前回の記事でご紹介した「なよろ地域づくり事業協同組合」
前回記事はコチラ→【名寄市】地域のために!人手不足の農業・運送業へ働き手を派遣
実際に派遣されているスタッフさんにお話を聞きに、現場へ伺いました。
未経験から酪農・農協の仕事に従事。今冬からタクシードライバーにも挑戦!
まず始めに訪れたのは名寄市内の丘の上にある育成牧場。自社や酪農家さんから預かった育成牛に種付けし、出産直前までまとめて管理することで、各酪農家さんの労働軽減を行っています。なよろ地域づくり事業協働組合の組合員である、らくみらんど株式会社が運営しています。
夏の間、そこへ派遣されているのが遠藤貴幸さん。育成牧場では牛を集めて、種付けなどの状況をチェック。放牧して、掃除などがいまの主な業務です。
遠藤さんは名寄の隣にある下川町の出身。名寄市内にあった製紙工場に30年近く勤めていましたが、2021年にその工場が閉鎖になってしまったのです。閉鎖にあたっては別の勤務地へ異動するという道もありましたが...
「名寄市内に自宅もあり家族もいましたので、名寄市に留まることに決めました。地元で仕事を探そうと出向いた工場退職者向けの就職説明会で、なよろ地域づくり事業協同組合に出合いました。発足したばかりの組合だったので、人間関係など含めて最初から始められるのがいいなと思い、チャレンジすることにしたんです」
と遠藤さん。そうしてマルチワーカーへの道を歩み出しました。冬はらくみらんどが運営する哺育センター勤務から始まり、夏は育成牧場、秋には農協のライスセンター(玄米の出荷施設)で働きます。現在派遣されている育成牧場については
「酪農の仕事は初めてですが、幼い頃に自宅で馬を飼っていたので、牛が怖くもなくやれていますね。一緒に働く先輩はとても経験豊富で、牛を見れば発情がきているかわかるんですよ。いまはその先輩の仕事を見ながら学んでいる最中です」
秋からの派遣先は農協の運営するライスセンター。そこではどのようなお仕事をしているのでしょうか?
「秋に農家さんが収穫して持ちこむ玄米を受け取って、電光選別機で選り分け、ライスグレーダーで調整し製品化するという施設です。自分はフォークリフトに乗ってお米の出し入れを行っています。調整作業の機械は触ってはいませんが、将来的にそれもできるようにしよう、と説明を受けています」
調整作業を行うには資格が必要。その資格取得のためには3年の現場経験が必要なので、いまはその経験を積んでいるところです。
冬の仕事について、組合からは「今年から遠藤さんにはハイヤー会社へ行ってもらいたい」という話がありました。タクシードライバーとして勤務するために必要な普通自動車二種免許は、組合が費用を負担し取得する予定です。名寄市内に自動車教習所があり仕事終わりに通えるということで、昨年は大型特殊と建設機械の免許を取得したそうです。
このように経験を積み、免許取得するなどステップアップを続けていく遠藤さん。
季節ごとに違う職場に行くという働き方に苦労はないですか?と訊ねると、
「派遣先の人間関係にも恵まれて、皆さんいい方ばかりなのでとても働きやすいです。身体を動かして働くのは気持ちが良いですし、一日があっという間に終わりますよ」と笑顔です。
長年勤めたお仕事からの転職でしたが、収入の面ではどうでしょうか?
