが農業とドライバー業でどのように活躍しているのか、現地へ伺い取材してきました。

繁忙期が逆の農業と運送業を組み合わせ、人手不足を補う

nayoro_kumiai_4071.jpg
はじめに訪れたのは「なよろ地域づくり事業協同組合」。まずは組合の成り立ちから聞かせていただきました。

道北地方の各地への拠点・鉄道の分岐点として古くから栄えた名寄市に2022年、激震が走りました。市内で長年操業してきた大手製紙工場が閉鎖されたのです。
大きな職場がなくなるということは、名寄から人が流出してしまうということに繋がります。そうした状況に危機感を覚えた名寄市はなんとか市内に雇用を創出しようと奔走しました。

そんな中で工場退職者の受け皿の1つとして着目されたのが「地域づくり事業」の制度。マルチワーカーとして働き、地元に残って貰いたいー。という思いから、話が進み始めます。

名寄市の主要産業は農業。名寄市役所からなよろ農協へと「特定地域づくり事業」をやらないかと声がかかりました。

nayoro1_murakamisan_4048.jpgなよろ地域づくり事業協同組合の理事を務める村上 清さん

「農協も人手不足で困っていたんです。田植えや収穫など繁忙期に人手が足りないのですが、かといって通年の雇用を維持するのは難しい。10〜15年以上前であれば、農家の若い人が農協の設備を動かして手伝ってくれたんですが、いまはその人達が経営者になっているので手伝ってもらうこともできません。繁忙期だけ人材派遣会社に依頼したこともありましたが単価が高いのが悩みの種でした。
そんな状況の中で名寄市から特定地域づくり事業組合をつくらないかという話がもちかけられたのです。事業の枠組みを聞き、人材派遣ができれば助かると参画を決めました」

そう語るのは、なよろ地域づくり事業協同組合の前代表理事で、現在は理事を務める村上 清さん。村上さんは道北なよろ農業協同組合の代表理事組合長と、らくみらんど株式会社(後述)の代表取締役も務めています。また、事務局を務める寺田 勝志さんも農協の出身です。

農協が中心となり、農協の子会社の子牛の育成施設(らくみらんど)、タクシー会社2社、観光バス会社の5社が出資して、「なよろ地域づくり事業組合」が発足しました。

村上さんはなよろ農協で代表理事専務とのなよろ地域作り事業組合代表理事を兼務し、農協出身の寺田さんが事務局に就きました。

そこで気になるのは、農業と運送業(タクシー・バス)という異色の組み合わせがなぜ生まれたのかということ。

名寄市では地域づくり事業協働組合を発足するための準備として、いろいろな事業所にヒヤリングを実施したそう。するとタクシー会社、観光バス会社のドライバーが足りないという事情がわかり、さらにそれらドライバー業の繁忙期は冬だったのです。

「春〜秋に忙しい農協の業務と、冬にドライバーが欲しいバス・タクシー会社。この2つの仕事を組み合わせることで、1年を通して人を雇える状況が作れます。また『特定地域づくり事業』は総務省の事業とあって、公共性の高さも重視されますが、そういう点でも公共交通であるバス・タクシーはピッタリでした」と村上さんはいいます。

そうして農業と運送業の市内企業へマルチワーカーを派遣する「なよろ地域づくり事業協同組合」が始動したのが、2022年4月のことでした。

「人によって組み合わせは多少変わりますが、夏場は子牛のシーズンなので育成牧場で働いてもらい、7月〜11月頃までは収穫後の大豆・小麦・米など収穫物の施設へ。12月〜3月くらいはタクシー会社でドライバーとして走ってもらう、というように1年の仕事を組み合わせて働いてもらっています」と事務局の寺田さん。

nayoro1_teradasan1159.jpg事務局の寺田 勝志さん。実家が農家のため、人手不足の悩みがよくわかると話してくださいました

「特定地域づくり事業」の目標の1つに、働く人のキャリアアップがあります。なよろ地域づくり事業協働組合では必要な免許について取得からしっかりバックアップしています。

寺田さんによると「農協ではフォークリフト、大型特殊、タクシー会社だと二種免許などの免許が必要になります。もし入社前に持っていなくても組合で費用を負担し、免許取得をバックアップします。
現在のスタッフにはフォークリフトを運転してもらっていますし、そこで経験を積めば、乾燥施設のオペレーター免許も取れますので、ぜひ挑戦して欲しいと考えています。
タクシー・バス会社では普通、大型、大型特殊、各種の二種免許など必要な免許がありますが、その取得についても組合で支援しています」とのこと。

そして、様々な仕事を身につける苦労についても、

「たとえばタクシー会社では、就業したての1、2年目で収入を上げるのはなかなか大変だと聞きます。その点、事業組合であれば正職員として固定給を支払いますので、未経験の方も安心してチャレンジしてもらえますね」と村上さんはいいます。
組合ではそのほかの労働条件も農協に準じており、福利厚生も整っていています。こうした安定した環境で、様々な免許を取得しスキルを身につけることができるのです。

