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石狩市

人材不足解消の切り札になるか!絆によって誕生した『浜ワーク』20220818

この記事は2022年8月18日に公開した情報です。

人材不足解消の切り札になるか!絆によって誕生した『浜ワーク』

「特定地域づくり事業」。
皆さんはこの言葉を聞いたことがありますか?
主に、一次産業の担い手不足に悩む地方で取り入れられ始めている、労働者派遣の新しい仕組みです。
平たく言うと、漁業者や農家など地域の事業者たちで組合を立ち上げ、その組合と雇用契約を結んだ人材(マルチワーカー)を各事業者のところへ必要なときだけ派遣するというものです。単独での通年雇用が難しい地域の事業者にとって、人手不足を解消する新しい取り組みとして、各地で注目されています。

先進地の島根県に続き、北海道は全国で2番目に多い6つの特定地域づくり事業協同組合(組合)が立ちあがっています。

今回は、いち早くこの制度を取り入れ、地域ぐるみで協力し合う、石狩市浜益区の組合、通称「浜ワーク」の事例を、関わる人たちの想いとともにお伝えします。

が、その前に。
まだまだ新しいこの事業を、北海道の各地域の活性化に役立てるべく、国や道と、該当地域の間に入ってサポートする、北海道中小企業団体中央会、通称「中央会」の馬込さんと津川さんのお話を先にご紹介したいと思います。
tyuuoukai2.JPG左から、中央会の馬込毅さんと津川了也さん
そもそも中央会さんがこの事業に関わる理由から教えてもらいました。
「中小企業者の経営を今まで以上によくするために、組合制度を推進し、その運営を助け、中小企業者を支援していくのが自分達の役目。その視点から、今回の特定地域づくりの組合の立ち上げや運営を支援するのは、当然の使命なんです」 と馬込さん。

そうは言っても、「特定地域づくり事業」の仕組み自体が令和2年にできたばかりなので、最初はお二人にとっても手探りだったそう。
「誰にアプローチしていいのか、セミナーやるにしても、案内をどこに、誰におくればいいのかもわからなかったですね。とにかく情報収集でした」と津川さん。

それでも、日頃から中央会の全道の各支部が地域と密接にコミュニケーションをとっていたこともあり、順調に相談が入り、いくつか組合が立ち上がりはじめます。
「特定地域づくり事業のベースとなっている組合制度は、組合員のために、組合員同士が、相互扶助で足りない資源を補完しあうという性質なので受け入れられやすかったと思います。しかも、参加する事業者のみならず、地域が一体となってつくりあげているのが、非常に面白いなと思いましたね」と馬込さんが振り返ります。

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そんな中セミナーをきっかけに、相談に訪れたのが、浜益の皆さんでした。
「浜益は、漁業などで人手が足りないとは聞いていましたが、でも良く良く話を聞いてみると、漁業や、その加工や、特産品を使った飲食店など、いろいろある魅力ある地域だなと思いました。そこで関わっている人たちが勢いに乗っているのであれば、我々は、それを書類に落とし込むだけです。
何度もオンラインでミーティングしました。特に、労働者派遣の仕組みなど、専門家と行政と中央会と事業者さんとチームを組んで話合いながらすすめていきました。
正直、認可を受けるまでには、いろいろなハードルがあります。
そのひとつが、総会を開いて細かなことを取り決めることです。その議案の書類が重要な添付資料になるんです。
浜益の場合は、ほとんどの事がもう皆さんで決めてあって驚きました。よほど密に話合ってきたのだと思います。
我々は、あくまで伴走しお手伝いをする役目。そうした当事者の熱意が一番大事なんです。
半年で意見を集約し、同意し、議会の予算を通した、これは、行政と事業者が密にコミュニケーションをとってきたからこそできたことだと思います」と津川さん。

それではいよいよ、中央会のお二人も驚くスピードと熱意で組合を立ち上げ、早速第1号のマルチワーカーが仕事に従事しているという浜益の事例を、そこに暮らす人の魅力とともにご紹介しましょう。

浜益愛と地元の人たちの絆が、スピーディーな組合設立を実現

hamawa-ku26.JPG今回お話をうかがった浜ワークに関わるみなさん。沖には出港していく仲間の漁師の船が見えます。
平成の大合併がピークを迎えた2005年、浜益村は厚田村、石狩市と合併し、現在は石狩市浜益区となりました。ニシン漁で栄えたエリアですが、交通手段が険しい山道しかなかったため、「陸の孤島」とも呼ばれていたそうです。