「前職は大手企業よりは下がりましたが、いまの給与も名寄では妥当な金額だと思います。名寄市から補助金ももらえますし、今年は固定給に加えて手当(ボーナス)も出ますので生活はなんとかなっていますね」
時間外手当もきちんと支払われます。牧場とタクシー会社では時間外勤務はほとんどありませんが、農協の施設では時間外勤務もあるといいます。定時で上がって自分の時間を大切にしたり、時間外の手当で少し稼げたり...1年の間でもメリハリのある働き方ができますね。
遠藤さんに今後の目標を訊ねると、
「まずは数年は頑張って仕事に取り組み、ひとつでも多く身につけて行きたいと思っています」
とまっすぐな目で答えてくれました。
ベテランスタッフをお手本に酪農を学べる「らくみらんど」
遠藤さんが夏の間派遣されている「らくみらんど株式会社」は酪農家さんから子牛を預かって育てる、哺育・育成の施設。2021年4月にオープンして以来、1箇所に集めて行うことで酪農家さんの負担を軽減しています。現在、4ヘクタールの敷地で260頭ほどの牛を育てているという大型の施設です。
取締役センター長の齋藤祐次さんに「なよろ地域づくり事業協同組合」からの派遣についてお話を伺うと、
「ここはシーズンは関係なく通年人手が必要という施設です。2021年のスタート当初は牛もいなかったのでそれほど困っていませんでしたが、翌年の2022年からはなよろ地域づくり事業協同組合がスタートし、昨冬から遠藤さんに来てもらいました。らくみらんどの育成施設では重機を使って除雪してもらいました。敷地が広いのでとても助かりましたね」
そして、季節が変わると派遣場所も変わります。らくみらんどの場合は
「春〜夏場は育成牧場に行ってもらっています。8月からは遠藤さんは農協の仕事に就くことになりますが、ウチもちょうど秋からは牛の頭数は徐々に減っていくんです。ちょうど忙しい8月まで遠藤さんにやってもらえるのはとても助かっていますね」と齋藤さん。
遠藤さんが持っていた大型特殊の免許が活かされていますね。今後、遠藤さんにお願いしたいことは?と尋ねると
「これまで、広い外まわりの除雪をやってもらっていましたが、重機の取り回しになれてきたら外よりもちょっと狭い中側の除雪もお願いしたいと思っています」という期待の言葉が。さらに、
「哺育センターでの除雪や除糞などの作業を派遣された遠藤さんが担ってくれるので、らくみらんどの社員が本来業務である哺育・育成の観察業務に集中して時間をかけることができます。そこから技術アップにつなげられると期待しています。
牧場では放牧していますので除糞などの作業はありません。電気牧柵などの設備を管理をしながら牛をゆっくり見ることができる環境ですので、一緒に働くベテランスタッフから学び、身につけることができると思いますよ」
遠藤さんも「人間関係もよく、いろいろ教えてもらっています」といっていました。未経験からでも酪農について学び、成長していける環境が整っているようです。
夏は農協施設で、冬はタクシードライバーとして活躍
「なよろ地域づくり事業協同組合」には遠藤さんのほかにもう1名、派遣スタッフがいます。現在タクシー会社に派遣されドライバーとして活躍している鈴木𥙿治さんと、派遣先の名寄交通株式会社 常務取締役の田中誠一さんにお話を伺いました。
鈴木𥙿治さんは地元・名寄市の出身。高校卒業後は札幌に1年、そして旭川で壁紙、床などの室内装飾のお仕事をしていたといいます。その後、遠藤さんと同じ製紙工場に勤めて、閉鎖の憂き目にあいます。鈴木さんもまた、他の街への異動を選ばず、名寄に残るという選択をした一人です。なぜ?と問うと
「名寄に自宅もあり、家族もいるからですね。娘が地元で進学していたというのも理由のひとつです」と鈴木さん。家族がいて、地元に根を張っているからというのは遠藤さんと同じようです。
「なよろ地域づくり事業協同組合」のことは、工場勤務時代に紹介されて知ったといいます。
「農業とドライバーとを組み合わせて働く形であることを聞き、運転がキライじゃないのでいいなと思ったんです。工場では大型車に乗っていたので、大型と大型特殊免許を持っていたんですよ。
地域づくり事業協同組合に入り、名寄交通に派遣されることになって二種免許を取得。ドライバーとして勤務を始めました。6月いっぱいはドライバー、7月から11月までは農協の乾燥施設に行きます。冬には名寄交通にまた戻ってきたいと思っています。使って頂けるのであれば...」
という鈴木さんに
「戻ってきてよ、待ってるよ!」と常務取締役の田中さんが笑顔で答えます。
「鈴木さんが帰ってきてくれるなら、また一から教育する必要もないので助かります。鈴木さんは頭がよくて、すぐに理解してくれるから」と絶賛。