人材派遣について、人材募集から年間スケジュール設定まで管理全般を担当する寺田さんは

「組合の企業向けの派遣、季節毎に違う業種に就く、というのが求人票ではなかなか伝えづらいですね。季節毎に違う仕事をするとはいえ、基本の派遣先は決まっているので、季節毎に同じ場所に行くキャリアも、人との関係なども積み上げていけるんですよ」といいます。

「受け入れ側としても、イチから教え直すわけではないので助かりますし、米や麦の施設の乾燥施設であれば、出荷しにくる農家さんと顔なじみになれば仕事もやりやすくなります」と村上さん。

さらに寺田さんは「バスの運転も、慣れるまではスキー教室の小中高校生を市内のスキー場へ送迎する業務をメインにしていただきます。地元の農家さんも冬の閑散期はドライバーをやってたりするんですよ」というから安心です。

村上理事長が「名寄は農業関係の仕事が多いのですが、どんな業種も人手不足。だからといって名寄市内や近隣地域で人材を奪いあっても先がありません。人材の確保のためには道内だけでなく道外にも目を向ける必要があると考えています」と思いを聞かせてくれました。

今後の目標をと尋ねると、村上理事長が

「まずは派遣スタッフの人数を確保することですね。現在、社員は2名。いずれも製紙会社を退社した人達です。できればもっとスタッフを増やしていき、その派遣先としての組合企業も拡充していきたいと思います。
年齢制限は設けず、二種免許が取れる方ならどなたでもチャレンジしていただけるよう門戸を広げています。もし本人が派遣先の仕事に向いている、やりたいと思ったらその派遣先企業に正社員として入社するという支援していくつもりです」とのこと。

人材を派遣することで地元企業を支え、また、派遣スタッフのキャリア形成も見据えてバックアップしていく、という組合としての強い思いが伝わってきました。

農協で受け取った収穫物の作業を、マルチワーカーが担う

nayoro1_JAmain_4187.jpgなよろ農協にて。左が近藤係長、右が佐藤部長です


続いて、派遣先企業のお話も聞いてみましょう。
名寄の主力産業である農業を支える、道北なよろ農業協同組合。今回の「なよろ地域づくり事業協同組合」発足の礎であり、またスタッフの派遣先でもあります。営農販売部の部長 佐藤 昌規さんと、農産課農産係 係長の近藤 恭平さんがインタビューに答えてくれました。

農協でも人手不足だったんですか?という単刀直入な質問に、佐藤さんがこう答えてくれました。

「農協では米・小麦の乾燥施設を持っており、機械操作をする人員が必要なんですが、収穫物の乾燥作業なので稼働する季節が限られており、通年で人員を雇用できないんです。以前は農家の後継者さんが作業を手伝ってくれていたのですが、いまはその人達が経営者として多忙になってしまって...」

その穴を埋めようと、派遣会社への以来も検討しましたが短期間の仕事ではなかなか人材が見つからず、またフォークリフトの資格を持つ人を派遣してもらうのも難しかったのです。そんな悩みを抱えるなか「特定地域づくり事業」の話が出てきました。

nayoro1_soko_4201.jpg農協ではフォークリフト操作も業務のひとつ

「お互いに必要な時期に人手をシェアできる市内の企業を探したところ、タクシー・ハイヤ、バス会社、子会社の育成牧場が集まり、共同組合を結成することになりました」と佐藤さん。

現在、派遣スタッフ2名は日勤で荷物の受け払い、施設内の調整作業などを担当してもらっているそうで、

「農協の乾燥施設は24時間稼働なので、交替制のシフトにする必要があり、さらに休日もしっかりとってもらう必要があるんです。そのためにも人員が必要なので、派遣スタッフが入ってくれるようになってとても助かっています」と近藤さんは話します。

今後の展望、目標を伺うと、佐藤さんは

「閑散期にシェアしてくれる会社さんがいればまだ人員は欲しいですね。もし人数が増えてくれば、農協内で他の仕事をお願いすることもできます。例えば肥料・農薬・段ボールなどの生産資材を農家さんに届ける仕事は田植え前の4〜5月頃が繁忙期。ですのでその仕事に回ってもらうということもできます。同時に、忙しいときに都合良く手伝ってもらうだけではなく、派遣スタッフにスキルを身につけ、キャリアアップしてもらうのも事業の目的です」

と語ってくれました。

次の記事では「なよろ地域づくり事業協同組合」から企業へ派遣されている現場へ!派遣スタッフさんと企業担当者へインタビューします。

【名寄市】農業・酪農業・ドライバー業で活躍し地域を助けるマルチワーカー

なよろ地域づくり事業協同組合
住所

北海道名寄市大通南3丁目14番地

電話

01654-3-4190


地域のために!人手不足の農業・運送業へ働き手を派遣

この記事は2023年9月10日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。