とはいえ、そのような厳しい環境が地域の人たちの絆を強くするという良い点もあります。「浜益特定地域づくり事業協同組合」(通称:浜ワーク)の取り組みは、まさに日ごろから地域の連携がきちんと取れているからこそスムーズにスタートできたと言えます。

そもそものきっかけは、今からちょうど1年ちょっと前、漁業を営む徳地克実さんが人手不足について石狩市浜益支所の地域振興担当主査の柿崎惠一さんに相談したのが始まり。「ベトナム人の技能実習生の書類作成のことで相談に行って、人手不足の話もしていたら、こういうのがあるよって教えてもらって」と徳地さん。
hamawa-ku13.JPGこちらが浜益特定地域づくり事業協同組合事務局長の徳地克実さん

8月に特定地域づくり事業制度に関する北海道中小企業団体中央会のオンラインセミナーがあると聞き、すぐに参加を決めました。「現場の人手不足は深刻な課題で、これまでは漁師が個別で求人を出したり、フェアに出展したりしていました。それでもなかなか解決には至らず、みんなで顔を合わせるたびに困ったねと話していて。そんなときに柿崎さんから話を聞いて、これはもしかして!と思った」と振り返ります。

オンラインセミナーを受けた徳地さんは、すぐにこの話を仲間たちに伝えます。すると、業種に関係なく「出資するから、みんなですぐに組合を作ろう」と全員の意見が一致。「反対意見が出なかったのは、みんな同じ問題に直面していたこともあるし、浜益を何とかしたいという想いがあるから」と徳地さん。さらに、「浜益は陸の孤島だったこともあってか、みんなで協力し合うのが当たり前。昔から漁師と農家は仲がいいんです。それこそ、漁師が田植えの手伝いにも行くし、一緒に飲むこともしょっちゅうです」と続けます。

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10月の地域協議会では、徳地さんが組合の事務局長を自分が引き受けるのでみんなに応援してほしいと伝えます。地域協議会に参加していた石狩市浜益支所の地域振興課課長の佐々木大樹さんは、「徳地さんたちの本気度を感じた」と言います。人口減少、空き家問題など、役場としても何か打つ手はないかと思案していたときに、徳地さんたちが立ち上がったのは「とても意味がある」と佐々木さんは言います。「さまざまな課題解決には我々役所の人間だけでなく、地元の人も動くことが肝心なのです」と話し、役所として書類作成や手続きに関してサポートすることに。

佐々木さんは札幌出身ですが、平成元年に旧浜益村の役所に就職。石狩市と合併後、市の本庁に勤務し、数年前に浜益へ戻ってきました。「やっぱり浜益への思い入れはありますよね。昔、自分がいた頃に比べれば人口は減っているし、活力も落ちているけれど、浜益にいる人たちはハートがいいんです。やる気もあるし。だから自分も浜益を盛り上げるために尽力したい」と話します。

hamawa-ku31.JPGこちらが石狩市浜益支所の佐々木大樹さん
こうした役所との連携や北海道中小企業団体中央会の協力もあり、トントンと「浜益特定地域づくり事業協同組合」の設立は進み、今年の5月には事業を開始。通称「浜ワーク」とし、事務所は浜益支所内に設置しました。

「スムーズとは言っても、最後の人材派遣の事業認定の手続きは大変でしたよ。書類作成とかは得意なほうなんですけどね」と徳地さん。自ら事務局長になると手を挙げた徳地さんは、Iターンの移住者。元々は土木コンサルの会社に勤務するサラリーマンでした。27歳で退職し、浜益で漁業を営んでいる親戚のところで漁師の手伝いを始めたのがきっかけで移住。「サラリーマンより漁師が合っているなと思って。浜益の人たちもいい人ばっかりだし。だから、過疎が進んで人手不足になっている浜益を何とかしたいなって思うよね」と話します。ここにもまた浜益愛に溢れる人がいました。

hamawa-ku43.JPG普段は漁師の仕事と、スーツでの事務局業務を両立させる徳地さん。今日は皆さんお揃いのポロシャツでリラックスモードです

いろいろな経験が糧になるマルチワーカーという働き方

浜ワークの設立が決まったら、次は一般募集も含むマルチワーカー探しです。元地域おこし協力隊員で、集落支援員の柿岡奈々絵さんも浜益の抱える問題を解消し、地域を盛り上げたいと考えている一人。マルチワーカー候補として、栃木県那須塩原市に住む吉田将大さんに声をかけました。「もともと吉田くんのお母さんと知り合いで、彼なら浜益の人ともうまくやれるんじゃないかなと思い、とりあえず一度遊びにおいでと誘ってみました」と話します。