さらに田中さんは「名寄交通には季節乗務員という雇用形態もあります。農家さんで冬だけドライバーとして働く、という人もいるんですよ」といいます。
北海道でドライバーの仕事につくと、どうしても避けられないのが冬道運転。鈴木さんに、名寄に長年住んでいらっしゃるということですが、冬道の運転はいかがですか?と聞くと、
「路面状況が違いますし、慣れない中での運転なので、お客様を乗せるとなると全然違いますよね。
絶対に事故を起こしたくないという気持ちですし、住んでいるとはいっても、住所をすべて記憶して
いるわけではないので、お客様に言われた住所にちゃんと送っていけるのかという心配もあり、余計なことを考えて事故に繋がってはいけないと気を付けていますね」
とのこと。そこで助けになってくれるのが、名寄交通のタクシー全車に搭載されている無線とGPS。
田中さんいわく「道がわからなくなったらすぐ無線で会社に聞けますし、会社はGPSでタクシーの位置を把握して無線で的確に案内できます。それに、名寄では乗車したお客さんが自ら、そこを右に行って、左に行って...と道案内してくれることが多いんですよ」
タクシー業務ではいろいろなお客様とコミュニケーションをする機会があると聞きますが、鈴木さんに常連さんから指名が入ることもあるのでしょうか、と問いかけると
「まだそこまでのレベルには達していません。いままでの仕事では接客業務が一切なかったのですが嫌いではないので楽しみながらやらせてもらっています」
と謙遜しますが、ハキハキと笑顔でお話される姿はとても接客未経験とは思えないほど。田中さんは「いろんな人と話す機会が増えたから、自分の地が出てきて明るくなっきたのかも」といいます。名寄交通ではどのようなお客様の利用が多いのでしょう?
「若いお客様は駅まで行くために乗車、高齢の方は病院、中年の方は買い物...と世代によって使っていただいています。年輩の方、足腰の不自由な方も多いですね。車いすのアシストについても、研修で教えてもらいましたね。実際に人が乗った車いすで実地で練習もしました」と鈴木さん。
タクシードライバーと、農協施設での仕事へ季節ごとに携わるマルチワーカーという働き方、鈴木さんはどのように感じているのでしょうか。
「間隔が開くので、次に戻ってきたときの不安は少しありますね。夏になると乾燥施設に行きますが、しばらくぶりに戻るとボタンなどの操作が多いので『大丈夫かな?』とちょっと心配。でもタクシーでも、農協施設でも皆さん教えてくれるので助かっています」
気になる収入や暮らしについても、率直に聞いてみました。すると
「前職に比べると収入は減りましたが、頑張っているところです。タクシー乗務の際も歩合ではなく固定給。冬場は忙しいが夏は暇になるということを考えると自分の現状ではこの形がいいのかなと思います。
名寄の町は都会ではないですが、以前住んでいた札幌や旭川に比べてもなにもない、逆にいうとゴチャゴチャしていないので暮らしやすいですね。生活に困ることはありません。ネットで買い物もできますし、なにか必要なことがあれば旭川まで行けますしね」と教えてくれました。
田中さんも「名寄は過ごしやすいですよ。人が優しく、隣近所の交流もあってわきあいあいとしています。こんにちは〜ってあいさつもするし、子どもが生まれたらかわいいね〜って声を掛けたり。冬なら近所のお年寄りの雪かきをお手伝いしてあげたり。
それに名寄は北海道の中心にあるので、どこに行くにも便利なんですよ」
今後のお仕事について、鈴木さんは
「まずはいまやっている業務をしっかり覚えようと思います。徐々に余裕が出てきたら次のことも考えていこうかなと思っています」
すると田中さんが「うちは1年中やっているから、最終的にはうちに正社員として入ってもらってもいいと思っています。そういう道もありますよ」と力強く締めくくってくれました。
遠藤さん、鈴木さんがそれぞれの派遣先企業で、未経験ながらもしっかりと前向きに業務に取り組んでいる様子を見て、着実に経験値を上げているのがわかります。
派遣先の企業でもただ「忙しいときに来てくれる便利な人」として捉えるのではなく、彼らの将来も見据えてキャリアアップを支援しているのです。
名寄市に残り、地域の人手不足に貢献する働き方を選んだ人たちと、彼らを支え、支えられる組合企業、その間をつなぐ「なよろ地域づくり事業協同組合」。この三者が名寄市のこれからの「働き方」を形作っていくことでしょう。
- なよろ地域づくり事業協同組合
- 住所
北海道名寄市大通南3丁目14番地
- 電話
01654-3-4190