hamawa-ku1.JPG栃木県からやってきた、吉田将大さんと、彼を発掘!?した柿岡奈々絵さん
北海道とは縁もゆかりもなかった吉田さん。「柿岡さんがいなかったら来ることはなかったですね。声をかけてもらって、面白そうだなと思って来てみたら、ニシンの刺し身とか初めて食べるおいしいものがいっぱいで(笑)。海もあるし、山もあるし、環境のいいところだなと思いました」と初めて浜益を訪れたときの印象を教えてくれました。マルチワーカーという働き方に関しては、「農業、漁業、接客業といろいろな仕事が体験できるのは面白いし、自分にとっても経験値が上がる。こういう働き方もあるのだなと思いました」と話します。

マルチワーカーとして、夏の平日は農作業の手伝い

こうして6月に浜ワークの組合職員となり、マルチワーカー第1号となった吉田さん。どのように仕事をしているのかを実際に見せてもらいました。

夏場の平日は農作業の手伝いをしていると聞き、まずは地元の農家へ。海の町のイメージが強い浜益ですが、山側へ行くと田園風景が広がっています。田畑の間からはときどき牛の鳴き声が聞こえ、のどかな印象です。吉田さんが仕事をしているのは、代々ここで農業を営んでいる「寺山ファーム」。米栽培、小麦栽培、肉牛の肥育を手がけ、リサイクル農業の実践で表彰されたこともある農家です。

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寺山ファームでの仕事内容は、農作業全般。現在は小麦畑や田んぼの草取り、簡単な牛の世話などを行っています。「6月に来たばかりだから、これからいろいろなことを勉強してもらおうと思っている」と同ファームの代表・寺山広司さん。とはいえ、「一つ言えば、二も三も理解して積極的に動いてくれるから、もうすでにだいぶ助かっているよ。5段階で言ったら5だね」と高評価。それを聞いていた吉田さんは、「今からそんな風に言われたらプレッシャーじゃないですか」と苦笑い。そのようなやり取りからも良い関係を築けているのが分かります。

hamawa-ku7.JPG寺山ファームの寺山広司さんは、貴重な浜益牛も生産しています
浜ワークの加盟事業者である寺山さんは、「これまでも派遣会社から手伝いの人を派遣してもらっていたけれど、仕事への取り組み方が違うんだよね。気配りができるとか吉田くんの人柄もあると思うけど、浜益に腰を据えて暮らすという覚悟があるからか、一生懸命仕事してくれるんだよね」と話します。今後はトラクターなど大型の農機具を使った作業も吉田さんにお願いする予定で、「大型免許の取得を組合でサポートしたらどうかなと事務局とも話をしているところ」だそうです。

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地元愛の強い漁師たちとも一緒に仕事を

特定地域づくり事業協同組合のマルチワーカーは、必要に応じて加盟事業者のところで労働力を提供します。季節によって仕事内容は異なり、吉田さんは現在、月~木曜に寺山ファームで農作業をし、日曜は地元の「レストラン海幸(かいこう)」で働いています。休みは金曜と土曜。今後はホタテの養殖業や秋からのサケ漁の仕事などが入ってくる予定です。

「飲食店や農業の手伝いは栃木でもしたことはあったのですが、漁業は初めてで正直不安なところもあります。でも、研修で漁師の方たちと接して、みなさん温かい人なのでなんとか頑張れそうだなと思いました」

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吉田さんは浜益に来てすぐに、各事業者のところで数日間ずつ研修という形で仕事を体験。加盟業者は現在6つで、寺山ファームとレストラン海幸以外は、ホタテの養殖、サケ、タコ、ニシン、ナマコなどの漁業者です。そのうちのひとつ、総幸丸水産の代表・田中誠さんは「うちはホタテの養殖業なので、吉田くんには船に乗るよりも、稚貝の間引きなど陸での作業を中心にやってもらおうと考えています」と話します。研修の3日間を一緒に過ごして、「仕事を覚えるのももちろん大事なのだけど、その前に浜益になじめるかどうかも重要。吉田くんはなじめそうな雰囲気の人物だなと思いました」と田中さん。

hamawa-ku15.JPG総幸丸水産代表、田中誠さん

田中さんいわく、「浜益の人はね、地元愛が強い。特に漁師は地元が大好きだけど、シャイな人が多くて、お酒を酌み交わさないとなかなか心を許さない(笑)」とのこと。「でも、吉田くんは漁師たちとも自然にコミュニケーションが取れているし、このままみんなの中に溶け込んで、『浜益人』になってほしい」と話します。

特定地域づくり事業協同組合の制度に関しても「すごくいい制度だと思う」と田中さん。「通年雇用はできないけれど、どうしても人手が足りない時期がある我々のような事業者にとってはありがたい。しかもこの地域に暮らしていて、よく知っている人物だと安心して仕事も頼める」と続け、浜ワークにもっとマルチワーカーが増えることを期待しているそう。

農業、漁業だけでなく、地元の飲食店の仕事も

吉田さんの日曜の職場「レストラン海幸」は、地元で獲れた海の幸を使った丼やラーメンが人気の店です。料理長の伊藤正彦さんは、「吉田くんには皿洗いなどをお願いしています。彼は物怖じしないし、よく気が利く。言われたことはすぐやるし、対応能力が高い。店が忙しいときは本当に助かっていますよ。あ、俺、本当はあまり人を褒めるタイプじゃないんだけど」と笑います。

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ほとんど知り合いもいない中、初めて暮らす場所、初めての職場、しかも職場は1か所ではないとなると、「正直いっぱい気も使うだろうし、大変だと思うんだよね」と伊藤さん。少しでも吉田さんがリラックスしてなじめるようにと、仕事終わりに「軽く一杯」と、コミュニケーションを取るようにしているそうです。

さらに、「特定地域づくり事業って、田舎に必要ないい仕組みだよね」と伊藤さん。事業者からすると、田舎は閑散期があるため、安定した状態で通年雇用は保てないが、必要なときに来て仕事をしてくれるいい人材は欲しい。一方で田舎に暮らし、そこで働きたいけれど、安定収入が得られる仕事はなかなか見つからない。そんな課題を解消できる制度だと言います。マルチワーカーは組合から安定した給与をもらいながら、人手が足りない事業者のところへ派遣されるわけですが、各種保険もついており、家賃補助や燃料手当などもきちんと出ます。
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「それから、事務局と役所がきちんと連携を取って、吉田くんのようないい人材を確保してくれているのもこの事業の安心材料のひとつ。事務局も役所も普段からよく知っている、信頼できる人たちだからね」と、石狩市浜益支所の地域振興課が浜ワークをしっかりサポートしている点も大きいと話します。

今後の課題は、浜益に来てくれるマルチワーカーの獲得

吉田さんにこれからのことを尋ねると、「浜益の皆さんはみんな優しくていい人ばかり。だから少しでも役に立ちたいと思うし、今まで自分が経験してきたことも活かせたらいいなと考えています」と前向きな答えが返ってきました。プライベートな部分では、「早く同年代の友達ができたらいいですね。バイクも好きなので、落ち着いたら道内をバイクで回りたいです」とニッコリ。さらに「飲食店が少ないので、いつか浜益の人たちが集まれるような焼き鳥屋もやってみたいですね」とも。早速、浜益で未来の夢を描き始めているようです。

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浜ワークとしては、吉田さんに続くマルチワーカーの採用をどんどん進めていきたいと計画しています。「いい人材をどう獲得し、増やしていくかが課題」と徳地さん。また、ほかの事業者からも加盟したいという問い合わせが増えており、地域の期待やニーズの高さをあらためて感じているそう。地域全体で始めた新しい働き方への取り組みはまだまだ始まったばかり。これからが楽しみでもあります。

中央会のお二人もおっしゃっていましたが、決してこれが唯一の解決策ではありません。
ただ、地域おこし協力隊の制度もそうですが、「その地域への入口」としてまたひとつ、活用できる仕組みができたことは確かです。

その地域の特徴やニーズに応じた特定地域づくり事業協同組合が、新たな人材を呼び込み、地域へと定着させる、そんな循環がおこる日も近いかもしれませんね。

浜益特定地域づくり事業協同組合(浜ワーク)
住所

北海道石狩市浜益区浜益2番地3 石狩市浜益支所内

電話

0550-5236-1659

URL

https://www.facebook.com/hamamasu.hamawork


人材不足解消の切り札になるか!絆によって誕生した『浜ワーク』

この記事は2022年7月21日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。